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トピックス 2007.5.30
東京証券取引所による上場制度整備懇談会中間報告について
IPO支援室 公認会計士 岡田 雅史
1.はじめに
東京証券取引所では昨年6月に証券市場の健全性の確保を目的に、「上場制度整備プログラム」と題する実行計画を公表した。当該プログラムでは様々な観点から具体的な施策の検討が行われたが、その中で実施タイミングの点で「具体案の策定に向け問題点の整理を行う事項」及び「検討に着手する事項」に分類された項目の中から特に優先度の高い項目に関して、東京大学の神田秀樹教授を座長とする外部有識者による上場制度整備懇談会で検討が重ねられ、平成19年3月27日に中間報告として取りまとめられたものが今回の報告である。なお、前述したすべての項目について検討されたわけではないため中間報告の位置づけとなっている。

2.整備に向けた基本方針
懇談会から提言された上場制度の整備に向けた基本方針は以下の5つである。

●市場の健全性確保に向けて、上場会社などの市場関係者に対して証券市場を構成する一員としての一層の自覚を促すような制度を整備する。
●会社情報の開示の一層の充実を図ることにより透明性を確保する。
●投資者保護及び市場機能の適切な発揮の観点から、企業行動に対して適切な対応をとる。
●上場会社などの市場関係者にとってより使い勝手のよい市場の整備に取り組む。
●上記の対応に当たっては、国際的な整合性に配慮する。

3.制度整備の方向性
懇談会が提言している具体的な制度整備の内容は、大きく分けて上場企業の行動に対する制度整備と市場の枠組みに関する制度整備の2つに大別され、それぞれに個別の項目が示されている。
以下、各項目の内容について説明を行う。

(1)企業行動に関する制度の整備
イ.適時開示のあり方

適時開示制度については、開示対象項目及び開示を要しない軽微基準に関して昨今の経済事象や企業行動をカバーできていない、もしくは開示レベルが企業によって異なる等の問題点が指摘されている。また形式的な要件にとらわれない項目についての積極的な開示を促す施策が求められている。
これについては、現行と同様に開示項目に関する個別条項や軽微基準を規定することに加え、それらに該当しなくても投資判断上重要な項目について開示が行われるよう開示すべき事象についてのメルクマールや具体的な開示事例をガイドラインにおいて示すことや、個々の開示内容や開示のタイミングについて開示・記載上の注意事項やQ&Aをガイドラインに盛り込むなどの対応が提言されている。
また軽微基準についても連結ベースの財務数値の基準への見直しが提言されている。

ロ.企業行動に関する行為規範の制定
(i)企業行動に関する行為規範のあり方

現状、東証は上場時には上場審査基準への適合性を審査してきたが、上場後については上場会社の企業行動に関与しないこととし、適時開示規則によって規制を図っている。しかしながら昨今の市場の信頼性を害するような企業行動に関しては、上場会社が遵守すべき何らかの行為規範を提示し市場の公正性や健全性を保つための施策を求めている。
これに対する提言としては、上場会社が遵守すべき行為規範の制定が述べられている。行為規範は一般的な行為規範として流通市場の機能及び株主・投資家の権利を尊重すべき旨を明確化するとともに、(ii)以降で述べる項目及び従来の尊重義務とされてきた項目を含めて行為規範化することが提言されている。

(ii)株式の発行に関する規範
最近のMSCB(Moving Strike Convertible Bond:転換価額修正条項付転換社債型新株予約権付社債)の発行や大規模な第三者割当等に伴う株主価値の希釈化等、一般株主の権利が害されるケースが散見されるが、会社法では発行済株式総数の4倍という規制が存在するのみである。諸外国では上場規則上で大幅な株式発行に関して株主の承認を求めているケースも散見されるため、懇談会では支配権が変更するような大規模な株式発行については株主の同意を必要とすべきとの提案が行われたが、会社法が要求する以上の規則制定については反対意見も多く、引き続き検討を要する事項として保留された。

(iii)コーポレート・ガバナンス
コーポレート・ガバナンスに関しても、上場企業に対して一定の組織体制を求める規則は従来定められていない。会社法でも監査役会、会計監査人の設置は大会社については義務付けられているが、大会社以外は上場会社であっても義務付けられていない。さらに社外役員については監査役会における社外監査役、及び社外取締役については委員会設置会社での各委員会における社外取締役の設置しか規定がない。
懇談会ではこのような制度の現状に対し、東証からガバナンス体制のベストプラクティスを示すことを提案しており、引き続き検討を要する事項とされた。特に新興市場については上場会社の品質向上の観点から監査役会及び会計監査人の設置については必要最低限の機関として、施行までの猶予期間を設けた上で義務化を含めて検討することが提言されている。また、会社法上の内部統制システムの決定や参考書類の交付もすべての上場会社に求めることが適当との見解が示されている。

(iv)利害関係者との利益相反取引
親会社や支配株主が存在する企業では、それらの利益が優先され少数株主の利益が不当に害される可能性も考えられるが、それらに対する牽制については会社法では取締役と会社との利益相反取引についての取締役会への開示と承認が必要と定められてはいるものの、親会社や支配株主との取引については一般には含まれていない。
このような現状について懇談会では、取引の公正性を担保する仕組みとして、親会社(親会社の子会社を含む)または支配株主との重要な取引については、社外役員により構成される特別委員会等の承認を得ることや社外役員による親会社との取引の監視の充実を図るため、親会社を有する上場会社に対し親会社出身ではない社外役員の選任を求める旨の提言がなされている。

(v)MBO及び親会社・支配株主による買収
MBOや親会社・支配株主による買収についても前述の利益相反取引と同様、実行過程で情報の非対称性が生じ、結果的に少数株主の利益が害される危険性をはらんでいる。また特にMBOについては経営者による株価誘導の可能性も否定できない。懇親会ではこのような利益相反による弊害の防止について、前述した利益相反取引に対する措置と同様の承認プロセスを求めるべきとの提言がなされている。特にMBOについては経営者自身が主体となる点で利益相反の度合が高く、一定の行為規範の提示が必要との見解が述べられている。

(vi)実効性の確保
行為規範の位置づけについては、ベストプラクティスの提示としての内容も含まれることとなるため、すべてを上場廃止を前提とする運用は好ましくないとの見解が示されている。しかしながら行為規範の中には上場会社として当然遵守しなければならない項目も含まれており、違反行為に対しては上場廃止、公表措置、目標を示すだけで特段の実効性確保設けない等の段階的な取り扱いとし、それらの決定については遵守の必要性と遵守する際のコスト、遵守内容の具体性を勘案して選択することが提言されている。

ハ.子会社上場制度のあり方
子会社上場については、新たな投資対象の市場への提供、コングロマリットディスカウントの解消、親会社とのシナジー関係の維持や親会社による子会社へのガバナンス等、積極的な意義も見出せる場合もあるが、親会社と少数株主との間には前述したような潜在的な利益相反関係がある。また親会社による上場後の短期間での完全子会社化や親会社と同一事業の子会社上場による、新規上場時の利益の二重獲得等、大部分の市場関係者にとって望ましくない状況を生じさせていることも事実である。
このような状況に対し懇談会では、本来好ましい上場案件であるスピンオフまでも閉ざしてしまう子会社上場そのものを禁止することは適切ではないが、投資家や子会社上場を検討する会社に対して注意を促す観点から、子会社上場をは必ずしも推奨されるべきでないとの基本スタンスを明示することが提言されている。
また現行、新規上場時に求めている親会社からの独立性については、既上場会社が親会社を有することになった場合や、前述した利益相反取引に対する防止手段の実施や親会社出身以外の社外役員の選任等の措置の実施、親会社を有することのリスクの投資家への周知徹底の強化を求めている。さらに上場親会社と実質的に同じ事業を行っている中核的な子会社については上場する意義が乏しく制限的に取り扱うことが望ましいとの見解が示されている。

ニ.種類株式の上場制度
商法改正、会社法制定による種類株の利用が容易になるとともに敵対的買収に対する防衛策の点からは、議決権の行使に制限が加えられているような議決権種類株式が注目されており、懇談会でもこの議決権種類株式について優先的に検討が行われている。
懇談会では議決権種類株の上場を検討する視点として以下の4つを示している。

●支配権の移動が起こらない株式を上場させることの是非
●支配株主と少数株主との間の利益相反
●リスクの負担と支配の比例
●上場後に議決権種類株式を導入することの是非

上記各視点から判断した場合、特に支配権の移動を妨げ、リスクの負担と支配が比例しない点で議決権種類株式の上場は必ずしも望ましくはないが、新規上場時に発行している場合に限定すれば、既存一般株主の権利を毀損せず、また十分な情報開示がなされた上で種類株を取得したのであれば、株主はリスクを了承していることになる。この点を考慮し懇談会では原則として議決権種類株式については新規上場時にのみ認める方向で検討することが提言されている。

(2)市場制度の整備
イ.市場区分のあり方

現在の東証は大きく本則市場とマザーズの2つの市場を運営しており、本則市場はさらに流動性の違いから市場第一部・第二部に区分されている。しかしながら市場からの見方は流動性に留まらず、上場企業の品質が相違しているとの認識が一般的であり、その点市場からの評価の視点が第一部・第二部を区分する基準に含まれておらず整合していない。また市場区分は流動性の違いであるにもかかわらず、現状の一部指定審査では新規上場審査と同様の実質審査を行っている点についても整合していない。
このような現状に対して、懇談会ではTOPIX等の指標の継続性に注意しつつ、市場からの評価を加味した明確かつ定量的な基準(浮動株時価総額など)の検討を提言している。
なお、この定量的基準が明確化された段階で、現状の一部指定時の実質審査を行わないことと、その代わりとして既上場会社に対する経営管理体制の継続的な確認を実施する点も述べられている。確認をが求められる事態として、規模の大きい非上場会社との経営統合、故意重過失の適時開示規則違反、株主、役員構成の大幅な変更、事業内容の短期での著しい変化が挙げられている。

ロ.新興市場のあり方
マザーズは新興企業に対しリスクマネーを供給することを目的として開設された市場であり、上場企業には調達した資金をてこにした成長の実現が期待されている。
しかしながらマザーズと本則市場は現行規則上、並立的な位置付けとなっており双方向での上場も認められている。この点は高い成長が見込まれ、いずれ本則市場への上場が期待されるマザーズの基本的性格と整合していない。
またマザーズ上場後は上場時の経営管理体制から高い水準への経営管理体制の整備が求められるはずであるが、それについての確認ができない点、さら上場時に見込まれた高い成長性が上場後実現されていない場合の対応等の問題点がある。
これらの問題点について懇談会では、現状の並立的な位置付けを見直し、マザーズは成長の初期段階にあり、かつ将来的に本則市場に上場することを志向する企業に早期に資本市場にアクセスする機会を提供する市場と改めて位置付けることを提言している。
また市場の信頼性向上のために、例えば上場後一定期間を経過したマザーズ上場会社に対して本則市場に新規に上場する場合の実質審査に相当する審査を実施する等により、経営管理体制の整備に対する対応を強化すること、さらにマザーズ上場後5年経過しても一定規模の売上や当期利益を計上できない場合は上場廃止とする措置を導入し、所定の成長を達成できない企業をふるいにかけ、マザーズの質の維持を図ることが提言されている。

ハ.売買単位の集約
現状の上場株式の売買単位は1株から3,000株まで7種類存在しており、価格の比較が行いにくい点や誤発注の原因のひとつとなっている点で望ましくない。
これについて懇談会では将来的に売買単位は1種類に統一することが望ましいが、当該単位をどの水準するかは現状を考慮して進める旨の提言がされている。
具体的には現状の投資単位水準の尊重義務やくくり直しの実施状況等を考えた場合、1単元100株を将来的な目標とすることが望ましいが、現状の1単元1,000株を採用している会社の数を考え、当面はこの2種類への集約を目標とすることが述べられている。

ニ.流動性等に係る基準の見直し
上場審査基準・廃止基準での株式の流動性等については、上場株式数、株主数、少数特定者持株数及び売買高の4つの基準を設けている。
この基準のうち株主数基準については逓増的な体系に加え、投資単位水準や売買高による優遇措置等により過度に複雑な基準になっている。実態面でも、好業績で高い株価水準の場合、株主から利益確定の売却等も予想され、経営努力と株主数の相関性は必ずしも高いとはいえない。また少数特定者持株数については基準自体の複雑性に加え、基準の設定が数量でなく一定の比率を求めることから、発行済株式数が多く市場での流動性に関して問題のない銘柄が基準に抵触してしまう状況となっている。
その反面、マザーズについては少数特定者持株比率に係る基準がなく、このため新規上場時の十分な募集・売出しがされず結果として株価の乱高下を招いている可能性がある。
これに対し懇談会では、本基準の趣旨である流動性の確保に焦点を当て、上場廃止基準については株主数基準を一定水準で固定化すること、少数特定者持株数に代えて一定の浮動株式数及び浮動株時価総額を求めることが提言されている。
また上場審査基準については上場廃止基準に上乗せした水準を求めるとともに、上場直後の株価の乱高下や上場会社としての自覚を促す観点から、現状のような大株主の保有比率を抑制する概念を残すこと、またマザーズについても市場の特徴を配慮しつつ本則市場と同様の基準の整備することが述べられている。

(3)上場諸規則の実効性の確保
現状の上場諸規則の実効性の確保の手段は、上場廃止のほかは注意勧告制度や改善報告書制度に限定されており、上場廃止に至らない程度の重大な規則違反に対する適当な実効性確保手段が十分整備されていない。
この点について懇談会では、実効性確保の手段については多様化を図る必要がある旨の提言がなされており、具体的には一定の制裁金を課す制度の導入や本則市場とは別の新たな市場区分を設け、その中で上場管理上の継続的なチェック(区分管理)を行うといった制度が提案されている。
なお上場会社への上場廃止等の適用については、決定プロセスの透明性に加え、廃止決定後の銘柄の流動性の確保の枠組みを検討するとともに、現状の監理ポスト制度について呼称の見直し等を中心とした制度の見直しが提案されている。

4.今後の進め方
本懇談会の内容を受けて、本年4月に上場制度整備プログラム改訂が行われ、それに基づいた上場規則改正がその後実施される予定である。なお今回の中間報告では触れられていない事項(例えば内部統制報告制度の上場規則上の取り扱いなど)についても今後の上場制度整備プログラムの中で取り扱いが示される予定である。
以上
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