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トピックス 2008.10.1
バーゼルII と銀行経営(下)
リスク資本配賦制度で統合的リスク管理を戦略的に実践
― 開示情報の拡充で市場規律向上へ ―
金融インダストリーグループ 作井 博・小関 綾子
1.はじめに
バーゼルII を契機として、統合的リスク管理への関心が高まっているが、現状では十分に実践されているとはいいがたい。それは、規制資本以上に、銀行の規模や特性、リスク・プロファイルによりその方法論が異なりうるためである。本稿では、内部格付手法を採用している地方銀行の統合的リスク管理の取組みを紹介することを通じて(注)、それを実践するための論点を整理する。
(注) 内部格付手法を採用している地方銀行の07年9月期ならびに08年3月期のディスクロージャー誌に基づく。

2.金融機関に求められる統合的リスク管理
07年3月期から施行されているバーゼルII における第二の柱では、規制資本(第一の柱)でカバーされていないリスクも含めて十分な自己資本(経済資本)を確保することを銀行に求めている。これは、金融検査マニュアルでいう統合的リスク管理の定義に合致するものである。しかし、経済資本は規制資本のように計算方法が厳密に規定されているわけではなく、また、銀行の規模や特性、リスク・プロファイルによって、統合的リスク管理の実践手法は当然に違ってくる。したがって、「第二の柱の趣旨は理解できるものの、どのように実効性をあげながら取り組んでいけばよいのか悩んでいる」、との声を地域金融機関のリスク管理担当者から伺うことが多い。

3.リスク資本配賦制度の概要
統合的リスク管理をより戦略的に実践する手段として、リスク資本配賦制度がある。これは、銀行の業務運営部門に対して、リスク・カテゴリーごとにリスク量の上限、すなわちリスク資本をあらかじめ配賦し、各部門のリスクテイクの水準を経営体力の範囲内に抑えることにより健全性の確保を実現するものである。また、各部門がリスク対比の収益性を向上させ、配賦された資本を効率的に活用するための仕組みでもある。
図表1に、リスク資本配賦制度の概要をまとめている。経営体力を示す配賦資本については、TierI(中核的自己資本)を採用している銀行と、TierI から繰延税金資産を控除した額を採用している銀行がある。
また、リスク資本を各業務運営部門に配賦する際、配賦資本の全額ではなく、未計測のリスクや新規業務のリスク、市場環境の急変といったストレス時への備えとして配賦資本の一部を留保する、すなわちバッファーを設けるのが一般的である。たとえば、ある銀行では、バッファーの水準としてTierI の10%という明確な基準を設けて運営を行っている。また他の銀行では、リスク資本の使用計画を策定するなかからバッファーの水準を導き出すといった、さまざまな運営上の工夫を行っている。

【図表1】 リスク資本配賦制度の概要
リスク資本配賦制度の概要


4.与信集中リスクへの対応
統合的リスク管理において信用リスクに関する大きな論点の一つが、与信集中リスクである。そもそも、内部格付手法における規制資本の計算には一定のリスクアセット関数が用いられるが、それは十分に分散されたポートフォリオを前提としており、与信集中リスクは、第一の柱における規制資本に十分には含まれていない。とくに、地域金融機関は営業地域が限定され、地域別エクスポージャーが偏在し、かつ当該地域の産業構造に大きく依存するポートフォリオとなりがちであることから、リスク管理上の重要度が高いと考えられる。その一方で、与信集中リスクに関する定量的なリスク計測手法は、まだまだ発展途上であり、スタンダードといえるものは確立していない。
各行のディスクロージャー誌を見る限りにおいては、与信集中リスクについて、直接リスク量を計測するというよりも、業種別や地域別、内部格付別、商品別等で総与信限度枠やアラームポイントを設定して、エクスポージャーの状況をモニタリングするといった定性的な管理手法にて対応している。

5.信用リスク量計測のためのパラメータ
バーゼルII の内部格付手法では、銀行内部で計測したパラメータを利用して規制資本額を算出することが容認されている。また、ユース・テストとして、当該パラメータを規制資本の計算だけでなく、与信審査や内部の資本配賦等に活用することが求められている。図表2には、居住用不動産向けエクスポージャーに関するPD(デフォルト確率)とLGD(デフォルト時損失率)について、07年9月期と08年3月期の計数を示している。なお、これらはバーゼルII の第三の柱に基づき、開示が求められている事項である。

【図表2】 居住用不動産向けエクスポージャー(非延滞)に関するパラメータの状況
居住用不動産向けエクスポージャー(非延滞)に関するパラメータの状況

各銀行が開示しているパラメータを横並びに比較してみると、PDは0.4%台から0.6%台で、LGDは50%台から60%台の水準になっている。地方銀行の居住用不動産向けエクスポージャーは、その銀行が所在する地域の住宅ローン債権でほぼ占められることから、当該地域のリスク属性を考察する参考情報となりうる。
また、前記のようなパラメータ、ひいては銀行のリスク計測態勢が適切であることを示すために、バックテスティングの位置付けで推計値と実績値の比較を開示することが第三の柱で求められている。図表3は08年3月期における内部格付手法を適用するエクスポージャーの長期にわたる損失額の推計値と実績値、ならびにその差額を表したものである。

【図表3】
内部格付手法を適用するエクスポージャーの長期にわたる損失額の推計値と実績値の対比
内部格付手法を適用するエクスポージャーの長期にわたる損失額の推計値と実績値の対比

ここで取り上げた3行とも、推計値が実績値を上回っており、十分に保守的な条件でパラメータを推計していると推測される。これは、自己資本の十分性を評価するための参考情報となりうるものである。

6.銀行勘定の金利リスクの状況
統合的リスク管理のなかで考慮しなければならないもう一つの主要なリスクは、銀行勘定の金利リスクである。これについては、アウトライヤー基準として一定のリスク計測手法が提示されているほか、銀行が内部管理で使用しているモデルで計測することも認められている。図表4は、銀行勘定の金利リスクに関する開示情報をまとめたものである。

【図表4】 銀行勘定の金利リスクの状況(08年3月期)
銀行勘定の金利リスクの状況(08年3月期)

各行とも内部管理で使用しているVaR値を開示している。信頼区間について、2行は、内部格付手法におけるリスクアセット関数との平仄を考慮してか99.9%を採用し、1行は、アウトライヤー基準に準じ99%を採用している。
保有期間については、最長1年から最短3カ月と大きく幅がある。1年間という保有期間は、内部格付手法におけるPDが向こう1年間の値を推計しているように、規制資本の計算方法と平仄をとりながら、銀行総体として抱えているリスク量を計測するには適していると考えられる。一方、3カ月間といった保有期間は、現存するリスク・エクスポージャーをヘッジ取引等で極小化するために必要な期間ととらえることもでき、リスク管理上は合理性があると考えられる。また、コア預金については、アウトライヤー基準に基づいたリスク計測上は考慮するものの、内部管理上のVaRには考慮する銀行としない銀行とがあり、対応が分かれている。このように、各パラメータやコア預金については、各行の金利リスク管理に関する考え方がみてとれる。

7.PDCAの第三者開示で規律向上
統合的リスク管理は、健全性の維持を図るとともに収益性の向上に結びつけるといった二律背反的な目標をもった取組みである。不良債権問題の克服後、新たな成長戦略が求められているなかで、リスク資本の有効活用が喫緊の課題であるのは銀行界共通の認識であろう。そこで、統合的リスク管理のPDCAサイクル、すなわち、リスク資本をリスク対比収益性のより高い分野に振り分けていくプロセスを中長期的に実践し、当該プロセスを外部の第三者に対して開示していくことが今後求められよう。
市場規律の向上を企図したバーゼルII における第三の柱の趣旨にかなうためにも、銀行はリスク管理態勢の整備について不断の努力が望まれる一方、銀行をとりまく立場にいるわれわれもリスク管理水準の向上に対し適切な評価を行い、また支援に努めていく所存である。

本稿に記載された事項は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておく。
以上
社団法人 金融財政事情研究会発行 『週間金融財政事情』 2008年4月14日号に掲載したものに一部加筆した。
参考図書:『バーゼルII 対応のすべて』 金融財政事情研究会
 
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