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トピックス 2007.4.25
日本証券業協会の『「会員における引受審査のあり方・MSCBの取扱いのあり方等ついて」
― 会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ最終報告 ―』の公表について
IPO支援室 公認会計士 津村 陽介
1.はじめに
日本証券業協会は、平成19年2月22日付けで『「会員における引受審査のあり方・MSCBの取扱いのあり方等ついて」― 会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ最終報告 ―』(以下「最終報告」という。)を公表した。
昨年9月以降、日本証券業協会は3回に亘って『「会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ」における検討状況』(以下「第一次報告」、「第二次報告」、「第三次報告」という。)の公表を重ねてきたが、その後に検討を行った、会員における引受審査体制の強化に向けた対応等並びに昨今社会的にも大きな影響を呼んでいるMSCBの取扱いのあり方等に関する検討事項も加え、最終報告として取りまとめている。
以下では、IPO(新規株式公開)における引受審査に関連する項目を中心に解説することとし、IPOに関係する第一次報告の内容については、『日本証券業協会の『「会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ」における検討状況(第一次報告)』の公表について』(2006.11.1)に掲載しているため、その内容は概要に止め、最終報告までに追加された項目を中心に解説する。

2.第一次報告の内容
第一次報告は、金融庁の「証券会社の市場仲介機能等に関する懇談会」で取りまとめられた論点整理(以下「市場仲介機能懇談会論点整理」という。)で追加すべきとされた引受審査項目(コーポレート・ガバナンスの状況、事業計画・業績見通しの妥当性、企業の成長性、資金使途の適正性、関係会社の管理状況、財務データの整備状況及び適時開示に向けた体制の整備状況)を踏まえつつ検討が行われたものであり、その内容は、公正慣習規則第14号第3条の内容を改正し、新たに24項目の審査項目を規定するものであった。
IPO時に会員が行う引受審査の具体的項目として、以下の大分類9項目が設けられ、当該大分類を細分化した中分類24項目が規定されている。

1 公開適格性
2 企業経営の健全性と独立性
3 事業継続体制
4 コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況
5 財政状態及び経営成績
6 業績の見通し
7 調達する資金の使途・売出しの目的
8 企業内容等の適正な開示
9 その他会員が必要と認める事項

3.引受審査に関する実務指針の見直し
現在、会員が実施している引受審査手続きの基本となる引受審査に関する実務指針は、平成4年8月に制定された「有価証券の引受審査手続きに関する事務処理指針」であり、制定から相当の期間が経過している。このため、平成18年10月26日付けの第二次報告において、同実務指針を廃止し、公正慣習規則第14号及び同規則細則に以下の内容について新たに規則化すべきであると公表されており、入手すべき引受審査資料の内容等が記載されている。

● 発行者の監査人との間で適切な連携をとる旨
● 引受審査を行うにあたって十分な審査期間を確保する旨
● 主幹事会員はその他の引受けに参画する会員の引受審査に可能な限り協力する旨
● 引受審査に使用する資料や日程などの具体的な手続き等

4.引受審査体制の強化等に向けた対応
市場仲介機能懇談会論点整理において、証券会社における引受け等の審査体制の強化に関し、引受審査の独立性の確保、引受審査の社内マニュアルの整備、内部監査部門等による引受審査の適切性のチェック体制の整備等に関する具体的な基準を整備することが求められており、最終報告ではこれに対する具体的な方策が取りまとめられている。

(1)引受審査の独立性の確保
引受審査業務(発行会社等から収集した資料及び情報を基に、引受責任等を果たすために必要な審査を行い、引受判断の基となる審査意見を形成する業務)を遂行する部門は、引受推進業務(引受案件獲得のための営業推進に係る業務)及び引受業務(企業に対してファイナンスの提案・指導、株式公開準備指導を行う業務)を実行する部門の影響を受けずに独立した審査意見を形成し、それを基に健全な引受判断が行われるように、原則として一定水準の組織的・人的な分離・独立を図るべきであり、以下の内容を規則化すべきとされている。

引受けを行う会員は、引受審査部門における独立した審査意見の形成とそれを基にした健全な引受判断を行うため、社内牽制機能が十分に発揮されるよう、次に掲げるすべての要件を満たす指揮命令系統を分離した組織体系を構築しなければならない。
1 
2 
3 
引受審査業務を遂行する担当者は、引受推進業務及び引受業務に携わらないこと
引受審査部門と引受推進部門及び引受部門を同一の役員が担当しないこと
独立した審査意見の形成と、それを基にした健全な引受判断を行うために必要な社内規則及び社内マニュアルを整備すること
ただし、上記の要件については、それと同等に社内権性機能が十分に発揮される場合として、次に掲げる要件をすべてみたす場合には、この限りではない。
1 
2 


3 

4 
引受審査業務を遂行する担当者は、当該引受審査案件に係る引受推進業務及び引受業務に携わらないこと
すべての引受案件について、法務コンプライアンス部門を含む複数の責任者により構成される、引受の可否・条件を判断する会議体(当該案件に係る引受推進業務に携わる担当者が会議に参加することを妨げないが、その場合、引受判断の決議からは排除すること)において、引受判断を行うこと
法務コンプライアンス部門の責任において、引受判断に係る資料及び情報の分析・評価を行うとともに、引受判断の形成過程についての適正性・十分性を確認すること
独立した審査意見の形成と、それを基にした健全な引受判断を行うために必要な社内規則及び社内マニュアルを整備すること

(2)引受審査マニュアルの整備
会員の引受審査に関し一定水準を確保する観点、また、問題が発生した場合の事後的な検証可能性の観点から、以下の内容を規則化すべきとされている。





引受けを行う会員は、今回新たに規定するIPO、PO、REIT及び普通社債に係る引受審査項目の新設・細分化等を踏まえ、これらを適切に審査するための引受審査に関する基準(審査項目、確認の手続き等)を社内規則及び社内マニュアルとして定めることとする。
引受けを行う会員は、審査意見の形成から引受判断に至るまでのプロセスに係る記録を作成・保存することとする。
引受けを行う会員は、社内規則及び社内マニュアルを協会に提出することとする。

(3)内部管理部門によるチェック
引受審査の適切性をチェックするための体制整備として、以下のような検査・監査が求められている。

引受けを行う会員は、次に掲げる事項について、各社の定める検査・監査機能を十分に活かして定期的に検査・監査を行うこととする。
1 

2 
上記(1)に基づき整備される組織体制において、独立した審査意見の形成と、それを基に健全な引受判断が行われるよう、社内牽制機能が十分に発揮されていること
上記(2)に基づき整備される社内規則及び社内マニュアルに従い、引受審査に関する基準(審査項目、確認の手続き等)が適正に運用されていること
引受けを行う会員は、上記の検査・監査が適正に行われるよう、社内規則及び社内マニュアルについて、その内容を充実させるよう努めることとする。

5.その他の論点
(1)引受審査終了後の重大な状況変化への対応
引受審査終了後に引受審査の前提となった業務業況等に重大な変更が生じることが判明する場合がある。上場までに判明した場合には上場日程の見直しが可能であるが、上場直後に発行会社から重要事実が公表された場合、株価を含めた市場への影響は大きい。そのため、その事実が上場前に発生していたのか否か、発行会社からの説明に不実はなかったのかを確認し、有価証券届出書等の開示が適切であったかを検証することが求められている。
有価証券届出書等の開示と引受審査の前提となった発行会社の業務状況等に重大な格差があったことが判明した場合には、当該発行会社に対して、その原因を投資家に説明するよう要請することとされている。

(2)証券取引所や主幹事証券会社の変更
審査途上における上場申請予定市場の変更や主幹事証券会社の交代は、あくまで上場に向けてのプロセスの問題であるが、交代が安易に行われているとの指摘を踏まえ、証券取引所の変更、主幹事証券会社の交代又は監査人の交代が行われたことを知りえた場合には、変更及び交代の理由を確認するために最大限努力するとともに、その理由に合理性があるかどうか十分に検討することが求められている。

(3)株式を保有する会社の引受審査の適正性確保
主幹事証券会社の自己投資部門が株式を保有している場合、本来公開すべきでない会社であっても公開させることにより自己の投資資金を回収できるのみならず、公募価格を高くプライシングする程自己の収益に繋がるという利益相反の問題が生じ得る。
しかし、今回制定される引受審査項目、審査手続により審査の適正性が確保されると考えられることから、特に新たな体制等の整備は求められていない。

(4)主幹事証券会社とその他の引受証券会社における引受審査のあり方
証券取引法上の責任(同法第17条に規定される目論見書使用者としての責任と、同法第21条に規定される有価証券届出書の記載内容に係る責任)について、主幹事証券会社とその他の引受証券会社との間で軽重が設けられているものではないが、実質的な責任の分担等の実務を配慮して、その他の引受証券会社が行う引受審査は、原則として、主幹事証券会社を通じて取得する情報に基づき行うこととされた。

(5)会員と監査人の協調・連携の促進
コンフォート・レター制度について、日本証券業協会と日本公認会計士協会の間で協議が行われ、平成19年4月3日付けで、『「監査人から事務主幹事証券会社への書簡」(要綱)の改正について』が公表されているが、最終報告では、証券会社が引受審査業務を適正に遂行していくためには、監査人等との適切な役割分担に基づく協力体制の構築が必要不可欠であると考えられることから、コンフォート・レター制度が形骸化しないよう、欧米の制度等を参考としつつ、今後も双方の業界レベルでの建設的な話し合いを継続するとともに、関係当局も含め、その位置付けについて適切な議論がなされるべきであると述べられている。

(6)海外発行についての準用
海外における本邦企業の資金調達について、会員の海外関連会社が引受けを行う場合は、原則として海外関連会社が服するべき現地の証券取引規制に基づき、必要・十分な審査が行われるべきであるが、既存株主の影響や、ユーロ円CBのように我が国投資家に還流するケースもあることから、会員が海外関連会社を斡旋する場合には、適切な審査が行われるよう要請を行う、又は必要に応じて会員自身が代行して適切な審査を行うこととされた。

6.今後の課題
市場仲介機能懇談会論点整理においては、「各審査項目についても評価基準を設定することが考えられる。」旨が指摘されているため、引受審査項目の審査に係る具体的な内容や留意点については、今後、日本証券業協会のガイドライン等において、別途明確化していく方向で検討が行われることが望ましいとされている。

7.MSCBの取扱い
(1)最終報告公表の経緯
MSCB(Moving Strike Convertible Bond:転換価額修正条項付転換社債型新株予約権付社債)は、一般的に、CB(転換社債型新株予約権付社債)の株式への転換価額について、発行会社の株価が変動した場合に随時修正が行われる商品をいい、昨今の上場企業におけるエクイティファイナンスにおいて相当の割合を占めるに至っている。しかし、MSCBは、MSCBを利用することによる株式の希薄化(一株当たりの価値の低下)及び株価下落が、既存株主の利益を損ねているのではないか、MSCBを買い受けた投資家の投資行動(ヘッジのための空売り等)が、発行後の株価下落を招いているのではないかといった社会的な批判がある。市場仲介機能懇談会論点整理において、証券会社による買受け時の留意事項を整理・明確化する必要性や証券会社の自己規律の維持・向上の必要性について指摘がなされたため、MSCB分科会及びMSCBセカンダリー分科会において、MSCBの取扱いについて検討が行われた。

(2)規則の概要
各分科会での検討は、会員がMSCBを買い受ける際の留意事項、MSCBに係る流通市場での取引きのあり方、市場の公正性に配慮した商品設計のあり方及び会員以外の者がMSCBを買い受ける場合の取扱いに関して行われた。その結果、以下の内容について、理事会決議として新設すべきであるとの結論に至っている。

1 買受け時の確認事項
(a)財政状態及び経営成績
(b)調達する資金の使途
(c)株価等の動向
(d)市場及び既存株主への影響
(e)企業内容等の適切な開示
(f)その他会員が必要と認める事項

2 発行会社に対する十分な商品説明及び適切な開示の要請
(a)経営者等に対する十分な商品説明
(b)適切な開示の要請

3 流通市場における取引に関する規定
(a)観察期間等における株式の売却規制
(b)モニタリング

4 転換制限
5 会員以外のものがMSCBを買い受ける場合の取扱い
6 社内規則の制定

(3)発行会社への影響
MSCBを発行するに際しては、上記(2)の確認事項等への対応が必要になるが、特に2(b)に関して、発行会社がMSCBを利用することによる企業価値の向上について対外的に十分な説明を行わないことにより、既存株主の利益を損ねる可能性があるため、1.調達した資金の使途、2.MSCBを発行する理由、3.割当先の選定理由、4.発行条件の合理性、5.発行会社の役員等会社関係者における株券貸借の予定、6.MSCB発行後の新株予約権の行使状況等に係る開示を充実させることが要請されている。規則は日本証券業協会の会員に対して適用されるため、会員の斡旋を伴わずに会員以外のものにMSCBを割当てる場合や、会員以外のものがMSCBを流通市場において取得する場合には適用されない。投資家保護の観点から、下記3項目については証券取引所から上場会社に対して要請又は必要な範囲で義務化されるよう、証券取引所に検討要請をすべきとの結論が出されている。



上場会社自身において、上記(2)1(a)〜(f)の確認項目について十分に確認・検討を行うこと
上記(2)2(b)の開示を充実させること
MSCBの発行条件として、株価が発行決議日の終値以上の場合等一定の場合を除き、月間に払込日時点の上場株式数の10%を越える株式への転換請求を行えない旨の転換制限条項を付すこと
以上
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