| トピックス 2008.7.23 |
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業種別研究開発活動の現状に関する比較と分析 |
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| 知的財産グループ 阿部 正宏 |
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【はじめに】
各企業は、自社の強みを利用して業種内で競争優位に立つために様々な努力をされているかと思われますが、その競争優位性を確保するための1つのツールとして、特許権があります。従来より、各企業において特許権の獲得、蓄積を目指した研究開発活動が活発に行われていますが、さらに最近では、特許権の量よりも質を重視する傾向が高まっています。
本稿では、製造業を中心に、業種別の研究開発活動の現状を分析し、業種別の相対的な特徴を洗い出し、株価の状況とあわせて考察したいと思います。
なお、本稿での意見に関する部分は私見である旨お断りします。
【ご参考】特許庁Webサイト:http://www.jpo.go.jp/indexj.htm
【業種別研究開発活動の概況】
企業が特許権を獲得、蓄積するための代表的な費用として研究開発費が挙げられます。製造業の場合、研究開発活動には多額の支出を伴いますが、このような活動によって獲得、蓄積された特許権は、将来における販売や製造等の事業活動に影響を与え、結果として企業価値に影響を与えます。しかし、両者の関連性が不明瞭であるため、研究開発活動の資源配分や成果の評価等のマネジメントを行うことに難しい側面があります。
そこで最初に、分析上する上で多くの課題はありますが、それらを承知した上で、業種別の特徴を見るため、売上高研究開発費率と売上高営業利益率の分布状況(図表1)を考察します。なお、ここで使用する数値は、日経平均株価に採用されている225社の中から製造業関連の企業150社を抽出し、該当企業における直近期の財務数値を業種別に集計したものです。
図表1
売上高研究開発費率と売上高営業利益率の業種別分布図

出所:Bloombergよりトーマツ作成
注:業種の分類はBloombergの分類によります
業種により経営環境やビジネスモデル等は異なり、的確に該当しない場合もあるとは思われますが、本稿では、業種別の研究開発活動の現状に関する比較と分析を目的としていますので、全業種中で売上高研究開発費率が相対的に高く、研究開発活動の結果である特許権の重要性が高いと思われる業種である、【医薬品】、【電気機器】、【精密機器】、【化学】、【輸送用機器】の5業種について検討します。
【医薬品】は図表1の上の図より分かるとおり、売上高研究開発費率と売上高営業利益率のいずれの値も高く、他の業種と比べて突出した位置にいることが分かります。
【医薬品】の売上高研究開発費率は、現在、日本や欧米諸国がライフサイエンス分野を国家戦略と位置づけていることを受け、世界各国で研究開発活動が活発に行われていることや、2010年前後に大型医薬品の特許権の多くが切れる、いわゆる2010年問題を間近に控えて次世代のブロックバスターとなり得る新薬開発に注力していることから高い数値になっていると考えられます。
一方で、売上高営業利益率は、販売する物質自体もしくは製法が特許権で守られていることや、国が定めた薬価で販売できることから高い数値になっていると考えられます。しかし、ジェネリック医薬品など後発品の使用促進や薬価改定等により経営環境が厳しいものになっていくと予測されるため、特許権を獲得するための研究開発活動の他に、企業買収や業務提携等の外部からの新薬候補物質の調達も重要になっていくものと考えられます。
【精密機器】は、図表1の下の図より分かるとおり、売上高営業利益率が相対的に高くなっています。売上高研究開発費率が同水準の【電気機器】と比較すると、両業種ともに高機能、高付加価値な製品開発や新規事業の創造を活発に行っています。【精密機器】は、フラッシュメモリーや光学部品、医療用特殊部品等、自社が得意とする主要なエレクトロニクスの領域で半分近くの売上割合を占めているのに対し、【電気機器】は、競合と同様なエレクトロニクスの事業領域の他に主要といえる事業を複数行っていることや、近年は、ITソリューションや通信情報産業、環境関連産業等の分野にも注力している等、多分野の領域に対して幅広い研究開発活動と設備投資を行っている様子が伺えます。その結果、低採算となっている事業を有していることが、売上高営業利益率に差が生じた要因の1つになっていると考えられます。
図表2に示すように、【精密機器】と【電気機器】における近年の特許の総使用割合は両業種とも同程度です。しかし、【電気機器】は他社使用許諾割合が18.2%と極めて高くなっています。これは、【電気機器】は、1つの製品に対して多数の特許権を必要することが多く、クロスライセンス契約等を行うことにより、企業内外の特許権の有効活用を積極的に行っているためと考えられます。
両業種にわたって主要なキーデバイスの一つとなる半導体事業は、半導体に関する微細加工のレベルが上昇することにより、半導体の設計や仕様が変わり、新たな特許や、半導体集積回路の回路配置利用権等が出願されるため、継続した研究開発活動が必要となります。2010年以降には現在の微細加工レベルの3分の2程度に、2015年には現在の3分の1程度の微細加工が可能となることが見込まれる等、技術の進歩が早いため、早期に市場へ製品を投入し、規模の経済を享受するための企業買収もより活発になっていくものと考えられてます。また、その他の収益獲得の方法の一つとして、近年では特許使用許諾によるライセンス料収入も重要な収入源となっています。
【化学】は、図表2に示すように、特許権の自社使用割合は45.0%、他社使用許諾割合は9.7%であり、これらはいずれの値についても全業種平均より高く、積極的に特許権の有効活用がなされていると考えられます。現在、各企業は自社の独自性を強く発揮し競争優位を獲得すると同時に、企業買収や業務提携等の各種施策を行うことによって、さらなる収益性向上を目指しています。
また、近年の地球環境保全のニーズの高まりから、欧州を中心として化学物質規制や温室効果ガスの排出量規制の強化がなされています。日本国内においても、化学物質審査規制法や地球温暖化防止条約等、各種規制や条約等の見直しが行われています。これらの規制や条約等に対応すべく、早期に、新たな研究開発活動が必要であり、また、自社の知的財産の他にも社外の特許の有効活用が求められることになるかと思われます。
【輸送用機器】の売上高研究開発費率は、売上規模が他の業種と比較して相対的に大きいため、低くなっていると考えられます。
過去より、優れた燃費性能という高い技術を保有していましたが、安全性、地球環境保全に対する社会的ニーズがさらに高まっているため、安全性の向上やハイブリッド車、燃料電池車等の環境に配慮した製品の研究開発活動が積極的に行われています。また、2012年以降に日米欧で、さらに厳しい燃費規制が導入される予定です。これに対応するには幅広い業種の技術を必要とするため、現状では他業種に比べ低くなっている技術提携等の企業間の相互利用が、業種内外で活発に行われる可能性があります。
図表2 業種別の特許権使用割合(自社利用、他社使用許諾別)

出典:特許庁Webサイト:http://www.jpo.go.jp/indexj.htm
注:2006年9月集計
【業種別のPBRの状況】
次に、研究開発活動が株価にどのような影響を与えているかについて検討したいと思います。株価に影響を与える要素としては、利益やキャッシュフロー、配当等、さまざまな要素が挙げられますが、特に製造業にとって将来収益の源泉となる研究開発活動も影響を与えているであろうと考えられます。ここでは、株価純資産倍率(以下、PBRとします)と研究開発費の関連性を検討します。
株式時価総額は企業の特許権やブランドといった無形資産の価値も含んだ株主資本価値を表すと考えられます。一方で、簿価純資産は、簿価上の総資産から負債を差し引いた差額であり、自社が研究開発活動を行って獲得した特許権や、自己創設のれん、ブランドといった無形資産を含まない株主資本価値を表します。PBRは、それら株式時価総額と簿価純資産との比率であるため、PBRが1.00倍を超過する部分に上記の無形資産が該当すると考えられ、その主要な構成要素の一つとして特許権が挙げられます。よって、PBRと売上高研究開発費率との相関を分析することにより、当該業種に対する株式市場からの評価が研究開発活動により影響を受けるかどうか推測できると考えます。
図表3 業種別のPBRと売上高研究開発費率の関連図

出所:Bloombergよりトーマツ作成
注:下線軸の左から右にかけて売上高研究開発費率が低い業種から高い業種の順に並べています
通常、研究開発費は企業にとってコストであり、研究開発費が多額であれば、研究開発費が相対的に少額な企業と比較して売上高営業利益率にマイナスの影響を与えます。しかしながら、図表3より理解できるように、コストである売上高研究開発費率の高い業種であっても、PBRの値が1.00を超えています。これは、各企業による研究開発活動で獲得、蓄積された特許権が将来の収益獲得の源泉となる可能性を有していると、市場から一定の評価を受けている結果と考えられます。
当然ながら、研究開発活動のための支出をむやみに増加させれば良いという訳ではありません。株式時価総額は企業のおかれている外部環境からも影響を受け、企業にとってコントロールができない部分も存在します。しかし、研究開発活動は企業内における活動であるため、企業にとって、相対的にコントロールが可能であるとも考えられます。そのため、ここで重要となるのは、業種や自社の経営環境に合わせた適切な資源配分や、研究開発活動の成果を早期に市場へ提供するための拡販活動等、総合的な研究開発活動のマネジメントであるといえます。
【おわりに】
経営者は研究者や知的財産部の担当者等により蓄積された自社の特許権を営業上の強みとして、収益獲得のための事業活動を行います。その中で、研究者は、自己の知的欲求を満足させ、より高度な、より先進的な技術や概念を創造するため研究開発活動を行います。
利益獲得のための事業活動と研究開発活動は、いずれも自社の企業価値を上昇させる重要な要素ではあります。しかし、事業活動のみ、あるいは研究開発活動のみが活発であっても企業価値の大きな向上が難しい場合もあるかと思われます。そのため、自社の研究開発活動を事業活動や事業の強み等と照らし合わせて行い、外部からの調達を含めて、蓄積、活用、さらには外部への売却までの総合的で効果的なマネジメントを行う必要性があるかと考えます。
本稿が微力ながらその一助となれば幸いです。 |
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| 以上 |
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