| トピックス 2008.2.27 |
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| 信託受託者の自己執行義務に関連して |
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| 金融インダストリーグループ マネジャー 木村 義宏 |
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1.はじめに
本稿では、信託法改正を受け、自己信託が解禁されることと併せて、信託受託者の自己執行義務についていくつか問題点を検討してみた。
なお、本稿における意見にわたる部分については筆者の個人的な見解であり、監査法人トーマツとしての見解ではない。また、本稿は一般的な情報の提供に過ぎず、法的助言の提供を目的とするものでもないことをお断りしておく。
2.自己信託義務についての議論の経緯
信託は、受託者に対する信頼を基礎に成立する財産管理制度といえる。その信頼(信認関係 fiduciary relation)は、受託者に対し、信託事務を自ら処理すべき義務を負わせる。この義務を自己執行義務(代人使用禁止の原則)という。旧信託法26条では「他人ヲシテ自己ニ代リテ信託事務ヲ処理セシムルコトヲ得」る場合を後述の2つに限定していた。
この点、著名な学者からは、「社会的メカニズムの複雑化した現代においては、一人の受託者がすべての信託事務を処理することは不可能であるべきか、…場合によっては不適当でさえある」 *1 とされ、また、実業界からも、受託者の業態、業務の実態に応じて自己執行義務を緩和すべきであり、あらかじめ信託行為に定めれば、第三者への包括的委任も可能であること、履行補助などのアウトソーシングが許容されることを明らかにすべきである、との意見があった *2。
そして、新信託法は、受託者の義務について旧法よりも緩やかな規制となっているものとも思われる。
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四宮和夫『信託法(新版)』(有斐閣、1989)236頁 |
| *2 |
日本経済団体連合会「2002年度日本経団連規制改革要望−産業競争力の強化と経済の活性化にむけて−」(2002年10月15日)等参照。 |
3.自己執行義務とは
信託の受託者は、原則として信託事務を自ら執行する義務を負う。これを自己執行義務という。基本的な考え方は、民法の任意代理における復代理の問題と類似しているように思われる。すなわち、任意代理人は、特に本人の信任を得て代理人となった者であるから、特約がある場合のほかは、「本人の許諾を得たるとき」、または、「已むことを得ざる事由あるとき」でなければ、復代理人を用いることはできない(民法140条) *3。
委託者は、受託者を信頼し、財産の名義を受託者に移転させるのであるから、代理よりもより高度の信頼が基となっている。その受託者が、信託事務を他人に無制限に委ねてしまうこと(再信託)が許されれば、委託者の信託設定の目的にかなわない事態が生じ得るからである。いわば、委託者の信頼の保護の観点から求められる受託者の義務と評価することができる。
そうだとすれば、委託者の信頼の保護の観点から懸念が少ないと思われる場合には、受託者の自己執行義務は緩和されて良いはずである。そこで、旧信託法でも、二つの場合、すなわち「信託行為ニ別段ノ定アル場合」と「已ムコトヲ得サル事由アル場合」に限って、代人の使用が認められるとしていた *4。「已ムコトヲ得サル事由アル場合」とは、従来、病気や旅行で不在になる場合などといわれた。
*3 前掲注1.270頁
*4 旧信託法26条参照。
4.新信託法28条2号による委託
以前から「信託行為ニ別段ノ定アル場合」(旧信託法26条)には信託事務を第三者に委託できていた。これは一見、委託者の意思が明確であるので、問題は少ないようにも思われるが、必ずしもそうともいえないのではないかと思われる。信託事務全般を受託者が行うことは、事実上不可能であり、信託行為において、受託者が第三者に委託できる場合を全て列挙することは不可能だろうと思われるからである。
そこで、新信託法28条2号では、「信託行為に信託事務の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らし相当であると認められるとき」には、受託者は、信託事務の処理を第三者に委託することができる、としている。
この点、そもそも受託者に期待されていたのは、委託された信託財産を管理・運用することによって、信託目的達成することであったことを思い出す必要がある。すると、受託者は、信託目的を達成するために、いわば信託財産の管理・運営について適切なマネジャーとして行動することが求められている、と理解することもできるのではないかと思われる。受託者の役割は、信託財産を頑なに自ら管理・運用することではなく、信託設定者たる委託者の意思、つまり信託目的の達成、そのために最適な管理・運用がなされるよう配慮し、管理することといえるかもしれない。仮に、受託者の役割を信託財産のマネジャーであると位置付ければ、受託者よりも運用能力が高い者を見つけて、運用を委ねることは、信託財産から見てより望ましいこととなる *5。
| *5 |
運用益を追求する信託の場合。仮に、運用益は狙わず、ただ元本確保を信託目的とする場合には、受託者よりも一層厳格な財産管理能力がある者を探し、信託事務を委ねることになる、という説明になるものと思われる。 |
5.第三者への委託について
ところで、「信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らし相当であると認め」るのが妥当だ、と判断するのは受託者自身だが、(1)その場合、原則として自己執行義務を負うはずの受託者自身が、他人に事務を委ねることを「相当」と判断する基準は何であろうか。また、(2)実際に、第三者に委託するに当たって、受託者として留意すべき事項は何であろうか。
この点、信託事務の処理の委任については、当該信託事務は受託者自らが処理するより高い能力を有する専門家を使用した方が適当であると考えられる場合(例えば、外貨建て資産の運用における特定の地域・通貨に関わる投資の委託)や、特に高度な能力を要しない信託事務ではあるものの受託者が自ら行うよりも他人に委託した方が費用や時間などの点で合理的な場合(例えば、信託財産の状況に関する報告書の受益者に対する送付事務の委託)などを念頭においている、といわれている *6。
上記2類型について、仮に、前者を「専門性」の類型とし、後者を「経済合理性」の類型だと呼ぶことにする。(1)について、「専門性」と「経済合理性」のほかに、受託者が自己執行義務を第三者に外出しする類型が無いのだろうか。例えば、証券化のための自己信託を考えた場合(具体的な例を挙げると、不動産の証券化を図り、オリジネーターたる一般事業会社が自己信託によってファンドを組成する場合、信託事務を自ら行うことを避けて第三者 *7 に委託することも考えられる *8)、いずれの類型に入るのだろうか、あるいは別の類型がありうるのだろうか。この点、新信託法28条2号ではなく、同1号(信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき)の適用で対応すればよいのではないか、との考えもありえよう。では、受託者は信託事務を包括的に第三者に委託できるのだろうか。もし、包括的に第三者委託できるとする場合、信託の根底にあるはずの「受託者に対する信頼」とは何か(あるいは受託者に対する信頼は不要なのか)という問題にもなりかねないようにも思われる *9。従来は、導管としての信託利用であっても、受託者が信託銀行であるという信頼が流動化スキームの根底にあった、という点で相違があるように思われる。この点、今後の整理が必要なのではないか、と思われる。
次に、(2)について、受託者は、どうやって「委託者から信頼された自身」と「他人」を比較して、他人の方が信託事務の遂行について適している、と判断するのだろうか。この場合、やや分析的に考えるならば、受託者は、まず、自己の信託事務処理能力を正確に認識し、次いで、その信託事務処理を行いうる他者が存在することを調査・確認することによって知り、その他者 *10 と自身との能力の差を精査して、他者が自身が遂行するよりも信託目的に照らして適切な場合、その者と委託交渉し、応諾させなければならないだろう。この各判断過程において、受託者は、自身や他者の評価をどこまで客観的に行ったのか、受託者は新信託法35条1項の前提として、受益者(や委託者)に対するアカウンタビリテイを果たすべく、慎重な判断・意思決定が求められるのではないだろうか。とすれば、受託者は、これまでの信託事務の遂行能力とはやや異なる、信託事務処理を適切な者に適切に行わせるマネジメント能力の向上を図らなければならないことになるとも思われる。これへの対応としてはどのような心構えで行っていくべきなのだろうか。信託の多様性から、実務上、難しい問題を含みうるように思われる。判断の一つの重要な基準は信託目的(との合致)ではないか、と思われる。例えば、同じ不動産管理信託であっても、信託目的が「とにかく収益最優先」なのか、「価値ある物件の維持管理」なのかによって、信託事務委託先への期待が「低コスト(低サービス)」を是とする場合もあるだろうし、「(高コスト)高サービス」を求める信託もあろうと思われ、一様にはいかないことから、第三者に委託するに当たって信託目的に留意することも重要と考えられるのである。
| *6 |
別冊NBL編集部編『信託法改正要綱試案と解説』別冊NBL104号(商事法務・2005)118頁 |
| *7 |
事務受託者として、例えば信託銀行の信用を活用することが考えられよう。 |
| *8 |
自己信託で自己執行義務を行うというスキームでは、レンダー側が応諾せず、レバレッジ効果が期待できない、格付けが取れない、投資家が集まらない等の弊害も考えられる。 |
| *9 |
この点、新信託法は、信託の定義について、受託者への信頼について触れていない。信託法2条1項参照。しかし、受託者への信頼を不要とする信託というものが想定できるのかは難しいのではないか、と思われる。 |
| *10 |
そのような他者が複数存在する場合も当然考えられる。 |
6.おわりに
本稿で取り上げた問題については、今後の実務を通じて整理されていくことと思われるが、受託者の自己執行義務の緩和は、信託事務処理義務から受託者を切り離すことができるとしたのと同時に、受託者には高い信託事務管理の義務、慎重な判断の責任、そして説得力のある説明をする責任を求めるものなのかもしれない。それに応えるべく、それぞれの信託の性格に応じた管理態勢構築が求められるのではないか、というのが私見である。この点において、受託者への期待は、やはり信頼に値する者たりうることなのだろう。信託法が改正されて、受託者の義務が緩和されたといっても、やはり受託者への高度の信頼は揺らいではならないといえる。 |
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| 以上 |
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