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トピックス 2008.7.30
映画に見る米国企業年金の世界 〜『ダイハード4.0』編〜
401(k)プラン
Deloitte Consulting LLP (ニューヨーク)
米国公認会計士協会正会員 服部 邦洋
このコラムはデロイト コンサルティング LLP ニューヨーク事務所にて企業年金のコンサルタントとして働く筆者が、映画を通して米国での企業年金の世界を感じたままにお伝えするものである。
なお、文中の意見に関わる部分は私見である。

1.運の悪い男
有名シリーズの続編が次々と公開された2007年のなかでも、多くの人々の期待を受けて公開されたのが『ダイハード4.0』である。言わずと知れたブルース・ウィリスの当たり役 ニューヨーク市警の刑事ジョン・マクレーンが、ロスのハイテク高層ビル、ダラス国際空港、ニューヨークでの事件に続いて、全米をターゲットとしたサイバーテロに巻き込まれる。今回の敵はコンピュータで管理された全米の電気、ガスなどのライフラインをコントロールし、国家そのものを乗っ取ろうとする。

2.分散投資
さて、敵は多額の賄賂を支払ってマクレーンに追跡をあきらめさせようとするが、当然マクレーンは拒否。そのため、思わぬ逆襲を食らう。
金融機関のデータも簡単に操ってしまう敵がハッキングした先は、なんとマクレーンの401(k)口座。画面には“401k”の大きな文字と国内株式のカテゴリーに“LG Cap”、“Mid Cap”など投資信託が6種類、海外株式のカテゴリーには“Europe Fund”と“Pacific Fund”の投資信託2種類が映っている。株式だけで8種類に投資しているとは、直感と意地で数々の困難を切り抜けテロリストを追い詰めていくマクレーンの行動とは反対に意外にもきちんと分散投資をしているようである。しかしながら、敵の攻撃により自らのライフプランに合わせて分散投資してきた口座残高をゼロにされてしまう。
寿命が長くなるほど、老後の生活のため蓄えはたくさん必要となる。ダイハード(不死身の男)というくらいなので、マクレーンにはきっと多くの資産が必要なのであろうが、その保障を一瞬にして失ってしまった。妻と離婚し、娘からもそっぽを向かれたマクレーンの余生を想像して欲しい。

3.確定拠出型の年金制度
今回のテーマは401(k)プランである。上記のシーンに見られるように、米国の401(k)プランは映画の重要な小道具として使われるほど人々の生活に根付いているのである。では、いったい401(k)プランとはどのような制度であろうか。同じ確定拠出型の年金制度である利益分配制度(Profit Sharing Plan)も合わせて見てみたい。

(a)401(k)プラン
401(k)プランとは内国歳入法(IRC)の401条k項において定められた税制適格の確定拠出型の“年金制度”である。1978年のIRC改正によって従業員の選択による報酬の繰延が税制適格と認められて誕生し、その後1981年に企業によるマッチング拠出が認められ現在の形となった。最大の特色は従業員個人が401(k)プラン専用の口座を持ち、そこに従業員(加えて場合によっては会社)が掛金を拠出し個人の選択に基づいて資産運用をする点である。運用結果がそのまま引退後の個人の年金の原資となるため、運用が低調でも企業が追加負担する必要がない。特に企業の財務上の要請から広がった制度で、確定拠出型の“年金制度”の1種である。
ここで敢えて引用符を付けた“年金制度”としたのは、「米国の401(k)プランは年金制度ではない」と言われることもあるためである。米国の401(k)プランは原則が従業員拠出であって、「給与の6%まで、従業員掛金1ドルに対して事業主掛金50セント」といった具合に企業は従業員掛金にマッチングして拠出しているケースが多い。従業員が掛金を支払うという点で、どちらかというと日本の制度では財形貯蓄や持ち株会といった貯蓄制度に近いのである。日本にも類似した制度で確定拠出年金(企業型)があるが、こちらは企業だけが掛金を拠出することができる年金制度であると言える(一般的には401(k)プランも年金制度で通じるので本コラムでは年金制度と貯蓄制度の厳密な使い分けはしない)。

(b)利益分配制度(Profit Sharing Plan)
そもそもIRC401条は、株式賞与制度、年金制度、利益分配制度の税制適格要件を定める条文である。このうち利益分配制度とは401(k)プランと同じ確定拠出型の制度で、企業が収益の一定割合等を任意で加入者の口座に配分する制度であり、金額は事前に規約に定めた掛金算定式に基づく必要がある。利益分配という名がついているが、給与の一定割合といった掛金算定式も認められる。日本の確定拠出年金に似た制度であるが、最大の特徴はあくまでも掛金の拠出が企業の任意でよい点である。

4.確定拠出型の年金制度の活用
映画に見る米国企業年金の世界 〜『ウォール街』編〜 年金制度と企業戦略では年金制度と企業戦略について述べたが、企業が確定拠出型の年金制度を選択した場合、まず、その目的を考慮しなければいけない。利益分配制度の企業掛金が任意でよいという点を活かせば、ある収益目標に対して達成した場合に企業から特別の報酬を税法上有利な従業員の口座に支払うインセンティブ色の強い制度となる。反対に、任意とせず給与の一定割合を企業が定期的に拠出するのであれば、老後の生活保障の色合いが強くなる。また、401(k)プランを活用すれば、従業員の自主性を重んじ(給与と貯蓄の選択を与え)貯蓄の手段を提供する制度となる。さらに企業によるマッチング拠出を加えれば、従業員の自主性を重んじつつ、企業もその生活保障を後押しするという意味合いの制度ができる。そのためには、企業の他の報酬および給付制度や企業文化などいわゆる総報酬(Total Rewards)の観点から決定する必要があろう。

5.格差社会に生きる
次に企業が留意する点として、税制適格と認められるためにクリアしなければならない非差別テストがある。日本でもいわゆる格差社会の到来がささやかれているが、米国は超格差社会とも言われることがある。是非はともかく格差社会にはそのような環境を考慮した年金ルールがある。IRC401条は非差別テストとして、高報酬従業員と非高報酬従業員に分けてその加入率および平均拠出比率を一定以内に抑えているかどうか毎年確認することを企業に求めている。最近では米国のエグゼクティブに対する多額の報酬が話題とされているが、非差別テストの目的は、同じ正社員のなかでも報酬の格差が大きいことを考慮し、年金制度のなかで一定の歯止めをかけることにある。ちなみに、日本の確定拠出年金では拠出は給与の一定率(もしくは一定額)とされているため、そもそも拠出率で差をつけることは難しい。ただし、日本では正社員にしか加入資格がないことも多く、雇用形態による差が存在する。
米国の非差別テストについては制度導入時にきちんと考慮していれば問題になることがないが、例えば米国法人が新たに米国企業を買収した場合などには気をつける必要がある。なぜなら、この非差別テストは単独の企業で判定するのではなく、コントロールグループと呼ばれるグループ単位で判定するためである。仮に買収した企業の従業員の給与と拠出率に偏りがある場合、グループ全体で非差別テストをクリアできない場合も出てくる。

6.訴訟社会に生きる
米国は訴訟社会とも言われている。『「法令順守」が日本を滅ぼす』の著者である郷原伸郎弁護士が、米国での法令は「文化包丁」で日本での法令は神棚の中に祭った「伝家の宝刀」のようなものだと述べている。幸いにして筆者自身が訴訟事案を体験したことはないが、テレビでも弁護士事務所が盛んにコマーシャルを流しているのを見ると普段使いの「文化包丁」の気配が感じられる。
そんな米国における401(k)プランに関連する二つの訴訟関連の話題をご紹介したい。第一に、401(k)プランの手数料の開示である。米国では運用商品を提供する運用機関が自社の運用商品拡販のためレコードキーピングを無料で提供し始めた。これまで手数料を受け取って管理業務を提供してきた運営管理機関もこれらの運用機関とネットワークを接続し、顧客企業にこれら運用機関の商品を提供する代わりに商品にかかる手数料を運用機関とシェアするようになった。そのため、手数料が分かりにくくなり、制度加入者から説明もなく手数料を口座残高から差し引かれたとの訴訟を受けることとなった。従業員側は敗訴したものの、このような事態を受け米国労働省は手数料の開示の強化を求める法律の作成にとりかかった。
第二に、制度加入者が、自分が指定したとおりの運用商品への資産の振り替えを運営管理機関が行わなかったために損害を被ったとして、運営管理機関を訴えた事案である。一、二審では、ERISA法(従業員退職所得保証法)は受託者責任違反の結果として“制度(plan)”が損害を被った場合の救済は想定しているが、“個人”の損害の救済までは規定していないことを理由に従業員側には訴えの資格なしとして敗訴していた。しかしながら、最高裁においてこの判決が覆され差し戻しとなったのである。これは少なからず業界関係者に衝撃を与えたようだ。
確定拠出型の年金制度を選択した企業は、年金資産の運用リスクから解放されるが、リスクがなくなったわけではなく、新たに従業員に対し投資教育を行う義務を負い、それを怠った場合の訴訟リスクを負うことになる。ただし、なかなか複雑な法律および実務であるため、米国内にて401(k)プランを保有する企業は、専門家による制度のレビューを受けることをお勧めする。

7.自由に生きる
『ダイハード4.0』の原題は『Live Free or Die Hard』である。これは、米国独立戦争のジョン・スターク将軍の言葉でニューハンプシャー州のモットーでもある“Live Free or Die”をもじったものであり、米国の独立戦争当時の機運をよく伝える言葉である。貯蓄もせずに自由に生きるのはいい。しかしながら、平均寿命は延び続け老後にかかる費用は増加している。デロイトの「2008 Top Five Total Rewards Priorities Survey (PDFファイル)」でも個人にとっては老後の経済保障が最大の関心事であるとの結果が出ている。問題は企業として、これらの事項にどのように関わるべきかということである。401(k)プランの歴史の長い米国でも企業の模索は続いている。

■参考文献
「ダイハード4.0 (原題:Live Free or Die Hard)」(2007年)20世紀フォックス
「ダイハード4.0」公式Webサイト(2007年)Fox and its related entities
「インサイダー取引はなぜ悪いのか」(2008年5月28日)日経ビジネスオンライン
「企業年金に関する基礎資料」(2007年)企業年金連合会
「Should a 401(k) Plan Be a Safe Harbor 401(k) Plan?(March)」(2007年)The CPA Journal
「Courting Disaster (May 1)」(2008年)CFO Magazine
「Internal Revenue Service」公式Webサイト
以上
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