| トピックス 2007.4.25 |
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年金ファンドガバナンス
― ツールとしてのCOSO/ERMとリスクバジェッティング ― |
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| 証券アナリスト 鶴渕 広美 |
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I はじめに
企業年金におけるデューデリジェンスという言葉は、通常のM&Aで利用される資産価値査定という意味に加え、字句本来の持つ、「慎重なる受託者責任遂行」という意味も持っている。M&Aにおいては慎重にM&Aを遂行するために価値算定を行うのだが、本稿では企業年金という主体が、加入者等への受託者責任をいかにして果たすのか、そのためにはどのような統制構造を持っていればよいのかについて、特に年金基金(厚生年金基金、確定給付企業年金基金)に絞って論じることとする。
年金基金等が年金積立金の管理・運用にかかるリスク管理を考慮するに際しては、年金事業を運営する事業体としての包括的な事業リスク管理が、社会から求められる可能性がある。この点については、カナダの年金投資理事会(Canada Pension Plan Investment Board。以下、CPPIB)が実施している包括的事業リスク管理の事例が参考になる。また、年金運用におけるポートフォリオ全体の価格変動リスク、すなわちトータルリスクの管理の重要性が高まり、年金運用プロセス自体の透明性が一層求められることになろう。
前者の包括的事業リスク管理に関してはCOSO/ERMフレームワークが、後者のトータルリスク管理に関してはリスクバジェッティングの導入が有効なツールとなると考えられる。そこで、本稿では、まずCOSO/ERMフレームワークの概要について紹介し、当該概念がリスク・リターンのトレードオフに類似した概念を内包するなど年金事業運営に馴染みやすい概念であること、またカナダのCPPIBの例を参考にCOSO/ERMフレームワークが有効なツールたりうることについて述べる。次に、市場リスクに焦点を当てた場合、リスク管理プロセスとしてのリスクバジェッティングがCOSO/ERMフレームワークとの親和性が高く、かつ従来の年金運用プロセスとも整合的に導入可能であり、有効なリスク管理のツールたりうることについて述べる。また、リスクバジェッティングが有効に機能するための各種留意点についても触れ、更に一部の業務や機能をアウトソーシングする場合に留意すべき点について考察する。最後に、リスクバジェッティングとCOSO/ERMフレームワークとの統合について考察する。
なお、本稿における意見に関する部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
II 年金運営と包括的リスク管理
1.内部統制とリスク管理
年金運用プロセスを管理するためにはリスク管理態勢の整備が必要である。リスク管理態勢を整備し、それに実効性を持たせるためには、年金運営関係者全員がリスク管理の必要性を認識するための仕組み、つまり権限と責任の所在及び報告体系を明確にする必要がある。更に、年金基金内部におけるチェックアンドバランス(相互牽制体制)を確立することに加え、これらの規程を文書化する必要があることは一般企業でのリスク管理と同様である。
経済産業省リスクの管理・内部統制に関する研究会によると、「内部統制とは、企業がその業務を適正かつ効率的に遂行するために社内に構築され、運用される体制及びプロセスである。その構築・運用の水準は、業務の適正かつ効率的な遂行に合理的に保証を与えることのできる程度まで高められなければならない」とある*1。適切なリスク管理を行うためには内部統制は不可欠であり、したがって、内部統制はリスク管理を支えるものであるということができる。一方で、内部統制が有効であるためには、それがリスク管理による総合的なリスクの評価等を踏まえて、構築・運用される必要がある。年金基金においても適切なリスク管理プロセスを実行するには、内部統制態勢の構築・整備が必要なのである。
現在、主要各国の経営管理・監査関係者において、内部統制概念に関する事実上の標準ともいうべきフレームワークが存在する。すなわち、COSO内部統制概念である。COSOとは米国トレッドウェイ委員会組織委員会(The Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)の略で、アメリカ公認会計士協会、アメリカ会計学会、財務担当経営者協会、内部監査人協会、管理会計士協会によって組織された委員会である。COSOは1992年に「内部統制の統合的枠組み」を公表、その中に示された内部統制概念フレームワークは各国の監査基準、金融検査マニュアル等においてその前提として想定する内部統制像としてとりあげられた。
COSO内部統制概念を拡張し、精緻化したものがCOSO/ERMフレームワークである。ERMとはEnterprise Risk Managementの略であり、事業リスクマネジメントをその対象としているが、COSO/ERMフレームワークにおいても依然として内部統制はERMに不可欠な部分であり、COSO内部統制概念はCOSO/ERMフレームワークに組み込まれている。COSO/ERMの概念枠組みについては、COSO/ERMキューブで表現されることが多い。内部統制の4つの目的である「戦略への貢献」、「業務の有効性・効率性」、「報告の信頼性」、「コンプライアンス」についてはCOSO/ERMキューブの垂直の列で表され、8つの構成要素である「内部環境」、「目的の設定」、「事象の識別」、「リスク評価」、「リスク対応」、「統制活動」、「情報とコミュニケーション」、「モニタリング」は行で表現され、内部統制が関係している事業体の単位または活動はマトリクスの残りの次元で「事業体」、「部門」、「事業単位」、「子会社」として表されている*2。
COSO/ERMフレームワークを構築・実施する立場から見た場合の、COSOからの主な変更点については樋渡・足田(2005)*3が簡略にまとめている。樋渡・足田(2005)によると、主な変更点は、統合的なフレームワークの構築、「戦略策定」と「業務の有効性と効率性」に関する適否の合理的保証の提供、重層的なマネジメント体制の構築の3点である。
ERMが単にリスクの削減や特定の種類のリスクに限定せず、リスクを総合的にマネージして、あらゆる種類のリスクに適用できるより包括的なフレームワークの構築の重要性に着目している点や、高次の目的である戦略策定に際して、リスクをどのくらい選好し、経営体力との対比で受容できるかに関する経営判断の重要性について触れられている点は、年金基金にとってこれから内部統制を構築するに当たって特に注目すべきであろう。
年金基金は、重要な意思決定事項である基本ポートフォリオの策定に責任を有するため、最適な資産運用を実現するための「戦略策定」が事業運営における最重要なファクターとなる。また多様なステークホルダーが存在するため、ステークホルダー間の利害の衝突等の検討が必要になると同時に、潜在的・顕在的な事象に伴うリスクを包括的・統合的に把握する必要性が高まるであろう。加えて、年金運用においては適切なリスクをとることにより、とったリスクに見合うリターンを獲得することが求められる。様々なステークホルダーを擁し、受託者責任の遂行に厳格な年金運用の世界において、年金運用にかかる包括的事業リスク管理を実施し、かつ適切なリスクテイクとそれに見合うリターンの獲得を目指す上で、COSO/ERMフレームワークは有効なリスク管理フレームワークとなりうると考えられる。
2.COSO/ERMフレームワーク適用事例
実際に、当該フレームワークを適用し、包括的な事業リスク管理を行っている年金運用の事例としてCPPIBの例がある。CPPIBは日本における厚生年金・共済年金に相当する年金資金の運用を担当しているが、ERMフレームワークを積極的に採り入れ、投資リスク以外のリスクを含めた包括的な事業リスク管理態勢を敷いている。投資記述書(Investment Statement)には、CPPIBは「受託者責任を全うするために、自らの事業目的及び戦略の達成に影響を及ぼしうる主要なリスクについてのコミュニケーション、モニタリング、報告を行うためのフレームワークとして、ERMフレームワークを用いて設計した」との記述がある。
CPPIBが実際に、事業リスク管理上の主要なリスクとして特定したものを図表1に示す。投資リスク以外の主なリスクとして、戦略リスク、ビジネス環境リスク、受託者リスク、法的及び規制リスク、オペレーショナルリスク、レピュテーションリスクをあげている。
従来年金運用において重要とされる受託者責任に関しては、受託者リスクと法的及び規制リスクが該当する。通常、年金基金は投資リスク、受託者リスク、法的及び規制リスクを中心に管理している。CPPIBはこれに加えて戦略リスク、ビジネス環境リスク、オペレーショナルリスク、レピュテーションリスクをリスクとして明確に定義し、そのコントロールを図っている。この取り組みが新たなリスク管理のフレームワークとして注目を集めている。また、CPPIBは各種目的に特化した委員会を立ち上げて権限を与え、文書化した多様な内規やマニュアル、ガイドラインを整備するなど、リスク管理を有効に機能させるための内部統制態勢も整備している。CPPIBの事例は日本の年金基金にとって参考になると考えられる。年金基金としての事業リスクマネジメントの観点から、資産運用のリスク管理を捉えることが重要である。

III 年金運用プロセスとリスクバジェッティング
1.プロセスとしてのリスクバジェッティング
投資リスクの管理を年金基金としての事業リスクマネジメントの観点から捉えた場合、まず重要なポイントとなるのが、トータルリスクの定義である。ステークホルダー間で最重要なリスクについて統一的な見解を共有した上で、この点を踏まえたトータルリスクを定義し、その管理に支柱を置くべきである。トータルリスクをブレークダウンし、サブリスク指標体系を構築することにより、個別ポートフォリオ管理とトータルリスクに整合性を持たせることが可能である。
リスクバジェッティング(risk budgeting)は直訳すれば「リスクを配分すること」である。適切なリスクの配分という考え方は年金運用業界に限らず、様々な場面で応用されている考え方であり、COSO/ERMフレームワークにも通じる部分のある考え方である。年金運用業界におけるリスクバジェッティングに一般的な定義があるわけではないが*4、本稿では堀江、A.Robert(2000)*5の立場を採用し、リスクバジェッティングを、「プロセス」もしくは「プロセス遂行のためのツール」として捉える。なお、特に断りのない限り本節における「リスク」は「投資リスク」を意味するものとし、年金運用における計測可能なリスク概念に限定することとする。またリスクバジェッティングにおける「リスク」は標準偏差等の年金運用における代表的な「リスク」に限定して進めることとする。
2.年金運用プロセスとリスクバジェッティング
リスクバジェッティングは従来型の年金運用プロセスと整合的に導入可能であると考える。リスクバジェッティングの概念には賛成であっても実務上の実施可能性や実効性に関して疑問を投げかける例も少なくない。一方で、欧米の先進的な公的年金・企業年金のように、リスクバジェッティングが実装段階に入っている事例も存在する。先進的事例ではシステムインフラの整備が進み、事前に策定した方針に沿った具体的なアクションが実施されているが、リスクバジェッティングの導入を検討する全ての年金基金が先進的事例をそのまま導入することは困難であろう。したがってリスクバジェッティング導入の検討に際しては、導入可能なレベルのものから検討し、適宜分析レベルのステップアップを図るのが現実的である。
図表2は、従来型リスク管理がモニタリングの対象とするリスク指標及び、3種類の発展型リスク管理(リスクバジェッティングを想定)が対象とするリスク指標とを比較した図表である。

注:VaRはバリュー・アット・リスクの略称で、リスク管理における重要な指標であり、ある確率のもとで一定以上の損失を被る可能性があるとき、その損失金額をあらわす。
3種類の発展型に関しては、トータルリスクを最重視すべき点は共通するので省略し、採用するトータルリスクに対する考え方やリスク体系の考え方に焦点を当てて分類したものである。そのため、従来型・発展型3種類の相違点を明確にするために、ブレークダウン後のモニタリング対象のリスク指標・ファクターを用いて比較している。右の段階に進むほど従来の資産カテゴリーによる分析・管理から金利等のリスクファクターによる分析・管理へと移行する。すなわち、詳細な分析及び管理が可能となるが、それに伴い消費する資源・コストは増加することになる。
先進年金基金の中には発展型(2)や発展型(3)のケースを採用している例もあるが、従来の年金資産運用プロセス及びリスク管理プロセスを踏襲しつつ、発展させる形でリスクバジェッティングを実施することは可能である。その場合はリスク管理哲学及びリスク管理方針を明確にし、これに沿ったリスク体系を整備し、継続的に計測したリスクの意味を理解することによって、プロセスの明確化を図ることが重要なポイントとなる。
管理のレベル感は異なっても、いずれのケースにおいても、年金運用プロセスとリスクバジェッティングは整合的に導入しうるのである。
3.リスクバジェッティングが機能するために
1)管理すべきトータルリスク
リスクバジェッティングが機能するためには、まずトータルリスクを明確に定義する必要がある。年金積立金の運用においては、予定利率の達成が最終的な運用目標であるものの、一方で年金財政の安定性を維持するためには、下方リスク(実績収益率が目標収益率に未達の場合、あるいは年金負債の想定額を下回る場合等)にも留意すべきである。
管理すべきトータルリスクの候補としては、以下のリスク指標が候補として考えられる。
●ポートフォリオ全体の標準偏差(単位:%)
●ポートフォリオ全体のVaR(単位:円)
また、リスクバジェッティングを行うには分析及びコントロール可能なサブリスク指標への分解が可能であることが必要であるが、この点においても、上記リスク指標は条件を満たし、かつ分析ツールやシステムも存在しており、実務面の対応も可能である。
2)リスク指標体系の構築
リスクバジェッティング上、トータルリスクをコントロール可能なサブリスク指標に分解することが重要であるが、分解に際しては、体系だったものでなくてはならない。例えばポートフォリオ全体のリスクをトータルリスクと定義し、基本ポートフォリオの資産を全てパッシブ運用と仮定した場合のリスクをβリスク、全体のアクティブリスクをαリスクとする。トータルリスクはまずβリスクとαリスクに分解されることになる。αリスクは更にサブリスク指標に分解することが可能であり、分析・管理の切り口によって優先度の高いサブリスク指標は異なる。トータルリスクを把握した上で、どのようなリスクが大きく寄与しているかを把握して対処するためには、トータルリスクを適切に分解し、分解したリスク指標を再構成してリスク指標体系を構築することが重要なポイントとなる。
3)トータルリスクのブレークダウンとリスクバジェッティング
年金基金はトータルリスクの決定に加え、管理・コントロールの対象を実績ベースと推定ベースのどちらのリスクとするかに関して考慮しなければならない。
現在多くの企業年金で実施されているリスク管理を踏まえた上で、比較的導入しやすいリスク指標体系としては、標準偏差(単位:%)ベースのトータルリスクを主とし、これを更に基本ポートフォリオリスク、資産配分乖離リスク、運用機関のアクティブリスクの3つのリスク指標にブレークダウンした体系であろう。但し、実績ベースでは事前のコントロールは不可能であるので、同時に推定ベースの各リスク指標を算出し、管理する必要がある。
また、標準偏差系のリスクを主としつつも、下方リスクへの配慮も求められると考えられるため、下方リスクとしては、VaRを採用し、既述したリスク指標体系を以って、推定ベースのモニタリングを行うことが望ましいと考える。以上の内容を示したのが図表3である。

但し、現在実施されているリスク管理態勢に拘泥せず、金利シナリオや為替シナリオ等に対するポートフォリオ全体の変動性を把握し、管理することを重視する場合には、図表3のようなリスク指標体系ではなく、金利リスクや為替リスク等のリスクファクターによるトータルリスク管理の導入が必要になると考えられる。図表2の発展型(3)のような、金利リスク等のリスクファクターを対象としたリスクバジェッティングの採用も将来的には考えられるであろう。
なお、年金財政をとりまく環境の変化や制度等の諸前提条件の変化等が生じた場合、重視すべきリスクの対象やリスク指標体系について再検討を行い、必要に応じて見直しを行うべきである。リスク指標体系の絶対像というものは存在しない点に留意すべきであろう*6。
4)モニタリング指標の位置づけ
リスクバジェッティングにおいては、支柱となる管理すべきリスク指標をできるだけシンプルで単純なものにすることが望ましい。一方で、モニタリングすべきリスク指標に関しては、網羅性が求められる。管理指標とモニタリング指標は峻別すべきである。両指標の主な相違点としては、管理指標が重要かつ最低限必要な指標にしぼられ、一定の評価期間を設けて分析・評価されるのに対して、モニタリング指標には網羅性が求められ、週次等の比較的短期間での確認が行われる点があげられる。
なお、網羅されたモニタリング指標とリスクバジェッティングに関連性を持たせることもリスクバジェッティングが機能する上で有効である。当初策定した管理指標以外に重要なリスクが見過ごされていた場合、モニタリングにより「発見」されたリスクをリスク管理プロセスの中に反映させる必要があるためである。モニタリング指標をリスクバジェッティングが対象とするリスク枠体系に関連づけ、支柱である管理指標とモニタリング指標を関連づけることが望ましい。リスクバジェッティングが対象とするリスクとモニタリング指標を関連づけ、体系づけることにより、COSO/ERMフレームワークの市場リスク関連の管理とリスクバジェッティングとを統合させることが可能になるのである。
5)リスクバジェッティングと組織形態
リスクバジェッティングでは、あらかじめリスク枠を定めておくことで、評価時点におけるポートフォリオのリスク特性を把握しつつ、権限を持つ担当者が一定の権限の範囲内でリスク事象の発生に対処することが可能になる。このため、権限・責任の明確化が重要となる。したがってリスクバジェッティングが有効に機能するには、リスク管理構造が組織のガバナンスと責任構造に即したものであることが重要なポイントとなる。
図表4は世界銀行の事例である。世界銀行の組織構造は、リスクバジェッティングが対象とするリスク指標体系と一致しているシンプルな形態となっている。世界銀行の年金監督委員会は戦略・資産構成の決定を行うが、リスクバジェッティング上も戦略資産構成(SAA)に起因するリスクが配分されることになる。アクティブ運用について責任を有するのは投資担当者であるが、アクティブ運用に起因するリスクが事前に配分されている。以下同様に、組織・担当者の責任範囲が明確になっており、参考になると考えられる。

(資料)津曲真樹『年金リスク管理−世界銀行財務部門の事例−』2005年度年金資金運用セミナー 2005年6月30日
注:TAAとは、タクティカル・アセット・アロケーションの略で、相場の見通しにより、積極的に資産配分を変更する戦略である。
リスクバジェッティングにおけるトータルリスクのブレークダウンをどの階層まで行うか、カテゴリー毎にどの程度までモニタリングを行う必要があるのか、事前に方針が策定されている場合は、その体系に沿った組織構造とするのも1つの考え方であろう。一方で、トータルリスクへの寄与度の非常に小さいリスク指標に対して、一定の権限を有する専属のリスク管理担当者をはりつけるのは非効率的であり、リスクの重要度・優先順位を考慮せざるを得ない。したがって、ブレークダウンされた各レベルのリスクに積極的に関与すべき階層・組織の取り決めを行い、各リスク枠設定の責任の所在を明確化することができれば理想的である。また、リスクバジェッティングの体系と整合的な階層別の権限・責任の付与を行い、かつ円滑なコミュニケーション及びエスカレーション・システムの構築が効率的なリスク管理運営上のポイントとなろう。
6)COSO/ERMフレームワークとの高い親和性
年金運営にとってより広い概念のリスクを対象とするフレームワークであるCOSO/ERMフレームワークとリスクバジェッティングの関係について再考する。リスクバジェッティングは主に投資リスクを対象としているため、COSO/ERMフレームワークに内包される形で、整合的に導入しうる。樋渡・足田(2005)がCOSO/ERMフレームワークにより強化される点をまとめているが、リスクバジェッティングの考え方との類似点が見受けられる。第1に「企業戦略をリスク選好・許容方針に適合させる」については、リスクバジェッティングのもとで年金基金が様々な投資戦略を検討・評価し、目的を設定し、関連する投資リスクを管理するためのリスク管理方針を設定することに該当する。第2に「リスク対応の意思決定に資する」については、リスクバジェッティング上の投資リスクを多様な切り口から検討し、重要度に応じて優先順位をつけ、リスクへの対処を事前にリスク管理方針等に定めておくことに該当する。第3に「多数の業務横断的なリスクを識別してマネージする」については、対象とする投資リスクを複数のリスクファクターに分解して捉えた場合、各リスクファクター間の相関関係を考慮したリスク管理を行い、あるいは複数のリスクファクターによる影響が総体ではどの程度か、その影響度合いを考慮したリスク管理を行うこと、に該当しよう。第4に「収益機会を捉える」に関しては、損失の可能性もしくは下方リスクを考慮しつつ、リスクテイクに見合うリターンを得られるかどうかを検討したり、許容可能な投資リスク量の範囲内で最大限のリターンを得られるようなポートフォリオを構築すること等が該当しよう。第5に「資本配賦方法を改善させる」については、リスクバジェッティングのもとで、貴重な資源であるリスクを認識し最適なリスクの配分を行った後、Plan-Do-Check-Actサイクルのもとでリスクを評価し、効率的な再配分を行うプロセスに該当していると言える。
このように、リスクバジェッティングはCOSO/ERMフレームワークと高い親和性を有していることがわかる。
IV アウトソーシングとリスク管理
1.アウトソーシングとは
アウトソーシングは、本来「外部資源の活用」を意味している。一般的には1980年代に米国において採用されるようになった経営手法を指すが、年金の世界では運用の外部委託や資産管理の外部委託等、以前からアウトソーシングが一般的に行われている。
2.包括的リスク管理の観点からのアウトソーシングに伴うリスク
COSO/ERMフレームワークのより広義のリスクの観点から捉えると、アウトソーシングに伴って留意すべきリスクが、市場リスク以外に多数存在する。包括的な、広義のリスク管理においてはアウトソーシングに伴い、本来自らが管理すべきリスクから解放されるのではなく、単にアウトソーシング先にリスクが「移転」するのみであり、委託元は委託先をモニタリングし、効率的に管理する必要性が生じることを示している。年金運用の世界では委託元自身が「受託者責任」を果たすことが求められるだけでなく、従来からアウトソーシング先すなわち外部委託先に関しても受託者責任を果たすことが求められており、「今更」の感が否めないかもしれない。しかし、あらためてアウトソーシング先に移転するリスクを意識し、アウトソーシング・ポリシーを定めた上で、積極的にアウトソーシング先を管理していく必要がある*7。
V おわりに
年金基金が年金資産運用に責任を有しており、受託者責任、説明責任を果たす上での透明度の高いプロセスの策定が求められることを考慮すると、COSO/ERMフレームワークや、年金資金運用において貴重な資源であるリスク(市場リスク)配分プロセスすなわちリスクバジェッティングの構築は有意義であると考える。COSO/ERMフレームワークとリスクバジェッティングは統合されて運営されることが望ましい。また、年金事業運営においてはその多くの事業のアウトソーシングが可能であるが、アウトソーシングによりリスクは移転のみであるので、依然としてアウトソーシング先のリスク管理が必要である点には留意すべきである。あらかじめアウトソーシングすることを前提においた包括的事業リスク管理態勢を整備することが必要となろう。アウトソーシング先としては運用機関の他、マスタートラストや情報ベンダー、リスク分析モデル提供機関等のシステム・データ関連機関がある。年金基金においてもアウトソーシング先を積極的に管理することが求められるが、自らデューデリジェンスを行う他、SAS70やCOBIT等の外部評価・外部監査の有効活用も考えられよう。
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経済産業省「リスク新時代の内部統制 リスクマネジメントと一体となって機能する内部統制の指針」リスク管理・内部統制に関する研究会 2003年6月より引用。
各概念の内容については、上述の経済産業省(2003)に詳しい。
詳細は、樋渡淳二・足田浩著(2005年7月)『リスクマネジメントの術理―新BIS時代のERMイノベーション』(株)きんざい、を参照のこと。
Krizman and Chow(2001)、堀江、A. Robert(2000)、ミッシェル・マッカーシー(2002)等に詳しい。参考文献参照。
詳細は、堀江、A.Robert(2000年)『年金リスク管理における重要課題と新事例』ファンド・マネジメント、を参照のこと。
負債側を意識したサープラスのコントロール、SaRについての関心が高まりつつある。SaRをリスク管理指標の支柱と考えることも可能である。
金融機関におけるアウトソーシング・リスク管理については、Basel committee on Banking Supervision,The Joint Forum,“Outsourcing in Financial Services”(February 2005)が参考になる。 |
なお、本稿は年金総合研究センター(現在は年金シニアプラン総合研究機構)平成17年度報告書「委託調査研究(公表版)資産全体でのリスク管理のあり方とその具体的な手法に関する研究」より抜粋したものである。
(参考文献)
・監査法人トーマツ著(2003年8月)『リスクマネジメントと内部統制』税務研究会
・経済産業省経済産業政策局産業資金課編(2005年7月)『先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント 実践テキスト』財団法人経済産業調査会
・ゴールドマン・サックス、ウォーバーグ・ディロン・リード著、藤井健司訳(1999年12月)『総解説・金融リスクマネジメント』日本経済新聞社
・津曲真樹(2005年)『年金リスク管理―世界銀行財務部門の事例―』2005年度年金資金運用セミナー年金総合研究センター編(2005年)『諸外国の年金組織の実態調査に関する研究』年金総合研究センター
・樋渡淳二・足田浩著(2005年7月)『リスクマネジメントの術理 ―新BIS時代のERMイノベーション』(株)きんざい
・堀江、A.Robert(2000年)『年金リスク管理における重要課題と新事例』ファンド・マネジメント
・堀江貞之(2001年)『リスクバジェッティングの現状とその意義』(証券アナリストジャーナル、2001年4月号)
・CPPIB http://www.cppib.ca/
・Kritzman, M.and G.Chow, “Risk Budgets”, Journal of Portfolio Management Winter 2001
・Barton Waring, Duane Whitney, John Pirone, and Charles Castille, “Optimizing Manager Structure and Budgeting Manager Risk”, The Journal of Portfolio Management, Spring 2000
・Basel Committee on Banking Supervision, The Joint Forum, “Outsourcing in Financial Services” February 2005・Bank for International Settlements “Outsourcing in Financial Services - consultative document” August 2004 |
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| 以上 |
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『別冊会計情報』Vol.5(トーマツリサーチセンター発行/2006年12月)
鶴渕広美執筆分より抜粋 |
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