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トピックス 2006.4.12
国立大学附属病院の財務分析
名古屋事務所 公認会計士 西原 浩文
1.はじめに
国立大学が平成16年4月に法人化して第1期(平成16年度)の財務諸表が平成17年9月に公表された。その財務諸表を利用していくつかの団体あるいは個人が国立大学法人の財務分析を行っている。
国立大学の法人化は、平成12年7月に発足した「国立大学等の独立行政法人化に関する調査検討会議」において、大学改革の一環として、(1)個性豊かな大学づくりと国際競争力ある教育研究の展開、(2)国民や社会への説明責任の重視と競争原理の導入、(3)経営責任の明確化による機動的・戦略的な大学運営の実現の視点から検討されたところから始まっている。
国立大学の法人化が成功するかどうかは、財務面でみると、自己収入が大半を占め、かつ、収入と支出のコントロールが難しい附属病院が鍵を握っていると言っても過言ではないと思われる。そこで、今回は、国立大学法人全体ではなく附属病院に絞って財務分析を試みた。
なお、文中に係る部分は私見であることを申し添える。

2.国立大学附属病院の特徴と運営費交付金
国立大学附属病院は他の医療法人などと異なり、診療機能のほか、教育研究機能を有するところに特徴がある。
上記の機能を維持するため収支的には独立採算とは言えず、いずれの附属病院にも運営費交付金が交付されている。運営費交付金は教育研究経費を補填する「特定運営費交付金」と、附属病院収入が「一般診療経費+債務償還金」の合計額を下回った場合の「附属病院運営費交付金」の2つがある。
そのうち、「附属病院運営費交付金」について、病院収入で「一般診療経費+債務償還金」を賄えない場合は、法人化後2%の経営改善係数が課せられる。たとえば、「一般診療経費+債務償還金」が210億円、附属病院収入が200億円の場合、「附属病院運営費交付金」は10億円となるが、「附属病院運営費交付金」がゼロになるまで毎年附属病院収入の2%(この場合だと4億円)、「附属病院運営費交付金」がカットされることになっている。

図表1
附属病院運営費交付金イメージ図
(出所)文部科学省HP http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/030/gijiroku/05122201/004/002.pdf

3.国立大学法人会計基準の特徴と附属病院
国立大学法人会計基準は、企業会計原則に一定の修正を行った独立行政法人会計基準を参考としつつ国立大学の特性に即した取扱いを付け加えている。附属病院に関連する国立大学法人特有の会計処理の主なものは以下のとおりである。
運営費交付金の収益化は原則として期間進行基準(費用の額に関わらず1年で全額収益計上)
収益の獲得が予定されている附属病院の大半の償却資産の減価償却は費用計上だが、収益の獲得が予定されていないため損益外処理を行うものがある。
運営費交付金が措置される附属病院の大半の人員に対する退職給付債務は引当金を計上しないが、残りの運営費交付金が措置されない場合は引当金を計上する。

4.財務諸表における附属病院情報の開示
国立大学法人におけるセグメント単位の情報は、附属明細書「(18)開示すべきセグメント情報」で開示される。当分の間、セグメント区分は各大学法人が適切と考える区分によることができるが、附属病院については必ず開示することになっており、附属病院を有する42大学法人全てが附属病院セグメントを開示している。
平成16年度に適用された様式を示すと以下のとおりである。

図表2
開示すべきセグメント情報

なお、平成17年度から適用される新様式では以下のように業務費用および業務収益が細分化されている。
業務費用: 教育経費、研究経費、診療経費、教育研究支援経費、受託研究費、受託事業費、人件費、一般管理費、財務費用、雑損
業務収益: 運営費交付金収益、学生納付金収益、受託研究等収益、受託事業等収益、寄附金収益、財務収益、雑益

5.財務指標
財務指標としては、大きく安全性、収益性、成長性に区分されるが、上記セグメント情報の開示項目や第1期であることなどの理由から、収益性分析のみが可能である。
収益性の指標としては以下のものが考えられる。
(1)附属病院利益率
(2)1病床当たり診療経費、附属病院収益
(3)自己収益比率
(4)自己収益回転率
(5)病院職員1人当たり診療経費、附属病院収益
ただし、診療経費、病院職員数が開示されていないことから、(2)1病床当たり診療経費、(5)病院職員1人当たり診療経費、附属病院収益は算定していない。また、(2)1病床当たり附属病院収益は、病床数の正確なデータが入手されないため、おおよその平均値を参考程度に算定した。
このほか財務指標ではないが、たとえば病床稼働率や平均在院日数も病院経営の指標としては重要である。これらは附属病院を分析するには欠かせないものであるが、データの制約から今回は分析を行っていない。

6.財務分析結果の概要
財務分析結果の概要は以下のとおりであるが、附属病院利益率は費用および収益の範囲により3パターンの指標を算定した。
附属病院利益率(I) = 業務利益
業務収益
附属病院利益率(II) = 修正業務利益(I)
業務収益
附属病院利益率(III) = 修正業務利益(II)
修正業務収益
1病床当たり附属病院収益 = 附属病院収益
病床数
自己収益比率 = 自己収益
業務収益
自己収益回転率 = 自己収益
帰属資産
(注)算定上の定義
修正業務利益(I)…業務利益+損益外減価償却相当額+引当外退職給付増加見積額
修正業務利益(II)…修正業務利益(I)−運営費交付金収益
修正業務収益…業務収益−運営費交付金収益
自己収益…業務収益−運営費交付金収益

(1)-1 附属病院利益率(I)
最大:14.7%、最小:△11.3%、平均:5.3%
37大学が黒字、5大学が赤字。
平均の利益率は5.3%である。下記「7.財務指標利用上の留意事項」があるものの、第1期はかなりの経営努力がなされたのではないだろうか。
(1)-2 附属病院利益率(II)
最大:15.3%、最小:△9.3%、平均:5.0%
36大学が黒字、6大学が赤字。
平均の利益率は5.0%で(I)-1に比べ0.3%の減少である。損益外減価償却、引当外退職給付の影響はあまり見られなかった。
(1)-3 附属病院利益率(III)
最大:0.0%、最小:△43.8%、平均:△17.2%
1大学が黒字。41大学が赤字。
ほとんどが赤字となっている。運営費交付金がないと財務的にかなり苦しいことがうかがえる。
(2)1病床当たり附属病院収益
平均:約19百万円
なお、最小と最大を比較すると1.4倍程度となっている。
(3)自己収益比率
最大:98.0%、最小:67.9%、平均:81.1%
上位の大学は業務収益や病床数が比較的小さい大学が多く、下位の大学は逆に業務収益や病床数が大きい大学が多い結果となっている。
(4)自己収益回転率
最大:303.9%、最小:19.5%、平均:58.2%
自己収益回転率が1より大きい大学:11大学
業種などにより異なるが、一般的には自己収益が帰属資産より大きい状態(自己収益回転率が1より大)となることが望ましいと言われている。

7.財務指標利用上の留意事項
財務指標を使用する際の主な留意事項は以下のとおり。
附属病院に属する教授などは少なく、ほとんどが医・歯学部所属になっている。当該教授などが実際に診療行為を行っている場合があるが、附属病院の業務費用には含まれていない。
設立時に無償譲与を受けた診療用機器がある。減価償却費に見合う資産見返物品受贈額戻入が収益計上されるためそれだけを見ると損益が均衡しているが、当該診療用機器により診療報酬を計上することになるので結果として収益超過となる。この現象は当該診療用機器が廃棄される時期まで続くことになる。なお、平成17年度からこの資産見返物品受贈額戻入額を財務諸表に注記することが求められている。
附属病院の建物などを国などからの借金(債務負担金、長期借入金)で建設した場合、その建物などの耐用年数と債務負担金(長期借入金)の返済年数が異なることにより生ずる見かけ上の損益が含まれている。
セグメント情報上、運営費交付金が特定運営費交付金と附属病院運営費交付金に分かれていないため、附属病院支出超過分の運営費交付金のみを除いて損益を分析することができない。

8.国立大学附属病院の管理会計
国立大学法人では、歳入歳出決算などの限界があったものの法人化前から管理会計を独自に試行していたようである。平成16年度からの法人化によって複式簿記に移行し、管理会計に必要な情報などが入手し易くなったことを受け、国立大学病院管理会計システム(HOMAS)という管理会計システムの導入を行っている。
今後は、管理会計の精度向上が期待されるところである。

9.終わりに
今回は第1期のセグメント情報をもとに財務分析を試みたが、データの制約などから十分は結果が得られたわけではない。ただし、法人化前と比較すると画期的な情報量であることには間違いはない。
法人化後何年も経過すると、国立大学法人の中でも財務面から優劣の差がついてくるものと思われる。この結果をもとに少しでも国立大学附属病院の財務分析が進み、附属病院の財務の改善の役に立つことを願っている。
以上
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