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知的財産マネジメント
トピックス 2006.7.19
企業価値を高める知的財産マネジメント
知的財産グループ 永田 伸之
【はじめに】
「わが社の技術や知的財産は、利益や企業価値の向上にどの程度貢献しているのか」
「莫大な研究開発投資を行ってきたわが社の技術・知的財産は、本当に増え強化されているのか」

現状で、こうした自社の取り組みに対する素朴な疑問にすぐに答えられるビジネス・パーソンは、一体どれだけいるだろうか。
2003年に知的財産戦略本部が設置されて以来、係争を含む様々な知的財産に関連するニュースが報道されてきた中で、日本の企業経営における知的財産に関した実務的な取り組みは、変化のきざしを見せている。しかし、まだ最初の一歩を踏み出したばかりであり、これから長い道のりを進んでいく必要がある。
なお、本稿での意見に関する部分は私見である。

【知的財産をトップ・マネジメントの課題として扱うべき理由】
スイスのIMD(国際経営開発研究所)が調査・公表した国際競争力ランキングでは、日本は世界で第2位(1995〜2000年)の科学技術力を維持している。また、2005年の米国国内における特許登録数ランキング(速報)のトップ10では、日本企業が5社もランク・インしている。このように、日本企業が有する技術競争力が世界のトップ水準に位置することに異論は少ないと思うが、そうした力を企業価値に十分結び付けられているか否かについては、議論の余地がある。
図表1-1は、米国特許登録件数トップ10にランキングされた企業の特許取得件数とPBR(株価純資産倍率)を示している。誤解を恐れずにあえていえば、PBRが1を越える部分が、企業の貸借対照表(B/S)に表出しない、知的財産を含む無形資産の価値とみることができる。日本を代表する5社の単純平均PBRは2.1であり、日本企業以外の4社の3.1を大きく下回っている。
これら5社の日本企業は、直近5年間(2005年3月期または12月期まで)に累積9兆3000億円以上(5社合計)の研究開発費を投入して技術開発を進めている。この期間のPBRをみてみると、研究開発投資の起点である2000年3月末時点のPBR平均が2.9であったことに対して2005年の直近の時点のPBR平均が2.1であるということは、この5年間で逆に減少したことを意味している。確かに、平均値やPBRの意味について考慮すべき点があるが、少なくとも、「技術力や知的財産を企業価値に十分反映できているか」といった問題については、真剣に問い直す必要があるのではないだろうか。

図表1-1 米国特許登録件数トップ10にランキングされた企業の特許取得件数とPBR
2005年米国特許登録数(速報)ランキング等

【「知的財産は企業価値創出の源泉」という意識の設定が基本】
監査法人は様々な目的、局面に応じて企業が有する知的財産の経済的価値を評価している。時には、非常に限られた価値しか見出せないであろう知的財産の評価の依頼を受けることもあり、クライアント企業にとっての費用対効果の観点から、評価というサービス提供自体を辞退する場合もある。不思議に思われるかもしれないが、何故このようなことが起こるのだろうか。
それは、当該企業自身が自社の知的財産に関するビジネス上の位置付け、あるいは意味合いを把握していないということに起因する。つまり、最も重要な企業価値創出の源泉である知的財産について、「権利」の確保・維持といった専門的ないし狭義の観点でのみ意識・管理してしまい、本来最大の目的とすべき「何のための」権利や経営資源にするかといった視点が欠けている、ということを意味する。
「参入障壁を築くこと」、「競合他社と差異化を図ること」、「自らの事業を自由に進めること」といった知的財産の本来的な意義が、例えば特許明細書の請求項の書き方など専門性の陰に忘れ去られてしまっているようならば、まずは知的財産に対する意識を改める必要がある。

「意識を変えることなく全体の変革は期待できない。また、成果を図らずして大きな成果を期待することはできない」。

知的財産マネジメントの必要性と意義はここに存在する。その意味で知的財産マネジメントは、決して簡単ではないが、高い目標やミッションを設定しなくては飛躍を望むことは不可能である。

【企業経営における知的財産の位置付け、その現状】
最近は国際的なM&A(企業買収・合併)が企業経営における日常的な選択肢になっており、事業ポートフォリオの組み換えが知的財産マネジメントにも大きな影響を与えている。例えば、世界規模の企業グループにおいて、買収先企業の知的財産を、「(買収後)誰が、どこで、どのように管理・活用するか」、「移転する際の公正かつ妥当な市場価格はいくらなのか」、「グループ内企業間において特許使用料の適切な決定などの運用はどのようにすべきか」などの具体的な課題が浮上する。
監査法人がM&A支援や知財評価を実施する際に必要となる情報のうち、「その知的財産が何の事業に貢献しているのか」といった知財情報とその事業の財務情報(貸借対照表、損益計算書)は不可欠である。しかし、実務上は、知財情報と、財務情報を含む事業・製品情報が連携していない場合が多々ある。
この原因は、知的財産の事業に対する貢献を事業全体あるいは全社規模で把握できていないということに他ならない。少なくとも、自社の主要な知的財産権、なかでも主要な事業・製品に活用されている特許権などに関しては、財務を含めた事業との連関分析を通じて把握するべきではないだろうか。「利益に寄与している知財あるいは知財権は増えているか」、「どの事業分野において研究開発、知的財産活動、事業利益が良循環に基づいて経営されているか、あるいは経営されていないか」などを把握していなければ、経営資源の配分を適正化したり効率性を高めたりすること、ひいては経営の現状を変革することは困難である。

【知的財産マネジメントの具体的な目標・ミッションを設定する重要性】
一般に、従来いわれてきた「知的財産マネジメント」においては、特許権をはじめとする知的財産権の出願・登録件数を主な管理指標にして、例えば世界の地域ごとや技術開発のステージごとなどに目標値を設定する場合が多いと見受けられる。
知的財産に関してはその量だけでなく質が大切なことに異論はないと思うが、実務的には、「権利としての強さ」や「技術的な優位性」など、事業性以外のやや定性的な評価に留まっている場合がほとんどではないだろうか。加えて、最近は知的財産の有効活用による収益(キャッシュ・フロー)化への認識が高まってきたものの、この点に関する具体的な対応策に関しては、今後検討が進んでいく段階にある。
より大きな意味で知的財産マネジメントを実行する際には、まず、(1)知的財産が他者(他社)からどれだけ注目されているか(例えば「海外の特許権における被引用数」、「社内での情報アクセス数」など)、(2)どれだけ活用されているか(例えば「自社内の事業にどれだけ利用されているか」、「クロスライセンスを含む他社の事業にどれだけ使用許諾を与えているのか」など)、こうした要素を評価指標に含めることから始め、知的財産の事業性に関する視点を補強していくことが大切である。
次に、知的財産マネジメントを実際に運営・担当する者に対して、「研究開発戦略に貢献すること」、「技術戦略的アライアンスに貢献すること」といった具体的なミッションを付与することで、知的財産マネジメントをより戦略的な取り組みに昇華していく推進力になる。具体的には、研究開発プロジェクトに関連した経営資源の配分に際しては、知的財産の観点からのプロジェクト評価を加え、事業戦略上に必要となる新たな技術に関しては「Make or Buy」といった戦略的な経営判断に資する視点や調査情報を提供する。初期段階から知財面の評価をすることはアライアンス候補の選定などにもメリットがあり、このように知的財産の専門的見地が具体的な企業価値の創造に貢献できる分野・局面は広範囲に及ぶ。
なお、本稿は「日経BP知財Awareness http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/」に掲載されたものを一部抜粋したものです。
以上
 
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