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知的財産マネジメント
トピックス 2008.4.23
知的財産報告書/知的資産経営報告書の動向調査
知的財産グループ 公認会計士 中島 太郎
【はじめに】
経済産業省が、2004年1月に「知的財産情報開示指針」を、2005年10月に「知的資産経営の開示ガイドライン」を公表して以来、数十社の企業が「知的財産報告書」「知的資産経営報告書」を開示している。
本稿では、「知的財産報告書」「知的資産経営報告書」の開示動向を分析し、今後の課題について検討する。
なお、本稿での意見に関する部分は私見である。

ご参考:
経済産業省「知的財産情報開示指針について」 http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0004895/

【知的財産報告書と知的資産経営報告書の比較】
まず初めに、知的財産報告書と知的資産経営報告書の異同を中心に概略を説明する。
図表1に記載の通り、どちらも事業報告書や有価証券報告書などの既存の開示資料ではステークホルダーに対して説明が困難であった知的資産について、わかりやすく可能な範囲で有用な情報を伝えることを目的とする点で共通する。
しかし、知的財産報告書が知的財産情報開示指針を参考として、比較的企業の技術的な強みを説明したものであるのに対し、知的資産経営報告書は知的資産経営の開示ガイドラインを参考として、知的資産を中心に企業経営の方向性や強みを説明したものと言える。言い換えれば、知的財産報告書は個別具体的なイメージであり、知的資産経営報告書は全体抽象的なイメージである。

図表1.知的財産報告書と知的資産経営報告書の比較
名称 知的財産報告書 知的資産経営報告書
目的 「知的経営」に係る企業と市場の対話が開始できるようにするため。 1.企業が将来に向けて持続的に利益を生み、企業価値を向上させるための活動を経営者がステークホルダーにわかりやすいストーリーで伝え、2.企業とステークホルダーとの間での認識を共有するため。
開示義務 任意 任意
開示単位 連結ベースかつセグメント単位 連結ベース
参考指針 知的財産情報開示指針 知的資産経営の開示ガイドライン
主な
開示内容
1.中核技術と事業モデル
2.研究開発セグメントと事業戦略の方向性
3.研究開発セグメントと知的財産の概略
4.技術の市場性、市場優位性の分析
5.研究開発・知的財産組織図、研究開発
  協力・提携
6.知的財産の取得・管理、営業秘密管理、
  技術流出防止に関する方針
7.ライセンス関連活動の事業への貢献
8.特許群の事業への貢献
9.知的財産ポートフォリオに対する方針
10.リスク対応情報
1.全般(経営哲学など)
2.本体「過去〜現在」
3.本体「現在〜将来」
4.本体部分の裏づけ指標
5.別添の指標
実際の
開示内容
概ね指針に準拠している 比較的自由に記載されている
開示会社数* 22社(上場企業多い) 11社(非上場企業多い)
*開示会社数は2006年中に開示されたもの(出典:経済産業省HP)

【知的財産報告書の開示状況】
次に、知的財産報告書の実際の開示状況や開示内容を検討する。
図表2の通り、知的財産報告書の開示会社数は、2004年の12社から、2006年では22社に増加している。また、アニュアルレポートなども含めた知的財産に関する情報開示を行っている会社数は、2004年の13社から、2006年では25社に増加している。2005年に日経リサーチが、製造業を中心とした東証1部上場企業を対象に実施した調査では、有効回答180社のうち31.7%(57社)の企業が、「将来的に開示の必要性を感じている」と答えているが、2006年中の開示状況(アニュアルレポートでの開示も含め47社)は、この調査結果を下回るペースと考えられる。また、2006年末の東証上場会社2,391社(1部・2部・マザーズを含み、外国会社を除く)の僅か2%程度の開示割合であり、あまり開示が広がっていないとの印象を受ける。
では、何故開示会社が増えていないのだろうか。費用対効果が合わないのだろうか。そもそも、知的財産報告書の目的には、企業と市場との対話がある。図表3にあるように、2006年に知的財産報告書を発行した上場企業21社(2003年末時点で非上場の1社除く)の、2003年末から2007年末の株価上昇率の平均は33.8%であるが、同期間のTOPIXは41.4%上昇しており、株価面では対話の効果が見られず、むしろ、若干下回っている。一方、知的財産報告書発行に係る費用を外部から把握するのは困難であるが、例えば知的財産報告書の開示は決算から4カ月後くらいが多いことや、知的財産報告書のボリュームは平均15頁(アニュアルレポート内での開示の場合は、通常2〜3頁が多い)であることから、相当の人手がかかっていると推測される。実際に開示を止めた会社からは、長期的視点で記載されている内容が多く、毎年新たに発行することへの疑念や、他の開示資料との内容重複の問題に対する意見もあった。
開示会社の内訳は、社歴が長い上場大企業が多く、ベンチャー企業は少ない。また、業種別では、特許出願の多いメーカーがほとんどであるが、証券業での開示もある。
開示内容は、ほぼ知的財産情報開示指針の開示項目に沿った形式となっており、特許件数は多くの企業で開示されているが、研究開発費を特許技術に関連付けて説明している企業は少数である。また、ライセンス関連活動の事業への貢献については、積極的なライセンス供与による収入よりも、自社製品での活用を重視している企業が多く、知的財産から得られる具体的な収入を開示している企業は少数である。

【知的資産経営報告書の開示状況】
次に、知的資産経営報告書の実際の開示状況や開示内容を検討する。
2005年10月に「知的資産経営の開示ガイドライン」が公表され、2005年中に3社、2006年中に15社の開示がされている(図表2参照)。2006年の開示15社のうち、知的資産経営報告書として開示しているのは11社であり、このうち上場企業は3社のみである。知的財産報告書の開示会社はすべて上場企業であったのに対し、知的資産経営報告書は、非上場企業を中心に開示されている。
開示内容は、知的資産経営のガイドラインに準拠しているものの、その準拠度合いは緩く、各社毎に記載内容が大きく異なっている。会社のこれまでの実績を説明し、今後のビジョンを語るというスタイルが多く、知的資産だけに限らず、会社の事業内容の紹介という色彩が強い。また、事業内容の紹介的な要素が強いためか、毎期継続開示している会社は少ない。
そもそも、知的資産経営に関する報告は、北欧で積極的に進められており、日本のガイドラインもこれを参考にしている。経済産業省の通商白書2004では、デンマーク企業の事例を取り上げている。白書では、知的資本報告書(Intellectual Capital Statement)は、企業から投資家への情報伝達手段としての側面だけでなく、自社の経営把握のためのマネジメントツールとしての側面があることや、アナリストからの企業価値評価上昇につながっていること、及び、リクルート面での効果があること等が記されており、日本での今後の普及を目指す際の参考になると考えられる。

図表2.知的財産報告書と知的資産経営報告書の開示会社数
知的財産報告書と知的資産経営報告書の開示会社数

図表3.2003年末株価を基準にした株価上昇率
2003年末株価を基準にした株価上昇率
出典:「知的資産経営の開示ガイドライン」

【今後の課題】
知的財産に関する任意の開示が本格化してから数年が経過したが、以上のように開示企業数の目覚しい増加は見られない。上場大企業を中心に開示されている知的財産報告書は、研究開発に関する組織体制や方向性、戦略、具体的な特許件数などを記載し、自社の技術優位性をアピールできる内容がある。これを他の多くの上場企業や非上場企業に求めても、記載する内容的にも人員的にも困難であろう。仮に、これらの問題をクリアしていたとしても、自社の優位性を流出してしまう危惧や開示の効果に対する疑問、さらに、一度開示した場合の継続開示というプレッシャーなどから開示に踏み出せず、開示会社が増えていないと考えられる。
一方、アナリストや投資家などの知的財産に関する開示を利用する側には、実際の数値的裏付けや利益を計上している製品に対する開示要求が強い傾向がある。しかし、知的財産に関する戦略は長期的な視点に立脚したものであり、現在収益を獲得している製品や技術にばかり注目するのではなく、数値に表れない企業の戦略や将来を見据えた基礎研究段階への投資などを読み取る必要があると考える。
情報開示はあくまでも二次的要因であり、本源的には知的財産を中心とする無形資産を有効に活用することが重要であり、知的財産の価値評価、知的財産マネジメント支援、知的財産事業化支援等の専門家による外部サービスを利用することも、無形資産の活用に有用な手段であると考える。今後は、それら知的財産の活用状況を事業への貢献度という視点で、投資家に分かりやすく情報公開していく必要がある。
知的財産報告書や知的資産経営報告書、またはアニュアルレポートは、有価証券報告書などの従来の開示資料では説明しきれない部分を第三者に伝えるという一定の効果は果たしていると考えられる。今後は、メーカーだけでなくサービス業などの幅広い業種での開示や、継続開示が望まれる。そのためには、特許件数や知的財産に関する人員数などの従来型の内容だけでなく、投資家を意識して知的財産の事業への活用状況を具体的かつ分かりやすく記載することや、長期的戦略部分は毎期変更せずに当期変更部分のみを重点的に開示することによる簡略化、といった方策も必要であろう。
以上
 
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