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トピックス 2008.10.1
医療機関の経営と公益性 その1
大阪事務所 ヘルスケアコンサルティング部 公認会計士 纐纈 和雅
1.はじめに
平成19年4月の改正医療法によりスタートした新たな医療法人制度の目玉とされた社会医療法人制度が、医療法施行規則の改正、平成20年度税制改正による税制面での取扱いの確定を受け、この平成20年4月から動き出した。本稿執筆時点までに2法人が社会医療法人の認定を受け、本年度中に約30件が認定されるとの厚生労働省予測がある。
そして、流れを同じくして、公益法人改革による新たな公益法人制度が平成20年12月からスタートする。こちらも、公益認定に向けた動きが活発化してきており、医療機関を経営する民法法人でも公益認定を検討しているところが多いものと思われる。
私的医療部門でのこうした動きに対し、公的医療部門では自治体病院の経営危機が取りざたされ、地域医療の崩壊を危ぶむ声も聞かれる。そのため、社会医療法人には、地域の医療提供体制を守るべく、経営破綻した自治体病院の受け皿となることが期待されている。
このように、今、医療機関の経営において、一つのキーワードとなっている『公益性』に着目して、今回から2回にわたり医業経営を考察してみる。なお、本文中の意見に関する部分は私見である。

2.制度的な転換
公益法人制度は、従来、主務官庁が自由な裁量によって公益性を判断し設立を許可してきたが、公益法人改革による新制度では裁量の余地を廃し、客観的で明確な判断要件に基づいて、民意を適切に反映した上で公益性を判断することとなった。そして、公益性が判断される法人については、ガバナンスの強化を通じた自立的な監査・監督機能の充実と情報開示の徹底等を通じて、法人運営の適正性を担保することとしている。
一方、医療法人は、地域で質の高い医療サービスを効率的に提供することを使命としつつも、積極的な公益性は要求されないものとされてきた。しかしながら、医業環境の変化とともに、地域の医療提供体制の確保のため、自治体病院をはじめとする公的医療機関が担うとされてきた「公益性の高い医療サービス」についても、民間非営利部門の医療法人が担うことが社会的に要請されるようになった。そうした背景から、「営利を目的としない」という役割を再確認するとともに、「公益性の高い医療サービス」を提供する公益性の高い医療法人制度を創設すべく医療法人制度が見直された。そして、公益法人改革の趣旨を踏まえて、公益性の高い医療法人については、主務官庁による事前規制を主とした取扱いから、ガバナンスの強化を通じた自立的な監査・監督機能の充実と情報開示の徹底を通じて、効率的で透明な医業経営を担保することとされた。

3.税務面での非営利性と公益性
医療の提供体制は、施設により診療所と病院に大別されるが、図表1のように、その開設者は様々である。

図表1 開設者別病院数(平成20年3月末現在)
開設者別病院数

これら様々な開設者が医療施設を開設した背景には、歴史的にそれぞれの目的があったと考えられる。医学校(学校法人)は医学者の養成、宗教法人や社会福祉法人などの公益法人は貧困者の救済や社会福祉、国や自治体は行政として国民の健康を守ること、企業や組合は団体加入員の福利厚生、医療法人は医業の拡大というそれぞれの目的があったのである。同じ医療を提供する者でありながら、こうした目的の違い、つまり開設者の存在を規定する根拠法の違いによって、経営上のルールや税務上の取扱いが異なっているのが現状である。
一方、医療の提供のあり方を律するものとして医療法があり、その第7条第5項で、医療は非営利目的で提供されるものであることが明記されている。医療法人及び個人、企業等を除く開設者(法人)は原則非営利として成立しており、医療法との齟齬はない。医療法人は医療法を根拠に成立する法人であるため「非営利」のはずであったが、曖昧な部分があったことから先の医療法改正で非営利性を徹底すべく見直しが行われたところである。ちなみに、「非営利」とは剰余金の配当を行わないことと解されており、それゆえ法人税法上、医療法人には留保金課税が課されない。その点で営利企業とは一線が画されている。
医療法人制度改革では、この「非営利」と対になって「公益」の概念・定義が議論された。「公益」とは、社会における不特定かつ多数の人々の利益をいうが、医療法の目的(第1条)に「医療を受ける者の利益の保護」を図ることが記されていることからも、医療の提供には公益性が認められるはずである。しかしながら、現実には医療の提供だけをもっては公益性が認められていないのである。同じ医療施設を運営しながら、開設者に公益性が認められるのと認められないのでは、経営上、特に税務面での処遇が大きく異なっている。それをまとめたのが図表2である。
安定した経営を行うためには、資金を安定的に回す必要がある。医療の提供には相応の施設設備が必要であり、それらを維持更新するための資金を留保していかなくてはならない。赤字経営の場合は比較する意味が低くなるが、黒字経営の場合は資金面で図表2のような課税関係の違いが経営に少なからず影響を及ぼすことになる。現在でも、租税特別措置法により一定の要件を満たすとして国税庁長官に承認された特定医療法人には軽減税率の適用が認められているが、それでも公共・公益法人との格差は大きいものがあると言わざるを得ない。
そこで登場したのが、改正医療法で創設された社会医療法人であり、社会医療法人は公益性の高い医療法人として、公共・公益法人と同等に扱われることが認められたのである。

図表2 医療機関の開設主体別に見る主な課税の取扱い
医療機関の開設主体別に見る主な課税の取扱い

4.公益性の高い医療
医療が公益のサービスであるとしても、それを生業とする者が多数おり、それゆえ税務上、医療保健業は収益事業と位置づけられている。したがって、医療の提供を業とする者が公益性を認められるためには、通常提供される医療よりも「公益性の高い医療」を提供するものでなければならないとされた。つまり、国・自治体、宗教法人や社会福祉法人の場合は医療を提供する目的をもって公益性が認められる一方、医療法人の場合は提供する医療の質をもって公益性が認められるという構図になったのである。
社会医療法人制度を世に送り出すもととなった、厚生労働省の医業経営の非営利性等に関する検討会が公表した報告書によれば、「公益性の高い医療」とは「通常提供される医療と比較して、継続的な医療の提供に困難を伴うものであるにもかかわらず、地域住民にとってなくてはならない医療」と定義されている。そして、図表3のものが「公益性の高い医療(活動)」として例示されている。

図表3 公益性の高い医療(活動)
公益性の高い医療

その2へ続く
以上
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