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トピックス 2008.4.30
医療法人のM&Aの特徴とそのスキーム
公認会計士 渡辺 典之
1.はじめに
近年、病院を対象としたM&Aが増加している。行政の「国民医療費の適正化」という方針のもと、医療経営環境が厳しさを増す中、経営不振に陥る病院や後継者不足に悩む病院が増えたことがその要因と言える。本稿では、病院の開設主体のうち、医療法人に関するM&Aの特徴やスキームについて考察する。なお、本稿に記載された事項は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておく。

2.医療法人M&Aの特徴と評価
病院を対象としたM&Aの特徴は、病院事業を売買するというよりは一種の既得権となっている病床(ベッド)を売買するという側面が強い。これは、各都道府県が「二次医療圏」の地域ごとに基準病床数(総数)を定めており、その総枠に対して病床数の不足がない限り増床が認められないこと、また、行政が政策的に病床数を減少させる方向に導いていることから、個々の病院の経営上の要請に応じた増床の認可が困難なことが背景にある。そのため、買い手は売り手が保有する病床数に一義的な関心があり、売り手の既存事業の内容への関心は低いことも多い。
このような場合、売買価格の評価は既存事業の内容や財務内容の評価よりも、M&A後に譲り受けた病床を活用することで得られる収益が主題となる。したがって、売買価格は、割引率等の考え方の問題はあるものの、M&A後の事業展開から得られる将来キャッシュ・フローを現在価値に割引いて算定するほうが理に適う。
また、売り手の財務状況の調査(財務デューディリジェンス)は、M&A後の事業方針でも使えるものと使えないものを分類することが主要な視点となり、特に医療機器をはじめとする固定資産(少額資産を含む)、リース資産の精査が必須となる。また、医療法人では法人と理事長の取引が明確に区分されていない場合があり、これらの整理も重要である。

3.医療法人のM&Aのスキーム
M&Aとは経営権を移転することであり、そのスキームは多様である。M&Aスキームが整っている株式会社の場合、獲得する対象とその対価という2つの観点からこれを分類すると【図表1】のように整理される。
これに対し、医療法人のM&Aスキームは、医療法人制度が株式という出資形態をとっていないことや医療法の規制により【図表2】のように主に3つに分類される。以下、それぞれについて解説する。

【図表1】株式会社の主なM&A手法
株式会社の主なM&A手法
出所:筆者作成

【図表2】医療法人の主なM&A手法
医療法人の主なM&A手法
出所:筆者作成

1)社員・理事の変更、持分の買取
これは他の医療法人の最高意思決定機関(社団の場合は社員総会、財団の場合は理事会)を支配して経営権を獲得するスキームであり、医療法人のM&Aでは最も一般的なスキームである。
持分の定めのある社団医療法人の場合、最高意思決定機関のメンバーである社員は一人一議決権を持ち、かつ、出資者である必要はないことから、基本的に社員総数の過半数を占めるように社員を送り込む。そして、実効性を高めるため、旧経営陣に対する退職金という意味合いも込めて彼らの出資持分を買い取るのが通常である。
これに対して、持分の定めのない社団医療法人や財団医療法人の場合も同様に、社員や理事を送り込むが、持分という概念がないため、旧経営陣に対しては役員退職金を支給し退任してもらうことになる。
このスキームによる場合、対外的には経営者の変更に過ぎないため、債権債務、契約関係、訴訟リスクなどは新経営者に引き継がれることに留意する。

2)事業譲渡
事業譲渡は他の医療法人から事業の一部(または全部)を買い取るスキームである。例えば、【図表3】のように複数の病院を持つ医療法人から、一つの病院のみを買い取る場合がこれに該当する。
多くの場合、売り手が規模を縮小しつつ存続したい場合に利用されるスキームである。

【図表3】事業譲渡の例(医療法人BからX病院を譲受)
事業譲渡の例
出所:筆者作成

事業譲渡は売買取引であるため、売り手から引き継ぐ資産・負債等を契約で個別に決定できるというメリットがある。例えば、M&A後に展開する事業に必要な資産だけを買い取ることもでき、また、売買対象の病院が有する訴訟リスクなどを引き継がない旨の契約を結ぶことにより、リスクを遮断することも可能である。
事業譲渡に係る課税関係は、単なる売買取引であるため消費税や不動産の所有権移転に係る登録免許税、不動産取得税の流通税が中心となる。

3)合併
合併は複数の医療法人が合体して一つの医療法人になるスキームであり、医療法57条に規定されている。社団の場合は合併について総社員の同意が必要であり、財団の場合は寄付行為に合併することができる旨の定めがあり、かつ、理事の2/3以上の同意が必要である。そして、社団は社団とのみ、財団は財団とのみ合併でき、さらに都道府県知事の認可が必要である。
また、平成19年4月に施行された医療法では新設される社団医療法人は持分の定めのないものに限定されるが、合併前の医療法人のいずれかが持分の定めのある社団医療法人の場合、合併後も持分の定めのある社団医療法人とすることができる。
合併には吸収合併と新設合併があり、合併当事者となる医療法人のうちの一つを存続法人として残し、その他の医療法人は権利義務を存続法人に承継させた後に消滅させる方式を吸収合併という。新設合併とは、合併当事者となる各医療法人を解散して、新たに設立する医療法人に全てを承継させる方式をいう。
合併では、事業譲渡と異なり、債権債務や契約関係、訴訟リスクなどは合併後の法人に引き継がれる。
このように、合併は手続が煩雑になるため、医療法に定めがあるものの、医療法人ではあまり一般的ではない。

4.おわりに
以上、医療法人のM&Aについてその特徴とスキームを整理した。これらのスキームが常に実施可能なわけではない。各都道府県には地域医療計画があるため、病床過剰地域の場合だと売り手の病床をすべて獲得できないこともある。また、経営者(理事長)の変更は都道府県への届出事項となっているため指導が入ることもある。いずれのスキームにせよ、都道府県の所轄部署等に事前の問い合わせを行うことが肝要である。
以上
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