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知的財産マネジメント
トピックス 2007.4.25
知的財産の流動化
知的財産グループ 觜本 紘規
【はじめに】
企業経営における知的財産の有効活用の重要性は、『知的財産マネジメントの必要性』(2006.7.19)にすでに述べられたとおりである。そして、企業にとって、知的財産が収益の主要な源泉となる例は今後も増加していくと考えられる。一方、知的財産の創造(研究開発)および維持管理のために必要となる多大な費用を、既存の知的財産の事業活用による収益化だけではなく、将来の価値を先取りして資金を捻出しようとする動きがでてきている。その一つの方法として、知的財産を対象とする流動化による資金調達が模索されている。しかし、現時点では、知的財産の流動化による資金調達は定着しているとはいえない状況である。
本稿では、その原因と今後の展望を考察するために、まず流動化に関する概要を説明し、その上で、知的財産のうち特許の流動化と一般的な資産の流動化との差異および流動化を困難にする原因と流動化に適する特許の内容について整理し、最後に今後の展望について考察する。また、本稿の読者として特許の原保有者(オリジネーター)を想定し、オリジネーターの観点から特許の流動化について論じるものとする。なお、本稿での意見に関する部分は私見である。

【流動化の概要】
流動化とは、保有する資産をSPC等に譲渡し、その譲渡代金をもって資金調達を行うというものである。ロイヤリティ支払収入の生じる特許の流動化の仕組みは図表1のとおりである。

図表1 ロイヤリティ支払収入の生じる特許の流動化の仕組み
ロイヤリティ支払収入の生じる特許の流動化の仕組み

流動化におけるキーファクターは、キャッシュ・フローである。どのような資産であっても、キャッシュ・フローを生む資産であれば、基本的に流動化は可能となる。なぜなら、ある程度キャッシュ・フローが生み出されていれば、将来の収益分配への対応が可能となるからである。

【特許の流動化と一般的な資産の流動化のメリットの違い】
一般的な資産の流動化のメリットとして図表2の4点が挙げられる。

図表2 資産の流動化のメリット
メリット 内容
低コストでの資金調達 オリジネーターの信用力が低くても、流動化する資産の価値を使うことによって、より低いコストでの資金調達を行うことができる場合がある。
資金調達の多様化 株式発行や銀行借入、社債発行などの従来の資金調達以外の方法で資金調達を行うことができるようになるため、多様な資金調達手段を確保できる。
リスクの回避 資産保有リスク(例えば、不動産の場合、価格の下落)を他者に移転させることができる。
オフバランス効果 オリジネーターは、流動化する資産を譲渡し貸借対照表に計上しないことにより、総資産利益率等の財務指標を改善することができる場合がある。

特許の流動化と一般的な資産の流動化の大きな違いとして挙げられるのが、現行の会計基準の下ではオフバランス効果がほとんどないことである。特許については、外部からの購入やM&A(例:米国のFASBによる、会計基準書第141号「企業結合」に基づく無形資産の計上)等によって取得価額が明確になる場合を除き、特許獲得のための研究開発費は費用として計上されるため、貸借対照表に資産として計上されていないことがほとんどである。したがって、上記の表に記載した「オフバランス効果」は、特許の流動化ではメリットとはなりえない。ただし、特許の外部購入やM&A等による特許の取得により、特許を資産として計上するケースが今後増えることが予想され、オフバランス効果を期待した特許の流動化に対するニーズが高まる可能性を秘めているといえなくもない。

【特許の流動化を困難にする原因】
特許の流動化を困難にする原因とは何なのであろうか。特許には、活用される状況によって生み出される収益の幅が大きくブレてしまうという特徴がある。誰が、何のために、いつ、どこで、どのように特許を活用するのかという具体的な条件次第で、流動化のキーファクターであるキャッシュ・フローも大きく変化すると考えられる。
条件次第で多様に価値が変化するという特徴を持つ特許の流動化実施のためには、関係当事者が納得できる公正な価値評価が必要である。しかし、流通市場が整備されていない状況では市場における価値を参考とするマーケットアプローチを使用することができず、将来の収益を基に算定されるインカムアプローチのみの評価では、客観性を確保することは難しいであろう。このことは、すでに『知的財産の価値評価』(2006.10.25)で詳しく述べられたとおりであり、特許の価値評価には複雑さが伴うのである。この特許の価値評価の複雑さが流動化を困難にする原因の一つであると考える。
また、流動化においては、価値評価及びスキーム構築の前提として対象資産内容のデューデリジェンスを行うことが一般的であり、デューデリジェンスを通じて第三者に開示されることになる。しかし、特許は、ノウハウやスキルといった営業秘密と密接に関係する部分を含んでおり、オリジネーターが特許の流動化に対して消極的になる可能性も十分に考えられ、このことも流動化を困難にしている原因の一つであると考えられる。
恣意性を排除した公正な価値評価および充分な秘密保持下でのデューデリジェンスを実施するためには、少なくとも独立した第三者機関による価値評価やデューデリジェンスを行うことが必要であると考えられる。

【流動化に適した特許とそのオリジネーター】
(特許の内容)
キャッシュ・フローを生み出す特許にはどのようなものが考えられるであろうか。最も分かりやすい例としては、他社にライセンス供与している特許が考えられる。なぜならば、特許のみにひもづくロイヤリティ収入が発生しているためである。また、ライセンシーがロイヤリティを支払うということは当該特許の有効性を認めることであり、すなわち特許の最大のリスクとも言える無効化リスクが低いと考えられることや、特許の保有者がオリジネーターからSPCに変わったとしても価値の実現性に影響が少ないこと、さらに、実際のロイヤリティ収入を基に将来の収益分配可能額を客観的に推定しやすいことからも他社にライセンス供与している特許は流動化に適していると考えられる。

(オリジネーター:大企業の状況)
大企業であれベンチャー企業であれ、ロイヤリティ支払収入の生じる特許を保有していることは考えられる。しかし、大企業は信用力が高いため、わざわざ特許の流動化による資金調達を行う必要性は少ないと思われる。また、事業に多くの特許を利用しているメーカー(特に電機分野)の場合、クロスライセンスによって自分たちの意思のみで特許を流動化することはできない状況にあることも多いと考えられる。

(オリジネーター:ベンチャー企業の状況)
ベンチャー企業には、開発途中の特許であっても売却してしまう企業もあれば、価値の高い特許から創出されるキャッシュ・フローをすべて取り込みたいと考え、資金調達さえできれば生産設備を自前で整備したいと考える企業もある。後者のような企業ニーズに適しているスキームが流動化の中で「セール・アンド・リースバック」と言われる図表3のような手法である。

図表3 セール・アンド・リースバック
セール・アンド・リースバック

当該スキームでは、投資家から資金を得るためには、公正なロイヤリティ料率の設定が重要である。また、このスキームでは、オリジネーターがライセンシーとなって事業を継続していくため、信用力の低いオリジネーターの倒産によってロイヤリティ支払が滞るリスクを内包した状態となってしまうことは投資家にとって懸念事項である。よって、オリジネーターと投資家の双方が納得したスキーム構築のために、客観的かつ市場感のある価値評価は必要なのである。
なお、ベンチャー企業の場合、そもそも必要調達金額が少額である可能性が高く、流動化案件を組成するためにかかる費用(例えば、デューデリジェンスや価値評価のために専門家に支払う報酬)が多額となった場合、「低コストでの資金調達」という流動化のメリットが小さくなってしまうどころか、逆に高コストでの資金調達になってしまう可能性が考えられる。

以上のことから、現時点では、特許の流動化に取り組みやすいオリジネーターに該当する企業はごく少数に限られるのではないかと考えられる。

【今後の展望】
上記のとおり、特許の流動化の潜在的なニーズは、ベンチャー企業を中心に存在していると思われる。しかしながら、現時点では、特許の流動化を困難にする理由の一つとして、特許の価値評価の複雑さが挙げられる。そして、特許の価値評価を複雑にしている要因の一つに、流通市場がないことによりマーケットアプローチを使用することができず、市場感のある価値評価が難しいということが挙げられる。
米国においては、『米国における特許の売却および寄付の現状について』(2007.1.24)にすでに述べられたとおり、徐々に特許の流通マーケットが整備されつつある。その状況を勘案すると、今後、米国での取引事例の増加をトリガーに日本における流通マーケットが整備される可能性も考えられる。
なお、流通マーケットが整備される過程では、事例の増加と共に、企業の特許の流動化に対するニーズと市場や投資家のニーズを結びつけるアレンジャーが多く登場してくると思われる。なぜなら、企業が自らの特許を外部にアピールする動きがまだまだ活発ではなく、外部からの働きかけをきっかけとして動き出す場合が多いと考えられるからである。

【おわりに】
特許の価値の具現化手段としては、売却も考えられるが、その場合、特許が自社の手元から完全に離れてしまい、場合によっては競合他社を利するような結果となってしまう。したがって、自社の事業と関係の深い特許の場合はセール・アンド・リースバックを用いた流動化の方が実現可能性は高いと考えられる。現状では、前述のとおり、特許は流動化の対象資産になり得にくいが、米国における特許の流通マーケットの整備など特許に関する環境は、非常に速いスピードで変化している。これらの環境の変化を受けて、特許の流動化がどのような方向に向かっていくかはひとえにこの分野の仕事に関与する全ての人の創意工夫と情熱と努力にかかっているといっても過言ではないだろうか。本稿が微力ながらその一助となれば幸いである。
以上
 
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