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トピックス 2008.3.26
欧州における企業年金制度の最新動向
Deloitte Total Reward and Benefits Limited(ロンドン) 年金数理人 鹿島 俊明
1.欧州全体の動き
「欧州」と一口に言っても、文化、生活環境、社会保障制度、労働慣行など国によって違いがあり、ましてや企業年金制度になると国ごとに大きく事情が異なる。例えば、ほとんどの従業員に対して企業年金が提供されているオランダのような国から、スペインのように公的年金が十分にあるために、一般的に企業年金制度を持たない国まである。また、制度のタイプを見ると、確定給付制度が主なオランダ、確定給付制度から確定拠出制度への移行の過渡期にある英国、ベルギー、ドイツ、確定拠出制度が主なデンマーク、チェコなど様々である。さらに、外部拠出か内部引当かの視点からは、ドイツでは伝統的に企業の内部引当による企業年金制度が主流であり、本稿で以下に取り上げる他国とは大きく異なる。
このような、国ごとの多様な企業年金制度がある欧州における共通の動きとしては、会計基準の変更およびEU指令に対する動き等を挙げることができる。国際会計基準はEU内で上場している企業に対して2005年1月1日以後に開始した事業年度から適用されており、少なからず企業年金に影響を与えている。また、パーフェクトストームとも呼ばれる2000年から2002年の3年連続の世界的な株式市場の下落、2003年のEU加盟国への職域年金に関するEU指令および年金会計基準の変更などの影響もあり、企業年金に関する法律が英国では2004年、ベルギーおよびオランダでは2006年に改正されている。
本稿では、日本企業の欧州統括会社あるいは子会社の多い、英国、オランダ、ドイツおよびベルギーについて、日本の親会社にとって重要と思われる視点から各国の最新動向に触れてみた。なお、本稿における意見は私見であり、監査法人トーマツの見解でないことをお断りしておく。

2.英国の最新動向
英国では、伝統的に企業年金制度の運用は株式中心で実施されてきた。90年代を通じて株式運用の割合はほぼ70%から80%の範囲であり、2000年から3年間のパーフェクトストームの影響をまともに受けることになった。FRS17(Financial Reporting Standard:英国財務会計基準書第17号)が2005年に導入されたことも影響して、現在この割合は60%程度に落ちてきているものの、日本やオランダと比較するとなお高い割合を保っている。
FRS17では、数理計算上の差異は発生した年度に損益計算書には計上せずにSTRGL(Statement of Total Recognized Gains and Losses)を通じて資本の部で直接認識することが一つの大きな特徴であり、貸借対照表に大きな影響を及ぼす。英国の確定給付年金制度は、公的年金の報酬比例部分をほとんど代行しており、一人あたりの退職給付債務の金額が他国に比べて遥かに大きい。昨今の株価が乱高下する状況においては、資産のボリュームがある企業年金制度を採用している企業に与える財務的なインパクトは大きく、中長期的な視点から、取り得る選択肢を検討することも必要であろう。実際に多くの企業が、制度変更、年金の清算および運用方法の変更等を通じて対応してきている。
また、英国では制度を凍結することに対する従業員の抵抗は一般的に大きく、既存の確定給付年金制度加入者は同制度に加入し続けるケースが多い。一方、新規採用者あるいは中途入社者に対しては確定拠出年金制度への切替えが進んでおり、金融業など転職が頻繁に行われる業種においては、ほとんどの従業員が確定拠出年金に移っている。ただし、英国では年金給付が基本的な選択肢であり、勤務期間分の年金を勤務した会社に残すことが一般的であるため、過去に確定給付企業年金で累積されてきた債務は一般的に清算されておらず、なお企業の財務諸表への計上が必要であり、確定拠出年金制度への切替えが根本的な解決になっていないことには注意を要する。

3.オランダの最新動向
オランダでは、確定給付企業年金制度が主流であり、概ね90%の従業員が企業年金制度に加入している。これまでの規制によって年金制度の積立率が高く保たれていたため、年金財政上では積立超過の状態になっている。また、多くの企業が加入する産業別の年金制度が企業年金制度の約7割を占めており、企業別の年金制度および保険契約による企業年金制度が残りの3割程度を占めている。産業別企業年金制度は、オランダの年金会計基準RJ271では、拠出した年金掛金を費用として認識し、債務を認識しないことが認められている。一方、企業別の年金制度は退職給付債務を認識しなければならないとされている。このため、産業別企業年金制度に加入して年金に係る全ての債務および資産を移転するといった動きも見られる。
オランダの年金財政積立基準は2007年1月から厳しくなり、最小限度検証、ソルベンシー検証、継続性検証など、年金の監督機関である中央銀行から、保険会社の規制と同様の規制を受けることになっている。オランダでは、確定拠出年金制度が導入される例は多くない。上記事情を鑑みれば納得できる動きである。

4.ドイツの最新動向
ドイツの企業年金制度は伝統的に内部積立であったが、マルチナショナル企業のグローバルでの企業間競争の中で、ドイツ企業が外部積立によるメリットを認識したことを主因として、外部積立が増加している。主に大企業によって2006年CTA(Contractual Trust Arrangement:日本の退職給付信託に近い)の設定が相次いだことは、この動きを象徴している。また、確定拠出年金制度への移行も進んでいる。
内部積立であることに起因していると考えられるが、本稿で取り上げた他国に比べると給付水準、給付算定式および制度の種類は様々であり、一般的な説明は難しい。しかしながら、公的年金が縮小され、コスト削減圧力から企業年金も削減される傾向にあり、個人年金としてのリースター年金(国からの助成金付確定拠出年金)が注目を浴びているのが全体的な傾向と言えるであろう。
ドイツの退職給付会計は、2000年までの日本の退職給付会計と似ている。昇給率を見込まない予定利率6%(固定)の数理債務が税法で認められる無税の引当限度額であり、ドイツの会計基準ではこれをそのまま引当金とすることを許容している。この利率を、例えば4%と保守的に見込み、有税で積立を行う企業もあるが、一般的には税法基準で積立てられている。ドイツに子会社を持つ日本企業は、2008年4月1日以後開始する事業年度から適用される「連結財務諸表における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(企業会計基準委員会 実務対応報告第18号)の影響を受けることに留意が必要である。ドイツ基準による引当金額と退職給付債務との差額を2008年4月以後開始する事業年度の期首で連結決算上認識しなければならない企業も少なくないだろう。

5.ベルギーの最新動向
ベルギーでは確定給付企業年金から確定拠出年金への移行が急激である。職域年金制度のうち確定拠出年金制度の占める割合が、90年代終りには29%程度であったが、2004年末時点で既に55%まで増加している。隣のオランダとの差が対照的であり興味深い。また、これまで企業年金のほとんどが保険契約という形で提供されていたが、近年、年金基金を立ち上げる動きが出てきている。これは保険会社の不明瞭な保険料に満足できない企業が、EU指令を受けたベルギー国内の年金法の改正を受けて自社で基金を設立し、運営することになったものと考えられる。
また、ベルギーの会計基準では、一般的に企業年金制度(確定給付および確定拠出の両方)に関する退職給付債務を認識する必要はない。そのため、ドイツ同様2008年4月1日以降の開始事業年度期首で退職給付債務を認識しなければならない企業が少なくないものと思われる。ベルギーの子会社が確定給付企業年金制度を採用している場合は要注意である。
また、国内法によって確定拠出年金制度への従業員掛金について最低保証利回りが義務付けられており、保険会社が利回り保証をしない場合には、事業主が保証しなければならない。そのため、一般的に確定拠出制度であると認識されていたとしても、会計上債務認識しなければならない場合がある。必ずしも現地マネジメントが当該状況を正確に認識しているとは限らず、慎重な調査が必要になる。

6.まとめ
欧州の企業年金制度は、年金資産運用環境の悪化や会計基準の変更などの影響によって変革期を迎えている。日本企業は、少なくとも連結決算に与える影響を正しく認識するとともに、財務的な影響が大きい国については、企業年金制度に関するリスクを把握しておくべきであろう。会計基準の統一、内部統制の見直しおよびサブプライム問題に起因する株式市場のボラティリティの増加といった環境や状況にある今こそ、企業年金に関するリスクを把握する好機と言えるかも知れない。
以上
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