| トピックス 2007.1.24 |
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| 米国における特許の売却および寄付の現状について |
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| 知的財産グループ 河上 勝博 |
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【はじめに】
監査法人トーマツでは、グローバルな知的財産に関するサービスを望まれるお客様の様々なご要望に応えられる体制作りに取り組んでおり、特に、アメリカ、イギリス、中国等のデロイト トウシュ トーマツのメンバーファームおよび協力関係にある海外ファームとの関係を強化している。このたび、その関係強化の一環として、アメリカで知的財産コンサルティング(主に、技術の商業化やそれに伴う技術調査)に長年携わってきたトーマス・ブレーロック(Thomas Blailock)氏を日本に招き、技術調査に関するワークショップを行った。ブレーロック氏はこれまでアメリカや日本等の大企業から技術ベンチャーまで様々な企業を顧客として持ち、知的財産コンサルティングサービスを提供している。今回は、日本でも話題となっている知的財産の流通市場に関して参考となる情報として、『米国における特許の売却および寄付の現状について』、ブレーロック氏へのインタビューを行った。
インタビュー月日:2006年9月27日
聞き手、執筆:監査法人トーマツ 知的財産グループ 河上 勝博
語り手:FTI Consulting トーマス・ブレーロック氏
【特許の売却・寄付の判断】
日本では、多くの企業が未利用特許を保有しているにも係らず、それらを将来一切使用しないと断定できないことなどを理由に、手放(売却・寄付)していないのが現状である。米国では、どのような基準で未利用特許を手放すか手放さないかを判断しているのか?
詳しく申し上げることはできないが、我々のチームでは、特許の棚卸しを行い、(1)技術的な側面、(2)法的な側面、(3)ビジネス的な側面の3つの観点から評価を行い、無駄な費用が掛かっている未利用特許を手放すようアドバイスしている。評価に際し、どれか一つが欠けても不十分である。
【米国における特許の売却の現状】
日本では、未利用特許を売却したくてもマーケットが整っていないのが現状と言われている。米国では、どのようなマーケットがあり、どのような状況にあるか?
知的財産ファイナンスの分野で有名なジェイムズ・E・マラカウスキー(James E. Malackowski)氏が社長兼CEOを務めるOcean Tomo社が、特許の流通市場の創設を目指し、特許等の知的財産のライブ・オークションを年2回のペースで開催しているのが現在最も注目を集めている。今年4月にサンフランシスコで行われた第1回目の結果は、いろいろな意見があると思うが、個人的には「Great Success」ではなくて、「Moderate Success」といったところだろう。
どうして上記オークションの結果が、「Great Success」ではなく、「Moderate Success」と考えるのか?
個人的にはやはり特許等の知的財産の価値評価の難しさが原因ではないかと思う。特許等の知的財産の価値評価には、多くの仮定を盛り込む必要がある。もし、過去の特許に基づく売上げがなければ、どのように将来の売上げを予測し、それを特許の価値評価に盛り込むのか?株や建物を売り買いしているのとは訳が違う。また、売り手は一般的に楽観的であり、買い手は悲観的な考え方をする。価値評価に多くの仮定が盛り込まれている限り、両者の評価額に大きな隔たりが生じることがよくある。そのような理由で、特許等の知的財産の売買が上手く機能しないのではないのか。
今後、上記オークションが「Great Success」な状況となるにはどうしたらよいのか?
現在、「Moderate Success」な状態でビジネスが進んでいるだけで、将来「Great Success」な状況となる可能性は十分あると思う。個人的な意見であるが、ジェイムス・マラカウスキー氏は非常に聡明な方であり、将来は上記のような問題を解決しつつ、より良い方向へと持っていってくれると信じている。なお、第2回目のオークションは、今年10月25、26日にニューヨークで開催予定であり期待したい。
(※ブレーロック氏が来日された時点では、第2回目のオークションが行われていなかった)
(筆者注)
実際のOcean Tomo社の春(2006年4月)のオークションの状況が、Ocean Tomo社のWebサイトで以下のとおり紹介されている。
出品のあった76ロットのうち、オークション会場およびその後の交渉により、31ロット※(約40%)の取引が成立し、総取引額は844万6,100ドル(約10億円)であった。さらに、半数以上の出品者に当たる51.8%の出品者が取引を成立させた。問題点としては、初回ということもあり出品者が自身の特許の最低入札価格を過大に評価する傾向にあった。この問題点も、今後回を重ねるうちに出品者自身も学習し、適切な最低入札価格を提示できるように改善されていくであろう。
(※Ocean Tomo社によると、売買単位としての1特許あるいは特許ポートフォリオを“ロット”と呼んでいる)
2006年11月2日、Ocean Tomo社はWebサイトで、同年10月25、26日に実施されたニューヨークでのオークションに関する以下のプレスリリースを出している。
フォーチュン500に名を連ねるトップ企業の知的財産の専門家や投資家など400名を超える参加があった。新たに加わった音楽著作権やドメインネームの知的財産の取引を含む25ロットの取引があり、総取引額で2,390万3,000ドル(約30億円)を記録した。
Ocean Tomo社のWebサイトの記載事項から判断すると、今回の総出品ロット数65に対して、取引が成立したロット数は25ロット(約40%)で、前回とほぼ同程度の成立率であった。しかし、総取引額については、前回の約10億円に対して、今回は約30億円と約3倍になっている。次回は、2007年4月18、19日にシカゴで予定されている。Ocean Tomo社は2006〜2008年までの3年間はオークションを実施することを確約している。さらに、日本や欧州でも実施要請が多数あるため、2007年に両地域での実施を現在検討中とのことである(※1)。
【米国における特許の寄付の現状】
これまでの日本における特許の寄付の状況は次のとおりであった。
(1)寄付の受け皿である大学側で受け入れ態勢が整っていなかった。
(2)寄付する側の企業も寄付の経験がなく躊躇していたことを主要因に、特許の寄付がほとんど行われていない。
米国における特許の寄付の状況はどうか?
3年くらい前までは、特許の寄付は税法上の特典(以後、「Tax Benefit」)を享受する目的で、特許マネジメントの一手法として盛んに行われていた。しかし、法規制が変わったことにより特許の寄付によるメリットが無くなってしまったため、現在ではほとんど行われていないのが実情である。
どのような企業がどのような組織に、そしてどのような特許を寄付していたのか?
当然のことであるが、大きな特許ポートフォリオを保有していた大企業の特許の寄付が多かった。私の知る限り、主に化学関連企業が、大学、病院や非営利企業・政府機関などに対して特許の寄付を行っていた。企業の事業戦略から外されたコア技術ではない、(防衛的な目的で取得された ※2)、多くのプロセス/装置特許が寄付(一般的にその特徴から「Orphan Patent」と称され、米国企業が保有する特許の70〜80%はこのような特許とされている ※3)の対象となっていた。
Tax Benefitを享受できる法規制が変更された理由は何か?
寄付された特許を詳しく調べてみると、市場価値が全くないものが寄付されており、企業はそのような特許の寄付により、Tax Benefitを享受していた。そのことが日本の国税局に当たる米国内国歳入庁に明らかとなった結果、Tax Benefitの算出方法の法規制が変わった。
なぜ市場価値が全くないような特許が寄付されたのか?
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、最も大きな原因として、寄付された特許(技術)に代わる技術が既に市場に存在していたことにより、寄付された特許を商業化できなかったためとされている。価値評価の側面から見ると、特許の代替技術が既に市場に存在するかしないか等、技術の定性的な価値評価(技術の「Evaluation」)をしないまま、技術の定量的な価値評価(技術の「Valuation」)が実施されていたためである。
米国で再び特許の寄付が盛んに行われるようになる可能性はあるのか?
非常に残念なことであるが、法規制が変わったこともあり、今後特許の寄付が再び盛んに行われることはないと思う。たとえ多くの価値評価者が、特許の価値評価を技術の「Valuation」と「Evaluation」を合わせた形で行うようになっても、特許の寄付の復活は難しいのではないか。
【おわりに】
上記インタビューの中で、ブレーロック氏が特に強調していたことは、特許の価値評価の際には技術の定量的な評価「Valuation」と技術の定性的な評価「Evaluation」の両方を実施する必要があるということであった。今後、日本においても特許の流通市場の構築を成功させるための布石を打っていくために、米国の失敗から学んで、技術の「Valuation」の評価技術の向上のみならず、技術の「Evaluation」の評価技術の向上も視野に入れ、特許の価値評価を実施していかなければならないと感じた。 |
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| 以上 |
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<出典>
※1 :IPB特許経済統計データバンク “OCEAN TOMO社 社長兼 CEO ジェイムズ・E・マラカウスキー氏のコメント” IP NEXT 12 Jun. 2006/16 Dec. 2006
※2 :Craig, Lesley and Moore, Lindsay. “Making Patent Donations Work” IP Value 2006 Building and Enforcing Intellectual Property Value n.d. 29 Sep. 2006
※3 :Layton, Ron and Bloch, Peter. “IP Donations:A Policy Review” International Intellectual Property Institute Jan. 2004/29 Sep. 2006 |
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