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知的財産マネジメント
トピックス 2007.4.25
知的財産ポートフォリオの戦略的マネジメント 後編
知的財産グループ 永田 伸之
内部統制から係争への対応について具体的にご説明した「知的財産ポートフォリオのリスク管理セミナー」(監査法人トーマツ主催・2007年2月7日開催)の要約(後編)をご紹介する。

ご参照:『知的財産ポートフォリオの戦略的マネジメント 前編』(2007.4.25)

I 知的財産リスクの捉え方
■企業価値への毀損リスク

知的財産ポートフォリオの戦略的マネジメント 前編』(2007.4.25)にてリスクの例をご紹介したが、後編ではそれらのリスクをどのように捉えるかについての視点で考察したい。
リスクを経営上どのように位置付け、優先順位をつけて対応していけばよいだろうか。知的財産リスクマネジメントを含むおよそすべての企業活動は、企業価値を向上させ、その価値を棄損させないためにあると言えるかもしれない。
企業価値とは、将来キャッシュフローをベースに考えられることが一般的である。図1では、企業価値を構成する主要な要素を大きく「売上増加」「営業利益率向上」「資産効率向上」に分けて表している。「売上増加」に関しては、新商品を投入して売り上げを伸ばしていく、あるいは既存商品を差別化して、その売り上げを伸ばしていく。「営業利益率向上」の観点では、ここでは原価、そして販管費ということでコストを抑えて利益を上げていくとしている。そして「資産効率向上」では、特に無形資産、有形資産という形で整理をしている。

図1
企業価値からみた知的財産リスクの位置付け

それぞれの企業価値を構成しているものについて、関連するリスクとその価値への定量的なインパクトの考え方について述べる。例えば、特許侵害懸念より上市を断念した、とすればそれは売り上げの損失でもあり、マーケットシェアの低下につながる。知的財産、ポートフォリオの防御が弱く、競合類似製品の参入を許すといったことであれば、差別化が難しく、参入障壁が低く、類似製品の参入を許し、価格競争に巻き込まれてしまえば、それだけシェアの低下とともに利益の低下にも見舞われる。
また、原価においては、例えば、どうしても抵触を回避できない、やむなくライセンス契約を結ぶということは原価率の上昇にはね返り、競争力の低下に見舞われてしまう。販管費においても研究開発効率が低下したり、あるいは係争対応費用が増加するリスクがある。無形資産の価値向上においてはライセンスマネジメントが悪く、ロイヤリティの未徴収であったり、あるいは必要以上の特許を抱え込んでしまったり、資産効率が悪く、費用が増大することにつながってしまう。
リスクをいくつか例示しているが、それがどのようなメカニズムで企業価値に影響を与え、具体的にどの程度の金額のリスク、インパクトなのかということを把握することが、対応の優先順位を決める上でも非常に重要な鍵となる。経営者の方は、絶えず経営に与えるインパクトがどの程度なのかということを把握することを求められているのである。

■事業実施における全社的な視点
知的財産リスクといった場合に、図2のように訴訟、係争になったときを中心に考えられるのではないだろうか。争いに負けてしまうようなリスクに直面したときに、対応策としてより強力な弁護士の方々のチーム組成を検討されることがあるのではないだろうか。しかし、実際訴訟になってしまった段階では、打つ手にも限界がある。ドリームチームでも、勝てないものは勝てないのが現実だ。つまり、負け戦とならないように、自らをそういう場に置かないことが必要ではないだろうか。そこで侵害警告への対応を誤らない必要があり、その対応を誤らないことが大切なのである。その対策としてマニュアルを整備したり、侵害調査を強化したりする対応策が考えられる。
しかし、ここでも限られたリソースであるので、仮に毎月数十件の警告書が届くような状況においては、優先順位が付けられず、対応が追いつかないといったことが考えられる。そこでリスクを見逃したということがないように、事前に事業と知的財産の関係を整理・棚卸しし、事前の準備を強化するといった必要が生じる。
そこで、事業化段階において、知的財産リスク面も評価項目に入れて対応していくことが必要となるのだ。しかし、すでに多額のR&D投資をしており、引くに引けないといった問題にぶつかることもあるのではないだろうか。それらがまたさらに遡って、テーマ選定の段階からどうするかということが求められる。
ポイントは、次のとおりとなる。

(1)知的財産リスクを狭い範囲でとらえてもだめ。
(2)訴訟対応といったような現象面だけの対症療法に終始してもだめ。
(3)より本質的な問題を解決するためには、知的財産部、研究開発部、事業部と全社的な視点でとらえる必要がある。

図2
特許侵害リスクの場合

■リスクの捉え方
知的財産関連活動を企業価値へ影響を与える活動として位置付け、企業価値への影響のメカニズムを意識することが重要である。知的財産リスクには顕在化された訴訟、支払額だけでなく、そもそも開発した製品を上市できない、価格競争に巻き込まれてしまう、ロイヤリティの徴収漏れなど、顕在化していない機会損失も大きなリスクとなる。場合によってはこれらのリスクのほうが、企業価値へ与えるインパクトが大きいということも考えられる。また、個別のリスクの定量化や金額的な大きさを把握することにより優先順位を付けることもでき、対応のために投下すべき経営資源の質と量を判断することが可能となる。
また、事業・R&D・知的財産と三位一体となった検討をする必要性がある。顕在化したリスクには必ず原因があり、その原因の連鎖は知的財産活動だけにとどまらない。事業、R&Dと一体となったリスクマネジメントが必要である。連携の巧拙が対症療法から、より本質的な解決策へつながっていくものと考える。

図3
知的財産を取り巻くリスクの捉え方

II リスクへの対応
■リスクをマネージする考え方

リスクをマネージする考え方について、リスクが顕在化する前のリスクを可視化するという点、そしてリスクに備えるという点を中心に考察する。まず潜在リスクを可視化あるいはリスクを識別し、認識するアプローチがなければ、真の意味でのリスクへの準備ということができない。そのために重要な視点は、以下のとおりである。

(1)知的財産活動をブラックボックスにしない。知的財産活動を棚卸し、成果を評価、モニタリングする。
(2)知的財産ポートフォリオをブラックボックス化しない。知的財産ポートフォリオの経済性を明らかにし、モニタリングする。
(3)一度締結した多数のライセンス契約を放ったらかしにせず、きちんとマネージする。

次にリスクが顕在化する前に発生確率を低減させ、発生した場合の損害額を低減するためにリスクに備える必要がある。知的財産は知的財産部だけに閉じこもらず、積極的に役員会、事業部門、R&Dの現場へ出ていく必要がある。知的財産に関する見識、評価、調査結果は知的財産部以外に報告され、経営、事業の意思決定に織り込まれていく。それによって重要な投資などの意思決定が適正化され、非常に大きな貢献が期待できる。またあらかじめ知的財産ポートフォリオの価値や事業との関係性を明確に把握することにより、リスクの大きさを定量化し優先順位をつけることが肝要である。
起こってしまったリスクについては、重要な視点としては戦略と戦術を区分し、戦略(逃げる、戦う、和睦する)といった問題は経営者が判断し、いかに実行するかの戦術は専門家をうまく活用することが必要である。製品を上市しない、撤退する、あるいはロイヤリティの請求、税務当局からの更正処分に対して従うか、徹底して戦うかなどの方針決定は、まさに経営判断そのものと言える。一方、いかに戦うかなどの対処方法については、専門的な知見をうまく活用すると良いのではないだろうか。

図4 潜在リスクを可視化しリスクに備える
潜在リスクを可視化しリスクに備える

■知的財産マネジメント活動の棚卸し
知的財産マネジメントの活動の棚卸しについては、図5に知的財産戦略の立案、横断的プロセスと個別の知的財産の創出、保護・管理、活用といった枠組みを示した。

図5 知的財産活動の枠組み
知的財産活動の枠組み

●横断的プロセスでは事業戦略、R&D戦略と一体となった事業に貢献する知的財産戦略の立案や、知的財産に関する社員の意識の向上
●知的財産の創出では発明を支援するための情報、発明を顕在化させるための社内調査、顕在化した知的財産の出願等
●保護・管理においては、年金を含むポートフォリオ管理、自社知的財産の価値、重要性把握のためのアセスメント、侵害調査、漏洩防止等
●知的財産の活用においてはライセンス交渉などの渉外、ライセンシー、知的財産の導入、事業戦略、アライアンス戦略に貢献する情報提供等

上記のそれぞれの問題は日々行われている業務と想定されるが、ここであえて取り上げたのは、企業によって各機能の有無、強弱はさまざまであるということを筆者は常日頃感じているからだ。各企業における現状の機能を出発点とした棚卸しではなく、各企業が考えるあるべき姿を出発点として知的財産業務を見直すことが重要ではないだろうか。

■知的財産活動指標
知的財産活動の具体的な可視化、活動指標のイメージについて述べる。具体的にはまず現状の知的財産活動を棚卸しする必要がある。そもそも何の目的のために、誰のために、その業務の受益者は誰なのか、どのような成果を生んでいるか、何を成果として評価するのかを整理することは必ずしも容易ではないかもしれない。また、その業務の受益者にその価値を認知されていないことがあるのではないだろうか。例えば、知的財産の競合との位置関係を把握し、アライアンス戦略を考える新規事業開発の方に対してその価値ある情報が届いていないかもしれない。その活動の棚卸しをした上で、それが経営、企業価値へどのように貢献しているか、そのメカニズムを整理する必要がある。そうでなければ知的財産活動が知的財産部の中だけで完結し、ブラックボックス化し、経営の視点では理解し難いものとなってしまう。その活動の中で経営の優先順位の高いものについて活動そのものではなく、その活動の成果をできるだけ客観的に評価し、初めて可視化されると言えるのではないだろうか。ここで重要なポイントは現時点の活動だけを評価するのではなく、あくまでもあるべき知的財産活動、経営への貢献を明確にし、現状の強み、弱みを明らかにする成果指標をつくり上げることが、まさに知的財産活動の経営への貢献を高めていく鍵であると言える。

図6 知的財産関連リスクを可視化
知的財産関連リスクを可視化

■知的財産の経済価値計算
知的財産確保のためのM&Aや、あるいは米国会計基準で義務付けられている無形資産のバランスシートへの計上など、さまざまな目的のために知的財産の価値評価を行う。その結果は投資目的に限らず、知的財産ポートフォリオの価値の把握という内部マネジメントのためにも活用することが可能だ。
事業と知的財産への対応関係を整理するが、これは業種によって非常に多くの特許が関連し、力仕事が要請される部分である。さらに社内カンパニー、事業部門あるいは製品カテゴリーごとのユニットなど、どの単位まで分解していくかという点が重要なポイントとなる。可視化の目的がR&Dの資源配分の適正化、部門の評価の参考とするにしても、可視化の目的に応じて必要なくくりとすることが重要である。
また、複数事業に共通する基盤技術と個々の事業への応用技術などが、一つの事業には含まれているのではないか。それらの貢献、寄与度を分離していく必要が生じる。またそれぞれの事業のリスクも、大企業では大きく異なり、無形資産固有のリスクもさらに異なる。それらをどのようにリスクとして織り込んで、現在価値を考えていくかということも必要になってくる。これらの材料を基に、事業部あるいは製品カテゴリーごとの知的財産ポートフォリオの経済価値をロイヤリティ免除法などで評価していく。その計算結果を基にどの事業部門で価値を創出しているか、経年で補足した場合に知的財産価値は毀損されているかどうか、資源配分、評価だけでなく、どのタイミングでどういうアラームを鳴らすかということが、こうした可視化の意味合いである。

図7 経済的価値の知的財産を定量的に把握する
経済的価値の知的財産を定量的に把握する

■ライセンスマネジメント
各企業では知財活動の一環で、多くのライセンス契約を結ばれているだろう。例えば、ライセンサーごとにライセンス、ロイヤリティの動向を分析されているのだろうか。ライセンサーによっては当該技術を活用したビジネス自体は拡大しているのに、ライセンス支払いが減少しているケースはないだろうか。また、世界標準技術の普及に比較して期待されるライセンス収入が適正に支払われているかどうか、世界でのマーケットの浸透が倍になっているのにライセンス収入が1割増しにしかなっていないということはないだろうか。
筆者の経験では、ライセンサーの考えるライセンス料より、ライセンシーは必ず少なく考える傾向にある。それを意図しているか否かは別として、ライセンス契約そのものの解釈が、立場が変われば変わる余地を残しているからだ。その潜在的なリスクの大きさに応じて、検証していくことが重要となる。また、技術標準化と密接に関連する特許プールの運用は、標準化戦略を狙われる企業にとっても特に重要なポイントとなる。
ライセンスマネジメントにおいて注意すべき点には、次にあげるとおりである。

●技術の専門家、知的財産の専門家という観点でなく、ビジネスの視点からロイヤリティの債権管理はきちんと行われているか
●エージェントとの間で利害相反が起きていないか
●ディスカウントしてもエージェントのフィーは変わらないか
●ライセンシーに対してエージェントを通じて権利行使する際に、十分な牽制が働くようになっているか、また権利行使が行われているか
●国際的なライセンスにおける、外国源泉税・消費税など課税上のコンプライアンスが適正に行われているか 等

これらを怠れば、ロイヤリティに関する権利が有効活用されず、大切な知的財産の価値を棄損していることにつながる危険性がある。

■特許文献調査
知的財産情報を活用した戦略的意思決定への貢献について述べたい。昨今はコンペティティブ・インテリジェンスと言われることもある。注目する技術分野において、どのようなプレーヤーが出願を積極的に行っているかといった目に見える競合は、認識可能かと思うが、一方では“伏兵”に気が付かないケースがある。市場での競争相手がどの技術分野に力を入れているか、それに対して自社はどこで戦うか、彼我の特徴、強み、弱みを客観的に鳥瞰することも重要となる。
また、経年変化により当該技術分野で、どの領域により研究開発競争が強まっているか、どの領域に新しい動きが見られるかなども確認することが必要である。着目している技術領域をさらにズームアップし、詳細に知的財産文献を精査することによりその具体的内容を把握していく。全体の鳥瞰の仕方として、どの分野が比較的グリーンフィールドと言われているようなまだ手付かずの状態なのか、あるいは寡占化が強まっているのか、群雄割拠の状況なのかなどを鳥瞰することも可能である。図8は知的財産文献をベースにした分析の例であるが、これらの情報と市場データ、企業データなどを組み合わせることにより、戦略的な意思決定に寄与する価値ある情報、インテリジェンスとして経営に貢献することが可能となる。これはリスクを未然に防止することにもつながる。

図8 競争状況等分析を通じて戦略的な意思決定に大きく貢献することが可能
競争状況等分析を通じて戦略的な意思決定に大きく貢献することが可能

III まとめ
以上をリスクマネジメントの観点から3つにまとめると以下のようになる。

「己を知る」
知的財産は知的財産部門にとどまらず、事業、R&Dと三位一体となって自らの活動を位置付ける。知的財産の価値を知り、経営にも説明可能な形で把握する。リスクを漠然とした形ではなく、定量的に把握する。回避可能か、マネージ可能か、経営のインパクトが限定的なものかなど、リスクの性質を知る。

「敵を知る」
関連領域の他業界、あるいは地球の裏側の伏兵を知る。地雷となるような特許を把握する。そして競合の事業、R&D戦略を推察する。それらを踏まえて、自らとの距離感、関係性を知る。

「リスクへの対応を検討する」
逃げる、戦う、和睦するなどの戦略判断を経営陣が誤らないように、単なる特許情報だけでなく、インテリジェンスを提供する必要がある。いかに戦うかという戦術は、専門家をうまく活用する。リスクに関しては何よりも顕在化した現象面への対応もさることながら、転ばぬ先のつえがいちばん大切である。
以上
 
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