| トピックス 2008.4.30 |
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| バーゼルIIと銀行経営(上) 信用リスク管理に係る組織整備 |
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| 金融インダストリーグループ 桑原 大祐 |
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1.はじめに
バーゼルII の告示において、内部格付手法の採用行は与信部門および与信業務の担当者から機能的に独立した信用リスク管理部署を設置するように定められている。信用リスク管理部署は、内部格付制度の設計者の立場として「運用の監視」「検証」を行うことで、与信部門を牽制する。本稿では、従来の「リスクテイク」するものと管理するものの牽制を中心とした概念と比較し、信用リスク管理態勢の整備における論点を考察することとする。
2.金融検査マニュアルおよびバーゼルIIの牽制機能
バーゼルII の適用に伴い、銀行経営における内部統制の枠組み構築の重要性が再認識されている。「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」においても、統合(的)リスク管理態勢を整備するうえで「経営陣によるトップダウン」と業務の健全性・適正性確保のための「金融機関による自発的な取り組み」が大きなポイントとされている。具体的には、「リスク管理方針の策定」「内部規定・組織体制の整備」「評価・改善体制の整備」からなる経営陣によるPDCAサイクルを確立することが重要であり、PDCAのサイクルは、経営層のみならず、管理者層、担当者層においても重畳的に運用していくことで、リスク管理能力の確実な向上を目指すことになる。
経営陣の「DO」としての、組織体制の整備については、内部格付手法を目指す場合、金融検査マニュアルのみならず、告示(銀行法第十四条の二の規定に基づき、銀行がその保有する資産等に照らし自己資本の充実の状況が適当であるかどうかを判断するための基準)に記載される最低要件を遵守したものとする必要がある。
金融検査マニュアルにおいて、取締役会等は、信用リスク管理方針および信用リスク管理規程にのっとり、信用リスク管理部門を設置し、適切な役割を担わせる態勢を整備することとされている。信用リスク管理部門には、与信管理部門、審査部門、問題債権の管理部門の大きく3部門を設置することが求められる。また審査部門は、営業推進部門等から独立し、審査部門の担当取締役は営業推進部門等の取締役が兼務していないなど、営業推進部門等の影響を受けない体制となっていることが必要となる。このように、検査マニュアルにおける牽制は、「リスクテイク」をする機能とそれを管理するミドル機能に重点をおいていると考えることができる。
一方、バーゼルII においては、「内部格付制度の設計又は選択、実施及び実績について責任を負い、独立して信用リスクを管理する部署(以下「信用リスク管理部署」という)を設けなければならない。(告示202条)」とされている。また、信用リスク管理部署は、与信部門および与信業務の担当者から機能的に独立したものでなければならない。信用リスク管理部署は、内部格付制度の設計者として運用部門を監視するとともに制度の検証をも担うことになる。さらに金融検査マニュアルで求めるものとは異なった角度の牽制機能を求めているバーゼルII の最低要件では、信用リスク管理部署を格付制度の適切な運営や、格付の正確性・一貫性の確保に責任を負う内部牽制部門と整理し、最終的に自己資本比率の算定の正確性へと結びつける。したがって、信用リスク管理部署は、運用部門としての与信部門とも機能的に独立をしていることが必要となる。与信部門には信用リスク管理部署の設計したルールどおりに審査業務を運用する審査部門も含まれることになる。金融検査マニュアルに示される与信管理部門は、信用リスクの評価、計測等を行う組織であるので、バーゼルII の信用リスク管理部署との親和性が高い。したがって、これらの関係をまとめると図表1のように示される。
図表1 信用リスク管理に係る組織の整備

3.信用リスク管理部署と内部監査部署
内部監査は、金融検査マニュアルとバーゼルII のいずれにおいても、業務ラインからの独立性が求められるとされる。バーゼルII では、「独立した機能を有する内部の監査部署は、年一回以上の割合で信用リスク管理部署の管理状況、PD、LGD及びEADの推計値、該当するすべての最低要件の遵守状況等、内部格付制度及びその運用状況を見直し、その結果に関する監査報告書を作成しなければならない。(告示203条)」と示されている。特に、統計的なスコアリングモデルや格付制度の検証(validation)について内部監査部署がどの程度関与すべきであるかについて議論になることが多い。格付制度の検証については、信用リスク管理部署の業務として告示202条に記載されている。ここでは、制度の設計部署としての信用リスク管理部署が自ら検証を行うことの問題点も考慮しなければならない。米国でのバーゼルII の実施においては、“A bank's validation process must be independent of the advanced systems' development, implementation, and operation.”(Risk - Based Capital Standards:Advanced Capital Adequacy Framework - Basel II)と記載されており、development(開発)との独立性をも要件としている。さらに、告示Q&A 第202条−Q1において「信用リスク管理部署の主要な業績評価項目の一つとして『信用リスク計測の正確性』等の信用リスク管理に係る項目が含まれているか否かについては、内部格付制度の設計・検証等の信用リスク管理実務の発展が求められる位置付けにあって、信用リスク管理部署が真に内部牽制機能を発揮する上では不可欠な要素であると考えています。」との記載がある。信用リスク管理部署内の設計者が自らのモデルを評価する場合、特に業績評価項目としてモデルの正確性を含むのであれば、モデルが不正確であった場合でも自らのモデルを正しいと判定するインセンティブが発生するからだ。なお、内部監査部門の業務を解説している告示Q&A 第203条−Q1においては、「信用リスク管理部署による制度運用に関する監視の深度、格付基準や格付プロセスの客観性の程度、内部格付制度の設計部署と検証部署との分離状況等も勘案した上で内部監査部署による確認業務の範囲や深度を定め、」と記載している。したがって、信用リスク管理部署内で設計と検証が機能的に分離されている場合には、そうでない場合に比べて、内部監査部署の当該項目における関わりは軽減されるものと考える。
4.内部格付手法採用行による組織整理事例
融資業務に係る企画部門は、バーゼルII の適用前は審査部や融資部という運用部署内にあり、部門内で企画業務を主に担当するような体制であった。バーゼルII の内部格付手法の最低要件においては、前述のとおり内部格付制度の設計部署と運用部署(告示内では「与信部門」と定義)の機能的な独立を求めている。図表2は、2007年3月末のディスクロージャー誌をもとに、国内の内部格付採用地方銀行3行の対応事例をまとめたものである。A、B、C各銀行では、設計・運用の監視を実施する機能を、審査セクションから分離し独立した「部」としての信用リスク管理部署に置いていることが確認できる。
設計と検証の役割分担については、A銀行とC銀行は、リスク管理部門内で設計と検証業務の間の牽制を考慮している。それぞれにおいて、信用リスク管理部署で設計した制度を統合ミドルオフィスで検証する体制となっている(B銀行においても、部署内にて担当者を分ける等の工夫をとられていることと思われる)。このように、ミドルオフィスの構造を、各リスクカテゴリーのミドルオフィスと統合ミドルオフィスの2階建てとしている場合には、統合リスク管理部署に各リスクカテゴリーのリスク管理部署に対する牽制機能を持たせる事例もある。内部格付制度の検証に限らず、信用リスクに特化したミドルオフィスで設計した信用リスクの計量化モデルの検証を統合ミドルオフィスで実施する等の牽制も期待できる。
図表2 内部格付導入行の組織態勢
| 大分類 |
役割 |
A銀行 |
B銀行 |
C銀行 |
与信部門
(運用) |
案件諾否 |
融資部 |
審査部 |
審査部 |
| 格付審査・格付付与 |
融資2部 |
審査部 |
審査部 |
| 自己査定(分類) |
融資2部 |
営業店で実施
審査部でチェック |
審査部 |
信用リスク
管理部署
(設計運用の
監視検証) |
格付制度の設計 |
与信企画部 |
与信企画部 |
リスク統括部
(信用) |
| パラメータ推計 |
与信企画部 |
与信企画部 |
リスク統括部
(信用) |
償却・引当
【一般引当】EL |
与信企画部 |
与信企画部(引当)
管理部(償却) |
リスク統括部
(信用) |
信用リスク
【エコノミック・キャピタル】 |
統合リスク
管理室 |
与信企画部 |
リスク統括部
(信用) |
| 格付・パラメータ検証 |
統合リスク
管理室 |
与信企画部 |
リスク統括部
(統括) |
| 統合リスク管理 |
統合リスク
管理室 |
RC統括部 |
リスク統括部
(統括) |
| 内部監査 |
自己査定監査 |
監査部 |
監査部
(資産監査G) |
監査部
(資産監査G) |
最低要件の遵守状況・
信用リスク監査 |
監査部 |
監査部 |
監査部 |
| 自己資本比率監査 |
監査部 |
監査部 |
監査部 |
5.クレジット・ポートフォリオ・マネージメント(CPM)を考慮した今後の組織体制
リレーションシップバンキングの推進により、収益管理システムを導入し、トランスファープライシング(移転価格)による管理会計制度によって金利リスク(長短金利のミスマッチ等によるリスク)を本部に移転させる運営を行うようになった金融機関は多い。このような金融機関では銀行全体の長短金利のミスマッチを「ALM部門」とよばれる本部が一元管理している。同様に信用コストや信用リスクをトランスファープライシングで本部に移転することを考えた場合には、銀行全体の信用リスクを鳥瞰的に管理する「CPM(クレジット・ポートフォリオ・マネジメント)部署」を設置することが必要となる。つまり、CPM部署は信用リスク管理に係る「ALM部門」のような位置づけとなる。また、将来的にシンジケートローン、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)、証券化、ローンパーティシペーション *1 等の取引活性化により貸出金の市場流動性が向上していくことが予想されているなか、銀行自体の与信ポートフォリオをよりアクティブに組み替え、与信集中リスクをヘッジしたり、RAROC(リスク調整後資本収益率)の向上を目指す取引ニーズが高まっていくことも想定される。営業店が個社単位のリスク・リターンの改善を行うのに対して、CPM部署は銀行全体のリスク・リターンの改善を行うフロント部署として機能することになる。信用リスク管理部門や信用リスク管理部署はフロント部署としてのCPM部署を牽制することになる。また、信用コストや信用リスクを営業店からCPM部署へ移転する価格が適正であるかをモニタリングすることも信用リスクのミドルオフィスの重要な役割になると思われる。
*1 金融機関と企業との間のローン契約は変更せずに、原貸出債権に係る経済的利益とリスクを投資家に移転させる形態。
6.おわりに
信用リスク管理における規制対応の高度化を考えるのであれば、内部管理の高度化を第一に考えるべきであり、それがユース・テストにかなった内部格付手法の実現につながる。内部管理の高度化はすべての金融機関の目指すべきものであるため、本稿においては特に組織体制についてまとめた。したがって、各金融機関は、規制対応の高度化を目的とするのではなく、規模、特性、リスクプロファイルを考慮した内部管理の高度化の継続的な取り組みの結果として規制対応も高度化が実現できるような道筋を検討すべきではないかと考える。
本稿に記載された事項は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておく。
『週間金融財政事情』 2008年4月7日号に掲載したものに一部加筆した。
参考図書:『バーゼルII対応のすべて』 金融財政事情研究会 |
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| 以上 |
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