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知的財産マネジメント
トピックス 2007.7.25
知的資産のバリュードライバー分析
知的財産グループ 米国公認会計士 八木 幸司
【はじめに】
最近、会社の本源的価値と貸借対照表に資産として計上されている金額の乖離が大きくなってきていることが話題に挙げられる。従来の日本の大企業は高度経済成長を背景とした物作りを基礎とした製造業が中心であり、日本の企業会計が企業の本源的価値の情報提供よりも、客観性を重視し、投資家保護の立場から取得原価主義を原則的に採用してきた。ところが、最近はナレッジ型を中心としたサービス業の割合が非常に大きくなっていることがこの話題の背景として考えられる。
退職給付会計や金融商品会計など一部では時価会計に関しても副次的な情報として除々に採り入れられつつあるものの、依然として知的資産の会計は十分な整理がされていない状況である。
他方、企業の経営戦略立案の観点から、コアな知的資産に経営資源を特化し、ノンコアな資産を整理することが重要な課題となっている。
ここでバリュードライバーとは、企業価値の源泉となる項目のことを意味する。本稿においては、企業価値に占める知的資産の割合が大きくなっていることに鑑み、どのような知的資産が企業価値の源泉となっているかを把握、分析すること(知的資産のバリュードライバー分析)に焦点を当てることとする。なお、文中の意見に関する部分は私見である旨をお断りする。

【バリュードライバーの把握】
知的資産の棚卸の局面、つまり「何があるか」という局面においてはキャッシュフローの源泉となるバリュードライバーを把握するプロセスが重要となってくる。その際、例えば(1)会社全体(2)個々の要素(3)事業・製品という切り口でそれぞれの知的資産を把握することが有用である。
会社全体における知的資産としてはまずは「コーポレートブランド」が考えられる。「コーポレートブランド」は企業イメージとして評価者(消費者、株主、投資家など)が保有している会社全体としての「イメージ」とも言える。また、図表1で「外部環境」と記載したが、これは会社固有のイメージなどではなく、地理的・政治的な側面などからも全社的な知的資産の価値が影響を受けることがあることを示している。
会社全体ではなく、個別の要素としては「技術力」「デザイン」「人材」などの切り口が考えられる。これらは事業・製品と紐付けが可能な場合もあり、各要素に共通して発生しているものや、会社全体の要素とも重複している部分があるため、棚卸に当たっては留意が必要である。
一方、企業が物理的に知的資産を保有しているものの、キャッシュフローの獲得には寄与しない要素(死蔵部分)や、権利侵害、他社の類似知的資産の存在、風評リスクなど、キャッシュフローを破壊する要素となっているファクターが存在する可能性があり、それらについても十分な調査を行った上で棚卸をすることが必要となる(図表1参照)。
上記の知的資産の棚卸はSWOT分析とあわせて実施し、内部環境分析と外部環境分析を意識しながら知的資産の把握を行うことが有用である。

図表1 バリュードライバーの把握
バリュードライバーの把握

【PPA(Purchase Price Allocation)】
米国の会計基準においては、買収時に買収対価について認識可能な資産・負債について配分(Purchase Price Allocationといわれる配分手続き)することが要求される。特に知的資産においてはどのバリュードライバーから価値が生じているかを把握することがポイントとなってくる。価値が生じている源泉として、多くの顧客との関係を維持することか(顧客関係)、有利な契約を長期的に維持することか(契約関係)、製造業や開発中の会社の保有するような技術か(技術関係)、テレビ番組などの映像の権利を保有することか(文化・芸術関連)など、価値の源泉は多種多様であり、有形資産と異なり捉えることが非常に困難な項目が多い。
米国の会計基準においては5つのタイプの類型として図表2の通り、具体的に例示されている。
知的資産のバリュードライバー把握の最初のステップとして、5つの類型のどれに当てはまるかをチェックしていくことが重要な手がかりとなる。しかしながら、5つの類型への当てはめてからより具体的に中身を把握していくには、対象となる会社のマネジメントから各バリュードライバーの内容(競合他社と比較した場合の強み、知的資産の使用頻度、経済的・技術的なリスク、事業計画の前提条件との整合性、経済的な耐用年数など)を十分インタビューするプロセスが必要となってくる。
本稿では、バリュードライバーの把握のプロセスとして以下、2つの具体的な事例を説明する。

図表2 米国の会計基準による識別可能な知的資産の類型
分野 契約上の権利・その他法律上の権利・分離可能な無形資産
販売関係 商標および商品名、サービス商標、企業グループ共同の商標および原産地証明などの証明票、商品デザイン(特有の色使い,形状または包装デザイン)、新聞等の発行人欄、インターネットのドメインネーム、競合避止契約
顧客関係 受注および製造発注残高、顧客契約および関連する顧客との関係、顧客リスト(守秘義務条項などで転売等が禁止されている場合を除く)、契約外の顧客との関係
文化・芸術関連 演劇・オペラ・バレエの権利,本・雑誌・新聞・およびその他の著述関連の権利、作詞・作曲・およびコマーシャルのジャンルなどの音楽作品に関する権利、絵画および写真に関する権利、映画・音楽ビデオおよびテレビ番組などの映像および視聴覚関連の権利
契約関係 ライセンス契約、ロイヤリティ契約、現状維持契約、広告宣伝、建設マネジメント、その他サービス提供および商品提供に関する契約、リース契約、建設許可、フランチャイズ契約、放映権、利用権(採掘・水利・空気・鉱物・通行などに関する権利)、サービス契約(不動産担保貸付金の管理サービスなど)、雇用契約
技術関係 特許技術、ソフトウェアおよび半導体チップ上のマスクワーク、業務秘密(製造フォーミュラ、秘密の配合、プロセス、レシピなど)、特許権のない技術、データベース(タイトル・プラントなど)
出典:FAS141 Appendix A

【事例1:技術系ベンチャー企業】
技術系ベンチャー企業の場合、例えばある技術に関して発明した創業者のノウハウそのものが価値の主な源泉を占めることがある。たとえば、開発された個々の製品(例えばソフトウェア)に関しても具体的な使用方法などは創業者のみにしか帰属できない場合など、重要な人的資源そのものが価値の源泉になっていること、まだ市場において製品が上市する前の段階となっており、技術を特許として権利化してライセンス収入が計上されておらず、技術そのものも開発中の段階にあること、会社が知的資産の棚卸を実施しておらず、契約関係についても未整備であったり、もしくは第三者との取引において契約条件通りの支払いを行っていなかったり、第三者取引の条件で取引を行っていないことなどが典型的な例である。
これらの場合においては売上高がどの段階の技術(現在の技術、開発中の技術かなど)から生じたものか把握することや開発と売上高との因果関係を把握するすることも困難であることが多い。
その結果、各知的資産とキャッシュフローとの関係を明確に捉えることが困難であることから、識別可能な無形資産の範囲も限定的となり、識別不能な無形資産としての例えばノウハウそのものが価値の大部分を占めてしまうことになってしまうことが多い。従って、より本質的に重要な知的資産は何かという点に関してビジネス上の文脈で把握することがポイントとなる。

【事例2:製造業】
製造業で一定の商品を顧客に納品している場合には、どの顧客との取引関係が重要であるか、もしくはどの商品をどの程度の期間に渡って継続的に納品することが可能なのかを把握することが重要となってくることが多い。契約上、一定の長期の基本契約を結んでいるケースや実質的に長期にわたっての製品の供給が約束されている場合などがあげられる。なお、その場合においても販売元のエンドユーザーへ提供する製品のモデルチェンジの切り替え時期によって他の代替会社に競合優位の関係にたってはじめて一定期間の販売供給が確保される場合などが多いため、外部環境(SWOT分析や競合環境分析など)の分析に裏付けられたバリュードライバーの識別をすることが重要となってくる。

【おわりに】
有形資産に比較して、知的資産のバリュードライバーの把握は非常に困難である。従来はあまり重要視されていなかったプロセスではあるが、しかしながら、知的資産の価値の割合が多くなる現状において、企業価値の把握、そして会社の経営戦略の把握において今後ますます非常に重要なプロセスとなってくる。特に重要な点は細かい知的資産の棚卸一つ一つを網羅的に把握することよりも、まずはビジネス全体での利害関係者との位置づけや競合他社との競争優位性などの概括的理解を行っているかどうかがポイントとなることにご留意いただきたい。
以上
 
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