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審査登録・環境関連の検証/評価
トピックス 2006.1.11
地球温暖化が企業経営に与える影響
株式会社トーマツ審査評価機構 代表取締役社長 稲永 弘
1.はじめに
2005年2月に京都議定書が発効され、温室効果ガスの排出量(削減量)が国際的に取引されることが現実問題となってきた。環境問題への対応は、公害時代の排出処理施設へ投資から現在の循環型経済社会への対応として原材料・生産プロセスの見直し、さらにはライフスタイルの見直しに対応する商品体系の見直しなど企業経営に多大な影響を与えてきた。そして今回は、多くの利害関係者が負担(外部不経済)していた温室効果ガスによる影響を排出者に帰属(内部化)させ、さらに国際市場で流通させるという試みであり、企業経営の戦略策定にも大きな影響を及ぼすと考えられている。
なお、文中の意見に関する部分は私見である。

2.地球温暖化の現状
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on ClimateChange)」の第3次評価報告書(以下IPCCレポート)は、観測データにより、地球の平均地上気温は、1861年以降上昇しており20世紀中に0.6±0.2℃上昇していること、平均海面水位が20世紀中に10cmから20cm上昇していることなどを明らかにした。また、過去50年間の温暖化のほとんどは、人為起源によるものであることも結論づけた。
1750年頃の産業革命以来、石油や石炭などの化石燃料の大量消費や森林伐採によってCO2などの温室効果ガスが大量に放出され、大気中のCO2濃度の上昇により、地球温暖化がもたらされている。過去20年間の人為起源によるCO2の大気への排出のうち約4分の3は化石燃料の燃焼で残りの大部分は森林減少である。
また、IPCCレポートは、将来予測について、1990年から2100年までの間に地球の平均地上気温が1.4℃から5.8℃の範囲で上昇し、海水の膨張などにより21世紀末には海面が9cmから88cm上昇すると予測している。
2100年までに、平均気温で1.4℃から5.8℃の上昇というと、それほど大きな上昇と思われないかもしれないが、過去1千年間の変化が約0.5℃に対して、今後わずか約100年間で1.4℃から5.8℃上昇すると聞くと温度変化が極端に異なることがわかる。
さらに、WWF国際北極プログラムの研究では平均気温が2℃をこえるのは2026年〜2060年の間であると予想し、そのときに北緯60度以上では、3.2℃〜6.6℃平均気温が上昇するとしている。それにより北極海の海氷面積が、1℃の上昇あたり148万ku減少すると予測している。
このように全地球の平均気温の上昇はわずかでも、局所的には増幅され、その変化はさらに拡大される。長年経験のなかった急激な変化に対して地球全体のシステムがバランスを崩し、さまざまな局面で異常が発生するのは、容易に想像がつく。

3.地球温暖化の影響
地球温暖化の影響として次のようなものが指摘されている。
1) 異常気象の増加
地球温暖化により、1日、季節、1年、10年の気候の変動性が変調・増大し局地的な豪雨、暴風雨、熱波、寒波、干ばつなどの異常気象が増大する。さらに平均気温の上昇により、多くの地域に記録的な暑さがもたらされる。
2) 食糧生産への影響
熱帯・亜熱帯での穀物生産量は減少し、需要に供給が追いつかなくなる。特に発展途上国での影響は甚大となる。
また、日本の穀物自給率は30%以下しかなく、先進国の中では極端に低く、食料安全保障の観点から問題視されている。
3) 健康への影響
感染性ウイルスを媒介とする蚊などの生息域(北限)が拡大され、影響が大きくなる。
現在、マラリアの感染は年間3億人、死者は毎年100万人〜300万人に達するといわれているが、マラリアを媒介するハマダラ蚊は、15.5℃以上で繁殖するとされており、ハマダラ蚊の生息域が拡大され、その被害も拡大すると見られている。
また、夏季において気温が高くなる頻度と期間が増加すると特に高齢者の死亡率が増加することがわかっている。
4) 生態系への影響
珊瑚はすべての季節で海面水温の1℃の上昇で深刻な白化現象が起こり3℃の上昇で大規模な死滅が起こるといわれている。
また、平均気温が2℃上昇すると同一植物の生息域が南北方向に300キロメートル移動するといわれているが、種子植物の適応は年間1キロメートル程度しかないので、急速な生息域の移動により種子植物は絶滅するといわれている。
5) 海面上昇の影響
沿岸地域での高潮、塩害などの増加やモルディブ、キリギス、マーシャル諸島、バハマ諸島などの小島嶼国(しょうとうしょこく)の水没が予想されている。

4.地球温暖化による経済的損失・コスト
IPCCレポートでは、わずかな温度上昇でも開発途上国で経済的損失が生じ、先進国でも数℃以上の温度上昇で経済的損失が生じるとし、これにより南北格差が拡大するとしている。また、極端な気象現象によるコストは1950年代から1990年代にかけて地球規模で10倍に増加している。
このような経済的損失に着目して、企業の地球温暖化対策の遅れはリスクととらえて、世界の大手機関投資家155機関(運用資産約20兆ドル)が共同して、気候変動に関する調査プロジェクト「カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト」(以下CDP)を実施している。CDPは2002年よりスタートし、世界のトップ企業500社に対して地球温暖化対策に関する調査・情報開示を要求している。第1、2回目の調査は2002年5月、2003年11月に実施され、第3回目は2005年2月に実施され報告書の発表は10月に行われた。
第2回目の調査結果によると、地球温暖化の影響の認識として次のことをあげている。
1) 気候変動を起因とする社会・経済的損失の顕在化
・2003年には気象関連の災害による損失が700億ドル発生した(保険カバーは185億ドル)
・欧州では熱波で2万人死亡
・大手再保険会社によれば、自然災害件数は歴史的ピークに達し、将来的にもさらに増加を懸念している。
2) 主要な機関投資家が認識する気候変動による財務面への影響
主要な年金運用者、アナリスト、銀行、保険、ファンドマネージャーにより気候変動や温室効果ガス関連リスクを勘案することが、すでに始まっており、運用受託者としてこのリスクを認識していないことはもはや許されなくなっている。
3) カーボン・ファイナンスの現実化
現在では世界で最も規模が大きく、流動性が高いカーボン取引市場であるEU排出権取引スキームが2005年1月にスタートした。これには14,000施設以上の参画が見込まれている。
また、グローバルカーボン市場の規模は、2004年には4億8千万ドルに達することが予想され倍々で拡大している。
4) カーボンコストが企業に与える影響
EU電力企業の3分の2は、電力の大口価格で最大20%まで上昇すると見ている。
また、EUでの電力価格の上昇で、欧州の鉄鋼業界は年あたり約6億ユーロ、紙パ業界は5億ユーロのコスト増となるというレポートも出ている。

さらに、最近では、2005年10月に日本の大手損保会社が全調査費用を負担した「サステナビリティの科学的基礎に関する調査報告書」が発表されたが、そこでは気候変動による経済的損失・コストを次のように述べている。

米保険業界によると、2005年8月に米国南部に襲来したハリケーン「カトリーナ」による被害だけでも、民間の保険金支払で最大250億ドル程度になると公表している。
地球温暖化による社会的費用の総額は、米国全体で500億ドル〜700億ドルで米国GNPの1%に相当する。日本では約2兆円でGDPの約0.4%である。
英国では、2050年までにCO2を現在レベルから60%削減するためのコストとして2050年には単年度で100億ポンド〜420億ポンドかかると試算している。

5.おわりに
地球温暖化の原因やその影響に関しては、科学的知見が蓄積され、もはや疑う余地はなくなっている。また、経済社会にも徐々にではあるが確実に影響を及ぼしている。地球温暖化という大規模な変動に対する対策は、実施してもすぐに効果が現れるものではない。IPCC報告書の気候変動モデルでは、CO2排出量を短期的に現在の水準の数分の1にしたとしても、海面水位の上昇は数世紀から数千年にわたって続き、気温の安定化も数世紀を要するとしている。
超大型船舶のように舵取りの効果が、すぐに現れない地球温暖化に対しては、経済・技術・政治・倫理などのあらゆる側面からの一刻も早い取組みとライフスタイルの変革が必要である。京都議定書による排出権取引制度は、地球温暖化対策の補足手段でしかない。環境コストを内部化する社会経済政策を立案し、環境技術革新をさらに促進し、最終的には人間社会の究極目標そのものを変革する時が到来している。
以上
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