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トピックス 2007.12.26
退職給付に関する内部統制報告制度(J-SOX)対応
公認会計士 井上 雅彦
1.はじめに
内部統制報告制度(J-SOX)において、退職給付に関する業務にいかに対応すべきかについて明確な指針がないなか、実務上の留意点も多い。そこで、本稿では、対象を退職給付に絞って、同制度上の対応を考察する。
なお、文中意見にわたる部分は私見であることをお断りする。

2.財務報告に係る内部統制の評価範囲の決定と退職給付引当金
1)退職給付引当金に係る業務プロセスを評価範囲に含めるべきか

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準(企業会計審議会 平成19年2月15日)」(以下「実施基準」)では、重要な事業拠点及びそれ以外の事業拠点において、財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセス(見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスなど)も評価対象に加えるとしている。
退職給付会計が対象とする業務プロセスは、企業の事業目的に大きく関わるものではないことが一般的である。しかし、退職給付引当金(前払年金費用)の計上に当たって、見積りの要素を多く含み、経営者の判断によるところも大きい。また、会計処理の前提となる退職給付債務は計算基礎の見積りに基づく複雑な数理計算により算定する。これらのことから、退職給付引当金を算定する業務プロセスについても、見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセスとして、その重要性を勘案したうえで、追加的に内部統制評価の対象に含める範囲を検討しておくことが必要と考えられる。

2)財務報告に及ぼす金額的影響(重要性)の考え方
退職給付引当金は退職給付債務から年金資産を控除した金額に未認識項目(過去勤務債務、数理計算上の差異、会計基準変更時差異)の金額を加減して算定するため、退職給付債務や年金資産が増減すれば数理計算上の差異の償却を通して退職給付引当金残高に影響を及ぼす。この影響額は退職給付引当金残高に連動するのではなく、退職給付債務や年金資産のボリュームに依拠する。したがって、退職給付引当金残高が小さい場合であっても、退職給付から生じる損益への影響が小さいとは言い切れない。
このように、退職給付引当金は、退職給付債務等の財務諸表に計上されていないオフバランス項目の影響を大きく受けるため、財務報告に係る内部統制の評価範囲の決定に当たっては、退職給付引当金残高だけによるのではなく、退職給付債務等の全体のボリュームも考慮すべきである。

3.退職給付債務に係る内部統制
退職給付債務の算定に当たって会社が採る方法には、大別して1)外部の計算受託機関に委託しているケースと、2)退職給付債務計算ソフトを用いて自社計算しているケースとがある。以下、それぞれにケースに分けて内部統制を整備するうえでの考え方を整理する。

1)外部の計算受託機関に委託しているケース
(1)会社の業務と計算受託機関の業務との分類
退職給付債務計算は外部の専門家(アクチュアリー)等に外部委託している場合でも、経営者が内部統制を整備する必要がないというわけではない。外部委託する場合の退職給付債務計算に係る業務内容を作業主体別に分類した一例が図表1である。

図表1 退職給付債務計算業務の簡易分類例
  人員
データ等の作成・
受渡
計算
基礎率
(割引率等)
計算
基礎率
(昇給率)
計算
ロジック
構築・
確認
計算
作業
結果
検証
報告書
作成/
発送
会計
処理
会社          
計算受託機関    
 専門家    
 それ以外          
○:通常、直接関与していると考えられる作業
△:ケースによって直接関与している場合と、そうでない場合があると考えられる作業
業務内容欄の「会計処理」のなかには、貸借対照表日前のデータ等の利用に伴う補正計算を含む

図表1に示したように、退職給付債務計算を外部委託している場合でも、会社が実施する作業と計算受託機関が実施する作業に大別される。また、計算受託機関の作業のなかでもアクチュアリー等の専門家が関与する部分と専門家が関与しない部分がある。
図表1の分類によれば、退職給付債務計算を外部委託している場合でも、会社が内部統制を整備すべき業務として例えば以下のものがある。

A.退職給付債務計算の基礎データとなる人員データに関する内部統制の整備
B.割引率、年金選択率などの経済変数的基礎率の設定に関する内部統制の整備
C.貸借対照表日前のデータ等の利用を行う場合の補正計算に関する内部統制の整備
D.退職給付に係る会計処理に関する内部統制の整備

Aは、退職給付債務算定の前提となる重要な業務であり、実際に財務数値の虚偽表示につながるリスクも大きい。また、Bは、全社的な内部統制の「統制環境」にも関わる重要な業務である。実施基準(参考1)で示された全社的な内部統制に関する評価項目の例のなかでも、「経営者は、適切な会計処理の原則を選択し、会計上の見積り等を決定する際の客観的な実施過程を保持しているか」という項目等に関係する。Cの補正計算とDの会計処理は会社の内部統制のみで適切な統制を行うべき業務である。

(2)計算受託機関が行う業務は委託業務なのか専門家の利用なのか
(1)では、退職給付債務計算を外部委託しているケースにおいて、会社が内部統制を整備すべき業務について検討したが、会社の内部統制を整備するうえで、計算受託機関が行う業務についてどのように関わるべきなのか。また、計算受託機関が行う業務のなかでも、アクチュアリー等の専門家が関与する部分と専門家が関与しない部分がある。(図表1参照)
ここで、会社の内部統制を整備するうえでは、これらの業務が「委託業務」に当たるのか、「専門家の利用」に当たるのかが問題となる。「委託業務」に該当する業務と「専門家の利用」に該当する業務では、内部統制を整備するうえでの対応が異なるので、両者を区分する必要がある。「委託業務」とは、例えば、企業が財務諸表の基礎となる取引の承認・実行・計算・集計・記録又は開示事項の作成等の業務を外部の専門会社に委託している場合が該当する。実施基準では、「委託業務」に該当すれば委託業務に関しては、委託者が責任を有しており、委託業務に係る内部統制についても評価の範囲に含まれる。委託業務が、企業の重要な業務プロセスの一部を構成している場合には、経営者は、当該業務を提供している外部の委託会社の業務に関する内部統制の有効性を評価しなければならない。
次に、「専門家の利用」に該当する業務について、会社は、適正な財務報告をする観点から、少なくとも以下の検討をする必要がある。

A.当該業務の客観性及び実施者の専門的能力
B.専門家が採用した方法や計算基礎等の適切性
C.計算結果についての大枠での妥当性

図表1に示したように、退職給付債務計算の業務内容を区分すれば、人員データの整備作業などの専門家の判断を必要としない業務と、規程等から計算ロジックを検討、立案したり、計算基礎率を算定したりといった専門家の判断を必要とする部分に分けられる。この際、専門家が計算業務にどこまで関与しているかは区々であり、「委託業務」と「専門家の利用」の区分も、計算受託機関の関与の程度等によって各々のケースで異なる。
「委託業務」か「専門家の利用」かを判断するに際して、例えば、図表1に示した「人員データ等の作成・受渡」は「委託業務」に該当する場合がある。退職給付債務等の算定に当たり、人員データ等の管理や各種事務等を年金基金事務局や年金制度の受託機関(信託銀行や生命保険会社等)に委託しているケースがある。この場合、人員データ等の管理や各種事務等を受託した年金制度の受託機関が、退職給付債務計算に当たり当該データ等を利用することから、当該業務は「委託業務」に該当すると思われる。
以上のことから、退職給付債務に係る内部統制の整備に当たり、計算受託機関に委託した業務も含めて、退職給付計算業務の作業内容を区分し、「委託業務」に該当する業務か「専門家の利用」に該当する業務かを掌握しておくことが肝要である。

(3)委託業務に係る内部統制の評価
経営者が委託業務に係る内部統制の有効性を評価するに当たり、実施基準に以下の方法が示されている。
a.サンプリングによる検証
委託業務結果の報告書と基礎資料との整合性を検証するとともに、委託業務の結果について、一部の項目を企業内で実施して検証する。例えば、給与計算業務につき、委託会社に委託した給与データの対象人数を委託会社から受領した計算データの件数と企業において比較するとともに、無作為に抽出したその一部について、企業において検算を実施する。

b.委託会社の評価結果の利用
委託業務にかかる内部統制の整備及び運用状況に関しては、経営者は、委託業務に関連する内部統制の評価結果を記載した報告書等を委託会社から入手して、自らの判断により委託業務の評価の代替手段とすることが考えられる。その際、経営者は、当該報告書等が十分な証拠を提供しているかどうかを検討しなければならない。「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い(公開草案)(日本公認会計士協会平成19年7月18日)」では、受託会社からの報告書の例として、監査基準委員会報告書第18号「委託業務に係る統制リスクの評価」(以下「18号報告」)に定める「内部統制の整備及び運用状況報告書」、米国会計士協会が策定した「監査基準書第70号」(以下「SAS70」)等を挙げている。

2)退職給付債務計算ソフトを用いて自社計算しているケース
退職給付債務を自社計算している場合、関連する全ての業務につき他の自社業務と同等の内部統制の整備・評価が求められる。図表2に自社計算のケースでの業務の概略を示したが、計算の過程や結果においてアクチュアリー等の専門家の関与がない場合も多く、内部統制の整備に当たり時間を要する会社も多いことが想定される。
内部統制の整備上、最低限必要とされるチェック項目をまとめたのが図表3である。

図表2 退職給付債務計算ソフトを利用する場合の業務概略
退職給付債務計算ソフトを利用する場合の業務概略

図表3 自社計算における最低限のチェック項目
チェックポイント チェックの視点 統制活動の例
(1)ソフトの計算対応能力 ・自社の退職給付制度への適応可否 ・事前に制度設定可否につきベンダー
 に確認
(2)計算前提の妥当性
・制度の設定
・人員データ
・計算基礎率
【導入時及び制度変更時】
・退職給付制度(給付条件等)の適切で
 網羅的な計算ロジックへの反映
・適切な計算基礎率の設定
【計算実施時】
・人員データ、計算基礎率の妥当性
・規程の詳細検討とソフトへの反映
 状況のチェック
・個人別計算明細の確認
・外部委託計算結果と比較検討
・人事マスターとの照合
・専門家の活用
(3)計算結果の妥当性 ・網羅的な集計
・使用データとの整合性
・個人別計算明細チェック
・比較・比率分析
・網羅性確認

4.年金資産に係る内部統制
企業が拠出した掛金が年金資産として蓄積され運用される。年金資産のうち生命保険会社の特別勘定と信託銀行の年金信託資産及び退職給付信託については、それらから生じる損益がすべて企業に帰属することから、通常、委託業務に該当する。したがって、3.1)(3)に示した、「a.サンプリングによる検証」か「b.委託会社の評価結果の利用」の手続きが必要になる。年金資産の運用委託業務に関する内部統制の有効性や信頼性については、客観的な評価が必要との認識から、生命保険会社や信託銀行が「18号報告」や「SAS70」に基づく外部監査人による評価及び検証を行った旨が報告されており、今後、経営者(委託者)はこれら委託先の内部統制評価報告書を入手することが一般化すると思われる。
なお、受託会社が社外ファンドで運用するケースでは、年金資産受託会社が第一義的にコントロールを行っているケースもあるため、内部統制評価報告書がカバーしている業務範囲を把握したうえで、必要に応じて内部統制評価報告書の追加入手を検討する必要がある。
また、複数の信託銀行や生命保険会社に年金資産を分割保有している場合は、それぞれの受託会社からの内部統制評価報告書の入手を検討する必要がある。

5.未認識項目の処理と内部統制
退職給付引当金の勘定残高は、退職給付債務から年金資産を控除した金額に未認識項目の金額を加減して算定する。このため、退職給付に係る内部統制を整備するに当たり、未認識項目についても適正に処理できる体制を整備し、適切に運用する必要がある。
以上
『会計情報』(トーマツリサーチセンター発行/2007年11月号)
井上雅彦執筆分より抜粋
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