| トピックス 2006.10.25 |
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| 知的財産の価値評価 |
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| 知的財産グループ 証券アナリスト 中道 規雄 |
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【はじめに】
知的財産の価値評価は、『知的財産マネジメントの必要性』(2006.7.19)でも述べたとおり、知的財産マネジメントのためのキーファクターの1つである。一方で、知的財産の価値評価は、知的財産が持つ特殊性から非常に困難であるということが一般的に言われており、様々な団体や学者、民間会社等が知恵を絞っている状況にある。本稿では、何が知的財産の価値評価を困難にさせているか、また、どうすれば知的財産マネジメントにとって有意な価値評価となるかについて、特許権を例に、筆者が業務の中で経験した事項などを踏まえて整理する。
なお、本稿での意見に関する部分は私見である。
【特許権の価値評価の困難性】
近年、M&Aが一般化しつつあり、その際の手続きの1つである株式価値評価や事業価値評価については、関係者の中であまり異論が出ないにも関わらず、特許権の価値評価については、なぜ非常に困難とされているのだろうか。逆に言えば、株式価値評価や事業価値評価、また、性格は異なるが、ほとんどすべての企業で行われている人事評価等であれば困難ではないのだろうか。
確かに特許権には、(1)ある日突然無効となるリスクがある、(2)流通市場が未発達である(価値評価の困難性とは鶏と卵の関係であるが)、(3)3つの側面(技術的・法的・経済的)を考慮する必要がある、(4)そもそも特許権は特異性が高く比較も困難である等、価値評価のための高いハードルが存在する。また、価値評価が困難なために、会計上も自己創設の特許権はバランスシートに計上できず、オフバランスとされている。
これらの困難性の中でも、3つの側面(技術的・法的・経済的)の考慮が最も困難かつ重要であると考え、それに関して、もう少し掘り下げてみたい。
【3つの側面という困難性】
特許権が有する3つの側面を、簡単に整理すると図表1の通りとなる。
図表1 特許権が有する3つの側面
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評価の観点 |
企業の担当部署 |
外部専門家 |
| 技術的側面 |
技術優位性、代替可能性等 |
研究開発部 |
弁理士 |
| 法的側面 |
権利範囲、権利の強さ、権利期間等 |
法務部、知的財産部 |
弁護士 |
| 経済的側面 |
収益力、リスク、経済的有効期間等 |
経営企画部、財務部、事業部 |
公認会計士 |
一般的なM&Aでは、経営企画部や財務部、事業部といった経済的側面から経営全般を捉えている担当部署が中心となる。一方で、特許権の場合は、経済的側面だけでなく、法的側面から捉える法務部や知的財産部、技術的側面から捉える研究開発部といったように、狭い領域ではあるがその分野では専門性の高い関係者が加わる。
一般的に、経営企画部・財務部の方は、価値評価方法に対する専門知識を有し、価値評価について一定の効果を認めているが、知的財産部・研究開発部の方は、一般的に価値評価方法に対して知見が少なく、また、技術や特許権について分からない人間が行う価値評価に対して非常に懐疑的になる。特に、研究開発部では、評価結果が低く出た場合に、担当している研究開発がストップさせられる、もしくはすぐに結果の出る研究開発しかできなくなる、さらには訳の分からない方法による特許権の価値次第で自分自身が評価されるという不安に駆られ、価値評価の手続きに必須の技術面での分析で協力が得られにくい状況が起こる。
このように、それぞれの部署の業務領域と専門性が大きく異なることによって、特許権そのものや価値評価に対する考え方、解釈に大きな隔たりがあることが、知的財産の価値評価を困難にしている最大要因であると考えられる。
【特許権の価値評価方法】
3つの側面を持つ特許権の価値評価においても、最も重要な側面は経済的側面と考えられる。極論すれば、どれだけすばらしい特許権であっても、ビジネスで利用され、企業に利潤をもたらさなければ営利企業にとっては価値がないためである。しかしながら、価値の源泉は高度な技術であり、特許権といった法的効果であることから、それらを織り込んだ価値評価を行うことになる。
一般的に、価値評価を行う場合のアプローチには、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチの3つのアプローチがあり、それぞれのアプローチを簡単に説明すると図表2の通りとなる。
図表2 価値評価を行う場合の3つのアプローチ
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コスト・アプローチ |
マーケット・アプローチ |
インカム・アプローチ |
評価方法
の概要 |
評価対象資産を、個別的に時価評価 |
評価対象資産の類似資産の売買事例(取引価額)を基礎に評価 |
評価対象資産を使用した将来の収益力を基準に評価 |
| 長所 |
客観的 |
客観的 |
最も理論的、将来の事業性(収益力、リスク)を反映 |
| 短所 |
将来の事業性を未反映、開発効率の悪いものが高く評価される |
類似取引の発見困難、取引内容の詳細不明 |
客観性に難あり |
理想的には、すべてのアプローチによる評価を行うことで、より精緻な価値評価が行えるが、特許権の価値評価においては、特許権が将来において生み出すキャッシュフローを、リスクを考慮した割引率で現在価値に割り戻して算出するインカム・アプローチが採用されることが一般的である。
【価値評価におけるポイント】
価値評価を行う際に注意すべき点はいくつかあるが、特に重要なポイントは以下の通りとなる。
・評価目的との整合性
・コストを含めた実効性
・評価手続の合理性
(評価目的との整合性)
誰が、何のために、評価を行うかを明確にすることが第1歩となる。さらに重要なことは、前述した高度に専門化した各関係部署がこの評価目的を理解・共有する必要がある。特許権の価値評価においては、技術的側面の専門家である研究開発部、法的側面の専門家である知的財産部の協力が必須であり、それがなければ、全く意味のない評価のための評価となってしまう可能性が高い。
図表3 特許権評価目的の分類

(コストを含めた実効性)
企業が保有するすべての特許権を詳細に価値評価することは、コストや時間、また、定期的にたな卸しすることも考えると非常に困難である。したがって、第1Stepですべての特許権を何らかの指標で色づけし、第2Stepでその区分に応じた分析を行う、2段階もしくは多段階の価値評価手続とすることが実務上有効であると考える。また、導入当初からすべての特許権を対象とするのではなく、代表的な特許権で価値評価手続のプロトタイプを構築し、評価目的との整合性や実効性を検証しながら、逐次再構築していくことになる。
(評価手続の合理性)
インカム・アプローチは、理論的である一方、将来のキャッシュフローやリスクについて恣意性が入るという短所がある。しかしながら、これは特許権の価値評価に限ったことではなく、株式価値や事業価値の評価においても同様であり、重要なことは、恣意性が入るという短所をいかに極小化するかにある。将来のことは誰にも分からないが、分からないから評価できないということであれば、投資の意思決定は誰にもできないことになる。
限られた情報や前提条件を基に、評価目的に沿って合理的に将来計画やリスクを見積もることが重要であり、そのために、各関係部署の協力も必要となる。ただ、その際のポイントとしては、(1)事業性に観点を置く、(2)合理的な価値評価が行われているかを検証できるように評価手続を透明化する、(3)算定された評価額の検証を行う、ことである。
【おわりに】
各企業それぞれの目的に適った知的財産マネジメント、その一要素である価値評価方法は、画一的なものではなく、各企業固有の事情を織り込んだ独自の価値評価であってよいが、関係各部署の理解・協力がなければ全く機能しない、もしくは意味のないものとなる。評価目的を各関係者が理解・共有するためには、全社的見地から立ったトップダウンによる意識改革が重要であり、まさにそれが知的財産マネジメントの肝である。
また、知的財産に限らず、価値評価を利用する方は、現時点で得られる情報、採用した評価方法が備えている意味合い、時間や費用の制約等、評価の前提条件や仮定を明確に理解した上で意思決定を行う必要があり、それを怠ると誤った意思決定を行うことにもなりかねないことにご留意いただきたい。 |
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| 以上 |
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