| トピックス 2008.5.28 |
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| 退職給付会計の割引率の決定にかかる退職給付会計基準の改正について |
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| 公認会計士 泉本 小夜子 |
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1.はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は「退職給付に係る会計基準」の一部改正(その3)にかかる公開草案を平成20年3月21日に公表した。これは「退職給付に係る会計基準注解(注6)(平成10年6月16日企業会計審議会)」の一部を改正するもので、平成20年5月16日までコメントを募集している。
ASBJは、会計基準の国際的なコンバージェンスに向けた取組みを進めるにあたり、退職給付会計に関する短期的なプロジェクトとして「注解(注6)」に基づく退職給付債務の計算における割引率の取扱いの一部を見直したものである。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断りする。
2.改正の内容
注解(注6)は以下のようなものであったが、改正案は、下線部分の「なお書き」を削除するものである。
(注6)安全性の高い長期の債券について
割引率の基礎とする安全性の高い長期の債券の利回りとは、長期の国債、政府機関債及び優良社債の利回りをいう。なお、割引率は、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる。 |
わが国の現行退職給付会計基準では、「退職給付債務の計算における割引率は、安全性の高い長期の債券の利回りを基礎として決定しなければならない。(二2.(4))」として期末の退職給付債務の計算は、一定の割引率に基づいて現在価値に割り引く現価方式を採用している。この場合の割引率は、原則として貸借対照表日現在のものと考えられているが、注解(注6)では、「なお、割引率は、一定期間の債券の利回りの変動を考慮して決定することができる。」とされていた。
これは、退職給付会計基準が策定された平成10年当時には、それ以前の金利が急激に低下していた時期でもあり、債務の計算における割引率として貸借対照表日現在の利回りを用いることを原則としながらも、相当長期間にわたって割り引かれる性質をもつ退職給付債務に関して、期末一時点の市場利回りで割り引くことが必ずしも適切とはいえない場合があることが考慮されていたものと考えられる。
平成12年の同基準適用後においても低金利は続いており、実務的にはこの注解(注6)のなお書きの定めと、退職給付会計実務指針(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第13号)等によって、過去5年間の債券の利回りの平均値を割引率として用いる方法が広く採用されている。
しかしながら、このようなわが国の実務に対しては、その本来の趣旨に合っていないのではないかという意見があり、改正案では「国際的な会計基準とのコンバージェンスを推進する観点も踏まえ、一定期間の利回りの変動を考慮して決定される割引率(5年平均等の割引率)が期末に得られる市場利回りを基礎として決定される割引率(期末日の割引率)よりも信頼性があると合理的に説明することは通常困難であると考えられることから、原則的な考え方(期末の割引率を採用すべしとの考え方)を重視して、注解(注6)にあったなお書きを削除する」こととされた。
3.重要性基準
わが国の退職給付会計基準は、平成10年に策定された当時、国際会計基準や米国会計基準で採用している数理計算上の差異について一定の範囲内は認識(費用処理)しない取扱い(回廊アプローチ)を採用しなかった。これらの基準は期末日の割引率とその他の基礎率を退職給付債務の計算に用いる代わりに、数理計算上の差異が一定範囲を超えない限り費用(又は費用の減額)処理が始まらない。日本基準は、このような回廊方式を採用する代わりに、いわゆる重要性基準「割引率等の基礎率に重要な変動が生じていない場合にはこれを見直さないことができる(注解(注10))」を採用した。
今回の改正にあたり、注解(注6)のなお書きを削除する場合には回廊アプローチの導入を合わせて行うべきではないか、注解(注6)のなお書きを削除したとしても重要性基準の取扱いが現行のままでは、必ずしも退職給付債務を貸借対照表日現在の割引率に基づき計算することにはならないのではないか、等々の意見が議論されたが、ASBJでは、今回の改正が「東京合意」(会計基準のコンバージェンスの加速化に向けた取組みの合意)における短期的な取組みの一つであることから、退職給付会計基準の現行の枠組みを大きく変更することとなる議論は避けられた。
4.退職給付会計の実務における影響
今回の改正で注解(注6)のなお書きが削除されても、実務的には退職給付会計実務指針18項(期末の割引率の変動が退職給付債務を10%以上変動させると推定される場合でない限り期首の割引率を用いて計算してよいとする規定)がある限り、低金利が継続している現状では大きな影響はないと思われる。しかしながら、5年間の平均等を用いていたこと、更に実務的には「当期」の国債利回りにおいても単年度平均を用いており、これらの「平均」という考えは改める必要がでてくる。また期末日の割引率による期末日の退職給付債務の計算は決算に間に合わないのではないかという現実的な問題についても、期末の割引率を予測して何通りかの退職給付債務を計算しておく必要があるのではないか、等々少なからず退職給付会計実務に影響があることが予想される。
改正案では、このような18項をはじめとしたいくつかの点について、実務指針の改正を促している。
5.改正案の適用時期等
注解(注6)のなお書きを削除する「改正基準」は、平成21年4月1日以後開始する事業年度の年度末(平成22年3月31日の退職給付債務を計算する時)から適用することとされている(早期適用あり)。
改正基準の適用初年度の年度末(平成22年3月31日)にこの基準に基づき割引率を変更して発生する数理計算上の差異は、その年度に発生した数理計算上の差異として企業の処理方針に基づいて処理する。よって数理計算上の差異を翌期から処理する場合には損益への影響はその翌年度以降に及ぶこととなる。
なお、当該割引率の変更に伴い発生する変更年度の費用処理額及び未認識数理計算上の差異残高は、重要性が乏しい場合を除き会計方針の変更の影響額として注記することとなる。 |
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| 以上 |
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『会計情報』(トーマツ リサーチ センター発行/2008年5月号)
泉本小夜子執筆分より抜粋 |
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