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株式公開
トピックス 2006.12.27
申請書類の作り方
公認会計士 高橋 千寿子
1.はじめに
株式上場審査は、「上場申請のための有価証券報告書(Iの部)」と「上場申請のための有価証券報告書(IIの部)」(ジャスダックでは「上場申請のための報告書」)という申請書類を用いて、申請会社の実態を把握することを中心に行われます。したがって、証券取引所や主幹事証券会社が何を審査のポイントに置いているのか(換言すれば、どのような会社が上場会社にふさわしい、もしくはふさわしくないと考えているか)を把握した上で申請書類を作成することが、上場審査をよりスムーズに進める上で有効です。
今回は上場審査の中心に位置する申請書類の作り方について、上場審査ポイントとの関係や作成実務上の留意点にフォーカスして解説します。なお、文中の意見に関する部分は私見です。

2.株式上場審査におけるIの部・IIの部の位置づけ
Iの部の内容は株式上場後の継続開示書類である有価証券報告書とほぼ同様ですが、IIの部においては申請会社の概要等について、より詳細な記述が求められています。証券取引所や主幹事証券会社の審査担当者はIの部・IIの部を読み込むことで会社の実態を把握しますので、申請書類の中で、上場会社にふさわしい会社であることを適切に表現できなければ、審査は滞る可能性が生じてきます。
また、Iの部については、開示ルール通りに作成されているか、期限内に社内で作成できるかという点も審査され、上場後の継続開示書類作成能力の審査にも用いられます。
なお、東証マザーズや大証ヘラクレス等ではIIの部の作成は求められていませんが、上場審査の過程で同様の資料の提出を求められる可能性があります。

3.IIの部の記載内容と、審査ポイントとの関係
上場審査は申請書類の審査を通じて行われますが、審査要点はIIの部の記載項目と明確に対応しています。
証券取引所の上場審査では、以下の5項目について重点的に審査されますが、各項目の主な審査ポイントとIIの部の関係を示すと表1のとおりとなります。

表1:審査ポイントとIIの部の関係
審査項目 審査のポイント IIの部の関連箇所
(1)企業経営の継続性および経営成績の見通し ●申請会社が独自に事業活動を行う上で必要な人員を確保できているか?
人事政策や、最近の人事異動状況、今後2年間の人員計画などから審査されます。
IV.9.従業員の状況について
●経営活動を安定的に行うために仕入、生産、販売の状況に不安定要素は含まれていないか?
最近の業界の動向や製・商品及びサービスの特徴、仕入の状況(主な仕入先など)、生産の状況(主要商品の製造工程図など)、最近3年間の受注実績・生産実績の推移などから、審査されます。
III.事業の概況について
●申請会社は上場後に良好な損益・収支の見通しを有しているか?
今後2年間の損益計画、キャッシュ・フロー計画、セグメントごとの投資計画などから審査されます。
IX.今後の見通しについて
(2)経営管理体制の整備及び運用の状況 ●社内諸規則の内容や経理管理の具体的方策、管理状況は適切か?
最近の組織図、コーポレート・ガバナンスに関する取組み、子会社等に対する管理方法などが審査されます。
IV.経理管理体制等について
III.2.(11)事務フロー
●組織運営や規程の遵守状況についてチェックを行う内部監査の実施状況は適切か?
内部監査の基本方針や内部監査部門の人員、内部監査の内容などが審査されます。
IV.3.内部監査について
(3)企業内容の開示の状況 ●開示書類が法令等に準じて適切に作成されているか、同業他社等の有価証券報告書と比較して、投資家にとってわかりやすい開示であるか?
適時開示体制の整備に向けた取り組み内容や、開示担当組織の状況、最近における決算発表日や決算発表早期化への取組み内容などが審査されます。
IV.5.適時開示体制について
●開示書類作成の基本となる日常の経理処理が、経理規程等に基づいて適切に行われているか?
各勘定科目の明細や監査意見、国税庁からの調査の概要などについて審査されます。
VI.経理の状況について
(4)特別利害関係者、人的関係会社及び資本的関係会社の状況 ●親会社等が存在する場合に、親会社等の意図により申請会社の自由な事業活動が阻害されていないか?
親会社を中心としたグループにおける申請会社の役割、役員の兼任状況、グループ内での取引関係などが審査されます。
II.3.親会社等の関係について
●特別利害関係者等と取引関係がある場合、申請会社にとって取引を行う合理的な理由、必然性があるか、また取引条件が適正であるか?
親会社等との取引関係、役員等との取引関係が審査されます。
II.3.親会社等との関係について
IV.8.役員及び役員に準ずる者について
(5)その他必要と認める事項 ●事業活動や業績等に重要な影響を与える係争事件等はないか?
係争・紛争事件、法令違反等の状況、反社会的勢力との関係などが審査されます。
X.その他について
●内部情報の管理体制やインサイダー取引防止策はどのようにとられているか?
重要事項の管理体制、役職員のインサイダー取引防止策などについて審査されます。
IV.6.内部情報管理体制及びインサイダー取引防止策について

4.作成実務上の留意点
1) Iの部・IIの部や、会社法において作成が義務付けられている事業報告・計算書類には、記載内容が重複する部分が多く見られます。上場審査では、開示書類作成能力の審査のために、これら複数の書類間の整合性も確認されます。したがって、各書類間の整合性を確認するとともに、開示書類作成に必要なデータは1箇所に集め、できるだけ同じデータから各開示書類を作成する、などの対応が必要になります。

2) Iの部は上場審査の際に会社の状況を要約して伝える資料ですが、その内容は株式上場後の継続開示書類である有価証券報告書に引き継がれます。例えば「セグメント情報」における事業部別セグメントの決定では、情報の比較可能性を保持する観点から、相当程度継続性を維持する必要がありますので、将来の事業展開を考慮に入れて、慎重に判断する必要があります。

3) 研究開発活動の記載については、特に研究開発型のメーカーにおいては企業の将来性や成長性を判断する重要な事項である反面、企業機密に属する部分も含まれるため、記載内容を慎重に選定する必要があります。

5.おわりに
上場準備の過程において、Iの部・IIの部といった申請書類の作成は、最も時間と労力を必要とする業務ですが、新規に上場を目指す会社は、準備の初期段階で社内に作成ノウハウを有していない場合が多くあります。しかしながら、申請書類作成の過程で、社内管理体制の不備が明確になり内部統制の構築に役立ったり、継続開示書類である有価証券報告書作成ノウハウが社内に蓄積されると考えられますので、専門家の助言を得つつ検討を加えながら作成していく必要があると言えるでしょう。
以上
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