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株式公開
トピックス 2006.4.12
株式上場における事業計画と予算統制
公認会計士 谷藤 雅俊
1.はじめに
近年の不安定な経営環境は、従来にも増して会社の将来予測を困難にしています。これは会社の過去の実績が必ずしも将来の業績に結びつかなくなりつつあることを意味しており、逆に、ますます将来予測が経営管理上または会社を取り巻く利害関係者にとって重要になってきていることを意味しています。今回は、上場を目指す企業に求められる事業計画と予算統制について解説します。
なお、文中の意見は私見でありますことをご了承ください。

2.事業計画の重要性
「3年先のことなど誰にもわからない」という話をよく耳にしますが、優れた会社ほど、流動的で予測困難な未来の中にも、できる限り確度の高い予測を行おうとする姿勢と努力がうかがえます。
従業員の動機付けのために達成水準を努力目標値に設定して数値計画(予算)を利用する傾向も見受けられますが、事業計画は会社の長期的成長に資するものであり、ディスクロージャーや会計上の見積もりのために利用される事業計画はほぼ達成可能で現実的な目標値であることが求められます。
どのような目的で作成される事業計画でも、達成可能でなければ全く意味のない計画であることは当然であり、現状を無視した経営トップからの押し付けの計画であったならば計画を達成しようとする動機付けの手段とはなり得ず、ましてや上場企業が意図的に根拠のない事業計画を公表することは風説の流布と疑われます。計画数値やアクションプランの裏付けが充実しており、「これなら何とかなりそうだ」という実感・信頼感を会社内外に与えられるかが、事業計画を有効ならしめる重要なポイントの1つです。

3.自己診断
上場する会社は、以下の項目について上場準備と審査の過程で答えられるようになり、上場する時は投資家の前で堂々と説明できるようになりますが、皆さんはいかがですか?

I.経営理念が会社や各種戦略の創り方に現れていますか?
II.今、勝負している事業領域、これから勝負する事業領域は何ですか?
III.ターゲット市場や業界の動向を把握して、対応策を講じていますか?
IV.市場における今のポジションは?競合状況は?対策は?これからの方向性は?
V.SWOT(Strength強み・Weakness弱み・Opportunities機会・Threat脅威)分析で課題と対応策を検討し、戦略や戦術に反映させていますか?
VI.価格・品質(技術)・サービスのどれをメインに勝負しますか?
VII.何に特徴がありますか?何で差別化していますか?
VIII.何を、誰に、いくらで、どのようにして売るのですか?
IX.どのようにして利益を獲得する(どうして利益が出る)のですか?それは「なるほど!」とうならせるような儲かる仕組みになっていますか?
X.顧客は、何故?貴社から買うべきなのですか、買わなければならないのですか?
XI.成長のシナリオとその過程における変革課題は明確ですか?
XII.次に何をするのですか?私(投資家)は何に期待したらよいのですか?

4.上場審査で求められる事業計画と予算統制
投資家は、会社が「今まで何をしてきたか」を見ると同時に、「今はどういう状況なのか」「今後どうなっていくのか」という開示情報を必要とします。それゆえ事実を正確かつタイムリーにそして誠実に伝えられる会社でなければ上場できないはずです。
また、上場するためには、法令を遵守し適切な企業統治がなされていることを前提に、投資家にとって魅力的な成長力を持つ会社であることが求められます。従って、上場審査では「合理的かつ実現可能な事業計画」を有し、それを実行する「経営管理体制及び経営戦略体制」が構築され運用されているかが重点的に審査されます。たとえば、SWOT分析アプローチによる会社の実態把握、過去の目標と実績の乖離分析およびその対応策と実行結果評価などをベースにして、申請時の事業計画が魅力的で合理的予測に基づく実現可能なものと信用できるか、またそれを実行可能にする経営チームと経営の仕組み、統制制度などができているか、などを慎重に審査します。

(1)事業計画策定ステップ例
I.長期ビジョン(現状から考えないこと、「夢」ビジョンでよい)
II.内部環境(自社)分析(強み・弱みを把握し、課題と対応策を明確にする)
III.外部環境分析(市場・競合分析、成長機会と脅威を把握し、課題と対応策を明確にする)
IV.事業方針の再確認、個別戦略策定、儲かる仕組み作り
V.リスク分析(ビジネスフローにそってリスクを洗い出し、課題と戦略を再検証する)
VI.中期経営目標の設定(行動目標・数値目標)と中期経営計画の策定
VII.年度経営計画の策定

(2)事業計画策定上のポイント
I.戦略・目標はできる限り客観的なデータと十分な現状(内部・外部)分析に基づく根拠が必要
II.分析→戦略→行動→結果の関係に論理的整合性、必然性を持たせる(行動計画を明確に)
III.行動目標の連鎖が必要(中期全社行動目標→年度全社行動目標→部門行動目標→個人行動目標)
IV.数値計画の根拠には客観性・合理性が必要
V.作成過程では全員が参加する(参加意識の醸成、意見交換・コミュニケーションが重要)
VI.制度として構築し、全員の認知を得る(帳票・作成手順・評価方法の標準化)

(3)利益管理のポイント
I.利益管理に有用なレベルでタイムリーな月次決算ができていることが前提
II.利益に影響を及ぼす事項をコントロールする(売上数量、単価、値引きロス、販売ロス、廃棄ロス、滞留在庫、滞留債権、労働時間(残業)、経費の発生要因etc.)
III.差異分析では、単なる差異内容(事実)の把握と報告だけで終わるのではなく、根本的原因(目標達成を阻害する要因)を正確に把握し、対応策を検討する
IV.対応策は、一人一人がどうすれば良いか解っていなければ改善に至らない
V.数値計画の差異分析シート、行動計画の乖離分析シートを作成し、必然対応できる仕組みを作る

5.おわりに
事業計画は、単に未来を予測するものではなく、仮説と検証を繰り返すことによって精度を高め、リスクを回避して持続的成長を図るツールとなります。予算統制は目標管理と連動することによって問題点を浮き彫りにし、改善するための組織的な仕組みとなります。どんな企業でも常に順風満帆に成長し続けるわけではないでしょう。成長過程で起こりうる障害をタイムリーに察知し、対処するリスク管理体制を上場準備過程で築き上げていただきたいと思います。

<参考資料>
経営計画と統制制度の全体像
経営計画(予算)体系
以上
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