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トピックス 2007.8.1
研究開発型バイオベンチャーの知的財産と会計処理
知的財産グループ 公認会計士 長谷部 智一郎
ライフサイエンスグループ 公認会計士 佐野 明宏
1.はじめに
研究開発型バイオベンチャーが事業を行う上で将来収益の源泉となる知的財産は、企業経営の核であり戦略的な取得及び活用が必要である。本稿では研究開発の成果である知的財産(主に特許権)に関する概要説明と会計処理についての考察を行う。

2.知的財産とは
知的財産とは、「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう(知的財産基本法第2条)」。
研究開発型バイオベンチャーにおいて最も重要な知的財産は、特許権であろう。特許権は、特許を受けた発明を事業として実施(生産、使用、譲渡など)することのできる独占的・排他的権利である。したがって、研究開発の成果を特許として出願・設定登録することにより、自社で独占的に実施することや他社に実施許諾することができ、特許権は、研究開発型バイオベンチャーの重要な経営資源のひとつとなる。
また、技術移転が重要な企業活動のプロセスである研究開発型バイオベンチャーにとっては、特許権として成立していなくとも出願権や研究開発や製造販売に関するノウハウなどが取引されることがあり、更に特許権成立後はその専用実施権などの許諾といった取引も一般的である。これら知的財産に関する会計上の取り扱いは重要な論点となる。

3.特許制度
特許法は、発明の保護および利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的としている(特許法第1条)。特許権を取得するためには、特許庁に特許出願し、必要な要件を満たしているか審査を受ける必要がある。以下に、特許権を取得するまでの手続を紙面の都合上簡便的に示す。

図表1 特許権を取得するための手続き
図表1

1)特許出願
日本の特許法は、先願主義を採用しており、先に特許出願した者に対して権利を付与する。したがって、発明が生まれた場合、早急に出願する必要がある。なお、特許出願前に発明を学会等で発表した場合、特許を受けることができない可能性がある。
なお、特許出願から1年6カ月を経過すると、発明の内容が公開特許公報によって公開される。これは、特許法が独占権を与える代わりに、発明を公開することによりさらなる発明が生み出されることを目的としているためである。

2)審査請求
特許出願した発明はすべてが審査されるわけではなく、審査請求のあった発明のみ特許庁の審査官による審査が行われる。審査請求は特許出願日から3年以内であれば、いつでも行うことができるが、3年を経過後は出願を取り下げたものとみなされ、以後権利化することができない。

3)特許庁審査官による審査
審査官により、発明が特許として一定の要件に従っているか否かについて審査が行われる。主な要件として、新規性、進歩性、産業上利用性などがある。例えば、「タンパク質が単離・精製された単一物質として公知である場合において、製造方法により特定して記載された組み換えタンパク質に係る発明は、上記公知のタンパク質と物質として区別できない場合、当該発明は新規性を有しない」(特許・実用審査基準第2章生物関連発明1.3.2(1)@)など、拒絶される可能性がある。

4)特許権設定登録
特許庁の審査官による審査の結果、拒絶理由が発見されなかった場合には特許査定され、特許権の設定登録が行われる。特許権の保有者は、自社で特許発明を独占的に実施することで事業を他者よりも有利に進めることができ、他者が権原なく特許発明を実施した場合には、差止や損害賠償を請求することができる。また、他者に特許発明を実施許諾(ライセンス)することにより実施料収入(ライセンス収入)を得ることもできる。

4.特許権等の会計処理
特許権等の会計処理については、特許権等取得の各段階における取引実態に応じて取扱いを検討する必要があるが、大きく「自社開発」と「他者からの取得」によって異なってくる。
自社における研究開発により特許出願する場合、研究開発の成果(発明:特許を受ける権利)がその発生時には将来収益の獲得が実現できるものかどうか不明であり、研究開発計画が進行して将来の収益獲得の期待が高まったとしても依然としてその獲得が確実であるとはいえない。したがって自社における研究開発の成果は資産として貸借対照表に計上することは適当でなく、それまでの研究開発費は、すべて発生時に費用として処理する*。
  *参照:『研究開発型バイオベンチャーの費用認識(研究開発コスト)』(2007.1.31)

なお、自社で行った研究開発に基づく特許の出願料、特許料その他設定登録のために要する附随費用の額は特許の取得価額として貸借対照表に計上することが可能であるが、将来収益獲得能力から資産性を評価するという観点からは、研究開発費用と同様に費用処理することが望ましい。
他者(大学発バイオベンチャーの場合には大学または大学教授など)から特許権または特許を受ける権利を取得した場合には、経済的な判断の結果として取引を行っていることから、原則として当該取得対価および附随費用を特許の取得価額として貸借対照表に計上することになる。ただし、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の目的に使用できない特許権等を取得した場合の原価は、取得時に研究開発費として費用処理しなければならない。例えば、特定の研究専用のリサーチツールに関する特許権の取得等が考えられよう。
なお、特許権設定登録後に他者から特許権の無効審判が請求される場合があるが、その場合の訴訟費用などは事後的、防衛的なものであるため、資産計上せずに発生時の費用として処理することになる。
貸借対照表に資産計上された特許権は、法的な権利期間である20年(期間延長制度により最大25年)ではなく、経済的な有効年数により定額法に基づき減価償却を行う必要がある。減価償却の開始時期は、事業の用に供した時点から行うのが原則である。
資産計上された特許権のうち研究開発に関するものについては、特許権の取得という法的な手続きよりもその権利内容が研究開発という企業活動の用に供していると考えられるため、ノウハウや出願権も含め取得時から償却を開始する。
また資産計上された特許権のうち製造販売に関するものについては、製造または販売が開始されて事業の用に供したと考えられるため、その時点から償却を開始する。なお、償却がなされない間も常にその資産性(将来の製造販売に対する有効性)を吟味して必要に応じて減損を行うことが重要である。

5.ノウハウや実施権等の会計処理
ノウハウは特許権のように法的な権利として取り扱うことはできないが、企業活動を行う上では重要な経済価値を有することがある。取引をする両者が、なんらかのノウハウについて規定をして取引を行う場合には会計上はその取引について認識する必要があろう。一般的にノウハウの取得については、特許権と同様の処理がなされよう。
また、特許権に関する(専用)実施権の許諾についても、一般に特許権の取得と同様の効果がある。実施料の形態は契約によりさまざまであるが、会計処理上は一定の期間について効力を有する契約であることから、イニシャル・ペイメント(一時金)については、契約期間にわたり按分し、ランニング・ロイヤリティ(出来高払い)については実際の実施量に応じて費用計上することが適当だろう。

図表2 知的財産の会計処理
知的財産の種類 自社開発 他者からの取得
研究開発での利用目的 製造販売での利用目的
本体取得対価 附随費用 本体取得対価 附随費用 本体取得対価 附随費用
ノウハウ
発生時費用
(研究開発費)

資産計上可能ただし、発生時費用処理が望ましい
長期前払費用または適当な無形固定資産として資産計上し即時償却を開始(研究開発費) 長期前払費用または適当な無形固定資産として資産計上し製造販売開始時より償却を開始(販売管理費)
特許出願する権利
特許出願中の権利
特許権 特許権として資産計上し即時償却を開始(研究開発費) 特許権として資産計上し製造販売開始時より償却を開始(販売管理費)
(専用)実施権 契約期間に亘り費用按分(研究開発費) 契約期間に亘り費用按分(販売管理費)

6.おわりに
知的財産(特に今回主に取り上げた特許権)は研究開発の成果であり、研究開発型バイオベンチャーが企業活動を行う上で必須の経営資源である。バイオベンチャーは、この知的財産に基づいてビジネスモデルを構築する必要があるため、各バイオベンチャーのビジネスモデルや個々の取引における契約内容などの個別的事情を吟味して、より実態に即した会計処理を決定することが重要である。
以上
『会計情報』(トーマツリサーチセンター発行/2005年5月号)
長谷部智一郎、、佐野明宏執筆分より抜粋
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