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トピックス 2008.2.27
中国の日系企業が「組織営業力強化/営業改革」に取り組み始めている背景の紹介および解説
トーマツ コンサルティング株式会社 シニアマネジャー 金海 裕市
1.はじめに
トーマツ コンサルティングでは、2007年12月5日に中国・上海(銀河賓館(Galaxy Hotel))にて日系企業向けマネジメント・セミナー『中国で勝ち続ける「組織営業力」 〜変わり始めた日系企業の営業改革事例に学ぶ〜』を開催した。
約100名を超える方々にご参加いただいたことからも、当該テーマに対する中国の日系企業の関心の強さと、問題意識の高さが伺えた。また、参加者の約8割が総経理(社長)もしくは部長クラスの現地権限者であったことから、中国での「組織営業力強化/営業改革」は現地法人の経営課題だと認識されているとの感触を再認識できた。

当該セミナーでは、参加企業の皆様より、「日系企業を対象とした販売/営業の仕組みづくりに関するセミナーは上海ではおそらく初めて」「上海で販売/営業系のセミナーといえば、営業マナー研修や心構え、セールス・テクニック等の現場テクニックや精神的な内容のものが現在は主流」「経営の観点で販売/営業の強化をテーマとした内容のセミナーは上海ではこれまでなかった」等の、我々の取り組みを評価していただく声を多くいただいた。この点は、“現在”、直面している経営課題である「法規制・政策変化への対応」にはどの企業も取り組んでいるが、“今後”、中国国内市場で競争激化していく環境に勝ち続けるためには、「製品力の強化・営業力の強化・組織力の向上」等の他社に先駆けた競争優位性の獲得が必要だということに多くの日系企業が気付き始めている一方で、まだ中国国内では当該領域に関する十分な情報・サービス提供が行われていないことの裏返しでもあると言える。

本稿では、中国において、「法規制・政策変化への対応」「輸出型製造・物流拠点づくり」が最大の課題であった従来の日系企業の取り組みから、徐々に「中国国内販売」「競争優位性の獲得」といった課題へとシフトしつつある日系企業の背景を紹介および解説する。

2.中国における日系企業の経営課題
1)“現在”は、法規制・政策変化に対応するための経営課題への注目度が高い

中国では外資優遇策の転換期を迎え、門戸開放型の誘致から優良企業の選別志向を明確にしつつある。それに伴って、中国に進出している日系企業でも法規制・政策変化への対応が重要な経営課題と認識されている。

図表1 “現在”の日系企業の経営課題
“現在”の日系企業の経営課題

2)“今後”は、他社に先駆けた競争優位性の獲得が必要
法規制・政策変化に対応していくことは、日系企業を含む外資系企業としての絶対条件(企業としての存続条件)である。しかしながら、絶対条件を満たすだけでは、「存続(=市場へのエントリー)」はできても、市場の競争に「勝つ」ことには結びつかない。
よく、「中国は特殊だ」という話を一部の日系企業の総経理(社長)や経理(マネジャー)から伺うが、必ずしもこれは正しいとは言い切れない。「特殊」という意味は、日本と中国のマクロ環境の違い、マーケット環境の違い、社会的インフラの違い、国民性の違い等、「日本との違い」を指す場合が多いように思われるが、果たして本当に違うのだろうか。
これらの「違い」の多くは、日本と中国との市場や社会基盤・経済レベル・生活水準の発展段階(成熟度)の違いからくるものであり、成熟度が高まると共に、これらの「違い」はなくなっていくと考える。すなわち、“過去〜現在”は、法規制・政策変化への対応が日系企業はもとより外資系企業としての経営課題の中心であるが、“今後”(数年先)を見据えた場合、市場や社会基盤・経済レベル・生活水準が徐々に成熟して来た時に、競争の優劣がもっと本質的な要因で分かれるだろう。つまり経営として本質的な、「製品力の強化・営業力の強化・組織力の向上」をいかに他社に先駆けて獲得しているかという競争優位性の確保が最大の課題になってくるであろう。
これらの状況(日本と中国の市場や経済の発展段階における現在のステージの違い)を考慮せずに、「違い」を語ることにさほど意味はなく、やがて訪れるより質の高い競争環境の中で勝ち続けるためには、他社に先駆けた「(法規制・政策変化への対応)+α」の取り組み、すなわち、競争優位性の獲得が最重要となる。

図表2 “今後”に向けて日系企業が認識すべき課題
“今後”に向けて日系企業が認識すべき課題

3)“今後”において、内販型製造業と非製造業の競争力強化が課題
現在、日系企業全体としては、売上高成長率11%と二桁成長を続けているが、内訳を見ると、内販型製造業と非製造業の成長率が低調となっている。一方、輸出型製造業は、18.2%の成長をしているが、“今後”は輸出増値税還付の一部廃止・引き下げや新企業所得税法の実施等の影響を受け、高い成長率を維持する事が困難になることが見込まれており、輸出型ビジネスから内販型ビジネスへの転換を求められている。
しかし、中国国内販売が容易に行えるかというと、そこには様々な障壁が存在することは、既に中国に事業展開をされている企業であれば想像に難くない。その中でも、中国国内で、中国国営企業・中国資本企業や欧米系企業そして、日系企業同士も競争して勝ち残っていかなければいけない。市場が急成長している“現在”であれば、競争優位性の確保よりも、人海戦術的に要員拡大をすることで売上高の向上が狙える市場も数多くあるが、いつまでも急成長が続くわけではなく、そう遠くない将来に成熟期は訪れる。来るべき時期までにいかに競争優位性を獲得できるかは非常に重要な課題で、「認識している」だけではなく、「具体的なアクション」が必要となる。

図表3 内販型製造業と非製造業の売上高成長率が低調
内販型製造業と非製造業の売上高成長率が低調

このような環境変化の下、日系企業においては、「いかに売上を伸ばすか」に関心が高まっている。従来は、「販売/営業」というと、「債権回収/与信リスク」という回収リスクに関するものが大半であった。しかしながら、徐々にこういったプリミティブな課題から、より本質的な課題へと市場環境・企業の認識が変化してきていることが伺える。すなわち、競争の激化と顧客ニーズの高度化・多様化に対応するための「製品力の強化・営業力の強化・組織力の向上」が課題認識されるだけでなく、具体的に「何とかしなければいけない」「他社に先駆けて…」といった取り組み意識、もしくはその模索を具体的に始める日系企業が実際にも増えているように私の実感として感じる。

図表4 「売上向上」への関心が高まっている
「売上向上」への関心が高まっている

4)中国における日系企業の「販売/営業管理」における悩み
ここで、視点を、マクロ(外部環境)からミクロ(内部環境)に移し、「売上向上」への関心の高まる日系企業が、直接的な売上の手段でもある「販売/営業管理」において、どのような課題を抱えているのかを見てみたい。
営業現場をつぶさに見ると、ありとあらゆる問題・課題が見受けられるが、大きくは、図表5の6項目に大別できる。

図表5 営業現場における問題・課題
(1)営業マンがすぐ辞める。更には競合他社に転職する。
(2)営業マンがなかなか情報共有しない。
(3)営業マンを教育できない。
(4)売れる営業マンと売れない営業マンの差がはげしい。
(5)中国系顧客の営業マンとのコミュニケーションにギャップがある。
(6)日本本社と中国市場に認識のギャップがある。
出所:軟脳軟件(ソフトブレーン上海) 宮原総経理より

つまり、ローカルスタッフの組織への帰属意識の弱さや、それを雇用・育成する日系企業側の評価・育成の仕組みが未整備であったり、言語や商慣習の日本との違い、日本法人と中国現地法人との間での市場認識のギャップからくる悩みが多数見受けられる。
中国を特殊なマーケットだと認識せず、日本に比べて市場や経済の成熟度が低いことからくる商慣習・従業員意識・社会的モラルの未成熟だと認識し、それに適した対策を講じることが肝要である。すなわち、日本であれ中国であれ、「組織営業力強化/営業改革」の観点からは、基本的には取り組む内容に大差はないと考える。

図表6 中国(日系企業)と日本の営業成熟度のステージ
中国(日系企業)と日本の営業成熟度のステージ

3. 中国の日系企業が目指す姿
中国市場の競争激化と顧客ニーズの高度化・多様化に伴い、“今後”の営業体制も自ずと「結果管理」から「プロセス管理」へ、「個人営業」から「組織営業」、「KKD(勘・経験・度胸)」から「情報共有・見える化」へと変わっていくことが予想できる。今後、市場や経済の成熟化に伴い、中国ではこれらの整備が重要度を増してくる。

図表7 中国の日系企業が“今後”目指す営業体制
中国の日系企業が“今後”目指す営業体制

4.おわりに
本稿においては、中国の日系企業の取り組みが変わり始めた(中でも、販売/営業領域)背景の紹介および解説を行った。中国の日系企業が実際に「組織営業力強化/営業改革」に取り組んでいる事例の紹介については、別の機会に譲ることとしたい。
中国の日系企業は、試行錯誤の中、外部環境の変化に適合しながら、競争優位性を獲得しようと様々な取り組みを始めている。現時点で、中国内各市場でのベスト・プラクティスと呼べるものはそう多くはないのかもしれない。一時的にシェアや売上高を確保したとしてもそれが持続する保証はどこにもない。だからこそ、市場の中で競合他社に先駆け、自らがベスト・プラクティスをつくり出していくという積極的な姿勢が大切なのではないかと思う。これは、市場構造によっては先行者利潤が働く場合も多分にあるし、実際にそのような成功例も見てきた。他の日系競合企業に先駆け、リスクを背負いながら先行参入し、現在、当該市場内において圧倒的なシェアを獲得している日系企業も少なからず存在する。ここには、「法規制・政策変化への対応中心の経営」「他社の後追い」「リスク回避」「人海戦術」等の対症療法・受身的な戦略ではなく、中国内での確固たるビジネスモデルの確立と、営業の組織化、情報化を進めている積極的かつ戦略的な姿勢・判断が見られる。
中国の日系企業が「勝ち続ける」ための一つのキーワードとしての「組織営業力強化/営業改革」があげられる。本稿が、このキーワード理解の一助となれば幸いである。

※2007年12月5日開催のセミナーの講演内容を一部改訂した。本文中の意見に関わる部分は私見である。また、セミナーは軟脳軟件(ソフトブレーン上海)との共催であり、共催者の講演内容も一部含んだ状態で筆者が代表としてとりまとめた。
以上
 
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