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トピックス 2007.6.27
銀行における独占禁止法とコンプライアンス(2) ― 実務に関連して ―
金融インダストリーグループ マネジャー 木村 義宏
1.はじめに
本稿では、前稿『銀行における独占禁止法とコンプライアンス』(2007.2.28)を受けて、もう少し実務に近い視点から銀行における「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(以下「独禁法」という )とコンプライアンスについて検討していきたいと思う。昨今の金融機関をめぐる独禁法関連の動向 *1 を受けて、各金融機関のコンプライアンス担当者が創意工夫をされ、コンプライアンスの定着を図っているなか、僭越の感はあるが、具体的な施策を検討する際に、少しでも参考になれば、という趣旨から私見を述べたいと思う。具体的には、優越的地位の濫用について一般行員への意識の定着について採り上げることとする。
なお、本稿における意見にわたる部分については筆者の個人的な見解であり、監査法人トーマツとしての見解ではない。また、本稿は一般的な情報の提供に過ぎず、法的助言の提供を目的とするものでもないことをお断りしておく。

*1 金融庁『取引等の適切性確保への取組みについて』(平成18年1月5日)、同「取引等の適切性確保への取組みの再徹底について」(平成18年6月22日)など。また、改訂金融検査マニュアル「法令等遵守態勢の確認用検査チェックリスト」III-5-1参照。

2.独占禁止法とコンプライアンスの取り組み
銀行における独占禁止法とコンプライアンスの取り組みについて検討したものは、全国銀行協会(全銀協)の『銀行の公正取引に関する手引』をはじめ、いくつか存在する。
公正取引委員会の『金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書』(平成18年6月21日)では、コンプライアンスのための基本的情報の周知徹底とともに、コンプライアンスの実効性の確保として、(1)経営トップ自らによる企業コンプライアンスの重要性を、明確に、繰り返し、社内外に発信すること、(2)監査(モニタリング)が有効に機能する体制を構築すること、(3)社員の倫理あるいは法令遵守意識の向上により、自発的に法令が守られるようにすること、(4)効果的な内部統制システムを確立すること、(5)法令に違反する行為が発見された場合の対応については、事前に方針を決定しておくとともに、経営トップに速やかに伝達され、判断されること、を挙げている *2。

*2 公正取引委員会『金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書』(平成18年6月21日)48頁参照。(4)「効果的な内部統制システムを確立すること」については、「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」の整備・運用が会社法上、取締役会に求められている(会社法362条4項6号、同施行規則100条1項4号)。独禁法の遵守に関して、前稿指摘のもののほか、例えばマニュアルの策定や内部規程の整備、定期的な研修の実施などが考えられる。なお、監査役に関する同施行規則118条2項、129条1項5号も参照。

また、『銀行における独占禁止法とコンプライアンス』(2007.2.28)でも「特に、独禁法は、その規範が抽象的であることが特徴であり、当該行為が問題となるか否かの判断が難しい分野である。公正取引委員会や法務部門への事前相談、コンプライアンス・ホットラインへの事前/事後通報、顧客等の苦情等の報告/レビュー、定期的な監査、全社的な調査協力、迅速な問題行為中止の決定等、問題行為の発見とこれを中止する確率を高める工夫を施すことがポイントとなる」と指摘している。
ところで、金融機関は、従来からコンプライアンス態勢構築を取り組んでいる業態の一つといってもよいだろう *3。上記の基本的な態勢や工夫自体は、金融機関ごとの差はあるにせよ、ある程度社内態勢として既に取り組んでいるものが多く、その意味では、特段目新しいものは無い、という印象を持つ金融機関のコンプライアンス担当者もいるのではないだろうか。仮にそうだとすると、重点課題として独禁法対応に取り組もうとする場合、従来の施策の中に独禁法への言及の割合を増やしつつ繰り返す、ということになるかもしれない。

*3 金融機関の取り組みの背景には金融検査マニュアルの存在等があるものと思われる。

たしかに、コンプライアンスの定着には反復継続的な啓発を施していくことが有意義であるとされている。しかし、法律に必ずしも精通していない一般行員の意識に「分かりにくい」独禁法の遵守を定着させる啓発活動を繰り返していく必要がある、というのは意外に悩ましい問題なのではないだろうか。
すると、一般行員に「いかにわかりやすく問題を認識してもらうか」は、独禁法違反に関連する「問題行為の発見とこれを中止する確率を高める」前提になると思われ、これを本稿で検討することにもある程度意味があるように思われる。

3.銀行における独禁法上の課題
本稿では銀行における独禁法遵守について検討することとなるが、銀行における独禁法遵守の観点からは、「優越的地位の濫用」防止が、特に重要な課題であると思われる。前述の公取委から出されている平成18年6月21日付「金融機関と企業との取引慣行に関する調査報告書」によれば、意思に反して金融機関からの要請に応じたとする借り手企業のうち、「借り手企業から借入れの申出がない時の借入れ要請」と「契約に定めた金利を引き上げることの要請」がそれぞれ12.9%、10.3%と決して低くない水準にある。更に、意思に反して要請に応じた理由として、「次回の融資が困難になると思ったため」が59.8%と6割近いのである。この数字だけからすると、「必要なときに融資してもらえなくなることを懸念して、資金需要がないときでも借り入れをし、また、金利引き上げに応じている借り手企業が少なからず存在する」という姿を想像しても、曲解ではないだろう。各金融機関は、資金の貸し手という有利な地位を濫用しているとの誤解や批判を受けないためにも「優越的な地位の濫用」防止対策は重要となる。

4.優越的地位の濫用とは
独禁法の目的は、公正かつ自由な競争を促進することである(独禁法1条)。独禁法の適用の対象となるのは、事業者(団体)である(企業結合規制については会社が対象となる。独禁法9条、10条、15条参照)。事業者の定義は独禁法2条1項にあり、これによれば事業者とは「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」であって、銀行が事業者に当たることは明白である *4。
銀行は独禁法上の事業者であるから、市場で「公正かつ自由な競争」を阻害すれば同法で規制される。この「公正かつ自由な競争」を維持・促進するため、独禁法は4つの規制を設けている。すなわち「共同行為の規制」「私的独占の禁止」「企業結合の規制」そして「不公正な取引方法」の4つである。
「不公正な取引方法」に当たる場合、排除措置命令が下され(同20条)、相手方からの損害賠償請求(同25条、26条、民法709条)や無効主張(民法90条)、更に差止請求(独禁法24条)がなされるリスクを負うこととなる。
では、「不公正な取引方法」とは何か。これは独禁法2条9項各号に定める行為であって、公正競争阻害性があるもののうち、公正取引委員会が指定するものとされる。公正取引委員会の指定は告示でなされ、これが「不公正な取引方法[一般指定]」(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(以下、一般指定という)であり、その14項で「優越的地位の濫用」が規定されている。それによれば、優越的地位の濫用は、1)「自己の取引上の地位が相手方に優越していること(優越的地位)」を「利用して」、2)「一般指定の14項1号から5号に定められている行為(濫用行為)」を、3)「正常な商慣習に照らして不当に」(公正競争阻害性)行うことが要件となる *5。
一般指定14項は、次のような規定である。

14 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次の各号のいずれかに掲げる行為をすること。
継続して取引する相手方に対し、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
継続して取引する相手方に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
相手方に不利益となるように取引条件を設定し、又は変更すること。
前三号に該当する行為のほか、取引の条件又は実施について相手方に不利益を与えること。
取引の相手方である会社に対し、当該会社の役員(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二条第三項の役員をいう。以下同じ)の選任についてあらかじめ自己の指示に従わせ、又は自己の承認を受けさせること。

*4 証券会社や保険会社も同様である。なお、保険会社については、保険業法に適用除外の規定があるものの、本稿で扱う「不公正な取引方法」を用いる場合には、適用除外に当たらないと定められている(保険業法101条但書)。また、事業者には営利性の要件が無く、自然人、法人、私法人、公法人も問われない。金井貴嗣ほか『独占禁止法』(弘文堂、第2版、2007)19頁。
*5 前掲注4『独占禁止法』315頁。

5.銀行業務における優越的地位の濫用
前記1)優越的地位については、顧客の銀行に対する依存度、取引先銀行を変更できるか否かなどを総合的に考慮のうえ検討されるものである *6。なお、「利用する」ことについては、銀行側の意図が問題ではなく、優越的地位にある者が相手方に不当な不利益を課して取引を行えば「利用」にあたるとされる *7。
2)の濫用行為については、銀行取引に関連してみれば、一般指定14項中、特に1号、3号、5号に留意を要するのではないか、と思われる。
3)の公正競争阻害性についてであるが、ここで、「正常な商慣習に照らして不当に」の意味を理解する必要がある。
「正常な商慣習に照らして不当に」についてだが、一般指定に規定された行為をしたからといって直ちに公正競争阻害性の問題とはならず、更に、個別の事例において公正な競争を阻害するものとされるか否かを加味する趣旨である。つまり「不公正な取引方法」に該当するかどうかを判断する際に、「正常な商慣習」を念頭において判断される、ということが「正常な商慣習に照らして不当に」の意味するところである。
この抽象的な規定に独禁法遵守の悩ましい問題が生じる。すなわち、銀行業務において各銀行の担当者は、「個別の事例の妥当性をどう考えるのか」「正常な商慣習とはなにか」という問題に対処しなければならない。優越的地位の濫用の防止の観点から、いかにして、各銀行は、コンプライアンス施策を検討すべきか。例えば、銀行業務に即して個別のケーススタディをコンパクトに纏めた冊子もあり *8、これを業務に際して参照するように、職員向けに配布することも考えられよう。職員一人ひとりの経験と知識の集積によって、問題の回避に資することになる。しかし、事例集等を社内で配布することだけをもって社内の意識定着のための施策としたのでは、若干形式に過ぎると思われないだろうか。筆者には冊子やマニュアルを配布しただけでは、一般行員の意識への定着は難しいように思われるのである。

*6 流通・取引慣行ガイドライン第2部第五2は参考となる。
*7 前掲注4『独占禁止法』316頁。
*8 片桐一幸ほか『気をつけたい!優越的地位の濫用行為』(銀行研修社、2006)など。

6.遵法意識への働きかけ
本稿においても、銀行業務において「個別の事例の妥当性をどう考えるのか」「正常な商慣習とはなにか」という抽象的な規定を明確に具体化し、提示することはできない。また、日々変動する経済社会において、事例を限定列挙することは非常に困難である。更に事例の列挙が可能であったとして、一般職員に決して少なくない量のそれを覚えさせる指導をすることについては、業務多忙な行員への負担を配慮しなければならない *9。行員に負担感のある施策は、結果として独禁法遵守の意識が不定着となる懸念もあるのではないだろうか。
そこで、優越的地位の濫用の可能性に気づくための銀行の担当者が持っていてほしい視点を考えたい。しかも、なるべく難しくないものが良いと考える。以下に、「優越的地位の濫用」が問題となる事例をいくつか挙げ、その上でどのような目線を銀行担当者が持てば予防施策たりうるかを考えてみたい。

*9 なお、法令等に関する知識の習得が重要であることは言うまでもなく、それを否定する主旨ではない。

(1)事例1
事業者Aが、借入金総額の半分以上を依頼しているB銀行に対して融資枠の更新を申し込んだ際、同銀行から想定元本が融資残高を上回る金利スワップの提案を受けた。複数回にわたり購入提案に応じなかったものの、B銀行は担当者に管理職を帯同させるなどして重ねて購入を要請、購入が融資の条件であることを示唆した結果、事業者は金利スワップを購入せざるを得ないと考え、購入した。(公取委平成17年2月26日勧告審決参照)。

(2)事例2
C銀行が、債務者Dが現実に借り入れを必要としている550万円を貸し付けるにあたり、十分な物的・人的担保があるのに、実質金利を高めるため、取引条件としてDに貸付額750万円の本件貸付契約及び同400万円の別口貸付契約を締結させて実質貸付額を超過する600万円を貸し付け、そのうち200万円を即時に定期預金及び400万円の割増金付定期預金として預金させ、これに担保権を設定して払戻を制限した。(最判昭和52年6月20日参照)。

(3)事例3
大手E社は資金繰り逼迫し、F銀行を幹事銀行とする銀行団より手形決済資金を借り入れ、決済を切り抜けた。F銀行は、融資に際し、役員の選任については、あらかじめ自行の指示に従うべきことを条件としていた。F銀行は、E社の再建に関して、役員の人事刷新を求め、E社は応諾した。(公取委昭和28年11月6日勧告審決参照)。

いずれも現実に独禁法違反が問題とされた事件を参考にしたものである。それぞれ、一般指定14項1号、3号、5号に関連しているが、何か共通していることはないだろうか。
どの事件も、一度、相手方は応諾している。その意味で、形式的には当事者間で合意が成立している。問題は、果たして、この合意が債務者の自由な意思に基づいてなされたものか、という点だろう。上の事例では、この「自由」に疑問がある。事業者は、自らの自由な意思で応諾したのだろうか。独禁法の目的が「公正かつ自由な競争を促進」することにあることを思い出してほしい。
もし、債務者の当該銀行への依存度が高く、簡単には取引銀行の変更がかなわない場合(中小零細企業にはそのような場合も少なくないのではないかとも思われる)、銀行の立場が優越的であって、事業者から合理的で自由な判断をする余地を奪っている可能性がある。事業者が断れない状況において銀行が推奨・提案したものであれば、事業者は「普通だったら進んで購入しない」(『公正取引』668号における岸井教授発言) *10 のに、しかたなく応諾してしまうのではないか、これは独禁法上の問題となりうる、という感覚を身に着けることで、優越的地位の濫用が防止できるのではないか、と思われるが如何であろうか。
顧客に対し、「普通だったら購入しない」金融商品を販売するなどの行為は、何も独禁法上の問題だけではない。投資信託を個人に販売する際等に問題とされる「適合性の原則」も同様の視点ではないだろうか。その意味でも、顧客が「普通だったら購入しない」ような推奨はしない、という感覚は、金融機関職員一般に身につけておいてほしい遵法感覚なのではないかと思われる。そうであるとすれば、この意識の定着を図ることはコンプライアンス統括部門の役割といってよいだろう。
もちろん、既存の顧客との経済的な繋がりは、銀行にとって極めて重要である。そのためには銀行から債務者等の既存顧客に対し商品やサービスの紹介や推奨・その他を行うことは当然ありうる。しかし、だからこそ、違法行為にならないように留意が必要なのである。

*10 「最近の独占禁止法違反事件をめぐって」岸井大太郎氏発言(公正取引No.668、2006)14頁参照。

7.立ち止まった職員のサポート態勢
さて、一般行員が営業や企画の遂行、立案に際し、顧客の立場に立てば「普通だったら購入(応諾)しない」のではないか、と思い、立ち止まったとしよう。銀行としては、独禁法違反から発生するリスク・コストを除去する機会である。この機会を生かす態勢を各銀行は整えておかなければ、いかに職員の啓発に成功しても銀行の法務リスクを軽減することはできない。しかし、態勢整備については先に挙げた各種の論稿等にて検討されており、本稿では、立ち止まった職員の不安や疑問を、簡単に、遅滞なく受け入れる、一般行員から見て敷居の低い相談の仕組みが必要であろう、との確認にとどめておきたい。

8.まとめにかえて
本稿では、優越的地位の濫用の防止には、顧客が「普通だったら購入(応諾)しない」もの(こと)は奨めない、という意識・感覚を社内に定着させることで、一般職員が問題に気づく確率を向上できるのではないか、として検討を試みた。もちろん、本稿の検討がどこまで有効に機能するかは分からないし、この施策のみで銀行における優越的地位の濫用の問題が解決するとも思われない。さらに、独禁法遵守という意味では、単に優越的地位の濫用だけを気にしていれば良いというわけでもない。各銀行が様々な取り組みを行うなかで、本稿が何らかの参考になれば幸甚である。
以上
 
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