| トピックス 2008.7.23 |
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研究開発ポートフォリオ評価システム導入による研究開発マネジメント 第2回
研究開発ポートフォリオの事例 |
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| 知的財産グループ 公認会計士 長谷部 智一郎 |
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I.A社の事例
「研究開発ポートフォリオ評価システム導入による研究開発マネジメント 第1回 研究開発の効率化の必要性」では、研究開発マネジメントの必要性、留意点、そして研究開発ポートフォリオ評価システム導入の効果について、整理しました。今回は、ある電機メーカーA社のケースを紹介します。
A社では、本業の市場規模が頭打ちになっており、新規事業創出のため積極的な研究開発を行ってきました。しかし、経営陣の納得するような十分な成果が上がっていませんでした。
A社では、「戦略的研究開発プロジェクトチーム」を発足し、事業分野の再定義や収益ポテンシャルのより高い製品への選択と集中を通じた、プロダクトポートフォリオの最適化を目指した活動を実施しようとしていました。限られた研究開発費を、いかに効率的に運用し、事業化へ結びつけるかが課題となっているためです。
そこでA社は、従来ブラックボックス(属人的)であった研究開発プロセスに、研究開発プロジェクトの事業性評価システム構築(手法、ツールの導入)を行うこととしました。
II.三段階のステップによるプロジェクト評価
A社では、基本情報の収集、個別評価、総合評価の三段階のステップによって、研究開発プロジェクトを評価することとしました。基本情報を収集し、研究開発プロジェクトを戦略性評価、技術性評価、経済性評価という三つの観点から個別評価を行います。そして、それぞれの評価結果を総合し研究開発プロジェクトに優先度を設定する総合評価を行い、最後の意思決定につなげるというプロセスです。
基本情報の収集では、個別評価(戦略性評価、技術性評価、及び経済性評価)に必要な情報を収集し、整理します。まず戦略性評価の観点から、中長期経営戦略により、戦略性評価のベースとなる製品戦略を確定します。それを基に、「戦略性に関する評価表」を作成します。次に技術性評価の観点から、各研究開発プロジェクトの、上市に至るまでのプロセスで必須となる「技術(知財)棚卸表」を作成し、自社の現状を棚卸します。その情報を基に、「技術(知財)に関する確保度合評価表」を作成します。最後に経済性評価の観点からは、「事業計画」を作成します。これに基づき「(シナリオごとの)プロジェクト経済価値算出表」を作成します。
個別評価では、収集した基本情報に基づいて、研究開発プロジェクトを戦略性評価、技術性評価、経済性評価という三つの観点からそれぞれ評価を行います。
「戦略性評価」においては、会社全体の経営理念・中長期的な製品戦略に対する各研究開発プロジェクトの整合性やシナジーの度合いを評価します。
具体的には同社が中長期的な実現を目指す「プロダクトポートフォリオ」「コアコンピタンス」の二つの視点を考慮しながら、評価対象プロジェクトが同社の中長期的に目指す製品戦略に合致し、競争優位を構築し得るか否かを評価します。
「プロダクトポートフォリオ」については、同社が競争性優位の確立を目指すコア製品領域に合致しているプロジェクトであれば評価上、加点します。例えば、複数の事業分野に関する研究開発プロジェクトの中で、市場の成熟度の観点から今後の市場の成長性が見込める事業から順に点数づけされます。または研究開発領域間でシナジーを持たせることで、仮に現時点では魅力的ではないものの、将来的に市場を席巻できる可能性のあるプロジェクトも評価上考慮することとなります。「コアコンピタンス」については、競争性優位の確立を目指す際に必要となる技術・設備・ノウハウを有しているプロジェクトであれば評価上、加点します。
「技術性評価」においては、「技術(知財)棚卸表」を作成することにより、各研究開発プロジェクトの、上市に至るまでのプロセスで必須となる技術(知財)の確保度合について評価します。実現可能性についての評価です。必要ではあるが現在ない技術などがあった場合、その技術を獲得するためにどのくらいの費用がかかるのか、そもそも獲得が可能なのかを判断します。
これは、いくら戦略性評価及び経済性評価が高くても、必要な技術(知財)がなければ、上市することができないからです。上市するために必要な技術及び知財を把握するとともに、他社からライセンスイン、又は購入(買収)することを検討することになります。
具体的には技術(知財)確保度合の評価は、他社が保有している知財の「権利としての強さ」、および他技術を採用することによる代替可能性・ライセンス享受による「代替可能性」を評価します。知財は、たとえば特許明細書によって適用範囲が広いなど権利としての強いものであったとしても、代替可能な技術であれば、回避可能といえる。逆に代替することが困難な技術でかつライセンスを受けることが困難であったとしても、権利として弱い(適用範囲が狭い)場合には、回避可能な場合があるからです。
「経済性評価」では、各研究開発プロジェクトが、将来的に獲得し得るキャッシュ・イン(上市もしくはライセンスアウト)とキャッシュ・アウト(人的投資やライセンス料などを含む研究開発費)を踏まえた将来収支を計画し、想定されるシナリオの発生確率を考慮してプロジェクトの経済的価値(割引現在価値)を算出します。
具体的には、売上/製造原価/販売費/研究開発投資などに分解し、研究開発から上市までのキャッシュフローをシナリオ別に計画し、現在価値に割り引きます。シナリオを設定することで、開発に失敗するリスクなどの起こり得る不確実性を経済価値に織り込むことができます。
研究開発から上市の前までのステージとして、例えば、基礎研究の段階、応用研究の段階、製品化のテストの段階、テストランの段階、販路準備の段階などが想定されますが、それぞれの段階ごとにおけるイベントをツリー構造で単純化することでシナリオを設定します。業種ごとにそれぞれの段階における成功、失敗確率は異なるものの、過去の経験や業種ベンチマーク分析等を勘案します。また上市後についても、三つのシナリオを考えます。例えば、楽観シナリオ、悲観シナリオ、中間のシナリオで、この中間シナリオの発生確率が当然一番高くなります。シナリオは、競合分析を基に、将来にわたる自社開発製品の競争優位性、および販売力などから見積もります。このようにして設定したシナリオごとに正味現在価値*を算出します。すべてのシナリオ別正味現在価値に各々の発生確率を乗じ、合計した値が各プロジェクトの経済価値となります。このようにシナリオごとの発生確率及び正味現在価値を求めることで、研究開発から販売に至るまでの不確実性を織り込んだプロジェクトの経済性評価が可能となります。
*正味現在価値とは、ある事業の将来のフリーキャッシュフローを資本コストで割り引いた現在価値から、現在の投資額を差し引いた金額
III.記入表を真剣に埋めることで、見えてくること
このように研究開発プロジェクトの成果として、どのような製品が考えられるのか、その製品の市場性と競争優位性(業界でのポジションの予想)、さらに実現可能性はどの程度あるのかを見積もり、売上推移の予測までシナリオ別に検討を行います。
これらの市場性や競争優位性、および実現可能性などは、基本的にはすべてプロジェクトごとの研究開発チームのリーダーが項目を埋めることになります。
それまで暗黙的に、いわば十分な検討なく研究開発を指揮してきたとしても、こうしたフォーマットに則り、研究所のマネジメントや経営陣に説明することを求めるようにすれば、そのシナリオに多少の甘さがあったとしても、ブラックボックスの解消、技術の棚卸、戦略との適合性などに向けて大きな効果が期待できます。また、その不確かさをマネジメントや経営陣が見抜くことも容易になります。自分自身で実現可能性のなさ、市場性のなさに気づくことも少なくありません。
そして、戦略性評価、技術性評価、経済性評価という三つの個別評価が終わったら、その三つの評価を合わせて総合評価を行います。研究開発プロジェクトごとに、戦略性評価および技術性評価についてはポイントを、経済性評価については金額を示し、金額ごとにポイントを設定して総合評価表を記入します。
そもそも技術性評価で技術・知財の確保が見込めなければ、中止となります。また戦略性評価、経済性評価については優先度を設定することで、「研究開発プロジェクト優先順位表」を作成します。その後、プロジェクト別経済価値、プロジェクト別必要投資額を勘案して、研究開発費の将来的なポートフォリオおよび予算配分を具体的に検討し、実際に予算が配分される研究開発プロジェクトを「研究開発プロジェクト推奨リスト」に加わえます。それらの資料を経営陣に提出し、最終の意思決定を受けることになります。
次回は、研究開発プロジェクトを総合評価するための、最適な投資配分を決定するマトリックス分析を紹介します。 |
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