Deloitte.
トーマツグループ トーマツ
Home サービス ニュース&ナレッジ セミナー 出版物 グループ案内 コラム 問い合わせ サイトマップ
Home > ニュース&ナレッジ > 情報・メディア・通信 > トピックス 2007.2.21
ニュース&ナレッジ
情報・メディア・通信 (TMT:Technology, Media & Telecommunications)
トピックス 2007.2.21
Thought Leadership 融合の時代 ― コンバージェンスとネットワークの中立性(1)
池末 成明
はじめに
コンバージェンス(融合)には、さまざまなモデルがあるが、そのひとつに垂直統合と水平統合がある。本稿では、垂直統合と水平統合を語るとき重要な概念となる「ネットワークの中立性(network neutrality)」を概観する。なお、本稿の意見に関する部分は、私見である。

垂直統合と水平統合
垂直統合とは、ここでは、情報やコンテンツの発信(制作)・流通・受信の3段階を統合することを言う(図1の縦軸)。たとえば、かつて、米国では、テレビ会社が番組を制作し(発信)、放送し(流通)、テレビを製造していた(受信)。これは典型的な垂直統合の例である。
水平統合とは、情報やコンテンツの発信・流通・受信のそれぞれの段階を水平に統合することを言う(図1の横軸)。アニメ、スポーツ、ゲーム、ニュースなど多様なコンテンツを集め、各携帯電話会社に提供することは、情報やコンテンツの発信レベルでの水平統合である。水平統合には地理的な統合もある。たとえば、最近は、海外でもつながる携帯電話があるが、これをローミングといい、流通(ネットワークの相互接続)と受信レベル(同じ携帯電話を使うこと)でそれぞれ水平統合が行われていると言えるだろう。

図1:垂直統合と水平統合
垂直統合と水平統合
出所:デロイトリサーチより改編

ネットワークの中立性
一方、ネットワークの中立性とは、米国において、筆者の知る限り、遅くとも2003年には提唱された論点で、「利用者が望む端末で、利用者が望むネットワークにアクセスし、利用者が望む場所で、利用者が好きな時間に、利用者が望む方法でコミュニケーションを行い、利用者が望むコンテンツを楽しむための環境」と言ってよいだろう。つまり、ネットワークの中立性とは、いつでもどこでも誰とでもアクセスできる社会(aaa:anytime anywhere anyone)、すなわちユビキタス社会を実現するための環境を整備することだと言える。
さらに、ネットワークの中立性では、誤解を恐れず噛み砕いて言うと、「これは固定電話サービスだ」、「これは携帯電話サービスだ」、「これは情報通信だ」、「これはCATVだ」、「これは放送だ」といった区分はサプライサイドの主張であって、利用者の立場に立った主張ではない。こうした区分は、サービスの多様性を損なうと考える識者が多い(これに対する反論もある)。さらにネットワークの中立性は、「利用者は、自分の好きな端末で好きなコンテンツを楽しむのであるから、ネットワークを意識しない環境が必要だ」と言い換えてもよい。ネットワークを意識しない環境をシームレスといい、シームレスな環境は、流通レベル(ネットワークの相互接続やFMCなど:注)と受信レベル(端末のマルチバンド化)においてそれぞれの水平統合によって実現する。つまり、シームレスな環境とは、本質的にネットワークのコンバージェンスを作り出すことに他ならない。

(注) FMC(Fixed Mobile Convergence)とは、自宅に帰れば固定電話、外では携帯電話になる電話端末を使った通信を言う。また、ここ数年以内の商用化が検討されているものとして、部屋の中で、ひとつの無線LANの基地局が混雑していれば、他の無線LANの基地局に接続し、その基地局も混んでいればWi-MAXに接続するような技術の開発も進んでいる。つまり、端末は自分自身で接続するネットワークを勝手に探し出すのであり、利用者がこれを意識することはない。この技術も一種のコンバージェンスであり、シームレスな環境を実現していると言える。

しかし、シームレスな環境の整備は、ネットワークの中立性として必要な条件ではあるかもしれないが、十分な条件ではない。というのは、シームレスな環境は、一社が独占的に提供することが可能だからだ。ネットワークの中立性では、事業者同士の自由競争によって多様なサービスが誕生し、利用者が自分の望むサービスを自分が望むネットワークにアクセスして享受できるようにすることを主張する。これを「利用者がネットワークにアクセスできる権利」といい、歴史的には、この利用者の「アクセス権」を「ネットワークの中立性」と定義してきた。したがって、ネットワークの中立性の意味を把握するためには、その誕生の経緯に踏み込まざるを得ない。その誕生の歴史を振り返ることで、「垂直統合・水平統合」や「垂直分離・水平分離」と「ネットワークの中立性」の関係も見えてくるだろう。

ネットワークの中立性の経緯
本来、垂直統合や水平統合は、独占禁止法の規制の対象である。しかし、各国とも、業界が誕生時または発展途上にあるときは、健全な業界の育成や利用者の利便性のために、積極的に、垂直統合または水平統合を進めることがある。そして、業界が成熟してくれば、垂直統合または水平統合が、自由競争を阻害して独占を生み、利用者の権利が侵害されないようにするため、垂直分離(垂直型の競争モデル)または水平分離(水平型の競争モデル)を導入する。TMT業界の競争政策も例外ではない。
従来、各国とも、音声通信、情報通信そして放送を別々に考えて、それぞれにおいて競争政策を議論してきた。このような競争モデルを水平型の競争モデルと言う。ところが、CATV事業者がVoIP(Voice over Internet Protocol)による電話サービスを開始し、放送事業者がインターネットで番組を配信し、通信事業者が音声通信以外にインターネット接続や映像や音楽などのコンテンツを配信するようになった。このような時代になると、業界ごとに規制してきた法令では、対処できない問題が表れた。特に、米国では、既存の法令の枠組みでは処理できない深刻な論争を生み出した。そこで、しばらく米国の状況を見ていくこととする。
米国では、CATV事業者らのVoIP(米国では伝統的に情報通信と考える)と従来の電話サービス事業者(米国では音声通信と考える)が同じ音声通信サービスで競合するようになり、さまざまな論争が生じた。論争は、事業者同士の訴訟合戦にとどまらず、州政府と連邦政府の対立もあり、行政の政策に異論を唱える裁判所の判決なども含まれる。
こうした状況が深刻化した2003年の夏頃から、「音声通信と情報通信を分離した水平型の競争モデルによる競争政策は時代遅れだ」という議論が始まった。そして、これからの情報通信業界は、IPネットワークの時代に変化するので、そのネットワークモデルを物理層・ネットワーク層・コンテンツ層の各レイヤに階層化したモデルで競争政策を論じるべきだという意見が登場した(図2)。

図2:垂直型の競争モデル
垂直型の競争モデル

このモデルを「垂直型の競争モデル」または「レイヤ型競争モデル」と言う。そして、この垂直型の競争モデルのネットワーク層に対して、利用者が自由にインターネットでアクセスできる権利を保証する原理を「ネットワークの中立性」と呼んだのである。
このネットワークの中立性という新しい競争原理に対する具体的な提案として、2003年12月、米国の長距離電話会社であるMCI(2005年にベライゾン・コミュニケーションズ(Verizon Communications)が買収)は、電話、情報通信、CATV、放送などの業種ごとに並んだ水平型の競争モデル(固定電話・携帯電話・CATV・放送)を4階層(コンテンツレイヤ・アプリケーションレイヤ・論理網レイヤ・物理網レイヤ)の垂直型の競争モデルに転換することを発表した(図3)。MCIは、IPネットワークの中で議論されていたネットワークの中立性を放送にまで広げたわけである。

図3:垂直型の競争モデル
垂直型の競争モデル
出所:MCIの発表文にもとづき筆者作成

その上で、MCIは、VoIPはアプリケーションレイヤのサービスであって、規制する必要はないと主張した。一方、物理網レイヤは地域の電話会社(日本で言えば、東西NTT)やCATV事業者が事実上独占しているので、このレイヤを利用する立場に立った規則の必要性を主張した。長距離事業者であるMCIは加入者への直接のアクセス網を持たないので、このような思想を主張するわけだ。このMCIの主張は、わが国のNTT以外の電話会社の主張と似ている。ともあれ、このMCIの提案により、「レイヤ型競争モデル」で競争政策を論じることが可能であることがわかり、ネットワークの中立性に関する論争が業界関係者の間で一気に沸騰した。
たとえば、2004年7月にプログレスフリーダム基金(PFF:Progress & Freedom Foundation)が発表した「ネットワークの中立性の経済学(The Economics of Net Neutrality)」は、ネットワークの中立性が消費者の選択肢を広げることを肯定した上で、規制の導入は事業者のインセンティブを削ぎ、ネットワークの中立性がもたらすべきネットワークの多様性を阻害すると主張した。この論点は、CATVとの競争に苦戦していた米国のべビーベル(Baby Bells)とも呼ばれている既存の地域電話会社(ILEC:Incumbent Local Exchange Carriers)に課せられた規制の撤廃を意図したものであり、従来からILECが主張してきた規制の撤廃論をネットワークの中立性から代弁したものである。MCIの主張に対する反論となっている点も特徴だ。

(注) 米国の地域電話会社の規制の撤廃論は、音声通話でCATVが強い米国の事情であって、この論争を日本でそのまま適用することには無理がある。しかし、この米国での論争の枠組みは、わが国における電気通信事業の規制のあり方を考える場合の参考になるかもしれない。

こうした論争の中で、2004年、ついに米国の放送と通信の政策当局であるFCC(Federal Communication Commission)は、「インターネットフリーダム」という講演を行い、2005年には次の4つの自由を主張した。
(1)
(2)
(3)
(4)
コンテンツのアクセス
アプリケーションの利用
端末の接続
ネットワークプロバイダ、アプリケーションプロバイダそしてコンテンツプロバイダなどの競争促進によるサービスの改善を利用者が享受できる権利

これらのFCCの主張は、広義にはネットワークの中立性に他ならないが、既存のネットワークやIPネットワークに限定した話である。

(注) FCCは1934年通信法によって設立されたアメリカの連邦政府の機関。無線を使用する組織(政府を除く)、州間電気通信(固定電話・人工衛星・CATV)、アメリカで発信・着信する国際通信を管轄する。

そして、2006年の秋、ネットワークの中立性は、アメリカの中間選挙で政策論争となり、広く知られるようになった。最近では、合衆国憲法修正第一条(表現の自由)を引き合いに、「通信事業者等が特定のサイトへのアクセスを制限すべきではない」という議論になっており、ネットワークの中立性の定義でもある「ネットワークのアクセス権」をめぐる自由権そのものに議論が移ってしまった(注)。本来のネットワークの中立性をめぐる、加入者への多様なサービスの提供を進めるための競争の自由化に関する論争は、アメリカでは硬直状態にあるという。

(注) こうしたネットワークの中立性をめぐる論争は、2006年の夏にデロイトのリサーチセンターが行った調査にもとづく報告書でも散見された(Convergence Conversations, Deloitte Research 2006年11月)。この中で、ある日本の企業もネットワークの中立性について触れ、わが国における中立性の問題の難しさに触れている。なお、日本企業と総務省に対して行ったこのコンバージェンスに関する対談集「コンバージェンスを語る」は、2007年2月末に発刊する予定である。

わが国でのネットワークの中立性の議論の状況
現在、わが国でのネットワークの中立性の議論は、IPネットワークに限定したものであるとは言え、ネットワークを流通する音声、情報、画像、動画、音楽などを区別しない。すなわち、わが国のネットワークの中立性の議論では、VoIPを超えたEoIP(Everything over IP)の概念をベースにしている。こうした概念の原点は、2005年に始まった「通信と放送の融合」(注)に関する議論に始まると思われる。

(注) 一部の放送業界や系列の新聞・雑誌では、「通信と放送の融合」ではなく、「放送と通信の連携」と言うが、ここでは慣習に従って「通信と放送の融合」を使うことをご容赦いただきたい。

わが国において、ネットワークの中立性とは、筆者の理解するところによれば、垂直統合や水平統合が進む現在、独占を回避するために、ネットワーク層への自由なアクセス権を保証するだけでなく、垂直分離や水平分離というダイバージェンス(またはアンバンドル化)を進め、各レイヤ間の自由な組み合わせを実現できるようにすることを言う。各レイヤ間の自由な組み合わせは、新規参入や業界の垣根を壊して相互に乗り入れが進み、多様なサービスを生み出して、利用者の選択肢を広げると期待されている。
そこで、各レイヤ間のアンバンドル化を進めるためには、どこまで各レイヤ間の縦方向のインターフェースや水平方向のネットワーク間のプロトコルの標準化を進めるのか、その接続のための料金はどのようなルールで決めるべきなのか、どこまでルールを撤廃し事業者間の自由競争に委ねるべきなのか、国際的に通用する技術革新をどのように進めるのか、料金の基礎となるコストの開示の方法や通信事業者や放送事業者の会計の開示や会計原則などについてどう考えるべきなのかなど無数の課題がある。こうした政策を実現すべく、総務省では、いくつもの懇談会や研究会、検討会などを立ち上げている。
通信ネットワークのIP化に伴う会計制度について、2006年11月7日、総務省は「電気通信事業における会計制度の在り方に関する研究会」の開催を発表し、同年11月11日に第1回目の研究会が行われた。現行の会計制度は,既存の電話網の利用や接続を前提としているため、研究会では現行制度の有効性を検証し、その後IP時代の新たな会計制度について検討し、2007年9月にも報告書をまとめる(この研究会には、監査法人トーマツからも手塚仙夫が参加している)。
ネットワークの中立性で特に注目を集めているコンテンツについて、総務省は、「コンテンツ取引市場の形成に関する検討会」を開催しており、放送番組等のコンテンツの制作力や発信力の充実等を通じ、コンテンツの取引を活性化するための対応のあり方の検討を行う。この検討会には、監査法人トーマツのTMTグループのコンテンツビジネスの専門家である伊藤雅之も参加している。
最後に、本題のネットワークの中立性について、2006年10月31日、総務省は「ネットワークの中立性に関する懇談会」の開催を発表し、その第1回目の懇談会を同年11月15日に開催した。この懇談会には多数の報道機関や業界関係者らが傍聴し、ネットワークの中立性への関心の高さを伺うことができた。ネットワークの中立性を検索エンジンで検索すると、日本だけでも1万件もの以上のヒットがある。今後、ネットワークの中立性は、わが国においても、コンバージェンスと並んでTMT業界での中心的な話題になるだろう。この懇談会は、IPネットワークの懇談会を継承する形をとっており、その懇談会の性質から独占禁止法の専門家や生活者の立場から発言するジャーナリストも参加している。総務省は、この「ネットワークの中立性に関する懇談会」で、通信サービスレイヤ、プラットフォームレイヤそしてコンテンツ・アプリケーションレイヤの4階層のレイヤ型競争モデルを示した(図4)。このモデルをみてもわかるように、この懇談会では、現在のところ、ネットワークの中立性において、IPネットワークに限定した議論をしている。

図4:IP時代におけるレイヤ型競争モデル
IP時代におけるレイヤ型競争モデル
出所:総務省「IP化の進展に対応した競争ルールの在り方について―新競争促進プログラム2010」

このネットワークの中立性の課題について、今後、さまざまな場所で、さまざまな議論が重ねられていくだろう。
次回は、こうしたネットワークの中立性に関連する業界の事例を見てみたい。
以上
English 安全確保の措置 利用規定 プライバシーポリシー コンプライアンス・ホットライン
▲ページトップ
Member of Deloitte Touche Tohmatsu
Copyright (c) 2008 Deloitte Touche Tohmatsu, Tohmatsu Tax Co. All rights reserved.
Deloitte(デロイト)とは、スイスの法令に基づく連合組織体のデロイト トウシュ トーマツおよび相互に独立した個別の法的存在であるネットワーク組織のうちのメンバーファームのひとつあるいは複数を指します。デロイト トウシュ トーマツとメンバーファームの法的な構成についての詳細は、www.tohmatsu.com/deloitte/ をご覧ください。
 
RSSフィード トーマツグループ ヘッドライン RSSによりトーマツWebサイトの最新情報をご案内しています。
RSSフィード RSSとは