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年金コンサルティング
トピックス 2007.3.28
企業年金制度のキャッシュ・フローの特性
年金数理人 勝島 一
I はじめに
企業では、企業年金制度を実施している場合、従業員への直接の退職金支払いに替えて、年金資産の受託会社へ掛金を拠出することになる(受託会社が保険会社の場合、掛金を保険料と呼ぶが本稿では区別せず「掛金」と言う)。退職金支払いも掛金拠出も、従業員へ退職金等を給付することを目的として行われるが、企業年金制度の実施の有無により企業からのキャッシュ・アウトフローは異なってくる。
また、退職給付に関しては、企業年金制度の掛金算定や退職給付会計の退職給付債務(以下「PBO」と言う)算出が数理計算という専門的な計算手法を使用することから、一般に難解・複雑との印象を持たれている。専門的な技術は専門家に委ねる必要があるものの、企業年金制度と退職金制度におけるキャッシュ・フローの性格の違い、退職給付会計上の費用とキャッシュ・フローの仕組みの違いに関して基本的な考え方を理解しておくことは、経営者や財務担当者にとっても有益であると考える。
本稿では、企業年金制度と退職金制度のキャッシュ・アウトフローの違い及びキャッシュ・フローと退職給付会計上の費用との差異を考察する。なお、本稿における意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

II 退職給付制度に係るキャッシュ・フロー
1.退職給付制度の整理

退職給付の支払い準備方法として、企業内部で積み立てる退職金制度と企業外に資産を積み立てる企業年金制度がある。企業年金制度には確定給付型(厚生年金基金、確定給付企業年金、適格退職年金)と確定拠出型(確定拠出年金等)がある。確定拠出型は、企業側から見た場合個人への毎月の支払い方法を決めれば、そのとおり支払えばよいという点で、給与に似ており、追加拠出が必要ないため退職給付会計の対象となっておらず、掛金拠出額を費用とする扱いを行っている。後述する退職給付会計上の費用との関係の考察では、企業年金制度として確定給付型を想定するものとする。
なお、企業年金制度によって掛金設定方法等詳細な取り扱いが異なるため、本稿では確定給付型として厚生年金基金と確定給付企業年金の取り扱いを前提とし、確定拠出型については確定拠出年金(企業型)を取り上げるものとする。

2.キャッシュ・フローの要素
キャッシュ・フローの出し手と受け手を考えると、主体は企業、資産管理運用機関(企業外の年金資産受託会社等)、退職者(または年金受給者、以下「退職者等」と言う)の三者である。
キャッシュの出し手は企業であり、最終の受け取りは退職者等となる。企業年金制度が実施されている場合には企業と退職者等の間に資産管理運用機関がキャッシュの渡し手として位置することになる。

図1:キャッシュ・フローの要素
キャッシュ・フローの要素

1)退職金制度のキャッシュ・フローのイメージ
退職金制度では、退職者が発生する都度、企業から退職金を支給する。一般的には、定年退職の場合、一人当たりの額が大きくかつ発生が予測できるため各企業でも定年退職者の支払額は推計しているものと思われる。
図2は、退職金支払額をイメージするために作成した従業員1,000人規模の企業モデルである。年齢構成は、平成17年国勢調査による年齢別人口の構成比率を使用した。また支払額は、60歳到達時に2,000万円が支払われるものとした。
なお、個々の企業においては、年齢構成がこのモデルよりもバラつくこと、中途での退職者も現れることから、年度毎の退職金支払額は一般にはこのモデルよりもバラつきが大きいと考えられる。

2)企業年金制度のキャッシュ・フローのイメージ
退職給付制度として企業年金制度が実施されている場合、退職金制度の場合と比較してキャッシュ・フローの性質が変化する部分が二つある。一つは、退職者等の給付の受け取り方が退職時の一時金だったものに対して年金を受け取るオプションが追加される。
二つ目は、退職者等への支払いが資産管理運用機関により行われるため、企業からのキャッシュ・アウトフローが退職時期に拠らなくなることである。
企業年金制度のキャッシュ・インフローは企業からの掛金拠出額であり、キャッシュ・アウトフローは退職者等への給付額である(厳密に言えば企業年金制度を運営するための各種手数料や税金等のキャッシュ・アウトフローがあるが、ここでは考慮しないものとする)。

図2:従業員1,000人規模の企業モデル
従業員1,000人規模の企業モデル

図3:キャッシュ・フローのイメージ
キャッシュ・フローのイメージ

III 確定給付型の企業年金制度のキャッシュ・フローの特徴
1.年金財政(掛金設定)の仕組み

1)掛金設定の枠組み
掛金の設定においては、次の三つの基準を満たすことが求められている。a.継続基準、b.非継続基準、c.積立超過による掛金控除である。a.は制度が継続することを前提として給付に必要な掛金を算定する基準であり、b.は制度が終了した場合を想定して必要となる掛金を算定するものである。また、c.は年金資産が必要以上に積み立てられた場合に掛金を減額するという基準である。3つの基準による掛金設定手順は、まずa.継続基準による掛金算定を行った上で、b.とc.の基準を満たすかどうかについて1年に1回検証を実施するのである。検証の結果、基準に抵触した場合には掛金の追加や減額を行うこととなっている。以下ではa.による掛金算定をの仕組みを概観する。

2)継続基準による掛金算定の仕組み
企業年金制度のキャッシュ・フロー(イン・アウト)は、企業年金の法令において収支相当するように規定されている。定常的なイメージとしては、i.キャッシュ・アウトフロー=ii.キャッシュ・インフロー+iii.年金資産の運用収益である。掛金設定の手順は、給付額を予想し(iの予想)、年金資産の運用収益(iii)を仮定した上で、両辺がバランスするように差額として掛金額(ii)が決定される。

確定給付企業年金法第57条
掛金の額は、給付に要する費用の額の予想額及び予定運用収入の額に照らし、厚生労働省令で定めるところにより、将来にわたって財政の均衡を保つことができるように計算されるものでなければならない。

さらにもう一つ原則があって、(ii)は「平準的」にするように決定される。すなわち、給付額は人員構成等によって年度ごとの額にバラつきがあるが、掛金はそれらを平均して均等に拠出するのである。
企業が企業年金制度を採用する理由の一つは、退職金制度に比べて企業からのキャッシュ・アウトフローが平準化される効果を期待することにある。
また、退職金支払額や企業年金制度の掛金拠出は税務上損金となるが、企業年金制度の掛金は一般に退職金支払いよりも以前に拠出することになるため早期に損金が計上できるメリットがある。また、掛金拠出により資産が企業外に流出することとなるが、企業活動による収益には法人税(約40%)が課税されることに対し、企業年金制度では年金資産に対して特別法人税(約1%、2008年3月まで凍結中)が課税されるのみであるため資産の効率的な活用を期待する面もある。
なお、前述の「平準的」とは掛金が常に一定であることを意味しない。企業年金制度へ拠出する掛金は通常2種類存在する。標準掛金と特別掛金である。退職給付会計で似た概念として、前者は勤務費用、後者は過去勤務債務償却費用+数理計算上の差異の償却費用が考えられる。
特別掛金は(年金財政上の)過去勤務債務を償却する掛金であり、これは一定年数以内に過去勤務債務を償却するように設定される。したがって、特別掛金は過去勤務債務が償却終了すると拠出されなくなる。「平準的」とは標準掛金と特別掛金の合計を一定にすることまでを想定していない。標準掛金を一定にするのである。

2.退職給付会計上の費用との関係
1)概要
退職給付会計における費用は、将来の給付額を企業への勤務期間に対応させることとしているため、企業からのキャッシュ・アウトフローは直接は関係しない。退職金制度において、費用がキャッシュ・アウトフローと違う点としては、退職時期に費用を認識するのではなく、勤務している期間に費用を割り当てていることである。また、企業年金制度の場合に留意すべき点は、費用を退職者等への将来の給付を元に算定しており、企業から資産管理運用機関への掛金拠出額を元にしてはいないことである。企業年金制度は給付支払いの積立手段として位置づけられているため企業内での内部積立と退職給付会計上の扱いは変わらない(但し、企業年金制度を採用することにより、退職金制度では退職時の一時金払いのみであったものが、年金(一定期間据え置き等も含む)という支払い方法のオプションが増えることによる費用の変動と年金資産の運用収益をマイナスの費用と認識することの差は存在する)。
退職給付会計導入前は、資産管理運用機関へ拠出した掛金を費用とする扱いとしていたが、企業年金の積立不足が企業の隠れ債務として膨らんでいく中、会計基準のグローバルスタンダード化によって退職金制度と企業年金制度を包括的に取り扱うことへ変更された。
このため、退職給付会計においては、企業年金制度の掛金が退職者等への給付額と異なっていても退職給付債務、退職給付費用の算定へは影響を与えない。図1を参照すると、(2)が変わるだけで、(3)は変化しない。会計上は(3)を評価対象としているからである(但し、年金資産の積立額が異なることにより、期待運用収益は変化することとなる)。

2)勤務費用と標準掛金の差異について
両者とも1年間の勤務に対応する費用である点は共通だが、個々の従業員に対する勤務費用は割引の効果を反映させることにより、年齢の上昇にしたがって増加する仕組みとなっている。それに対して標準掛金は、一般には従業員の年齢によらず一定額(または給与に対する一定率)となるように設定される。
なお、標準掛金の設定方法は複数あり、その設定方法は財政方式と呼ばれている。一般に使用されることが多い加入年齢方式は前述の標準掛金が年齢によらず一定額等になる性質を持っている。但し、退職給付会計(勤務費用算出)で使用されている予測単位積増方式を採用した場合には、勤務費用=標準掛金とすることも可能である。この部分に着目すると年金財政運営と退職給付会計処理を一致させ(掛金と費用を同じとし)複雑な退職給付の財政関係を一本化することができるように見えるが、採用している企業はほとんどないと思われる。財政方式以外の部分で、割引率と予定利率の設定方法や過去勤務債務の償却ルール等、それぞれに異なる取り扱いをせざるを得ない部分があり、完全に一致させることはできない。このため財政方式を合わせるメリットは小さいと考えられる。

3)給付現価とPBO
退職給付会計のPBOや企業年金で給付現価と呼ばれる負債評価項目は、将来の給付額を予測した上で現在価値に割り引いて算出している。退職者等への給付の予想額を割り引き計算した額は給付現価である。この中には将来の勤務期間に対応した額を含んでいる。企業年金制度では今後の標準掛金の収入を予測し(掛金収入現価)、給付現価から控除した額を数理債務と呼び、年金資産の積立目標としている。退職給付会計のPBOは将来の給付額のうち現在までの勤務に対応する分を取り出しているため、企業年金制度で言えば数理債務に近い概念となっている。

図4:数理債務とPBOのイメージ
数理債務とPBOのイメージ

3.キャッシュ・フローの特徴
1)予定利率
企業年金制度への掛金は、企業年金制度での資産運用利回りを見込んで設定される。このため、運用利回りの設定によって掛金の額が変わってくる。利回りを高く見込めば、掛金は少なくなり、低く見込めば高く設定される。企業年金制度の運営上、利回りの予実の差は後々の掛金に反映されるのだが、当初の掛金拠出計画時には運用利回り見込みが掛金の水準を決定する重要な要素となる。これが年金財政上使用される割引率であり予定利率と呼ばれている。予定利率の設定により掛金水準が異なることに留意が必要である。

確定給付企業年金法施行規則第43条第2項第1号
利率は、積立金の運用収益の長期の予測に基づき合理的に定められるものとする。ただし、国債の利回りを勘案して厚生労働大臣が定める率を下回ってはならない。

2)特別掛金
特別掛金は、過去勤務債務を有限期間(最長20年)で償却するよう設定される。このため、仮に短い年数(例えば5年)で償却期間を設定した場合、理論上当初5年間は、標準掛金と特別掛金の合計額が掛金拠出額となるが、6年目以降は標準掛金のみとなる(実際には、掛金計算の前提(計算基礎率)と実態の乖離により発生する後発過去勤務債務(退職給付会計の数理計算上の差異に相当)の発生等により、予定通り償却されることは稀である)。
また、一定の範囲内で毎年特別掛金額を変動させることも、その旨企業年金の規約に定めることにより可能とされている(弾力償却)。その点では、企業年金制度の掛金は、ある程度企業が拠出額をコントロールすることが可能となっている。

図5:特別掛金の拠出額のイメージ
特別掛金の拠出額のイメージ

IV 確定拠出年金のキャッシュ・フローの特徴
確定拠出年金の場合も、企業から資産管理運用機関へ掛金を拠出し、資産管理運用機関から退職者等へ給付を行う点では、確定給付型の場合と相違はない。企業からのキャッシュ・アウトフローは従業員の退職時期に拠らず、平準的に発生する。但し、確定給付型では、掛金を設定する際に、給付を予想し運用収益を仮定したが、確定拠出年金では、まず掛金が設定され、実際の運用収益を加えたものが退職者等への給付額となる。すなわち、年金資産の運用結果を退職者等への給付額に反映させることにより、企業からのキャッシュ・アウトフローは確定給付型よりもさらに安定している。以下では、確定拠出年金のキャッシュ・フローについて、確定給付型との比較を中心に考察する。

1.確定拠出年金の給付
確定給付型の給付(退職または老齢等を条件に年金または一時金給付)は、概ね退職金制度の給付(退職時に一時金給付)に対して年金で受け取るオプションが追加されたものだが、確定拠出年金では仮に退職金制度の一部を移行した場合でも受け取り時期や給付額は退職金制度とは異なるものになってしまう。まず、受け取り時期は退職時ではなく原則60歳以降となる。確定拠出年金の年金資産運用は税制上優遇されているが、退職時に受け取りが可能となると貯蓄と差別化しにくくなるために老齢(60歳以上)を給付の要件としている(他の給付要件としては、死亡、障害、特定条件下の脱退がある)。また、給付額についてであるが、確定給付型の場合は給付を賄うべく掛金を設定するのに対して、確定拠出年金では掛金と運用結果により給付額が決まる。このため、運用成績によって給付額の多寡が異なってくる。
確定給付型は運用成績が悪い場合、企業が拠出する掛金を増やすことになるが、確定拠出年金の場合は従業員の受け取る給付額が減るのである。
なお、確定拠出年金には退職事由(定年、会社都合、自己都合、懲戒解雇等)により給付額に差を設けることは出来ない。企業から拠出した掛金は、資産管理運用機関の従業員ごとの口座に入金されるが、一度企業から従業員ごとの口座に拠出された掛金は一部手数料等に使用される他は原則従業員の給付に充てられる(但し、確定拠出年金の規約に定めることにより勤続3年未満で退職する場合には企業へ年金資産を返還することが可能となっている)。

図6:確定給付型と確定拠出型の給付カーブのイメージ
確定給付型と確定拠出型の給付カーブのイメージ

2.確定拠出年金の掛金
一人当たりの定額か給与に対する一定割合、その他これらに類する方法として定めることになっている。但し、一人当たりの拠出限度額が決められており、これを超えて拠出することは出来ない(他に企業年金制度を実施している場合は2万3千円/月、実施していない場合には4万6千円/月)。なお、退職金制度を一部(または全部)減額して、確定拠出年金に移行する場合には、移行時までの勤務にかかる年金資産として、減額部分に係る自己都合要支給額の範囲内で、企業から確定拠出年金の資産管理運用機関へ移換することが出来る。但し、移行時に全額を移換することは認められておらず、移行日から起算して4〜8年で均等に移換することとなっている。

図7:確定拠出年金の掛金拠出のイメージ
確定拠出年金の掛金拠出のイメージ

V おわりに
退職給付に要するキャッシュ・フローを長期に亘って正確に予測することは不可能である。この意味では、退職給付制度は財務をコントロールする上でリスクをはらんだシステムなのである。“キャッシュ・フローのボラティリティ”という制約のもとで、その安定化を目指すことが可能である。退職金制度よりも企業年金制度が、そして企業年金制度の枠内では確定給付型よりも確定拠出型が安定化のためには有効であると言えるだろう。
退職給付の本来の目的が労働インセンティブの維持や従業員の生産性の活性化であることを念頭に、キャッシュ・フローの安定化やコントロールを目指すことは企業経営上の重要なファクターなのである。
以上
『別冊会計情報』Vol.5(トーマツリサーチセンター発行/2006年12月)
勝島 一執筆分より抜粋
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