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| 年金コンサルティング |
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| トピックス 2008.10.9 |
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| 人事ストラテジーとしての退職給付制度 −ポイント制退職金の活用− |
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| 年金数理人 柴田 伸一 |
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I はじめに
退職給付制度が転換期に直面している。少子高齢化が進展していく中で企業の人員構成は歪になり、年功序列・終身雇用に代表される日本的な人事体系・給与体系と相まって企業の人件費は高止まりの様相を呈している。経済の成熟化・国際化がより進展していく中で企業が勝ち抜くためには、労働生産性の向上が欠かせない。企業の活力を維持・向上させるためにも、限りある人件費の効率的な活用、人事制度の改定が待ったなしの状況である。
また、2000年の退職給付会計の導入により、退職金等はこれまでの功労報奨的な性格から、報酬の一部でありそれを後払いしているという性格(賃金の後払い)として位置づけられるように変化している。退職給付制度にかかる費用は、企業の総人件費のうち約6%強を占めている。人事ストラテジーにおける位置づけ・役割を明確化することにより、退職給付制度を有効活用していくことが求められている。
本稿では、労働市場における現状、人件費の国際比較及び構成などを確認した後で人事ストラテジーとして退職給付制度がどうあるべきかを解説していく。
なお、本稿における意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
II 労働市場の現状
日本の労働市場が危険な状況を迎えている。出生率の低下及び女性の晩婚化等に伴い日本の総人口及び労働力人口は減少の一途をたどる見通しである。
2005年時点の総人口はおよそ1億2,777万人である。当時の推計(中位推計)では、この総人口は以後長期の人口減少過程に入り、2046年には1億人を割り、2105年にはおよそ4,500万人にまで減少すると見込まれている(図表1参照)。
図表1:日本の総人口の見通し

資料:「日本の将来推計人口(2006年12月推計)」 国立社会保障・人口問題研究所
総人口の減少は労働力人口の減少にそのまま反映される。労働力人口は1990年の6,384万人から2000年には6,767万人と約6%増えるが、その後は減少に転じ、2030年には5,908万人と2000年時点から13%減少すると推計されている。また、労働力の高齢化も同時に起こり、労働力人口に占める60歳以上の割合は1990年の11.5%から、2000年の13.6%を経て、2030年には20.6%となり、労働者の5人に1人が60歳以上となる見通しである(図表2参照)。
労働力の確保は企業の活力を維持・向上する上で最も欠かすことのできないものの一つであり、市場全体の労働力が減少する中にあって、企業は労働者にとって魅力ある環境を提供していくことが重要になっている。
図表2:労働力人口の推移

資料:2005年までは総務省統計局「労働力調査」、2012年以降は労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計(2007年版)」
III 人件費の高騰
人件費の高騰が企業を滅ぼす。日本企業はそんな危うさを内包している。
日本企業の労働生産性は低下の一途を辿っており、OECD(経済協力開発機構)30カ国中、日本企業の労働生産性(就業者一人当たりの付加価値)は6万1,862ドルで上から20番目の低さである。先進7カ国中では最下位となっている(図表3参照)。労働生産性の低下に呼応するように労働分配率は高止まっており、先進7カ国中、最も高い率(英国、フランスと同率)となっている(図表4参照)。
図表3:2005年のOECD諸国の労働生産性比較

| ※1. |
労働生産性は、OECD購買力平価換算の国内総生産/就業者数により算出 |
| ※2. |
購買力平価は物価水準の違いを多品目にわたり計算し、加重平均して算出
OECDデータに基づいた購買力平均は、1ドル=127.5円 |
資料:社会経済生産性本部「労働生産性の国際比較(2007年度版)」
労働生産性の低下及び労働分配率の高止まりは、日本企業の効率性の悪さを顕著に表している。多くの日本企業は年功的な給与体系を残しており、年齢及び勤続年数が増すことにより給与はかさ上げされ続けることになる。少子高齢化に起因する企業の人員構成の高齢化とこのような年功的な給与体系が合い重なり、効率性の悪化を招いていることは明らかであろう。経済の成熟化・国際化がより進展していく中で日本企業が生き残るためには、人事制度及び給与制度の見直しにより、労働分配率の適正化及び労働者一人一人の付加価値を高め企業の収益力を向上させることが必須であるといえよう。
図表4:労働分配率の国際比較

労働分配率=雇用者報酬/要素費用表示の国民所得
資料:労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2008・労働分配率」
IV 総人件費の構成
人件費は月例給与及び賞与だけではない。現金で支払われる月例給与、時間外手当及び賞与だけではなく、退職金等(会社外部の機関から給付される退職年金のための掛金等を含む)及び社会保険料等の法定福利費なども含まれる。総人件費に占めるそれぞれの割合は図表5のとおりである。
図表5:総人件費(月平均)の内訳

括弧内は総人件費に対する比率
資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査年報」(2005年)
日本企業では、賞与及び退職金等は基本給又は所定内給与などの月例給与を基準として計算している場合が多い。時間外手当及び法定福利費は計算方法が法律で定められているため、月例給与比例性を強く持っている。このように、総人件費の各項目は所定内給与に比例する性格を強く持っている。図表5に拠れば、所定内給与を100とした場合、総人件費は171となる。したがって、所定内給与を増額すると、その1.71倍も総人件費が増加することになる。
総人件費の管理という側面からも、賞与及び退職金等は所定内給与に拠らない方法への変更というものが急務であるといえよう。
V 退職給付制度の活用
退職給付制度は報酬制度の一つである。退職金等の費用は総人件費の約6%を占めており多額の費用を投じている一方、人事戦略として退職給付制度を有効活用できていない企業が多い。人材確保及び総人件費の管理という観点からも、退職金等が何を評価として支払われるものなのかを明確にし、従業員に対してその役割を明確に伝えることが必要である。退職給付制度を人事ツールと捉え、有効に活用すべきである。
1.退職金等の性格(位置づけ)
月例給与、賞与及び退職金等はそれぞれ報酬の一部であるため、その個人が生み出した業績(付加価値)に対して支払われるものである。しかしながら、区分して支給する以上、その性格(位置づけ)は異なる。その支払い時期と一般的な性格(位置づけ)を図示したものが、図表6になる。
図表6:各報酬の位置づけと支払い時期

前述したとおり、企業収益の確保という観点からは労働分配率の適正化は避けて通れない。したがって、限りある報酬の原資を、人事戦略及び各報酬の位置づけに基づき、振り分けるべきである。
退職金等の性格としては、「功労報奨」、「老後の生活保障」、「賃金の後払い」があるといわれている。長期報酬として位置づけることで優秀な人材の長期勤続へのインセンティブとする考え方、老後の生活保障という観点から生涯総報酬の一定割合を割り当てるという考え方もある。また、賃金の後払いということを明確化し、退職金の賃金化または確定拠出年金に移行することにより、当期に発生した成果に対する報酬を繰り延べることなく、当期に付与するという動きもある。
いずれの場合でも、一番重要なことは、従業員に対して退職給付制度の役割及び位置づけを分かりやすく明確に伝えることである。
2.退職給付のカーブ
退職給付制度がどのような性格を持つのか、日本企業における典型的な退職給付カーブであるS字カーブ(図表7)を例として考察する。
若年層では人材コスト(投資コスト)が十分回収できていないことから給付が低く抑えられ、一定年数を境に給付が急激に増加する。そして、旧定年年齢(主に55歳)の名残からこの年齢を境にして給付の伸びが抑えられる、これが、典型的なS字カーブの特徴である。
では、従業員側からみた場合、どのような動機付けとなるか考察してみたい。各年齢層で考察すると、若年層では給付が低く抑えられているものの将来給付が大きく増加する期待があること、中間層では給付が大きく増加していることから、退職を抑制する機能が働く(Retain機能)。一方、高年齢層では、これ以上勤務しても給付がそれほど増えないことから退職を抑制するような機能は働かない(Release機能)。
このように、退職給付制度は従業員の退職行動に影響を与える機能を有しており、企業は従業員に対して退職給付制度という人事ツールを用いて次のようなメッセージを伝えていることになる。
●若年層及び高年齢層の貢献度の低さ
●長期勤続に対するインセンティブ(Retain機能)
●一定年齢以上の者に対する退職奨励(Release機能)
図表7:退職給付カーブ

3.退職給付の算定式
退職給付の算定式として、日本企業では伝統的に退職時の給与に勤続年数に応じた支給率を乗じる方法、いわゆる最終給与比例方式が用いられてきた。最終給与比例方式には、退職時の給与と勤続期間のみにより給付額が定まるため、
●月例給与に連動して退職金水準が自動的に増大する
●在職中の貢献度の反映が難しい
●従業員にとって各期の増加額が分かりにくい
等の問題点があり、報酬制度及び総人件費の管理という面からも有効活用及びコントロールが難しい制度であるといえる。
このような問題点を解消する試みとして、在職中の貢献度を反映したポイントの累積より給付額が決定する方法、いわゆるポイント制(単年度付与方式)への移行が近年進んできている。ポイント制に移行することにより、退職金額を月例給与から切り離し、単年度の貢献度をポイント化することで従業員に対して分かりやすく伝えることができる。
図表8:単年度付与方式(ポイント制)への移行

4.ポイント制への移行
ポイント制に移行する場合に最も重要なことは、人事戦略における退職給付制度の役割を明確化し、人事制度における評価機軸と退職金制度の貢献度を表すポイントを整合的に設計することである。各期の貢献度を表すポイントの設計次第で制度の性格及び従業員に対するメッセージが大きく変化する。
ポイント制を設計する上で重要な検討事項としては次のことがあげられ、それを図示したものが図表9となる。
図表9:ポイント制設計における検討事項

1)ポイントの種類
代表的なポイントの種類としては、勤続ポイント、(職能)資格ポイント、(職務・役割)等級ポイントがある。
勤続ポイントは期間を評価するポイント、資格・等級ポイントは毎年の貢献度を評価するポイントであるといえる。退職金等は老後の生活保障という性格も持ち合わせているため、勤続ポイントにより最低限保証される金額を設定することができる。
ポイント制は、各期の貢献度をその期に付与するため、原則的にはRetain・Release機能の面からは中立的である。ただし、各期の貢献度を調整することにより、Retain・Release機能を実現させることができる。図表10の例では、勤続35年間で勤続ポイントの累計は575ポイントと同じではあるが、期間ごとのポイント付与額が異なっている。A表の勤続ポイントの設計では、勤続期間が長くなるほど勤続ポイントは増加しているため、長期勤続を奨励している(Retain機能)。
一方、B表の勤続ポイントの設計では、勤続5年以上30年未満は同じ勤続ポイントになっており長期勤続に対するインセンティブは働かない。かつ、勤続30年以上では勤続ポイントは0となっており、退職を奨励しているといえる(Release機能)。すなわち、A表は本来付与される時期を後年度に繰り延べ、B表では本来付与される時期よりも早期に付与していると考えることもできる。
一方、資格・等級ポイントは、人事制度における評価機軸と整合性が取れている限りは、Retain・Release機能としては中立的である。
図表10:勤続ポイントの設計例

2)勤続ポイントの割合
勤続ポイントと資格・職能ポイントの割合によりポイント制の性格が大きく変化する。勤続ポイントの割合が低い制度ほど成果・貢献をより反映している制度といえる。近年では、勤続ポイントを設けずに資格・職能ポイントのみによりポイント制を設計するケースが増加しており、貢献度を積極的に評価する成果主義的な要素が強まる傾向にある。
3)ポイントの格差
資格・等級ポイントにおいて、資格・等級間でどの程度格差を設けるかにより制度の性格が大きく変化する。また、資格・等級だけではなく、各期の評価によりポイントを定めることもできる。
報酬制度の役割として、コア人材の確保ということが最も重要な役割の一つである。一般的にコア人材は育てにくく採用しがたいものである。コア人材、すなわち等級が高く評価が高いものに対して、重点的にポイントを配分することにより、コア人材の確保という機能を持たせることもできる。図表11は等級と評価により貢献度を反映したポイント制の設計例である。
図表11の例では、最大ポイントと最小ポイントの格差は12倍程度になっている。一般的な月例給与の格差に比べ大きな格差を設けることで、コア人材に対するインセンティブを与えているといえよう。
また、日本企業における資格・等級制度は下方硬直性が強い制度といえる。一旦、上がった資格・等級は下がり難いため、ポイント制を導入しても各期の貢献度を適切に評価しているとはいえない場合がある。この問題点を解消する方法として、例えば、図表11のポイント制の設計例のように評価によりポイントを付与する方法、または、同じ資格・等級に一定年数滞留した場合、ポイント付与額を減少させるという方法などがある。
図表11:等級ポイントの設計例

このようにポイントの格差の設け方には様々な方法があるが、人事戦略における退職給付の役割・位置づけ及び給与制度との整合性などを考慮して決定する必要があるといえる。
4)自己都合係数の設定
退職給付制度には、早期に退職した場合の投資コストの回収という機能もあるため、自己都合により早期に退職する場合は、自己都合係数により退職給付額を減額することが一般的に行われている。
この付随的な機能として、Retain機能がある。自己都合係数の設定により早期に退職した場合はポイント累計の一定割合のみしか実現させないため、実質的なポイントの付与を後年度に繰り延べていることになる。
図表12:自己都合係数の設計例

図表12の例では、勤続15年以上20年未満では自己都合係数が50%であるため、過去に付与されたポイントの50%しか実現していないことになる。例えば、勤続20年間でポイントの累計にポイント単価を乗じたものが1,000万円だとすると、退職金は勤続20年到達前に退職した場合は500万円、勤続20年到達で1000万円となる。勤続20年到達に対する価値が500万円となり、勤続20年までのRetain機能が強く働くと考えられる。
VI おわりに
退職給付制度が目に見えない。多くの場合、若年層では退職給付制度に対して関心が薄く、幾らもらえるのかを理解していない、さらには会社がどのような退職給付制度を有しているのかさえ理解していないこともある。
一方、企業は2000年の退職給付会計の導入により退職給付制度に係る積立不足が顕在化し、多額の費用が投じられていることが目に見えるようになってきたことから、退職給付制度を改定する企業が多くなってきている。しかしながら、退職給付制度の改定において、費用の削減だけを目的とするのでは、従業員のモチベーションを下げる結果となり、結果として生産性の低下を招きかねない。
これまで見てきたとおり、ポイント制への移行は一つの解決策であるといえる。しかしながら、これが全ての場合の万能薬ではなく、企業それぞれの人事戦略において、解決策は異なるであろう。共通していえることは、退職給付制度を人事ツールとして有効活用するためには、『従業員とのコミュニケーション』が最も重要だということである。従業員に対して会社からのメッセージを正しく伝え、従業員の目に見える形で制度の再構築を行う。制度の改革だけではなく、従業員の意識を改革することがもっとも重要であるといえるだろう。 |
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| 以上 |
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(参考文献)
中村嘉伸(2002年11月)『成果主義の人事・報酬戦略』ダイヤモンド社
井田修(2003年10月)『成果創出型人事制度』労務行政研究所 |
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『別冊会計情報』Vol.5(トーマツリサーチセンター発行/2006年12月)
柴田伸一執筆分より抜粋(統計値等を最新のものに更新) |
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