| トピックス 2007.10.24 |
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新規事業に向けたM&A/戦略的提携のための仮説構築手法
― 技術情報とビジネス情報を組み合わせた統合的分析アプローチ ― |
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| 工学博士 高橋 淳一 |
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市場の成熟、新しい技術・規制緩和などによるコンバージェンスの進展といった激しい事業環境の変化の中で、企業は、生き残り/発展のために、既存事業の再構築や強化、新たな事業領域の開拓に取り組んでいます。本稿では、技術を付加価値の源泉とする事業に焦点を当て、技術の差別化ばかりでなく、市場/ビジネスにおける技術のコンテキストを統合的に分析することによってM&Aや提携の仮説を構築するアプローチについて述べます。
【はじめに】
市場の成熟、新しい技術・規制緩和などによるコンバージェンス(業界間の垣根がなくなって事業領域が融合すること)の進展といった激しい事業環境の変化の中で、企業は、生き残り/発展のために、既存事業の立て直しや強化、新たな事業領域の開拓に取り組んでいます。ビジネスの変化が加速するこのような状況においては、その取り組みのスピードも求められ、他社との提携/連携などを視野に入れた戦略が重要です。本稿では、技術を付加価値の源泉とする事業(製薬、ハイテク、通信、製造など)に焦点を当て、技術の差別化ばかりでなく、市場/ビジネスにおける技術のコンテキストを統合的に分析することによってM&Aや提携/連携の仮説を構築するアプローチについて述べます。
【「市場環境の理解」のフレームワーク】
新規事業に向けたM&Aや提携/連携の仮説構築においては、その対象とする事業領域の市場環境の状況とビジネスプレイヤーの競争状況を深く理解することが重要です。特に、「技術」という要素をその競争の源泉に持つ製薬、ハイテク、通信、製造業などにおいては、ビジネスの仕組みばかりでなく、「技術」の動向とビジネスにおけるその意味合いをも考慮しなければなりません。
図1に「市場環境の理解」のフレームワークを示します。市場の競争は、技術、ビジネスの仕組み、企業の能力および他企業との戦略的なリレーションの重なりから構成され、それらの統合に基づく総合的な競争力によって均衡が図られていると捉えることができます。したがって、技術の優位性とビジネスの仕組みの優位性との関係を、それらを保有する企業の能力やその企業と他企業との市場におけるリレーションという制約のもとで紐解くことにより、どのような優位性がどのような条件のもとで成り立ち、各ビジネスプレイヤーがどのようなポジションニングにあるかという仮説を構築することができます。この仮説を、新規事業企画の初期段階であるM&Aや提携/連携の企業/事業部門の候補の条件付けや評価・選定に活用することによって、ターゲットとする新規事業戦略を具現化することが可能になります。
図1

【特許/技術情報と市場/ビジネス動向を組み合わせた統合的分析アプローチ】
上記のフレームワークに基づいた、技術情報とビジネス情報を組み合わせる統合的分析アプローチと、その意義を図2に示します。技術面、市場/ビジネス面の調査分析リソースを効果的に組み合わせることによって、それぞれの「市場環境の理解」の軸に沿った仮説を構築することができます。
例えば、技術(機能・性能)という軸に沿った分析について考えてみます。
技術はビジネス競争力の重要要素ですが、技術の成熟化の時代にあって、すべての技術が製品やサービスにおいて同じような優位性を有するとはいえません。優位性を持つ技術(いわゆる「コア技術」)とは、それを応用する製品やサービスの領域において、顧客から見た顕在/潜在する課題を解決し、それらをより魅力的にするものです。技術の進歩が著しい今日においては、代替技術/イノベーション的技術の出現によって技術のコモディティ化/陳腐化のスピードが速く、継続的な研究開発によってその優位性を持続することは多くの困難が伴いますが、その困難性のゆえに技術の参入障壁を構築することができます。したがって、価値ある技術および技術力を見出すには、顧客/市場の視点から見た技術の優位性、および、その技術をベースとする継続的な研究開発によってさらなる進歩と付加価値が見込まれるか否かを見極めることが重要です。代表的な技術情報である特許情報データベースを活用することによって、各ビジネスプレイヤーがどのような技術を有し、どのような技術分野に注力しているかを分析・把握することは可能ですが、この情報からだけでは上記の優位性を見出すことは難しい現状にあります。市場/ビジネス動向の1つである製品・サービス動向をこれに組み合わせることにより、市場における技術の意味合い、すなわち、価値を見出すことができます。逆に、その価値を見出すことができれば、ビジネスプレイヤーの技術戦略の仮説を構築することも可能となり、優位性をもつ技術/技術力の持続可能性についても予測が可能になります。
このような統合的分析アプローチを踏まえることにより、保有する技術/技術力との関係を考慮に入れて、どの技術/技術力がターゲットとする新規事業に相応しいかをより鮮明にすることが可能になります。
図2

【事例】
(事例1:ライフサイエンス業界)
目的:ライフサイエンス分野での新規事業の検討に当たり、企業Xの技術力と発展性を明らかにすることです。
分析内容と結果:企業Xは抗生物質の主要な技術および製品を有しています。市場/ビジネスの動向および保有特許の調査分析から、本事業領域においては一定の事業規模を有するものの、新しい作用機序を有する新薬との競合や、保有技術の特殊性により更なる機能・性能の向上のための研究開発への注力が見られないことなどがわかりました。したがって、本事業領域での今後の事業拡大は期待できないと推定しました。また、製薬業界における新薬シーズの高まりを背景に、保有技術の強みを活かす医薬原料/中間体関連の研究開発・事業に重点化した取り組みを展開していることを見出しました。
これらの分析結果から、新規事業の検討では、企業Xの抗生物質の製品および技術力、医療原料/中間体関連の技術力・事業スキームの観点から、シナジーのポートフォリオを検討することを示唆しました。
(事例2:製造業界)
目的:素材技術の戦略的提携の可能性検討に当たり、企業Yの技術力、事業の現在および将来の方向性を明らかにすることです。
分析内容と結果:企業Yはフィルタを用いた分離技術をコアとした事業を展開してきましたが、最近はこのコア技術を発展させて、ライフサイエンス市場に特化した事業活動を展開しています。保有する特許および提携・買収した企業が有する特許の調査分析と、企業Yの製品・サービスの動向およびライフサイエンス業界の事業課題との関係を統合して分析した結果、従来から保有する分離技術を応用し、それらにライフサイエンス分野の事業課題に訴求するような技術を付加した製品・サービスを積極的に展開していることが明らかになりました。また、本事業領域においては、対象とする業務が技術の進展とともに開発途上にあって標準化されていないため、訴求力の高いソリューション製品・サービスの提供によってデファクト化を促進し、事業基盤の確立を狙っている可能性についても言及しました。
これらの分析結果から、提携可能性を検討している素材技術が企業Yのコア技術と競合となる可能性があることを示すとともに、それを踏まえた事業展開のオプションを戦略的な提携条件に応じて示唆しました。
【おわりに】
新規事業に向けたM&Aや提携の戦略策定において重要となる「市場環境の理解」のアプローチについて述べました。このアプローチは、技術および市場/ビジネスのそれぞれの動向を組み合わせることによって市場/ビジネスにおける技術のコンテキストを深く理解し、競争の優位性・持続性の本質を踏まえた仮説構築を可能とすることを特徴とします。本稿では、M&Aや戦略的提携に焦点を合わせて市場/他社の理解という文脈で統合的分析アプローチの効果を説明しましたが、自社の技術戦略や技術を戦略要素とするビジネス戦略の企画・展開においてもこのようなアプローチが重要です。特許の創出・蓄積・保護・運用に携わる知的財産部門が、技術情報に精通している強みを活かし、さらに市場/ビジネスにおける技術のコンテキストを組み合わせることができれば、事業部門と研究開発部門との効果的な連携を促進する機能を提供することが可能となり、より戦略的な知的財産活動の展開が期待できると考えられます。 |
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