| トピックス 2006.4.12 |
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| Thought Leadership 崩壊的革新 百年目の嵐 |
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| デロイトリサーチ編著/抄訳・加筆 池末 成明 |
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デロイト トウシュ トーマツ(以下、DTT)は、通信産業において大きな変革が起きていると考えています。目前に迫る変革への挑戦のためには、DTTが開発した「崩壊理論」が役立つかもしれません。「崩壊理論」は、新しい技術が既存の技術を根本的に崩壊させる革新の過程を説明する理論です。DTTではこの崩壊による革新の過程を「崩壊的革新」と呼んでいます。このトピックスは「崩壊理論」をテレコム業界に適用したものです。
なお、文中の意見に関する部分は私見です。
百年目の嵐
通信産業は、長い間、崩壊の嵐に遇わずにすんだ数少ない巨大産業です。この通信産業でも、100年前に一度だけ、「電話」という嵐が電信を崩壊させました。通信産業の成長が鈍化していますが、次の大きな変革が間近に迫っています。この変革は通信産業史上2度目の産業崩壊を引き起こすかもしれません。
目前に迫る変革への挑戦のため、伝統的な知見から得られる結論は、こう要約できます。「最大の規模を持ち、かつ最も金になる市場を選択し、その市場を集中的に攻めなさい」。しかし、この知見は、競争関係が均衡している従来の通信産業では有効に働きますが、今後の通信産業のように大きな変革にさらされている動的な産業では機能しないと思われます。やはりこれには、新しい理論が必要であり、その意味で「崩壊理論」が役立つかもしれません。
DTTでは、通信業界における崩壊的革新を歴史から探すことにしました。通信産業では100年前に一度だけ、電話が「崩壊的革新」となり、電信を崩壊させました。DTTが通信業界で起きている最近の動向を「崩壊理論」を使って解析したところ、無線通信による改革が「崩壊的革新」を引き起こす可能性があるという結論に達しました。DTTは、100年前に起きた通信業界の「崩壊的革新」とこれから起きるかもしれない通信業界や放送業界で起きる「崩壊的革新」を『The Hundred Year Storm(百年目の嵐)』というレポートにまとめました。
『The Hundred Year Storm』の全訳を脱稿した2006年1月27日を最後に、かつて巨大な電信会社であったウエスタン・ユニオン社は、ついに電信サービスを停止しました。このレポートは、ショッキングな内容を含むので、日本でご紹介することに躊躇していました。しかし、このレポートをご紹介することが、テレコム業界や放送業界、金融機関、投資家の方々そして政府の関係者にとっても、お役にたつと思い、そのエッセンスを書き直してご紹介することとしました。
「崩壊的革新」と「成長を支える革新」
「崩壊理論」を理解し、実際の戦略に利用していただく場合、「崩壊的革新」と「成長を支える革新」を区別し、それぞれの成長のプロセスを理解する必要があります(図1)。図の縦軸は製品やサービスの性能、横軸は時間です。 |
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| 図1 |
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| 『The Hundred Year Storm』より転載 |
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(1)成長を支える革新
どのような市場でも性能は改善していきます。時間の経過とともに上昇する点線は、主要な顧客が対価を支払う性能が高くなっていく様子を示しています。顧客はこの点線の周辺に分布しています。要求の厳しい顧客はこの性能に満足しませんが、要求の緩やかな顧客はもっと低い性能でも満足します。
一方、既存の企業は既存の顧客層の要求にアピールすることが必要であり、日々の改善だけではなく、時にはブレイクスルーも必要です。これが「成長を支える革新」です。図1の勾配が急な長い実線の矢印が、この変化を表しており、企業は、欠陥すれすれの製品ですらも満足する顧客層を見捨て、要求の厳しい顧客を求めて突き進み、顧客層の求める性能以上の性能を持つ製品やサービスを提供するようになります。これは、しばしば「過剰攻撃」となります。ここを「顧客ニーズ」や「品質管理」と混同してしまうと、その企業は「崩壊的革新」を進める企業の脅威に晒されることになります。
(2)崩壊的革新
「崩壊的革新」を進める企業にとって、この「過剰攻撃」で見捨てられた顧客層が「崩壊的革新」を可能にする土壌となります。「崩壊的革新」では、伝統的な性能の基準からみると、既存の製品よりも劣る製品が市場に現れます。こうした製品やサービスは、主流市場を支配している製品やサービスよりも安価で、利用も簡単で、見捨てられた顧客層を取り込み始めます。こうして、「崩壊的革新」が始まります。
「崩壊的革新」が始まり、性能にこだわらない顧客層が劣った製品やサービスを受けいれると、劣った製品やサービスは市場に「足場」を得ます。性能にこだわらない顧客層には、まったく新しいタイプの顧客層も存在します。「足場」がいったん誕生すると、この企業は「成長を支える改善の新たな軌跡」に沿って成長します(図の短い矢印)。ほどなく、より優れた性能をもつ製品やサービスが開発され、これを購入する顧客層が現れます。製品やサービスはさらに改善され、より要求の厳しい顧客層の要求に答えることができるようになり、「ハイエンド市場への行進」が始まります。こうして新しい技術を持つ企業は、既存の企業が守り、「過剰攻撃」していた顧客層を根こそぎ奪ってしまいます。
崩壊的革新のリトマス試験紙
次に、その革新が「成長を支える革新」なのか「崩壊的革新」なのかを判断するための「リトマス試験紙」をご紹介します。革新が「崩壊の潜在力」を持つためには、(1)「新規市場」か(2)既存市場のローエンド市場のいずれかまたは両方に「足場」を持たなければなりません。一般的に、崩壊の多くは、両極端の一方に強く傾きます。各タイプの「足場市場」の顧客は、「崩壊的革新」のための最初の顧客ベースとなります。
第三のリトマス試験は、「ハイエンド市場への行進」のための「革新の潜在力」の判定に使います。崩壊はより要求の厳しい市場へ戦線を展開できたときのみ起こります。崩壊的革新は既存の企業すべてに崩壊的である必要があります。
電信の崩壊のプロセス
ここで電話が電信を崩壊させたプロセスとリトマス試験を見ていきましょう。図の縦軸は製品やサービスの性能、横軸は時間です。 |
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電話は、最初に銀行間の連絡に利用され、ここに「足場市場」を築きました。また、ほどなく一般消費者にも利用されるようになりました。こうした市場は、ウエスタン・ユニオン社が事業として価値を認めない顧客をターゲットとしていましたので、注目をあびることもなく、楽々と「ハイエンド市場へ行進」を展開できました。
リトマス試験紙(電信と電話)
表1は、どのように電話が電信を崩壊に追い込んだかを示しています。電話は、電信よりも低いコストで簡単に利用できるサービスとして、長距離通信ではなく地域通信をターゲットにし、その新しい市場に最初の崩壊の足場を築きました。つまり、電話は崩壊的な新しい市場を創造しました。 |
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| 表1.リトマス試験紙(電信と電話) |
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○:該当 ×:該当しない
顧客の要望を重視する企業は、崩壊的革新によって崩壊する
電信事業者の合併の結果生まれた世界初の巨大会社ウエスタン・ユニオン社も電話事業を開始しましたが、まもなく撤退しました。より規模が大きく、より利益を生む本業の電信事業に集中する道を選択したのです。この選択は、同社が電話市場の顧客と接触がなかったからでもなく、電話という新しい技術の可能性を認識していなかったからでもありません。事実はまったく反対で、ウエスタン・ユニオン社は、この新しい技術を完全に理解していました。同時に、自社の重要な加入者のニーズも正確に把握していたので、電話は同社の加入者が必要とするサービスではないと判断し、電話事業を中止したのです。この判断は、まったく正当かつ適切な経営者の意思決定だったといえます。ただ、彼らは、進化の最後のステージに自分たちが過剰適応していることを認識していなかっただけなのです。皮肉なことですが、顧客の要望を重視する企業は、「崩壊的革新」によって崩壊するリスクがあるのです。
このようなリスクがあるので、「崩壊的事業」はまったく独立した別部門で行う必要があります。「崩壊的革新」では、成長を支える革新とは別の顧客に最初の足場を築くからです。成功する崩壊も、技術ではなく顧客にあるのです。
TMTグループのニュースレターであるThought Leadershipシリーズの『The Hundred Year Storm(百年目の嵐)』の英語版および全訳はPDFでご用意しております。ご関心のある方は、こちらよりお問い合わせください。 |
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