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トピックス 2006.3.15
新病院会計準則の適用を考える
大阪事務所 ヘルスケアコンサルティング部 公認会計士 纐纈 和雅
1.はじめに
平成16年8月に病院会計準則の改正(以下、新準則)が通知されて既に一年半が経つ。新準則はその適用に強制力を持たないこと、開設主体として適用すべき会計基準との間に乖離があることから、既に適用している病院は極めて少数ではないかと推察する。
一方で、来たる平成18年度は、診療報酬3.16%の引下げ※という強い逆風の中、第5次医療法改正に伴う医療制度の構造的な改革元年として、医療業界の経営環境は、一大転換期を迎える。
このように医療業界の経営環境が大きく変わろうとしていることを契機に、新準則を適用し自病院の経営状態を見つめ直す機会としてはいかがだろうか。病院会計準則には実務的にみると、開設主体の会計基準との位置付けが難しいところがある。しかし、病院は地域において“医療”という公益性の高い事業を担うからこそ、健全かつ持続性ある経営が求められる。新準則の適用は今後の健全かつ持続性ある経営を考えるに当たり、企業会計と遜色ない財務情報の提供を実現するという点で大いなる意義があると言える。
なお、本文中の意見に関する部分は私見である。

※医療給付費を2025年度時点で45兆円に抑制するという政府方針の中で、診療報酬については、2006年度(平成18年度)3.16%引下げを皮切りに、2025年度までの20年間(10回)の改定で計7%引下げられることが打ち出されている。

2.新病院会計準則の意義
今回の改正が「全面改正」とされた意義は次のように要約される。
企業会計へのCatch-Up
 ◆財務諸表
  ≫キャッシュ・フロー計算書
 ◆会計基準
  ≫退職給付会計
  ≫リース会計
  ≫金融商品会計
  ≫研究開発費等会計(ソフトウェア)
  ≫税効果会計
施設会計としての取扱い
 ≫施設間取引の取扱い
 ≫本部費の取扱い
 ≫消費税等の取扱い
 ≫その他補助金の取扱い
図表1「全面改正」の意義

「企業会計へのCatch-Up」とは、わが国の会計制度に見られる近時の流れに追随することである。民間営利部門では、企業活動のグローバル化の進展によってステークホルダー(利害関係者)に対して活動結果を報告するに当たり、会計のルールを共通化する必要性が求められ、図表1に挙げたような会計基準が新たに導入された。
会計基準は、事業活動における会計事象の処理のあり方(ルール)を定めたもので、素直に考えれば、同一の会計事象であれば同じルールで処理することは至極当然である。そう考えると、同一の会計事象の処理に営利・非営利の区別はなく、企業会計と同じ会計基準、同等の財務諸表体系を導入することは、遅れているとされていた財務情報の質を民間企業並みに引上げるものと言える。その上で、民間企業と同じ目線で経営の効率化を図ってこそ、健全かつ持続性ある経営に資すると言うことができる。
「施設会計としての取扱い」とは、病院施設を単位とした会計のルールという病院会計準則が持つ基本的性格のために、病院特有の事象あるいは開設主体(法人・団体など)との関係から生じる事象の取扱いを明示したものである。図表1に挙げた取扱いのうち、「施設間取引」「本部費」はまさに“施設”という観点からの取扱いであり、「消費税等」「その他補助金」は開設主体を単位として適用される会計のルールとの関係からの取扱いである。

3.新たに導入された会計基準など
図表1の「企業会計へのCatch-Up」の内容について、概略を以下に述べる。なお、詳細については、当監査法人ヘルスケアグループ編集の「病院会計の実務」(清文社、2005年1月)を参照されたい。
(1)キャッシュ・フロー計算書
一事業年度の活動結果を「業務活動」「投資活動」「財務活動」に区分し、資金の動きをもって報告する財務諸表である。それぞれの活動は、
業務活動…医業活動(医業損益として計上される取引)のほか、投資活動・財務活動以外の日常的な活動の状況
投資活動…設備投資と資産運用の状況
財務活動…設備資金・運転資金などの調達と返済の状況
を示す。キャッシュ・フロー計算書の意義は、資金という裏付けをもって、活動区分ごとに結果が報告されるところにある。損益計算書・貸借対照表と併せて見ることで経営状態をより正確に評価することが可能となる。

(2)研究開発費等会計
研究開発費会計とソフトウェア会計の2つで構成される。病院施設では医療機関として治療活動とともに研究活動も行われるが、そうした研究活動に費やした費用の処理方法を定めたものが研究開発費会計である。
また、医療分野でもIT化が進んでおり、病院ではさまざまなソフトウェアが利用されている。そうした病院内で利用するソフトウェアの導入に要した費用の処理方法を定めたものがソフトウェア会計である。

(3)税効果会計
“医療”は一般に非営利と解されているが、医療を事業として営んだ結果の果実たる『所得』に対しては、一部の開設主体を除いて、課税が行われる。この課税所得計算上の益金・損金と病院会計上の収益・費用との間には認識時点や資産・負債の額に相違がある。この相違から生じる税金費用(法人税等)を適切に期間配分し、税引前利益と法人税等を合理的に対応させる手続を定めたものが税効果会計である。

(4)金融商品会計
わが国の会計原則は取得原価主義(取得した時の価額で評価する)を基本原則としている。しかし、さまざまな金融商品・金融派生商品が開発、市場で取引され、利用する企業などは価格変動のリスクに晒されるようになり、取引や保有の状態を適切に評価し財務諸表に反映させる考え方が主流となって制定されたものが金融商品会計基準である。その意義は、適用対象である有価証券(株式・債券など)やデリバティブ商品(金利スワップなど)、金銭債権(医業未収入金など)や金銭債務(未払金など)などを公正な評価額で評価するという点におよそ集約される。

(5)リース会計
多くの病院で医療機器の調達方法としてリースが利用されているが、リース取引の処理方法を定めたものがリース会計である。新準則では、ファイナンス・リース取引(購入取引と実質的に同等であると認められるリース取引)について、リース物件を購入した場合と同様に資産計上することが定められており、支払リース料を費用処理することは認められない。

(6)退職給付会計
退職金規程に従って退職金を支給するなど、退職に係る後払い給付の制度を設けている場合に適用する会計基準である。新準則では、病院が将来負担することとなる退職給付に係る債務を事業年度末で算定し、負債として計上することが定められている。

4.新病院会計準則適用による影響
新準則を適用した場合、従来にない大きな影響を及ぼすと考えられるのがリース会計と退職給付会計である。
(1)リース会計
上述「3.新たに導入された会計基準など (5)リース会計」に記載のとおり、ファイナンス・リース取引については、リース資産とリース負債がオンバランス(貸借対照表に計上)されることになる。この結果、安全性の指標である自己資本比率の低下、効率性の指標である総資産回転率の低下がもたらされることになる。これを【設例1】を用いて図解すると図表2のとおりである。損益計算の面では、資産計上したリース資産はリース期間で減価償却する一方、支払リース料に含まれる利息部分を支払利息として処理するため、リース債務残高が多いリース期間の前半は利息負担が大きくなり(図表3)、その分収益性は低くなる。なお、キャッシュ・フローの面ではリース料の支払が財務活動区分とされるため、業務活動のキャッシュ・フローは向上する。

【設例1】
≫リース総額 120  (本体100、利息20)
≫リース期間 5年
≫年間リース料 24
≫リース期間で定額法により償却
  (残価ゼロ)
≫医業収益 1,000
リース資産・リース債務のオンバランス化

図表3 ファイナンス・リース取引の費用処理   ファイナンス・リース取引の費用処理
ファイナンス・リース取引の費用処理

(2)退職給付会計
退職給付会計の影響は、従来採用していた会計処理と適用初年度において決定する変更時差異の処理方法によって度合いが異なる。例えば、a)退職一時金制度のみ b)従来は期末要支給額の40%を退職給与引当金として計上 c)変更時差異を適用初年度に一括処理 というケースを想定してみる(【設例2】)。リース会計と同様、自己資本比率の低下がもたらされるが、資産には直接関係しないため、効率性の指標への影響はない(図表4)。また、キャッシュ・フローへの影響もない。

【設例2】
≫退職給付制度は一時金のみ(外部積立なし)である
≫期末要支給額 前期末:200 当期末:220 (期中退職はなかったとする)
≫従来は期末要支給額の40%を引当していた
≫当年度から簡便法にて処理変更時差異は一括償却する
≫当期損益はゼロ、総資産は増減なし と仮定する
退職給付会計(簡便法)の影響

5.おわりに
新準則は従来にない会計処理を求めているため、新準則の適用に当たっては新しい会計処理の十分な理解とともに、それがもたらす影響を事前に予測しておくことが必要である。加えて、経営の効率化に向けたスタートラインに立つためには、新準則適用後の財務諸表を正しく分析できることが必要である。
以上
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