| トピックス 2007.7.25 |
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特許権のインカム アプローチ
― 「知的財産部員のための知財ファイナンス入門」より |
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| 知的財産グループ 証券アナリスト 中道 規雄 |
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【はじめに】
知的財産のみならず価値評価の実務で最も利用されていると考えられるインカム・アプローチに焦点を当て、知的財産の価値評価に特有の項目について説明する。ただし、株式価値や事業価値の評価に用いられる割引キャッシュフロー法(以下、「DCF法」という)についての基本的な解説は省略する。なお、本稿での意見に関する部分は私見である。
また、企業の知的財産部の方、特に特許や商標を日常的に取り扱っていて、知的財産の知識は十分にあるものの、ファイナンスに関しては全くの初心者といった方に、知財ファイナンスの基本的な考え方をご紹介することを目的とした「知的財産部員のための知財ファイナンス入門」を、弁護士法人北浜法律事務所の弁護士の方々と共同で執筆し、2007年3月に出版された。本著書における筆者の担当は、「第3章 知的財産の価値評価」であり、主として特許権に焦点を当てて、価値評価を俯瞰的に説明しており、本稿にご関心をお持ちの方は参照されたい。
(ご参照)
「知的財産部員のための知財ファイナンス入門」
財団法人経済産業調査会
弁護士法人北浜法律事務所・監査法人トーマツ著
発行:2007年3月
ISBN978-4-8065-2771-8
【一般的な株式価値評価との相違点】
インカム・アプローチは、評価対象がどのようなものであれ、当該資産から将来期待される収益力などの経済的な側面から評価をする際の主流であると考える。一方、マーケット・ アプローチは、当該資産の市場における取引状況から対象資産の価値を評価し、インカム・アプローチと併用して用いられることが多い。ただし、語弊を恐れずに端的に言うと、知的財産の価値評価においては、特許権のように知的財産の独自性が強いため一般的なマーケット・アプローチが適用しにくいことが多く、中心はインカム・アプローチとなる。知的財産価値評価におけるインカム・アプローチには、免除ロイヤリティ法、超過収益法、利益分割法などのアプローチがある。実務上は、価値評価の目的に応じて、また、評価対象の知的財産の性質に応じて、適確なアプローチを選択し、または併用する。本稿では、財務会計において一般的に用いられる超過収益法を中心に紹介する(移転価格における超過収益の概念とは異なる点には注意が必要である)。
なお、インカム・アプローチにおいて、ベースとなる考え方がDCF法であるが、一般的な株式価値や事業価値の評価の場合と大きく異なる点として、1.耐用年数、2.貢献度、3.割引率の3つが挙げられるため、以下では、これら3つの点について説明する。
【1.耐用年数】
株式価値や事業価値の評価であれば、事業は半永久的に継続するもの(ゴーイング コンサーン)として無期限と考えることが一般的であるが、知的財産の場合、事業とは異なり、様々な観点で事業に寄与する期間(FCFを獲得する力を保有している期間)に限度がある。例えば、特許権の場合、以下の4種類が考えられるが、そのすべてが必要条件となっているため、最終的にはその中から最も短い期間を採用することになる。別の言い方をすれば、下記の(1)〜(4)を検討した上で、当該知的資産の実質的な経済的耐用年数としての「超過収益を生む期間」とも言える。
(1)権利の残存年数
特許権は、原則として出願日から20年が法的有効期間となっており、当期間を過ぎると誰でも自由に対象特許権を利用することができる。したがって、対象特許権の法的残存年数を超える期間を想定することはできない。
(2)技術的耐用年数
評価対象特許権の技術的な競争優位性が継続する期間であり、迂回技術の出現や革新的な新規技術の出現によって減衰していくことになる。したがって、保有会社の過去のデータもしくは類似の製品市場における技術的なライフサイクルの分析、研究開発担当者へのヒヤリングなどにより決定される。
(3)経済的耐用年数
評価対象特許権の経済的な競争優位性が継続できている期間であり、特許権本来の技術面での優位性はあっても、コスト的に優位性が保持できないような状況になるまでの期間になる。これについても技術的耐用年数と同様に新規技術の出現によって減衰していくため、保有会社の過去のデータもしくは類似の製品市場における経済的なライフサイクルの分析、営業および生産担当者などへのヒヤリングにより決定されることになる。
(4)その他の期間
評価対象特許権をライセンス供与している場合には、その契約期間についても検討する必要がある。なお、契約の更新が見込まれる場合には、更新の可能性や更新後の延長期間を含めて検討する必要がある。
また、上記の実質的な経済的耐用年数が、技術及び製品ライフサイクルにしたがい一定の期間の中で徐々に切り替わっていくような場合には、それを反映した処理(例えば、知的財産が貢献する製品売上、利益を徐々に低減させるなどの処理)の必要がある。
【2.貢献度】
一般的な企業価値評価の場合、事業全体のFCFを使用することになるが、知的財産が単独でFCFを獲得できることは、ライセンス供与している場合を除いては想定できず、事業全体から生じるFCFを何らかの方法で評価対象の知的財産が寄与している部分に分割する必要がある。その方法として、25%ルールや利益三分法といった経験則に基づく簡易な方法もあるが、これらは評価のためのデータがなく、評価目的として概数で事足りる場合を除いてはあまり有用ではなく、個々の知的財産が企業価値にどれだけ貢献しているかについてバリュードライバー分析(『知的資産のバリュードライバー分析』(2007.7.25)参照)を行う必要がある。また、評価対象となっている知的財産を除き、事業に用いられるすべての資産(評価対象以外の無形資産を含む)の期待運用利回りに相当する金額(キャピタルチャージ)を控除することで、当該評価対象となっている知的財産の超過収益力を計算し、DCF法を用いて評価するアプローチがここで紹介する超過収益法である。
図表1

【3.割引率】
企業価値評価における割引率として一般的に使用されるのが加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital:WACC)と呼ばれるものである。一方で、知的財産は、事業に用いられる資産の中で相対的にリスクの高い資産であるため、その価値評価に使用する割引率は相対的に高い割引率となる。その割引率を算定するために利用される考え方として、加重平均期待収益率(Weighted Average Return on Assets:WARA)がある。WARAとは、企業が事業を行うために必要となる資産に着目した考え方であり、調達側に着目するWACCと概念的には類似しており、WACCの場合は、他人資本と自己資本の2種類の資本コストの加重平均であるが、WARAの場合は、事業内容にもよるが、より多種類の資産の期待利回りを加重平均することになる。それぞれの資産の期待利回りは、概ね以下の通りである。
(1)運転資本
運転資本は現金化が容易であり、短期の銀行借入でまかなう場合も多いなど、相対的に期待利回りは低い。
(2)有形固定資産
有形固定資産は運転資本のようには現金化が容易ではなく、銀行からの借入だけで全てをまかなえない場合もあり、借入金利も長期で高い金利が適用され、相対的に期待利回りは高くなる。
(3)知的財産
特許権やブランドなどの知的財産は、運転資本や固定資産に比べ、個別に売買する流通市場が未発達であることや保有会社での活用にこそ資産性が生じる可能性があるなど、有形資産よりさらにリスクが高まることから期待利回りもさらに高くなる。
(4)のれん
のれんは、単独で価値が識別されるのもではなく内容が不明確なため、期待利回りは最も高くなる。
なお、WACCとWARAは理論的には同一の値になると考えられるため、この関係及び上記(1)〜(4)のようなそれぞれの資産の期待利回りの相対関係を利用して、知的財産の期待利回り(割引率)を逆算的に算出する。
図表2 Weighted Average Return on Assets:WARA

【おわりに】
価値評価において一定の前提条件を置くことは、避けて通れないものであり、過去の財務諸表やマーケットの状況、競合他社などの分析を踏まえ、合理的な裏付けをすることが言わば価値評価手続きの肝である。最近、SFAS141における無形資産価値評価報告書のスペシャリスト レビューを行う機会が増えているが、評価方法が適当でないものや、評価方法は適当であるが合理的でない(分析結果からは導出されない)前提条件を用いているものも見受けられる。価値評価は数字を出して終わりではなく、整合性や合理性の検証、算定された価値の解釈が重要であることを注意喚起したい。 |
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| 以上 |
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