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トピックス 2006.7.26
研究開発型バイオベンチャーの収益認識 その2
ライフサイエンスグループ 公認会計士  木村 秀偉
公認会計士  佐野 明宏
1.はじめに
研究開発型バイオベンチャーの収益認識 その1』(2006.7.26)では、研究開発型バイオベンチャーが担う創薬プロセスにおいて生じるキャッシュ・インの分類、整理を試みた。今回は、このような製薬企業等からのキャッシュ・インに関する会計処理を考察する。
なお、文中の意見に関する部分は私見である。

2.製薬企業等からのキャッシュ・インに係る会計処理
製薬企業等からのキャッシュ・インに係る会計処理は、まずキャッシュ・インの対価性を検討し、その上で研究開発型バイオベンチャーのビジネスモデルと連動する会計の枠組みにおいて規定されることになる。
特に、会計処理区分については、『研究開発型バイオベンチャーとバイオ会計のエッセンス』(2006.2.8)で取り上げた3つの会計の枠組み(製造業型会計、研究開発リニアモデル型会計、研究開発ノンリニアモデル型会計)において、何をもって「主たる企業活動」と考えるかというベンチャーのビジネスモデルによって「売上」の概念が異なってくるが、まずはキャッシュ・インの種類ごとに対価性の判断をもって収益認識を考察する。

1)収益認識
(1)契約一時金
研究開発型バイオベンチャーの収益認識 その1』(2006.7.26)の分類のとおり、契約一時金はバイオベンチャーが既に獲得している研究成果等の評価に基づいて収受するものであり、共同研究開発を始めるに当たっての製薬企業等への情報開示料的な性質を有する。
したがって、契約締結日に取引が完結していると認められ、かつ、将来返還が不要であって、入金に確実性がある場合には、契約締結日に収益認識することが考えられる。
ただし、契約時に一括して収受する資金の性格やその解釈については、本論で示す契約一時金に該当するものばかりではなく、画一的な基準により収益認識を行うことはできない。契約時に一括して収受する資金の性格が研究協力金やマイルストーン・ペイメントに相当するものであれば、(2)以降の収益認識となる。あるいは、工業所有権の実施許諾その他契約期間中に何らかの役務を提供することで取引が完結する場合には、収益の認識を慎重に検討すべきである。
また、一般に、将来返還の是非やどの事業年度に収益として配分するかといったルールが明確でない場合には、その対価性を判断することが大変難しくなる。契約時に一括して収受する資金を負債として貸借対照表に計上することの是非など、伝統的な会計の考え方だけでなく、収益を「資産負債アプローチ」によって概念既定しようとする今日的な収益認識の考え方からも検討が必要であろう。

(2)研究協力金
研究協力金は共同研究開発が実施されることについてのキャッシュ・インであるが、研究開発の成果如何に関わらず将来にわたって返還不要であることを前提とした場合、基本的には、契約により研究協力金の収受が確定する研究開発期間満了時に収益として認識することが考えられる。例えば、半年単位で一定額の研究協力金が得られる場合には、原則半年経過毎に収益認識する。
ただし、研究開発期間が満了するまで研究開発を継続することにより研究協力金を収受することに確実性があって、当該期間にわたって収益が実現しているとみなせる場合には、研究開発が行われた期間等に応じて按分した額を収益認識することも認められよう。
特に、研究協力金を契約時において一時に収受する場合には、収益認識時期について留意が必要と考える。
なお、バイオベンチャーが研究開発費発生額を立替えて製薬企業等が実費負担するような取引の場合には、実質的にバイオベンチャー側の企業活動リスクが製薬企業等へ転嫁されることなって当該取引からはバイオベンチャーによる付加価値創造は生じないことから、係るキャッシュ・インは本論の研究協力金には該当しないといえる。

(3)マイルストーン・ペイメント
成功報酬であるマイルストーン・ペイメントは、概念上、成功までの過程においても段階的に収益は発生していると考えられるが、研究開発が一定の成果を上げたことについて製薬企業等による利用可能性が実現しなければ収益の実現(便益の提供)とはいえない。
したがって、原則として契約によって定められた条件をクリアした時点をもって収益を認識することが適切と考えられる。
なお、発生主義会計の枠内では、実現した収益に対応する費用を認識する必要があるが、マイルストーン契約における実現収益に先行して発生する費用についての検討は次回に譲ることにしたい。

(4)ロイヤリティー
製薬企業の製造量あるいは販売量に比例する形態、製造量あるいは販売量にかかわらず一定とする形態などロイヤリティに関する取り決め方はさまざまであると考えられるが、いずれにしても、収受すべきことが確実となった部分について、それが帰属する事業年度に収益認識することが適切と考えられる。

(5)補助金
一般に、公的機関からの補助金は、バイオベンチャーからの申請が受理された場合に収受できる。申請の受理などにより補助金の収受が確実となった時点で収益を認識することが適切と考えられる。
なお、補助金等については「産学官連携に関わる取引」としてあらためて詳細を検討する予定である。

次において、キャッシュ・インの種類別に、『研究開発型バイオベンチャーとバイオ会計のエッセンス』(2006.2.8)で取り上げた3つの枠組み(製造業型会計、研究開発リニアモデル型会計、研究開発ノンリニアモデル型会計)によって考察を行う。

2)会計処理区分
企業にとっていかなる収益が「売上」であるかは、そのビジネスモデルにおける「主たる企業活動(企業活動目的)」から既定され、ビジネスプランの中で数値化される。企業の収入獲得行為のどこまでを主たる企業活動とするかは個々の企業の経営者が決めることであり、取引形態によって一般普遍的な整理を行うことは難しい。
バイオベンチャーの「売上」を検討するに当っては、企業としての利潤をどのフェーズで意図するかにより、まずはモデルを2つに分けて収益の会計処理区分を考察することが良いだろう。

A)新薬製品化後のフェーズでの利益獲得を企業活動目的とするモデル(製造業型モデル)
新薬製品化後の製造販売もしくはライセンス・アウトによるロイヤリティ獲得が主たる企業活動であり、それまでの研究開発過程は先行投資として位置づけられるモデルがある。
このようなバイオベンチャーの場合には、製薬企業のような製造業的な会計の枠組みである「製造業型会計」が適している。新薬製品化前の段階における研究開発活動に付帯して発生する収益は、実費負担か否かを問わず、「非売上」として処理すべきであり、以下の2つの会計処理方法が考えられる。

a.営業外収益
研究開発段階での対価受領が売上ではない以上、従来の会計慣行からすれば、営業外収益において収入総額を表示する方法が一般的であろう。

b.研究開発費の控除(マイナス)処理
製薬企業とのリスク負担関係を示すためには、製薬企業からのキャッシュ・インを研究開発費総額から差引くといった会計処理が考えられる。この場合の開示形式(直接控除形式または間接控除形式)については、「企業実態を表現する財務諸表の形態」としてあらためて検討する予定である。
なお、研究内容が自社の主たる企業活動とは異なる分野のもので取引先の事業目的の達成のために研究員を派遣しており、これに対して人件費相当額を収受しているような場合には、直接控除形式により研究開発費との相殺処理が行われる。

B)研究開発のフェーズでの利益獲得を企業活動目的とするモデル(研究開発型モデル)
発掘したシーズの事業化を目指して製品研究開発を推進することにより製薬企業等とのアライアンスを構築、維持することを主たる企業活動としているモデルがある。
このようなバイオベンチャーにとっては、従来の「企業会計」の中で研究開発自体を企業活動と捉える会計の枠組みである「研究開発リニアモデル型会計」もしくは、より研究開発活動を主体的に捉える会計の枠組みである「研究開発ノンリニアモデル型会計」が適している。従って、契約一時金、研究協力金及びマイルストーン、並びにロイヤリティに係る収益は、すべて「売上」に区分される(表示科目については後の機会に検討する)。
なお、公的機関からの補助金については通常、先方に研究成果を利用する意思がなく対価性がない(提供する成果物)ため、補助金の獲得自体は主たる企業活動にあてはまらないケースが多いであろう。この場合、売上にはならず、営業外収益あるいは特別利益として計上される。

3.おわりに
研究開発型バイオベンチャーのビジネスモデルや個々の取引における契約内容には多様性があり、必ずしも上記の会計処理にあてはまるわけではない点には留意が必要である。各バイオベンチャーのビジネスモデルや個々の取引における契約内容などの個別的事情を吟味して、会計処理を決定する必要があることは言うまでもない。
以上
『会計情報』(トーマツリサーチセンター発行/2005年2月号)
木村秀偉、佐野明宏執筆分より抜粋
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