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トピックス 2008.3.26
東京証券取引所による議決権種類様式の上場制度に関する報告書の公表について
IPO支援室 公認会計士 岡田 雅史
1.はじめに
2008年1月16日に株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)による種類株式の上場制度整備に向けた実務者懇談会より、「議決権種類株式の上場制度に関する報告書」が公表された。
議決権種類株式の上場制度については2007年3月に組織された上場制度整備懇談会中間報告、同年4月における「上場制度整備プログラム2007」においても検討が行われ、以下のような実行計画がまとめられた。

(i)直ちに実施する事項
・議決権に関する種類株式の上場を認める場合の要件の検討
・既上場会社による種類株の発行が認められないケースの整理

「株主の権利を不当な制限」に該当するか否かで判断する。
該当する事象として上場株式より議決権の多い種類株式の発行する場合や上場株式の議決権を制限する場合が想定される。

(ii)具体案を検討のうえ実施する事項
・議決権に関する種類株式上場に必要な要件の整理

上場が認められるスキーム・審査基準・廃止基準・行動規範への反映・種類株である旨の表示方法・株価指数等への影響等を検討する。
上記の各項目ついて新規公開の場合、上場会社が普通株式より議決権が少ない株式を発行する場合等に分けて検討する。

(iii)検討を継続する事項
・普通株式を上場していない会社の優先株式のみの上場の可否の検討
・議決権に関する種類株式の上場に関するガイドラインの作成

本プログラムを受け懇談会では、以下のような議決権種類株の発行によるリスクを踏まえて、上場に際しての要件を中心に検討が行われている。

より少ない資金で支配権を維持することができるため、支配権の移動が起こりにくくなること
意思決定の最終的な結果は、リスクを負担する者(利益配分又は残余財産の分配に参加する権利を有するもの)に帰属する以上、出資割合と支配比率はできる限り比例すべきであり、比例しない場合は出資割合の小さい株主が自らコストを負担して経営を監視・規律することは困難なので、コーポレート・ガバナンスに歪みをもたらすこと
一株一議決権のときと比べて、支配株主が存在する会社の上場をより容易にし、利益相反の度合いもより強くなるため、少数株主の犠牲の下、支配株主が自己の利益を図る可能性がより高くなること

2.検討された整備制度の方向性
1)想定されるスキーム
(1)議決権種類株式の類型
懇談会では無議決権株式と複数議決権方式を議論の対象とし、適法性に疑問がもたれる議決権制限プランは対象外としている。
また、報告書においては議論のなかでの便宜上、議決権について有利な取扱いを受ける株式を「A種株式」、議決権について不利な取扱いを受ける株式を「B種株式」と表現されている。
無議決権株式は、完全無議決権株式と一部無議決権株式に分けられるが、報告書においてはこのうち取締役の選解任その他重要な事項について議決権のない株式を対象とする。無議決権株式については会社法第115条の規定の適用により議決権制限株式の数は発行済株式総数の2分の1を超えることができない。
複数議決権株式方式は、会社がA種株式とB種株式を発行し、単元株式数の設定を例えばAを100株、Bを1,000株と設定することにより、10倍の議決権を発行した場合と同様の効果を得ることが可能となるような株式をいう。

(2)上場の類型
上記で定義した議決権種類株式を上場する場合の類型として懇談会では、以下の各視点から上場パターンを分類している。

・新規公開時の利用か、既公開会社による利用か
・議決権種類株式のうち一方だけを上場するか、双方を上場するか
・既公開会社が、既に上場している株式より議決権の多い株式を上場するか、少ない株式を上場するか

分類 類型
新規公開時 B種のみ上場 類型 I
A種・B種の同時上場 類型 II
新規公開時以外 B種の上場 類型 III
A種の上場 類型 IV

なお、上記のうち類型IVについては、既存の一般株主利益を害する可能性が高く、本懇談会の議論の対象から除かれている。

(3)新規公開時の意義
新規公開時には、既存の一般株主が存在しないため、上記で述べた考慮は必要ないが、この場合の「新規公開時」の意義を明確にする必要がでてくる。
「新規公開時」は一般株主の保護の観点から必要とされるものであり、新規上場時であっても、既存の一般株主が存在し、その保護が必要な場合は異なってくる。そのような状況が想定されるのは、以下のようなケースが考えられる。

・非上場会社による上場会社の吸収合併等に伴う当該非上場会社の上場
・他市場上場会社の上場
・過去に上場廃止となった会社の再上場

懇談会では、特に再上場案件について現金によるスクイーズ・アウトを伴うM&Aなどにより、一般株主が存在しないこととなった会社による新規上場は、「新規公開時」に該当するとの見解が示されている。

2)上場要件の検討
懇談会では議決権制限株上場に際しての要件については、以下の3つ視点から検討が加えられている。

出資比率と支配比率のゆがみ解消や優先株発行の目的喪失からスキーム解消を可能とする方策
一般株主保護の視点からの極めて小さい出資割合による支配権の確保を制限する方策
一般株主保護の視点から、種類株主間及び支配株主と少数株主間での利害対立に際しての一般株主の利益を保護するための方策

(1)スキームの解消を可能とする方策
(a)ブレークスルー条項
発行済株式総数のうち一定割合の株式を取得したものが現れた場合、議決権種類株式の構造を解消する方策である。
極端に小さい出資割合によって支配権を維持することは望ましくないため、一定割合しか出資していない支配株主は支配権の移動を受け入れなければならないとの考え方に基づくものである。

(b)サンセット条項
議決権種類株式導入の目的が終了した場合や同目的を逸脱した場合、若しくは同目的の達成ができないことが確定した場合などにスキームを解消する方策である。
議決権種類株式の上場の意義は安定的な支配により、創業者等による長期的視点に立った企業価値の向上への取組みが期待できることが挙げられるため、目的が終了した場合や目的を達成する見込がなくなった場合はスキームが解消されることが望ましいとの考え方に基づくものである。
スキーム解消の方策としては、一定期間後に一株一議決権での株主総会での特別決議等により解消可能とするものや、支配株主グループの発行済株式総数に占める保有割合が一定以下になった場合に自動解消するものなどが考えられる。

(c)譲渡等の際の転換条項
本要件はA種類株式の譲渡や移転等により実質的に保有者が変更した場合、B種類株に強制転換されるものであり、複数議決権方式でB株のみ上場するケースでのみ該当する要件となる。
A種類株主の個性に着目した導入の目的を考えた場合、保有者の変更はスキームの継続の必然性が喪失するとの考え方による。

(2)株主利益の保護のための方策
(a)種類株主間の利害が対立する場面における株主の保護
異なる種類の株主の間で利害が相反する場合が考えられる。これについては会社法第322条第1項で、定款の変更や会社の組織的行為等の一定の重要な事項を会社が行うときで「ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」は当該種類の種類株主総会の決議を要するものと定めているが、他方同条第2項、第3項では定款の記載により当該決議を排除することが可能である。
懇談会ではこの規定の取扱いについて、一般株主の保護の観点から次のいずれかを定めることを要件とすることを提言している。
・この第322条第2項、第3項の排除を認めない。
・排除は認めるが、事前に特別な委員会等の利害関係のない第三者の意見を聴取する。
・排除は認めるが、B種株主の利益を害さないような取扱いを定款に定めておく。

(b)支配株主と会社の利益相反取引の場面における少数株主の保護
懇談会では支配株主と会社の利益相反取引による弊害の防止について、以下のような方策の実施を提言している。

・支配株主から独立した立場の取締役や社外取締役の選任を義務付ける。
・支配株主と会社が重要な取引を行う際の十分な情報開示。
・支配株主から独立した立場の取締役、監査役又は特別委員会等の関与及び意見聴取を求める。

(3)上場要件の整理
上記の各項目のほか、極めて小さい出資比率による支配権の確保の制限の観点から、B種株の発行数の制限や、議決権倍率制限などの要件が検討されたが、他の要件で弊害が除去できるかという視点で判断された結果、最終的な要件としては以下の各項目が提言されている。

1 既公開会社にあっては、上場株式より議決権の多い株式を上場させる場合にあたらないこと
2 極めて小さい出資割合で会社を支配するような状況が生じた場合に議決権種類株式のスキームが解消できるような方策が採られていること
3 種類株主間の利害が対立する場面における株主保護の方策が採られていること
4 支配株主と会社の利益相反取引の場面における少数株主の保護の方策が採られていること
5 複数議決権方式の類型 I (新規公開時におけるB種株式の単独上場)の場合は、A種株式の譲渡等の特にB種株式に転換する条項が付されていること

なお上記の1については、既存株主に対する弊害が大きく当面の解禁は認められないことによる要件であり、今後の議論によっては不要となることも考えられる。

(4)その他上場基準のあり方
流動性(株主数や流通株式)の基準については、その目的から同一の基準とすべきであるが、複数の種類株式を同時に上場する場合には上場時時価総額は合算が必要との提言がなされている。
また無議決権株式上場の場合についての株主向け書面の交付を求める旨の提言がなされている。

(5)優先配当を交付する場合の取扱い
懇談会によれば、議決権の対価として優先配当を付与されている優先配当議決権種類株式に対する要件については、リスク負担の点で普通配当議決権種類株式とどの程度乖離しているかが判断の基準とされる。
優先配当金の支払いを受けた後、残余の分配可能額からの配当も普通株式の株主とともに受け取ることができる参加型の優先株は普通配当株式と同様に利益増大の恩恵や減少の影響を受ける点で普通配当議決権種類株と同様の要件を課すことが適切だが、残余分からの配当を受け取ることができない非参加型については社債と類似し、支配権の移動から生じるメリットを享受しないことから前述した要件2のスキーム解消や要件5の転換条項は不要とされている。しかしながら、種類株間での利益相反を考えれば、要件3の株主保護の要件は必要と考えられている。

3.その他の諸問題
1)市場区分等
懇談会によれば、議決権種類株式の上場であることを投資家に分かりやすく表示する観点から、従来の上場株式とは別の市場区分を新たに設けるか、若しくは証券コードやフラグ設定による区別が検討されたが、企業規模や流通性といった従来の市場区分の考え方を大きく変えてしまう点を考慮すれば、市場区分以外の方法によることで問題ないとの提言がなされている。

2)TOPIX
議決権種類株式に関して、投資商品としての魅力を増大させ、利用価値を高める観点から、TOPIXに議決権種類株式を組み入れるべきとの提言がなされている。

3)その他
証券コード設定の問題や売買単位の統一への対応、さらに要件1で検討対象から外されている既公開会社による既公開株式より議決権の多い株式の上場要件についても議論を継続することが提言されている。
以上
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