| トピックス 2007.1.24 |
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| 知的財産デューデリジェンスの必要性 |
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| 知的財産グループ 公認会計士 坂田 秀 |
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【はじめに】
企業経営における知的財産マネジメントの必要性は、『知的財産マネジメントの必要性』(2006.7.19)にてすでに述べたとおりであるが、本稿では知的財産マネジメントを実践するための“車の両輪”となる「評価」と「デューデリジェンス」のうち、後者について説明を行う。
この知的財産のデューデリジェンスは、経営戦略と連動して、これから進出する事業分野の彼我の知的財産の状況を調査するパーツと、実際に知的財産ポートフォリオの空白を埋めるべく知的財産の買収を行うパーツおよびその逆のケースで保有している知的財産を流動化するパーツで構成される。
本稿では、知的財産のデューデリジェンスについて解説を行い、実務上の留意点等についても触れたい。なお、本稿での意見に関する部分は私見である。
【知的資産のデューデリジェンス総論】
M&Aを行う場合、デューデリジェンスは必要欠くべからざる手続きであり、ビジネス、法務、財務等の多方面から行われ、M&Aに関する情報収集をその目的とする。知的財産の場合も同様に多方面からのデューデリジェンスが行われるが、重要なものは法務、技術、財務の3つの側面である。
この3つのデューデリジェンスを効果的に組み合わせて行うことで、以下の3つの目的を達成し的確な知的財産評価や合理的な知的財産取引の意思決定が可能となる。
(1)知的財産の特定
(2)移転可能性の検討
(3)持続性の検討
(1)知的財産の特定は、法的、技術的、財務的(経済的)側面から検討して、知的財産が存在することを確認することである。具体的には、法的な権利等に基づいた技術的にも優れた知的財産があり、そのために超過収益力があることが公表資料等に基づいて確認できること、もしくは確認することである。
(2)移転可能性の検討は、知的財産が法的、技術的、財務的側面から検討して移転可能であること、もしくは移転することに意味があることを確認することである。特許等の法的権利については、使用者ではなく帰属者から移転についての同意が得られるか、また移転した結果、その知的財産を自社の事業展開の中で有効活用できるのか等の検討を行う必要がある。
(3)持続性の検討は、所有、使用している知的財産が法律的側面から何年残存期間があるか、もしくは技術的側面から技術的な優位性を何年維持できるか、もしくは代替技術や競合技術の出現の可能性はどの程度かを検討することにある。
例えば、ある製品αに関する特許権Aを取引相手のX社から取得する場合で、この3つの側面を考えると理解しやすい。
まず製品αが現実的に収益を上げており、その収益獲得に特許権Aが貢献していると認められなければ、特許権Aを取得する意味がない。
次に特許権Aは、X社に帰属していることが確認できなければX社と取引する意味がない。さらに特許権Aは取得後は、製品αもしくは他の方法によって、X社と同じような利益獲得に貢献できなければ、取得する意味がない。
最後に、特許権Aは法律的にも技術的にもある程度の期間は優位性が保持できなければ取得する意味がない。
このように考えると特許権AをX社から取得する取引を行うに当たって検討すべき事項が網羅されており、上記の観点からの調査結果を参考に意思決定を行う必要があると納得していただけるだろう。
さて、このデューデリジェンスにおける法務、技術、財務の3つの観点からの調査の関係であるが、それぞれが有機的に行われることで、意思決定に役立つ情報提供という目的が充足される。
例えば、上記の3つの調査目的のうち、何が一番重要かを考えた場合、知的財産の特定、特に超過収益力があることを確認することであると考える。当然ながら、超過収益力等収益貢献があることが知的財産獲得の原動力になるからである。
但し、この観点で法務、技術、財務のデューデリジェンスの果たす役割を考えた場合、収益という財務数値を扱う観点で中心的な役割を果たしそうな財務デューデリジェンスだが、下記のような場合は、法務と技術のデューデリジェンスを補完する役割しか果たすことができない。3者が一体に機能して初期の目的達成となる。
超過収益力が存在しているかどうかは、財務数値の実績値を同業他社と比較して確認できれば良いが、以下のような理由から実際には困難な場合が多い。
●画期的な知的財産が源泉となっている場合には、類似する事業や製品等の比較対象がないため超過収益の存在が確認できない。
●類似する事業や製品がある場合であっても、比較すべき他社の財務数値は複数の事業や製品の有機的な結合の結果の産物であり、内部的には特定の事業や製品に関連する損益が把握できても同業他社の同種の損益の把握は困難であり、明確に超過収益の存在は確認できない。
●知的財産を使用した事業の実績がある場合は良いが、事業もしくは製品、あるいは知的財産自体が開発段階にあり、超過収益を確認する段階以前である。
以上から、同業他社が一つの製品しか扱っていないピュアカンパニーのようなケースを除き、財務デューデリジェンスによる超過収益の確認は非常に難しい問題であり、実務的には法務や技術のデューデリジェンスによる法的権利の存在や優位的な技術の存在の確認等と総合的に判断して、超過収益が存在すると考えているケースが多いと推測する。
知的財産に関する財務デューデリジェンスは、通常のM&Aの場合のデューデリジェンスと比較して特に大きく異なる点はなく、通常のM&Aの場合が企業全体や部門別等の大きな単位での財務数値を扱うのに対して、知的財産デューデリジェンスの場合は事業や製品等の切り口での財務的数値を扱い、それが企業全体や部門別等の大きな単位での数値と整合しているか否かである(要は、配賦や賦課が適切に行われているか)。また将来数値に関しては、関連する過去実績等の推移から大きく乖離していないかどうか、乖離している場合には合理的な説明がなされたかどうかを確認することにある。
但し実際のM&Aにおいては、知的財産そのものを買うよりはそれを使用している会社そのものを買うケースのほうが一般的と考えられるため、この側面からも財務面のデューデリジェンスは通常のM&Aと比較して大きく異なることはない。
【新規進出のための知的財産調査】
この観点の調査は端的に言えば、自社が今後目指す事業分野において今後どうするかを決定するために
(イ)何が必要で
(ロ)何が足らなくて
(ハ)誰が持っていて
という調査を行うことになる。
このうち(イ)及び(ハ)については、実は同時に調査でき、マーケットにおいて先行している会社の特許等の調査、所謂先行調査は特許電子図書館等の公開情報において把握可能であるし、詳細に検討したい場合は民間調査機関に依頼することも考えられる。この調査は、事業経験がある場合は会社が、事業経験がない場合は弁理士や民間調査機関が主導で行う。この調査においては、他社保有の知的財産を利用できるか否かも含めて検討しておく必要がある。
(ロ)の「何が足らなくて」は、裏を返せば「何を持っていて」になるので、自社で保有する知的財産の棚卸しを行うことが必要になる。知的財産の棚卸しは、知的財産のポートフォリオ戦略立案の観点からも、現在どのような種類の知的財産をどのような状況でどれだけ保有しているかの観点で行い、主に会社が中心となって行う。
以上の調査の結果をもとに、M&Aやライセンス、もしくは自社開発等の選択肢が決定される。
【知的財産の買収】
この観点の調査は、総論の部分で記載した内容が重複することになるので見方を変えて説明する。通常のM&Aのデューデリジェンスは以下の3つの目的を充足するために行う。
(a)取引価額に影響する事項
(b)取引スキームに影響する事項
(c)統合後の運営に影響する事項
知的財産のデューデリジェンスは、財務、技術、法務の三位一体で、(1)知的財産の特定、(2)移転可能性の検討及び(3)持続性の検討を行うために実施すると述べてきたが、これとM&Aのデューデリジェンスは、以下のように密接に繋がっている。
(a)取引価額に影響する事項:知的財産の特定のうち、超過収益力の特定、持続性の検討
(b)取引スキームに影響する事項:知的財産の特定のうち、権利者の特定、移転可能性の検討
(c)統合後の追加コスト等運営に影響する事項:上記3つの目的が複合的に関連
知的財産のM&Aに当たっては、経済的価値評価が必要になるが、その基礎になるのが知的財産に関連する財務数値である。購入予定の知的財産に関連する事業の低収益力傾向や提供財務数値の精度欠如等は評価に大きなマイナスを与える。また、収益力が高い場合であっても、それが長期間継続しない場合は高い評価にはならない。
知的財産の権利を誰が持っているかで取引相手が異なり、移転可能性においても、ライセンス導入なのか購入なのか、購入する場合でも技術のみの資産譲渡か、組織も含めた営業譲渡か、等の検討すべき要素は多い。
ライセンス供与にせよ、知的財産の購入にせよ、導入された範囲やそれが何年持続するかによって、導入後の研究開発投資や設備投資への影響が考えられる。また開発組織を受け入れる場合は、既存の開発組織との並存や統合等も視野に入れての検討が必要になる。これらの導入後の課題の検討は、上記3つの目的の調査結果を総合的に判断することによって行う。
【知的財産の流動化】
この観点の調査は、上記の知的財産の買収の裏返しではある。調査するポイントはほぼ同じであるが、売却後の観点は重要ではなく、取引価格に影響する事項及び移転可能性の検討が重要な目的になる。
取引価格に影響する事項は、取引を行う上での売り手としての価格算定時に、その基礎資料が信頼のおけるものであり、安く算定されていないかを検討するために行う。同時に、財務数値の整合性を事前に検討しておき、その後の交渉で財務数値の整合性欠如による値下げ交渉の余地を封じるためにも行う。
また、知的財産の売却に当たっては、売却した後に自社の他事業に思わぬ影響が出ないように十分検討しておく必要がある。安易に安値で売却し、その後の他事業運営のために高いロイヤリティを払うということは最もあってはならないミスであり、事前に自社保有の知的財産の売却やライセンスアウトによる影響を十分検討しておく必要がある。
【おわりに】
本稿では知的財産マネジメントを実践する上での重要なファクターである、調査およびデューデリジェンスについての解説を行った。デューデリジェンスは、ケースバイケースで単独もしくは組み合わせで行われるが、少なくとも知的財産に関しては、調査目的を充足するためにも、財務、技術、法務の三位一体の調査が必要である。本稿が後の知的財産ポートフォリオ構築の一助になれば幸いである。 |
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| 以上 |
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