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トピックス 2006.3.15
3月決算の退職給付会計
公認会計士 泉本 小夜子
退職給付会計は導入以後毎年のように改正されている。企業年金を取り巻く法規制と運用環境が大きく変化してきたため、会計実務も新たな事象に合わせて改正されているものである。2006年3月期では資産超過に関する改正会計基準などが新たに適用となっている。本稿では、改正会計基準などの概要とともに、退職給付会計の決算上の諸問題を考えてみることとする。なお、文中における意見に関する部分は私見である。

1.資産超過にかかる改正会計基準など
平成17年3月16日に公表され平成18年3月決算会社から適用となる会計基準などは図表1のようになる。適用すべき企業はそれほど多くはないと思われるが、それぞれ何を規定しているか整理する。

図表1 資産超過にかかる改正会計基準など
指針名 表題 主な内容
企業会計基準 第3号 『退職給付会計に係る会計基準』の一部修正 注解(注1)を使わない
会計基準適用指針
第7号
『退職給付会計に係る会計基準』の一部修正に関する適用指針 未認識年金資産の振替えの会計処理
会計制度委員会報告
第13号およびQ&A
「退職給付会計に関する実務指針」、「退職給付会計に関するQ&A」の改正 年金資産の返還時の会計処理

未認識年金資産を区分しない会計基準第3号
企業会計基準第3号は、平成10年6月16日公表の退職給付会計基準注解(注1)に記されていた「実際運用収益が期待運用収益を超過したこと等による数理計算上の差異の発生または給付水準の引き下げたことによる過去勤務債務の発生により、年金資産が企業年金制度に係る退職給付債務を超えることとなった場合には、当該超過額を資産及び利益として認識してはならない」との規定を使わない、という内容である。従来は、年金資産が退職給付債務を超過しその原因が上記に該当する部分は数理計算上の差異や過去勤務債務とすると直ちに費用の減額(=利益の認識)となってしまうことから、「未認識年金資産」に区分し費用の減額処理をしないものとしていた。この改正により未認識年金資産として区分しないこととされたため、上記の原因で資産超過となっても当該発生した差額は数理計算上の差異または過去勤務債務として処理し直ちに費用の減額処理をすることとなる。

期首の未認識年金資産を振替える適用指針
適用指針第7号は会計基準第3号をうけて、過年度に未認識年金資産として区分し繰越していた残高を数理計算上の差異または過去勤務債務に振替えることが規定されている。すなわち平成17年4月1日に前期以前から繰越された未認識年金資産がある場合は、数理計算上の差異または過去勤務債務とに合理的に区分して振り替え、当期首に発生したものとみなして、従来より採用する処理年数と処理方法に従って費用の減額処理をする、というものである。従って、期首に未認識年金資産がない企業には適用指針第7号の適用はない。2005年3月決算の有価証券報告書を検索したところ未認識年金資産がある企業は74社であった。当期から適用する企業は、改正会計基準の適用(会計方針の変更として扱われる)と適用指針第7号による会計処理の影響額を当期の財務諸表に記載することになる。

1、2月決算会社の早期適用
本稿が読者のもとに届く時点では、平成18年1月および2月決算会社はまだ早期適用が可能である。期首(平成17年2月1日および3月1日)に未認識年金資産がある場合は会計基準および適用指針を早期に選択適用するのであるから「会計方針の変更」として扱われる。また、期首に未認識年金資産がなく期末に初めて資産超過となった場合(その原因が旧注解(注1)にある場合)に、会計基準第3号により未認識年金資産としない会計処理を採用することができる。これは適用指針第7号の適用はない(期首に振替えるべき未認識年金資産がないため)が会計基準第3号を早期適用した「会計方針の変更」となる。

超過資産が返還されるときは実務指針
改正前実務指針31項は、旧注解(注1)を受けて未認識年金資産に該当する場合を示していたが、企業会計基準第3号によってもはや未認識年金資産を区別する必要がなくなった。このため、改正実務指針ではどのような原因であれ年金資産が退職給付債務を超過した場合に、当該超過額が企業に返還される場合の会計処理を規定している。すなわち、企業に年金資産が返還された場合は退職給付引当金の増加とする。返還額が返還前の年金資産に占める割合が重要な場合は、年金資産に係る数理計算上の差異のうち返還された年金資産に対応した額を損益処理する。
なお、企業年金制度で年金資産が返還されることは適格退職年金で稀にはあるが一般的ではない。改正実務指針31-2項が主に適用されるのは退職給付信託が積立超過となる場合であろう。日本公認会計士協会の検索システムにより有価証券報告書(2004年4月決算から2005年3月決算会社4,642社(非公開証券取引法適用会社も含まれる))を検索したところ、430社で「退職給付信託」がヒットした。なお、退職給付信託は企業の意思で勝手に全部または一部を解約(返還)することはできない。退職給付信託契約に従って信託管理人の同意が必要であることに留意するとともに、返還額は「年金資産が退職給付債務を超過し、かつ、信託財産が退職給付に使用されないことが合理的に予測される(改正Q&A Q4-2A)」範囲内であることに留意が必要である。

図表2 企業会計基準第3号と会計基準適用指針第7号の適用関係
  早期適用
  平成16年4月1日
未認識年金資産 △2,400
振 替 2,400
過去勤務債務 △ 400
数理計算上の差異 △2,000
原則適用
平成17年4月1日
△2,000
2,000
△ 400
△1,600
改正基準 適用下
平成18年3月31日
※  −
 
△1,800
・前期前に発生した未認識年金資産を期首で過去勤務債務または数理計算上の差異に振替える。
・改正会計基準を適用し「会計方針の変更」となる旨の開示と影響額を記載する。
・影響額は期首に振替えた過去勤務債務と数理計算上の差異の当期1年間の償却額となろう。
平成17年4月1日に前期以前に発生した未認識年金資産はないが、平成18年3月末に積立超過となり、改正前の会計基準・改正前実務指針31項を適用していたら未認識年金資産として区分すべき内容について当期の数理計算上の差異とした場合⇒すでに改正会計基準適用下にあり、前期以前には未認識年金資産として区分する会計処理を適用する事実がなかったのであるから、会計方針の変更には当たらない。事実の変更により改正基準が自動的に適用になるだけであるから、改正会計基準適用の旨の開示は不要である。

2.3月決算の実務上の諸問題
(1)割引率の変更の要否
退職給付債務は期末の負債であるから、それを計算する割引率は決算日の金利水準で決める必要がある。ところが、退職給付債務の計算には時間がかかるので、実務では期末より前のデータ基準日において計算し、期末までの異動を加減する方法によって決算日の退職給付債務を計算している。期末より前に期末日の債務計算を行うのであるから、採用する割引率は期末日のそれを予想して決定する必要がある。
割引率は「安全性の高い長期の債券の利回り」であることから、「長期の国債、政府機関債、複数の格付機関よりダブルA格相当以上を得ている社債等」により決定する。参考までに国債の応募者利回りの2000年(導入初年度)と2005年を比較するとこの5年間で0.5%下落している(図表3)。2000年当時は低金利が異常だとして、「一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる」とされているため、直近の「異常」金利を除外した3年平均などを用いている例も見られたが、もはや5年も低金利が続いている現状では、この低金利が「正常」であると言うべきであろう。

図表3 国債応募者利回り(1月〜12月) (単位:%)
  10年国債 20年国債 30年国債
単年度平均 5年平均 単年度平均 5年平均 単年度平均
2000年 1.710 2.091 2.305 2.795  
2005年 1.361 1.284 2.018 1.920 2.419
(注)小数点以下第4位で四捨五入の処理をしている。

退職給付会計では、当期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときは当期末の割引率に改定する、と規定されている。これは、期首の退職給付債務計算に用いた「期首の割引率」と本来あるべき「期末の割引率」の双方で期末の退職給付債務を計算し、両者を比較して10%の影響がある場合は「期末の割引率」を採用し、10%の影響がないなら「期首の割引率」のままでよい、というものである。10%の影響の有無は2通り計算してみないと分からない。まして、期末日前に期末の計算を行うのであるから期末の金利を推測し何通りも計算することが必要となる。そこで、実際には退職給付実務指針の付録資料3「期末において割引率の変更を必要としない範囲」)を用いて変更するか否かの決定を行う。
例えば、期首に割引率3.0%を採用した企業で平均残存勤務期間が16年の場合に退職給付債務が10%変動しない期末の割引率は「2.4%〜3.6%」である。16年国債はないので、2005年の10年国債と20年国債の平均利回りの差から16年を計算すると1.755%={(2.018−1.361)×6/10+1.361}となる(※)。もはや16年で2.4%という金利は社債(ダブルA格以上)でも存在しない。したがって、期末の割引率は1.7ないし1.8%に変更することが必要となる。なお、平均残存勤務期間に替えて年金支給期間を加味した平均支払期間に対応した割引率を採用することも勿論できるが、どちらを採用するにしても継続適用が必要である。ただし、平均支払期間(例えば30年)では10%変動しない幅が「2.7%〜3.3%」と狭くなる。30年国債の2005年平均は2.419%であるから、やはり変更が必要となる。

※16年の国債金利がないことから、「実際に存在する」10年と20年の国債利回りからこのような計算値を算定し、期末の割引率の参考にすることは不合理ではない。また、日本証券業協会のウェブサイトでは格付別、残存償還期間別の社債利回りが検索できるので、そこから金利情報を入手することもできる。

(2)退職給付費用と退職給付引当金のマイナス表示
退職給付費用は、退職一時金制度でも企業年金制度でも、「将来負担する退職給付」を見積もった当期分の費用であるから、いわば「人件費」である。したがって、通常は営業費用(販売費一般管理費または製造原価)に計上する。
導入時から2003年までは株価が下落の一途であったが、2004年、2005年度と好転し、昨今も株価は上がり続けている。当期も年金資産からプラスの数理計算上の差異が多額に発生することが予想される。企業によっては多額のプラス差異処理額とともに期待運用収益も大きくなるため、当期の退職給付費用が全体でマイナスになる場合も起きている。特に簡便法では数理計算上の差異というクッションがないため、当期の運用好調はそのまま退職給付費用をマイナスする。このような退職給付費用のマイナス値は損益計算書のどこに計上すればよいだろうか。
年金資産の運用の結果としてプラス差異になったので資産運用収益(営業外収益)であるという意見もある。また、退職給付引当金が減少するから引当金取崩益(特別利益)にするという意見もある。しかし、退職給付費用はあくまで「人件費」であるので、運用成果が良かった分は会社負担の将来の年金掛金が減少する(退職給付引当金が増えない)ことになるだけである。したがって営業外収益や特別利益に計上することは退職給付会計からは違和感がある。そこで、退職給付費用のマイナス値は人件費のマイナス項目として、販売費一般管理費に負値で計上すればよいと考える。なお、当該退職給付費用の負値が多額である場合は、年金資産のプラス差異を原因として退職給付費用がマイナスになった旨の注記を付すことも検討すべきであろう。

(3)総合型厚生年金基金からの脱退
総合型厚生年金基金に加入している企業のほとんどは掛金を退職給付費用として処理する方法によって、退職給付会計上は対象外としていると思われる。総合型基金は同業種、同一地域で作る相互共済的な制度であり、新しく加入した事業所も古くから加入している事業所も過去勤務債務は同じ償却率で特別掛金を負担するので、厚生年金基金の年金資産のうち「自社の拠出に対応した年金資産の額」を算定することが不合理だからである。
ところで、総合型基金から事業再編や種々の事由によって脱退する場合には、厚生年金基金の積立不足に対応した特別な精算金を徴収されることが多いのが実情である。従って、総合型基金からの脱退を決め脱退精算金を請求された場合には、当然ながら当該精算金を一括費用計上する必要がある。
厚生年金基金の決算報告をみると、貸借対照表の資産側には、過去勤務債務の未償却残高以外に特例調整金という勘定がある場合がある。これは特例によって特別掛金(過去勤務債務の償却の掛金)を徴収していない部分であるが、年金資産が数理債務に比して不足しているのは同じことで、運用成果によって積立不足が解消しない限り、いつかは掛金を負担しなくてはならなくなるかも知れない部分である。加入事業所が脱退する場合には基金の積立不足についてどのように精算金を負担するかは個々の基金規約に従うことになるが、多額の資金負担となることが必至であり、それは一時の損失に計上することになる。
退職給付会計上は総合型厚生年金基金に加入しつづける限り「自社の掛金に対応した年金資産の額」を合理的に算定できないということで掛金を費用処理しているわけであるから、これに対応して「自社の負担すべき積立不足額」も合理的には算定できない。しかしながら、多額の積立不足が生じている総合型厚生年金基金に加入している企業は、その存在を無視し続けてよいかは疑問の残るところである。近い将来脱退することを決定し、例えば厚生年金基金の前期決算値に基づく脱退精算金が試算できる場合などは、当該脱退精算見込額を引当計上(この場合は退職給付会計の範囲外であるので、企業会計原則注解(注18)の要件によることとなろう。)することを検討すべきであると考える。

図表4 厚生年金基金の減少
基金数 総数 単独設立 連合設立 総合設立
2000年3月末 1,835 547 657 631
2005年3月末 799 117 141 541
(減少) (1,036) (430) (516) (90)
2006年1月1日 705 178
<うち将来返上34>
527
<うち将来返上2>
出典:企業年金連合会Webサイト「企業年金の現況」をもとに作成
(注)< >の数は2006年1月1日現在で代行返上をするために申請済みの基金を意味する。
以上
本稿は、中央経済社刊「旬刊経理情報」3月10日号に掲載したものである
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