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株式公開
トピックス 2008.2.27
2007年 IPO市場の動向
IPO支援室 公認会計士 津村 陽介
1.はじめに
息の長い回復を続けてきた日本経済も、原油価格の高騰、サブプライムローン問題、米景気の減退懸念によって先行き不透明感が強まってきている。株式市場を見てみると、2007年大納会の日経平均は1万5,307円となり、5年ぶりに前年末を下回り(1,918円安)終了した。さらに2008年大発会は616円の大幅下落でスタートし、1月22日には2年3カ月ぶりに1万3,000円割れを記録している。
新興市場においては、近年多数の不祥事が発生した影響で個人投資家離れが進むとともに、銘柄選別の傾向が強まっている。IPOに関しても初値が公募価格を割り込む銘柄が多く発生しているが、昨年8月にサブプライムローン問題が顕在化し株価が急落した後は、さらに市場の需給関係が悪化してその傾向に拍車をかけている。
このような状況の中、2007年は年間で121社が新規上場を果たしているが、その概要について各取引所の特徴を踏まえながら整理してみることとする。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見である。

2.過去5年間の新規上場会社数の推移
過去5年間の新規上場会社数の推移
過去最多の203社が新規上場(店頭登録を含む)した2000年以降、2003年までは株式市場の低迷により新規上場会社数の減少傾向が続いたが、2003年の後半から株価水準が8千円を割り込む状態から脱して回復に向かったこともあり、2004年の新規上場会社数は175社と増加に転じ、2006年には188社と200社に迫る状況となった。
しかしながら、2007年は一転121社と大幅な減少となった。これは新興市場の株価下落によって想定していた資金調達ができないため申請を見合わせる会社が増加していることや、引受審査・上場審査がより慎重に実施される傾向にあることの2つの要素が影響しているものと推察する。
株価下落の要因の一つとして、近年新興市場に上場した企業が、反市場的な企業行動をとったり、上場直後に業績の下方修正を発表したりするなどの問題が発生していることがあげられよう。2006年初めに発覚したインターネット企業の不祥事をきっかけに新興市場の株価は下落に転ずることになるが、個人投資家が新興市場に戻ってくることはなく株価は低迷したままとなっている。日本経済全体の減退傾向もあり、2008年1月15日にはヘラクレス指数が1,000を割り込み、2003年7月に公表して以来の安値を更新している。
新興企業の問題発生の背景としては、近年引受審査業務に新規に参入する証券会社が多くなり、引受審査の状況に格差が生じてきていたことがあげられる。上場直後の下方修正は、十分な引受審査が行われていないとの見方があり、反市場的な行動は主幹事証券会社による経営陣への啓蒙が足りないのではないかとの批評もある。このような状況を受け、日本証券業協会は2006年9月以降3回に亘って『「会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ」における検討状況』の公表を重ね、2007年2月22日付けで、最終報告を取りまとめた。これにより引受審査体制の強化等に向けた対応が図られているが、中小の証券会社の中には最終報告が要求している水準の審査体制が整えられていないものもあり、対応に時間を要しているのではないかとも推察される。
市場別にみると、2004年に56社が上場したマザーズは、2005年以降上場件数が減少している。2004年3月に上場した不動産業の会社の不祥事が上場直後の4月に発生し、5月には東京証券取引所(東証)に対して金融庁から業務改善命令が出された。IT関連企業の粉飾決算が表面化したこともあり、それ以降の上場審査に少なからず影響を及ぼしたものと考えられる。2007年は前年が41社だったのに対して23社に激減している。第3四半期までは19社と前年度比4社減程度であったが、第4四半期にはわずか4社しか上場を果たしていない。
2002年に大阪証券取引所(大証)とナスダックの業務提携が解消されて誕生したヘラクレスは、低迷時期を抜け出し2006年には37社と躍進したものの、2007年は一転25社に減少している。注文件数急増に伴うシステムトラブルにより、2005年5月から同年10月まで新規上場の受付を停止したため2005年の上場会社数が伸び悩み、受付再開後の2006年に新規上場が集中したことも要因の一つであるが、大手証券会社以外が主幹事となることの多いヘラクレスやその他の新興市場に引受審査のあり方の見直しの影響が出た可能性がある。
ジャスダックは、2004年12月に証券取引所に移行して直接上場審査を行うようになった。上場までに要する期間は間接審査の時代と比べて大差はないと言われているが、上場会社数は減少傾向にある。ジャスダックに上場申請する場合、上場申請直前事業年度においても「上場申請のための半期報告書」の提出が必要で、公認会計士(監査法人)の監査意見の添付も必要である。「上場申請のための報告書」(いわゆるIIの部)の提出も必要であり、マザーズやヘラクレスに比べて事務負担が大きいことが伸び悩む原因ともなっている。

3.2007年の各証券市場別の傾向
【取引所(一部・二部)】
2007年の取引所(一部・二部)への直接上場は15社(前年33社)と大幅な減少となった。好景気を反映してか33社と大幅増加となった昨年とは一変しており、近年では最低の水準となっている。東証が13社(前年29社。重複上場4社含む。)を占めており、そのうち一部市場へ直接上場した会社は6社(前年13社)であった。東証は中国をはじめとするアジア企業に対して積極的に上場誘致を行っているが、4月26日にマザーズに上場したアジア・メディア・カンパニー・リミテッドに続き、8月8日にはチャイナ・ボーチー・エンバイロメンタル・ソリューションズ・テクノロジー(ホールディング)カンパニー・リミテッドが中国本土系企業として始めて東証直接上場を果たしている。
売上規模としては100億円以上が12社と全体の8割を占めており、約3分の2の会社が経常利益15億円以上、当期純利益10億円以上を計上している。

【ジャスダック】
2007年のジャスダックへの新規上場は46社(前年56社)であったが、一方で相変わらず東証への上場を目指す会社も多く、18社(前年22社)が東証に上場した。東証に移行する会社は比較的規模が大きいため、ジャスダックの市場規模が伸び悩む原因ともなっている。
ジャスダックは他の証券取引所とは異なり、これまで成熟企業向け市場と成長企業向け市場を区分していなかったため、売上規模は30億円未満から500億円未満の広範囲に分散する傾向が続いており、経常利益、当期純利益とも1億円から10億円に分散している。約3分の2の会社が経常利益15億円以上、当期純利益10億円以上を計上している一部・二部市場に比べれば、ジャスダックは一段低い水準でも十分に上場が可能な状況となっている。
他市場との差別化を図るため、ジャスダックは2007年8月に新市場「NEO」を創設した。成長可能性のある新技術または新たなビジネスモデルを有する企業を支援するとともに、投資者に当該企業への投資機会を提供することを目的としており、2007年には3社が新規上場を果たしている。これにより堅実かつ安定的な成長を目指す企業と、イノベーション、先端的テクノロジーや将来性のあるビジネスモデルによる成長を目指す企業が峻別されることになる。なお、NEOに関する数値は「その他」に含めて集計している。

【マザーズおよびヘラクレス他】
2007年のマザーズへの新規上場は23社(前年41社)、ヘラクレスは25社(前年37社)、その他12社(前年21社)となった。その他の内訳は、NEO3社、セントレックス2社(前年13社)、アンビシャス5社(前年4社)、Q‐Board2社(前年4社)となっている。
マザーズ以外は新規上場に関して新興の証券会社が主幹事となっているケースが多い市場であり、売上規模は30億円未満の会社が中心で全体の6割を占め、経常利益についても3億円未満の会社の比率が高くなっている。約半数の会社が当期純利益1億円未満であり、うち6社は赤字での上場を果たしている。
一部・二部市場やジャスダックと異なり、設立後10年未満での上場が約半数を占めているが、マザーズが2003年に上場要件から新規事業性を除外し、高い成長可能性に一本化したため、社歴の長い中堅企業もマザーズでの上場を検討するようになっている。

4.新興市場の資金調達の状況
項   目 ジャスダック マザーズ ヘラクレス
2005年 2006年 2007年 2005年 2006年 2007年 2005年 2006年 2007年
上場会社数(社) 65 56 46 37 41 23 22 37 25
上場時資金吸収額(億円) 2,158 1,962 749 1,303 974 542 474 496 327
平均資金吸収額(億円) ※1 33.2 ※3 35.0 16.2 ※2 35.2 23.7 23.5 21.5 13.4 13.1
初値/公募価格倍率(倍) 2.1 1.6 1.4 2.6 2.0 1.9 3.4 2.5 1.6
※1 ジュピター・テレコム(1,047億円)を除くと17.3億円
※2 ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社(346億円)を除くと26.5億円
※3 ビックカメラ(345億円)、アトリウム(272億円)を除くと24.9億円

新興市場の資金吸収額(公募・売出金額合計)の平均値は20億円程度で推移しているが、各市場の中位の会社の資金吸収額は、ジャスダック9億円(前年13億円)、マザーズ10億円(前年15億円)、ヘラクレス7億円(前年9億円)である。100億円以上となったのは4社(前年7社)で、最高は株式会社ユー・エス・ジェイの196億円であった。
上場時時価総額は、一部・二部市場の新規上場会社の7割以上が100億円以上であるのに対し、新興市場は逆に8割以上が100億円未満となっている。会社の成長性が重視される新興市場であるが、市場から吸収できる資金は、数億円から30億円までが中心となっている。
2006年の夏までは、好調な株式市場の影響もあって初値が高騰するなど過熱気味の状況となっていたが、8月以降は銘柄選別の動きが強まり、それ以降は公募価格が仮条件の上限で決定しない銘柄も出てきている。2007年の初値/公募価格倍率は、平均でジャスダックは1.4倍(前年1.6倍)、マザーズは1.9倍(前年2.0倍)、ヘラクレスは1.6倍(前年2.5倍)となっており、IPOブームはやや過ぎ去った感がある。5倍を超えるような銘柄もなく(前年6社)、最高は不動産管理会社の株式会社アールエイジ(マザーズ)の4.1倍であった。一方、初値が公募価格割れとなったのは12社(全市場では29社)となり、前年の10社(全市場では20社)から増加している。
なお、新たな市場として創設されれたNEOに上場した3社のうち、1社は公募割れとなったものの、株式会社ユビキタスは4.0倍、株式会社ウェブマネーは3.5倍を記録し、全市場の2位と3位となっており高い注目を集めたと言える。

5.おわりに
本年4月1日以降開始する事業年度から、上場会社に内部統制報告制度と四半期報告制度が適用さる。これから上場申請する会社にとっては、上場後すぐにこれらの制度が適用されるため、申請前に十分な準備を行う必要がある。各市場ともに上場規則の改正が予定されており、その内容にも留意する必要がある。
証券市場に目を向けると、1月25日に金融庁が名古屋証券取引所にセントレックスの上場審査の不備を理由に業務改善命令を発出しており、また、日本証券業協会がジャスダック株式を大証に売却し、大証がジャスダックを子会社化する方向で協議中との報道もなされている。一方、昨年8月にジャスダックがNEOを創設したことに続き、昨年10月末には東証がロンドン証券取引所(LSE)と新興企業向けの新たな市場を共同で創設することに合意したと発表した。新市場はLSEのAIM市場(Alternative Investment Market)の柔軟な規制・制度を参考に構築され、日本及びアジアの新興企業を対象とした、機関投資家等プロ向けの市場になる予定である。日本に新興市場が多すぎるという意見もある中、本年は市場再編・創設という転換期を迎える可能性がある。
これから上場を目指す企業は、自社のコーポレート・ガバナンスや内部管理体制を上場企業にふさわしいレベルまで構築する必要があるのはもちろんであるが、自社の成長にとってどの時期にどの市場に上場するのが最適であるか、慎重に検討していく必要がある。


凡例    
2006年   2007年
2006年売上高   2007年売上高
2006年経常利益   2007年経常利益
2006年当期利益   2007年当期利益
2006年設立経過年数   2007年設立経過年数
2006年公募+売出金額   2007年公募+売出金額
2006年上場時時価総額   2007年上場時時価総額
2006年初値/公募価格倍率   2007年初値/公募価格倍率
※各取引所Webサイト内、開示データより作成    
以上
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