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知的財産マネジメント
トピックス 2006.10.25
米国会計基準における無形資産会計及び税務等の考慮
知的財産グループ 公認会計士 長谷部 智一郎
【はじめに】
米国会計基準では、M&A時に被買収企業の持つ無形資産を識別し、時価評価(フェアバリュー)し、それを開示しなければならない。また、最近のM&Aでは、単なる株式取得だけでなく、知的財産を含む無形資産を取得するケースが散見されるようになった。本稿では、米国の無形資産会計の概要を解説し、M&Aにより無形資産を取得した場合の税務上の取り扱いについて整理する。なお、本稿での意見に関する部分は私見である。

【米国会計基準における企業結合会計】
米国では、2002年にM&A等の企業結合時における会計基準が改正された(Statement of Financial Accounting Standards No.141 “Business Combination”及び同 No.142 “Goodwill and other intangible assets”)。
従来、企業が合併や買収等の企業結合取引を行った場合、被買収企業の資産及び負債を時価で引き継ぐパーチェス法と簿価で引き継ぐ持分プーリング法の2つの会計処理が認められていた。しかしながら、同一の経済事象に対して異なる会計処理が認められることは会計の比較可能性に問題が生じるため、パーチェス法に一本化された。これにより、買収企業は、被買収企業の資産及び負債を公正価値(fair value)により評価することとなった。この被買収企業の資産には、有形資産だけでなく、ブランド、特許・技術等の無形資産も含まれる。下記はのれんと区別して識別される無形資産の例示である。これをみるとほとんどの無形資産は公正価値により評価しなければならないことがわかる。さらに、被買収企業の公正価値総額と買収金額に差額が生じた場合には、差額を企業の超過収益力である「のれん(Goodwill)」として資産計上し、減価償却をせずに、毎期、こののれんの減損テストを行うこととなった。
この改正により、無形資産の価値評価が一般的になり、無形資産に関する取引が広く行われるようになった。

≪米国会計基準におけるのれんと区別して識別される無形資産の例示≫
<営業関係無形資産>
・商標・商号
・サービスマークなど
・新聞名称
・インターネットアドレス
・事業独占契約

<顧客関係無形資産>
・顧客リスト
・受注残
・顧客との契約および合意事項

<芸術関係無形資産>
・演劇、オペラ、バレエ
・著作、雑誌、新聞その他刊行物
・作詞、作曲、広告宣伝用の音楽作品
・絵画、写真
・映画、音楽ビデオ、テレビ番組など

<契約に基づく無形資産>
・ライセンス契約、ロイヤリティ契約、現状維持契約
・広告宣伝契約、建築請負契約、マネジメント契約、業務請負契約
・リース契約
・建築許可
・フランチャイズ契約
・放映権など
・各種利用権(土地堀削、鉱山採掘、木材伐採、路線)
・資金回収代行契約
・雇用契約

<技術関係無形資産>
・特許取得済み技術
・コンピュータソフトおよび半導体集積回路技術
・特許未取得の技術
・データベース
・製法、工程、処方などの企業機密

【M&Aスキームにおける無形資産の取り扱い】
最近、M&Aにおいて、特許権や商標権等の無形資産を主たる資産として取得するケースが増えている。これは、企業収益の源泉が、有形資産から無形資産へと移ってきているためである。M&Aのスキームには、対象会社の株式を取得する方法だけでなく、事業譲渡により資産・負債を取得する方法がある。無形資産の場合、買収企業が、特許権や商標権を取得し一元化することにより、効率的・効果的に管理するために事業譲渡を選択する場合がある。
株式を取得するスキームと、事業譲渡等により無形資産を取得するスキームを比較すると、無形資産は事業の一部であり、特許権や商標権を利用した事業について事業価値を算定しているため、本来の事業価値はスキームによって変わることはない。ただし、事業譲渡等で無形資産を取得した場合、日本国内における税務上、以下の副次的な効果が得られる可能性がある。

1.減価償却費
事業譲渡等により無形資産を取得した場合、株式で買収した場合と比べて、減価償却費分の節税効果が得られる場合がある。これは、株式で買収した場合、株式は減価償却ができず投資額がそのまま貸借対照表に計上され続ける。他方、事業譲渡等により無形資産を取得した場合には、減価償却ができるため、減価償却費が損金となり、課税所得が減少するためである。

2.繰越欠損金
M&Aにおいて、被買収企業に繰越欠損金がある場合、その取り扱いがスキームを設計する上で重要となる。税務上、被買収企業の繰越欠損金を利用するためには、組織再編税制による適格要件等を満たす必要がある。この被買収企業の繰越欠損金について、事業譲渡等により無形資産を買収企業に売却することにより有効利用することができる場合がある。通常、資産の売却益は課税されるが、被買収企業に繰越欠損金がある場合には、組織再編税制による利用制限とは関係なく、売却益と繰越欠損金を相殺することにより、繰越欠損金を有効に利用することができる。特に自社での研究開発の結果生み出された技術や特許権は、研究開発費として費用計上され、貸借対照表には計上されない(オフバランス)。したがって、技術や特許権を売却した場合、売却価額のほとんどが売却益となる可能性があるため、M&Aスキームを設計する上で重要な検討項目となる。

他方、以下の点に留意する必要がある。
(1) 無形資産の評価を適切に行わない場合、寄附金・受贈益課税(海外取引の場合には、移転価格税制による課税)の可能性がある(『知的財産の価値評価』(2006.10.25)参照)。
(2) 取得した無形資産(In-process Research and Development等)の耐用年数の設定は、十分検討する必要がある。
(3) 形式のみで実態を伴わない等の経済的合理性のない取引の場合には、税務上否認される可能性がある。

以上のように、事業譲渡等により無形資産を取得するスキームは、M&Aの選択肢の一つといえよう。ただし、すべてのケースにおいて、無形資産を取得することが有利とはいえないため、買収企業・被買収企業の税務ポジションの状況等その適用にあたっては、十分に検討する必要がある。

【おわりに】
今回整理した米国における無形資産会計及び日本国内における税務上の取り扱いは、米国会計基準により財務諸表を作成している企業だけにとどまらない。日本においても2006年4月1日以降開始する事業年度から、企業結合会計(企業結合に係る会計基準)が導入された。米国と異なり、無形資産の価値評価が原則ではないものの、今後、無形資産をのれんと分離して会計処理及び開示するケースもでてくるだろう。また、企業経営の観点から、M&Aにおいて競争力の源泉である無形資産を取得するための取引は今後も増加することが予想される。本稿がM&Aのスキームを設計する際に、一助となれば幸いである。
以上
 
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