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トピックス 2008.1.30
研究開発型バイオベンチャーのディスクロージャー
ライフサイエンスグループ 公認会計士 佐野 明宏
1.はじめに
これまで、バイオベンチャーにおける会計上の具体的な懸案事項について解説してきたが、今回はそれらを株主や投資家等へどう見せるかについて考察する。研究開発型バイオベンチャーは、その事業の専門性からか、ビジネスの内容や収益構造のみならず、それに付随したリスクの所在等の理解を得ることが困難である。しかし、会社を理解してもらい、継続的にタイムリーな情報開示を行うことは上場会社(または上場を目指す会社)の責務である。
またバイオベンチャーの特徴的に見られる、大学や特定の研究者等との取引については特に、利益相反など不必要な誤解を避けるためにも適時適切な開示が望ましいと考えられる。
なお、文中における意見に係る部分は私見である。

2.研究開発型バイオベンチャーにおける重要な開示項目
ここで具体的に、株式公開時に作成する目論見書において、開示のポイントとなる箇所を確認する。
バイオベンチャーにおいて特に重要と考えられるのは以下の項目である。
1)事業の内容
2)事業等のリスク
例: 大学との関係
経営上の重要な契約(提携・共同研究契約等)におけるリスクについて
知的財産権について
法的規制、政府の規制・政策等について
3)経営上の重要な契約等
4)研究開発活動
5)関連当事者との取引

3.開示における論点および留意点
次に個々の開示項目について留意すべきポイントについて検討してみよう。
1)事業の内容
事業内容の説明は、主たる事業として行う研究開発の内容及びビジネスモデルにおける自社の位置づけについて説明することになる。まず前提として、専門的な知識のない投資家等でも理解できるように記載する必要があるため、図表や絵を利用してできるだけ平易な言葉で、また必要に応じて注釈をつけるなど、工夫が必要である。

2)事業等のリスク

・大学との関係
大学のシーズを基礎としている場合や共同研究契約を締結している場合などにおいて、研究開発活動における大学の位置づけ、またそこから派生する権利の帰属関係について説明する必要がある。また、寄付金など金銭関係についても明確に開示することが重要である。

・経営上の重要な契約(提携・共同研究契約等)におけるリスクについて
契約一つ一つが研究開発体制のみならずビジネスモデルの主軸を担っていたり、金額単位が大きいなど事業に対する影響が大きい場合が多い。そのため、各契約条件の詳細やそこから想定されるリスクについて記載することが有用である。

・知的財産権について
主たる事業である研究開発について、法的に保全する手段である特許権の出願方針や、自社研究開発における具体的な特許の位置づけを明らかにすると共に、自社で保有する知的財産において既に発生している訴訟やクレーム、その対応状況についても記載する必要がある。
また、自社保有特許権等以外にも共同研究先の大学や、関係する大学教授等が保有する特許権及び特許を受ける権利の取り扱い方針についても留意したい。

・法的規制、政府の規制・政策等について
関連する法律等の影響や、政府が政策的に行っている規制や推進案等の動向について、自社の研究開発への重要な影響が考えられる場合においては記載する必要がある。

3)経営上の重要な契約等
上記、リスク情報のほか、継続的に重要な契約について網羅的に開示していく必要がある。

4)研究開発活動
事業の内容と同じく、一般投資家の理解に資するよう工夫が必要である。

5)関連当事者との取引
まず、関連当事者を網羅的に把握する必要がある。特に非常勤取締役として教授等が関与している場合などは共同研究契約の締結や寄付金の拠出、特許の譲渡取引、業務委託などが適切に開示されているか留意する必要がある。

4.研究開発型バイオベンチャーの損益計算書
1)3分法と2分法について
損益計算書の表示については、財務諸表等規則83条において「売上高から売上原価を控除した額(売上原価が売上高を超える場合は、売上原価から売上高を控除した額)は、売上総利益金額又は売上総損失金額として表示しなければならない。」とさ
れている。
従って、損益計算書の営業利益までを「売上(営業収益)」、「売上原価(営業費用)」、「販売費及び一般管理費」の3区分に分けて開示する3分法が開示の原則である。この方法によると、一般の製造業のように売上に対応する売上原価と将来投資としての研究開発費が明確に区分可能となる。
一方、現在上場しているバイオベンチャーの損益計算書をみると、下図のような表示を用いているケースが見られる。

事業収益
事業費用
  売上原価
研究開発費
その他の販売費及び一般管理費
営業損益


×××
×××
×××
 ×××



 ×××
 ×××

このように損益計算書の営業利益までを「営業収益(事業収益)」と「営業費用(事業費用)」の2区分に分けて開示する方法を2分法という。「営業費用(事業費用)」には売上原価と販売費及び一般管理費が含まれ、重要性の高い研究開発費について別
掲することも考えられる。この方法は、売上原価に相当する研究開発活動と販売費及び一般管理費に相当する研究開発活動を区分しないため、研究開発活動をより主体的に捉える開示方法といえ、実務的には両者を明確に分けることができない、また分けることに意味がないと思われる研究開発型バイオベンチャーに多く見られる。

2)3分法と2分法の論拠
では、バイオベンチャーにとって、3分法と2分法どちらが望ましいのだろうか。それぞれの方法の論拠について検討を行う。
まず、原則である3分法についてであるが、バイオベンチャーであっても他業種と同様、売上に個別に対応する費用があるならばそれを売上原価として抽出し、売上総利益を示すことは財務諸表の読者にとって有益であると考えられる。一般事業会社においては、研究開発費は将来の収益獲得が不明であるため販売費及び一般管理費として発生時費用処理が求められているが、研究開発を主たる事業として行う会社の中には支出する研究開発費に対応するかたちで収益を獲得できるケースも考えられる。このようなビジネスモデルの場合には、原則どおりの損益計算書のフォーマットが不適合であるといえるほどの特殊性が見いだせない。
したがって、提携先等から資金を得て行っている研究については売上原価、自社のリスクで行う研究については販売費及び一般管理費にわけることで、研究開発費をどのように稼ぎ出しているかを損益計算書から読み取ることができるのである。
一方、2分法であるが、会社が行っている研究フェーズ・費用発生状況により判断することになる。つまり、バイオベンチャーの中には、基礎研究過程において生み出される成果を期待して共同研究契約を締結するなど、研究成果が当初より明確になっていないケースや製薬会社等からの収益と対応する費用が過去の研究開発費であるケースも多く、自己のリスクで行っている研究開発と製薬会社等共同研究先のための研究開発の区分が不明確な場合もある。 この場合、研究開発費と売上原価との区分は一層複雑になるが、不明確な両者を無理な仮定により区分を行うより、損益計算書において企業の実態をより適切に表現することを優先させ、研究開発という企業の主たる事業に関して発生する収益と費用を大きく対応させる方法が望ましいと考えられる。
なお、これをバイオベンチャーの類型別に考えると、以下のとおりとなる。

・製造業型 3分法
研究開発活動は主たる事業による獲得利益の範疇で行われるため、原則どおり発生時に販売費及び一般管理費の一項目として費用処理
・研究開発型
リニアモデル 3分法
「製品研究開発」活動における費用を売上原価として売上と対応。それ以前の将来の収益獲得能力が不明な研究開発活動のための費用については、販売費及び一般管理費の一部として研究開発費処理
  ノンリニアモデル2分法
収益に対して「シーズ研究開発」から「製品研究開発」までの費用を含めて対応関係を捉える

研究開発型バイオベンチャーのための会計の枠組み
事業形態 製薬企業(製造業) 研究開発型バイオベンチャー
主たる事業目的 薬の製造販売 創薬研究開発
研究開発の
位置づけ
将来投資
主たる事業による獲得利益の範疇で行われる。
主たる事業(営利活動)
主たる事業として、少なくとも「製品研究開発」については利益獲得を企業目的としている。
会計の枠組み 製造業型会計 研究開発リニアモデル型会計 研究開発ノンリニアモデル型会計

営業損益上の
特徴

研究開発は100%将来投資のための活動であり、原則研究開発収入は営業収益(売上)にはなり得ない。 研究開発活動を営業収益との対応関係により、売上原価と研究開発費(将来投資)に区分する。 研究開発に関する、事業収益と事業費用によって企業実態(営業損益)を表現する。
営業損益の
表示方法
3分法 3分法 2分法
備 考 創薬による新薬の製造販売を主たる事業目的としているバイオベンチャーも、企業会計の枠組みではこのカテゴリーに属する。 研究開発による価値創造プロセスをリニアモデルで捉えるため、収益を生んでいる活動のコストを狭く定義する。既に上市している製品や「製品研究開発」ステージにあるシーズを保有する場合のカテゴリー。 研究開発による価値創造プロセスをノンリニアモデルで捉えるため、収益を生んでいる活動のコストを広く定義する。「シーズ研究開発」ステージにあるシーズを保有する場合のカテゴリー。

5.おわりに
上場会社等としては利害関係者に対して適時に適切な情報を開示していく責任があり、株価への影響も大きい。しかし、研究開発型のベンチャーにおいては提携先との守秘義務契約、特許出願のタイミング、研究者の方の学会発表など、一般的な事業会社と比較してタイムリーディスクロージャーを実践する上での障害が多いのも事実である。適時開示に対する認識を管理部だけでなく全社で共有すべく啓蒙することも重要である。
以上
『会計情報』(トーマツリサーチセンター発行/2005年8月号)
佐野明宏執筆分より抜粋
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