| トピックス 2007.1.31 |
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| 退職給付のデューデリジェンス |
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| 年金数理人 堀田 晃裕 |
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I はじめに
デューデリジェンスにおいて、退職給付は財務的インパクトが大きいだけでなく、企業再編後にどのような姿とするかを検討する必要があるため、非常に重要なポイントの1つである。退職給付のデューデリジェンスにおける実施項目は、退職給付引当金の検討、退職給付制度の検討に大別できるが、本稿では退職給付引当金の検討について見ていくこととする。
なお、本稿における意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
II 退職給付引当金の検討
通常の決算において計上される退職給付引当金は、退職給付債務から年金資産及び未認識項目を控除した金額である。未認識項目には会計基準変更時差異、未認識数理計算上差異、未認識過去勤務債務があるが、これらは遅延認識される項目であり本来的には対象企業の債務であるから、この分だけ退職給付引当金を修正することが考えられる。
III 退職給付債務の検討
次に退職給付債務がデューデリジェンスの観点から適切に算定されているか検討を行うが、ここで注目すべきなのは退職給付債務の評価において前提とした基礎率である。退職給付会計上妥当とされる基礎率であっても、デューデリジェンスの観点からは適切であるとは限らないことに留意する必要がある。ここではそれぞれの基礎率について留意すべきポイントについて解説する。
1.割引率
割引率は、退職給付会計上、「安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定しなければならない」(退職給付に係る会計基準)とされているが、退職給付に係る会計基準注解(注6)において、安全性の高い長期の債券の利回りとは「長期の国債、政府機関債及び優良社債の利回り」と定義され、「一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる」とされている。
日本公認会計士協会より公表された退職給付会計に関する実務指針(以下、実務指針と記す)においては割引率の設定方法について以下のように言及されている。
退職給付債務の計算における割引率の設定方法
11.退職給付債務の計算において割引率を設定する場合の「安全性の高い長期の債券」(注解(注6))には、長期の国債、政府機関債のほかに、例えば複数の格付機関よりダブルA格相当以上を得ている社債等が含まれる。なお、この場合の「長期」とは、退職給付の見込支払日までの平均期間を原則とするが、実務上は従業員の平均残存勤務間に近似した年数とすることもできる。退職給付の見込支払日までの平均期間には、企業年金制度がある場合には平均年金支給期間も加味する。
また、注解(注6)では「一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる」としているが、この場合の「一定期間」とはおおむね5年以内をいう。また、「利回りの変動を考慮して決定する」とは、単に一定期間の平均値を採用するという方法に限らず、一定期間の変動を踏まえた上で、期末時点における退職給付の見込支払日までの期間の割引率として適正なものを選定することを意味する。 |
基礎率の重要性の判定方法(割引率変更の要否)
18.割引率は安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定されるが、各事業年度において割引率を再検討し、その結果、割引率の変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合には、退職給付債務の再計算が必要である。
重要な影響の有無の判断に当たっては、前期末に用いた割引率により算定されている退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定される場合には、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければならない(期末において割引率の変更を必要としない範囲については、資料3(省略)が参考となる)。 |
以上から退職給付会計における割引率については次のことがわかる。
●一定期間(5年以内)の平均値等を採用することができる
●退職給付債務が10%以上変動しない場合には前期から割引率を変更しないことが認められる
これにより会計上の割引率は評価日時点における「安全性の高い長期の債券の利回り」になっていない可能性があることに留意する必要がある。デューデリジェンスの観点からは退職給付の見込支払日までの平均期間(従業員の平均残存勤務期間、年金制度がある場合にはこれに平均年金支給期間を加味したもの)に対応したその時点における安全性の高い長期の債券の利回りそのものを用いることが退職給付債務の時価を算定することとなる。
実務指針第59項には長期の債券等の利回り情報について、「日本証券業協会から公表されている格付マトリクス表等から入手できる」とあるので、評価日時点における退職給付の見込支払日までの平均期間に対応するダブルA格の債券の利回りを格付マトリクス表から参照する方法が考えられる。
2.予定昇給率、退職率
予定昇給率及び退職率について、実務指針第20項では以下のように言及されている。
基礎率の重要性の判定方法(その他の基礎率変更の要否)
20.その他の基礎率(昇給率、退職率等)の重要性の判断に当たっては、それぞれの企業固有の実績等に基づいて退職給付債務等に重要な影響があると認められる場合は、各基礎率を再検討し、それ以外の事業年度においては、見直さないことができる。ただし、企業年金制度における財政再計算時の基礎率の見直しは、退職給付債務の計算に反映させる必要がある。 |
企業年金制度がある場合、予定昇給率及び退職率は企業年金の財政計算で用いられているものを使用することが一般的である。企業年金では財政再計算時に予定昇給率及び退職率を見直すため、それ以外の年度では通常予定昇給率及び退職率の算定は行われない。
実務指針第20項は企業年金の財政再計算時に算定された予定昇給率及び退職率を次回再計算時までの間(通常3〜5年間)継続して用いることを許容するものである。割引率と同様な考えに基づけば、デューデリジェンスの観点からは直近のデータを用いて算定したものを使用することが望ましいと考えられるが、デューデリジェンスの現場で必要なデータが入手できるとは限らないことに留意する。一般的に予定昇給率の算定には評価日時点の従業員データが、退職率の算定には評価日時点の従業員データ及び評価日前3〜5年間の退職者データが必要である。
企業年金で用いられる退職率は、特に企業年金の導入当初時などに、算定されたものを割掛けして用いることがある。年金資産がまだそれほど積み上がっていない段階で多額の支払いが発生する場合に備えて、掛金を高めに設定することを目的として退職率を低めに設定する場合や、複数の企業が合同で企業年金を運営している場合に企業間の異動が退職率に含まれてしまうことを踏まえて退職率を低めに設定する場合などがこれに該当する。これは企業年金の財政運営からの要請であり、デューデリジェンスの観点からはこれらの処理は不要である場合が多い(多くの場合は会計上も不要と考えられる)。
一般的には退職率が高いほど退職給付債務は小さく計算されることとなるが、他の基礎率と比べると影響度合いはそれほど大きくない。ただし、制度の内容(特に勤続期間の伸びと給付額の伸びがアンバランスなケース)や他の基礎率との関係、あるいは退職率自体が非常に高いケースなどでは必ずしも一般論が当てはまらないケースもあるので留意が必要である。
また退職給付債務への影響が小さいと考えられる場合でも、退職率は割引率決定の基礎となる平均残存勤務期間に影響を及ぼすこととなるため、割引率を見直すケースもあり、その場合にはもはや影響が小さいと無視できないことも考えられる。
予定昇給率は給付水準を規定することとなるため、一般的には退職率よりも退職給付債務に与える影響が大きいと考えられる。また最終給与比例制(退職時の給与に勤続年数別の支給乗率を乗じる方式)の方が、ポイント制よりも大きく影響を受ける。
会計上の予定昇給率として実績値より算定したものでなく将来の見込を反映したものを用いている場合があるが、将来見込の前提が妥当なものであるかは十分吟味が必要である。
3.死亡率
実務指針における死亡率についての記載は以下の通りである。
退職給付債務の計算における退職率と死亡率(死亡率の設定方法)
14.死亡率とは、従業員の在職中及び退職後における年齢ごとの死亡発生率のことである。年金給付は、通常、退職後の従業員が生存している期間にわたって支払われるものであることから、生存人員数を推定するために年齢ごとの死亡率を使うのが原則である。この死亡率は、事業主の所在国における全人口の生命統計表等を基に合理的に算定する。 |
死亡率は個別企業で十分な実績をとれないことから、企業年金で用いられている死亡率を用いることが一般的である。企業年金で定められている死亡率は5年に1回程度改定されており最新のものを用いることが望ましい。
死亡率は退職率に比べて水準が低く、退職給付債務にそれほど大きな影響を与えないと思われるかもしれない。死亡率は従業員に適用されるものと受給権者に適用されるものの2種類ある。確かに従業員に適用されるものは退職率と比べて一般的に水準が低く、死亡率が退職給付債務に与える影響は小さい。一方受給権者に適用されるものに関しては影響が大きなケースがあるので留意が必要である。
影響が大きいと考えられるのは、年金制度が終身年金でかつ一時金選択率が低いケースである。死亡率は年々改善されてきているので最新の死亡率では平均余命が伸長している。終身年金では平均余命が長くなれば支給期間がそれだけ増えるので退職給付債務は増大する。また平均年金支給期間が伸びることから割引率も影響を受ける可能性があることに留意が必要である。
4.一時金選択率
企業年金において年金の受給権を取得した従業員が退職する場合、年金の代わりに一時金を受給できる(選択一時金)制度がある。
多くの場合、選択一時金の金額は年金の現価(終身年金の場合は年金の保証期間部分に限る)に等しくなるように設計される。ただし現価算定に用いる率は規程により異なり、割引率とは通常関連性がない。年金現価算定に用いる率が割引率より大きい場合、退職給付債務は年金で受給するよりも選択一時金の方が小さくなる。また終身年金の場合、終身部分は選択一時金に反映されないため、こちらも年金で受給するよりも選択一時金の方が小さくなる。
したがって、年金受給資格に達した従業員がどれくらいの割合で選択一時金を受給するかは基礎率として取り扱われる(なお、企業年金の財政計算においては基礎率とせず全員がコストが高い方を選択する前提とすることが一般的である)。企業年金で基礎率とされないためか、会計において十分な検討がなされた形跡がないまま一時金選択率をゼロとするケースや全退職者のうち一時金を受給した従業員の割合の実績とするケース(正しくは年金受給権に達して退職した者のみで検討しなくてはならない)など適切でないと思われる取り扱いも散見される。
年金のすべてを選択するだけではなく、一部を選択一時金として受給することを認める規程も多く存在することから、人数ベースではなく金額ベースでの実績を基に決定すべきであるが、一般的に入手データは限られていて最も理論的と考えられる方法がいつも実施できるとは限らないことに留意が必要である。
5.期間配分方法
「退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額」の計算方法について、実務指針では以下のように述べられている。
退職給付債務の計算手法
2.(2)退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額の計算予想退職時期ごとの退職給付見込額のうち、期末までに発生していると認められる額を計算する。
期末までに発生していると認められる額を見積もる方法としては、期間定額基準(退職給付見込額を全勤務期間で除した額を各期の発生額とする方法)が原則である。
ただし、全勤務期間の給与額を体系的に定めていて、退職給付の算定基礎となる各期の給与額に各期の労働の対価が合理的に反映されていると認められる場合には、給与基準(退職給付見込額のうち、全勤務期間における給与総支給額に対する各期の給与額の割合に基づいた額を各期の発生額とする方法)を用いることも認められる。
支給倍率を基準とする方法を用いることは適当ではない。ただし、支給倍率の増加が各期の労働の対価を合理的に反映していると認められる場合(支給倍率が勤続年数の増加に対してほぼ一定割合で増加している場合等が考えられる)は、支給倍率基準(退職給付見込額のうち、全勤務期間における支給倍率に対する各期の支給倍率の増加額の割合に基づいた額を各期の発生額とする方法)を用いることができる。
また、退職給付の計算において「ポイント制」を採用している場合で、そのポイントの増加が各期の労働の対価を合理的に反映していると認められる場合には、ポイント基準(退職給付見込額のうち、全勤務期間におけるポイントに対する各期のポイントの増加分の割合に基づいた額を各期の発生額とする方法)を用いることができる。 |
会計ではほとんどのケースで期間定額基準が用いられており、給与基準、支給倍率基準が用いられているケースはあまりない。ただしポイント制を採用している制度においてポイント基準が用いられているケースはいくらか見られる。
期間定額基準とポイント基準についてはどちらが正しいかという議論ではなく、どの程度の差異が生じる可能性があるかを把握しておくことが重要であろう。
IV おわりに
会計とデューデリジェンスで基礎率に対する考え方が異なるのは、両者の目的からすると当然であるとも言える。デューデリジェンスにおいては評価日時点の企業が負っている債務を評価するという視点のみで考えるべきであり、会計が認めている基礎率の許容範囲をより厳格に適用するものということができる。
ただデューデリジェンスで用いる基礎率は理論的に厳格であればよいというわけではなく、実務的な困難さも十分考慮する必要がある。また理論的に厳格であっても取引当事者のコンセンサスを得られていなければ意味がない。今回のような会計基準をより厳格に適用するアプローチはコンセンサスが得られやすいという利点がある。 |
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| 以上 |
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『別冊会計情報』Vol.5(トーマツリサーチセンター発行/2006年12月)
堀田晃裕執筆分より抜粋 |
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