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情報・メディア・通信 (TMT:Technology, Media & Telecommunications)
トピックス 2006.4.12
Thought Leadership 崩壊的革新 通信事業者への提案
デロイトリサーチ編著/抄訳・加筆 池末 成明
このトピックスの下敷きになっている『The Hundred Year Storm(百年目の嵐)』は、全米で大変な注目を集めたデロイト トウシュ トーマツ(以下、DTT)が提唱する「革新のための崩壊理論」をテレコム業界に応用したレポートです。このトピックスでは、「崩壊的革新」の成功の原則と無線通信技術の可能性をご紹介します。
なお、文中の意見に関する部分は私見です。

新規参入者
新規参入者は、「崩壊的革新」を展開できたとき、勝利者となります。まず、新規参入者は、新規市場かローエンド市場のいずれかの市場において確かな足場を築かなければなりません。この「足場市場」は新規参入者を育てる土壌です。その間、この「足場市場」において新規参入者は改善を進め、「主流市場の崩壊」を準備する基盤を作ります。崩壊を進める事業者と既存の通信事業者は、その競争を定義づけるモチベーションがまったく異なります。新規参入者は、このモチベーションの相異をうまく利用して、巨大な既存の事業者の攻撃を避け、改善を進めるべきです。

既存の事業者
一方、既存の通信事業者が「成長を支える革新」にとどまれば、「将来の成長」の余地がなくなります。一方で、株主は、「短期的な利益」を伴う成長も求めます。「将来の成長」と「短期的な利益」とのトレードオフ、この永遠なる葛藤は、「崩壊的革新」と「成長を支える革新」の間の緊張と言いかえることもできます。この緊張を管理する鍵は、この二つの相異を理解し、製品とサービスの革新を「崩壊的潜在力」と「成長を支える潜在力」に正しく分類し、管理する必要があります。「崩壊的革新」による成長を求める大規模な既存の事業者が進めるべき主要な5原則について、ご紹介します。

1)「崩壊的革新」に適したリーダーを選ぶこと
過去その組織に成果をもたらした人間は、「成長を支える革新」のリーダーとして適任ですが、「崩壊的革新」のリーダーとしては適任ではありません。崩壊的ベンチャー企業には大規模で安定的な会社の経営者が経験していない独特の問題が出てきます。このような問題に挑戦するとき、大企業での過去の成功体験が間違った判断を招く可能性があります。

2)新しく発見された事実にもとづく計画を採用すること
「成長を支える革新」では、経験にもとづいた正確な仮定を計画に組み込みます。しかし、予測やコントロールが困難な「崩壊的革新」に対しては、こうしたアプローチは使えません。

3)「崩壊的革新」の初期の数年間における不確定性を許容すること
「崩壊的革新」を進める場合、確実さの要求は、非生産的であるばかりではなく、市場での事業の試みを妨害し、経営者は市場からの声に心を閉ざしてしまいます。

4)成長ではなく利益に貪欲であること
利益こそが顧客満足を追求する資源となり、「足場市場」の発見を促進し、ハイエンド市場への行進を展開するための改善を進めるモチベーションとなります。

5)「崩壊的革新」にふさわしい価値とプロセスをもった組織を別に設立すること
新しい組織が既存の組織に拘束されてしまうと、「崩壊的革新」は起きません。「崩壊的革新」と「成長を支える革新」は、それぞれ独立した部門に、その責任を与えなければなりません。これは、サービスや製品のコアとなる技術が本質的にはまったく同じであったとしても守らなければならない大原則で、ターゲットとする顧客がまったく異なるからです。「崩壊的革新」では、「成長を支える革新」とは別の顧客に最初の足場を築きます。結局、すべての事業の成功が顧客にあるように、成功する崩壊の秘密も、技術ではなく顧客にあるのです。

無線通信は崩壊的革新か?
本来、無線通信は、移動性(mobility)と可搬性(portability)の二つの利点のうち一方の利点のみを提供する技術です。携帯電話として知られているセルラー型の電話は、「移動性」すなわち歩行中または移動体上で使用する技術です。
一方、Wi-Fi などの無線データ技術は、「可搬性」、すなわち物理的にネットワークへの再接続をすることなく場所を変えることができる技術をいいます。
移動性と可搬性といった利点は、帯域幅の削減によって実現したので、無線通信は有線通信よりも狭い帯域幅でしか機能しません。無線通信は、有線通信にない移動性や可搬性を強調します。一方、有線通信は、無線通信にない帯域幅を強調します。このトレードオフを生かした市場戦略は、シナリオ分析を進めた結果の成功物語として知られています。
こうした伝統的な知恵とは対照的に、革新的崩壊ではトレードオフを利用しません。電話は電信を崩壊させましたが、電話は短距離通信での低料金と利便性を訴求しただけでなく、長距離通信でも高額ではありましたが、高い信頼性を訴求したのです。
無線通信は崩壊的革新か?イメージ図
現在のところ、有線データサービスは、帯域幅を広げており、無線通信を凌駕しています。無線音声通信の品質は有線通信と同レベルになるのでしょうか?無線データサービスは有線データサービスとの帯域幅の差異を縮めることができるのでしょうか?こうした質問は正しくありません。携帯電話の品質は固定電話より劣りますが、加入者ニーズは満たしています。正しい質問は、「無線通信が有線通信の顧客のニーズに追いつくでしょうか?」です。そして、その答えは「YES」でしょうか?「NO」でしょうか?それを決断するのは、経営者です。市場はその答えを待っています。

Wi-Fi と崩壊
Wi-Fi の魅力は、他の無線通信技術よりも帯域幅が広いこと、すなわちデータ伝送速度が速いことにあります。Wi-Fi の欠点はその伝送範囲で、一般的には基地局から200メートル程度に限られています。Wi-Fi のもう一つの欠点は、移動性と帯域幅とのトレードオフの結果、帯域幅を選択し可搬性を確保しつつも、孤立した「ホットスポット」としてのみサービスを提供していることです。
この技術を展開する上で人気のある方法の一つに、Wi-Fi ハブの利用があります。これは既存のブロードバンド接続を介してインターネットにアクセスでき、一方では無線LANを使って相互通信を実現する技術です。オフィスやホテルなどにWi-Fi ハブを設置すると、利用者は、各階や会議室の間をローミングでき、固定的な接続ポイントを用意しなくとも、接続できます。ネットワークのアクセスは便利になり、オフィスにおける柔軟なワークスペースの構築や、複数の会議室をつなぐワークグループの活動などが可能になります。加入者は、Wi-Fi が提供する「最後の数フィート」のケーブルを取り払われる可搬性というソリューションの利便性に気づき、この技術をさらに利用するようになりました。
このソリューションは有線ブロードバンド事業者が最も満足させたい加入者を満足させる技術です。このアプリケーションサービスは本質的な成長をもたらしますが、崩壊的ではありません。新規顧客に足場を築く技術ではないからで、リトマス試験からはずれます。この技術は既存の固定通信事業者の「成長を支える革新」なのです。
それでも、Wi-Fi には、真の崩壊的な潜在力があります。それは、無線LANによるアプリケーションシステムに徹することです。Wi-Fi の持つ帯域幅の広さと「可搬性」ではなく、「移動性」を改善することで、このアプローチで築いた足場市場を築くわけです。たとえば、「歩きながら仕事をする」ことは、成功する方程式の文字通り「ソリューション(解)」となります。たとえば、このソリューションは、病棟が複数ある大規模な病院ばかりでなく、工場や研究所などを含む広範囲な区域での需要を増すことになると思われます。メッシュ技術の改善がこの需要を喚起すると思われます。

WiMAXと崩壊
Wi-Fi は、その伝送範囲はせいぜい100 メートルまでですが、WiMAXの伝送範囲は2〜5キロですので、Wi-Fi よりも高い移動性を実現できます。Wi-Fi をハイエンド市場に向かわせる今一つの技術は、「マルチホッピング」だと思います。この技術は、帯域幅を犠牲にすることなく、Wi-Fi の有効通信範囲を拡大します。この技術は、「モバイル-ファイ」(mobile-fi)または802.20 の名称でも知られています。この技術を利用すると、高速Wi-Fi 接続にアクセスしている利用者は、停止する必要はありません。おそらく、WiMAX は、Wi-Fi を「ハイエンド市場への行進」を支援する技術です。

エーテルの中のパイプ
無線によるブロードバンド通信技術は、移動性の課題を改善していくことでしょう。DTTは、この無線によるブロードバンド通信技術を「エーテルの中のパイプ」と呼び、「エーテルの中のパイプ」が通信産業史上二度目の大きな改革を引き起こすと考えています。あるいは3Gが帯域性の問題を解決するかもしれません。無線通信技術が有線接続を凌駕するようになると、今日では移動性と可搬性のニーズのないアプリケーションでさえ無線に移行し、「崩壊的革新」が起きると思われます。わが国での通信産業の動向がどう動くか楽しみですが、長期的にみて日本の経済全体に益する方向に進んで欲しいと願うばかりです。

TMTグループのニュースレターであるThought Leadershipシリーズの『The Hundred Year Storm(百年目の嵐)』の英語版および全訳はPDFでご用意しております。ご関心のある方は、こちらよりお問い合わせください。
以上
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