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第3回 南海バブル−最初の会計監査報告書 |
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| 東インド会社 |
16世紀、ヨーロッパ諸国は東方貿易に際して、勅許会社を設立して貿易権を独占させていました。前回も述べたように、この頃既に、リスクの軽減と多額の資金の必要性から株式会社に相当する事業形態が生み出されていました。もちろん、貿易は民間の商人たちが主体となっていましたが、東方での貿易はしばしば、商人たちが国家の代表として、外交や軍事的な活動を併せ持つようになっていました。そのため、これらの事業形態(会社)に対して国家(国王)の勅許による特権が必要とされたのです。この特権には排他的な営業独占権も含まれていました。
このような、勅許会社の典型ともいえるのが、東インド会社でした。16世紀中ごろ以降の毛織物業の急速な発展を背景に、東インド貿易に乗り出したイギリス商人は、先行するオランダに対抗するために、1600年にエリザベス女王から勅許を受けて「ロンドン東インド会社」を設立しました。設立当初は、航海に対して資本の払込を行った社員のみからなる当座的な会社が、「ロンドン東インド会社」という勅許会社の名前をもって貿易を行っているに過ぎませんでしたが、1613年には全社員からの出資によって資本運営がされるようになり、1657年のクロムウェルの清教徒革命政権による勅許によって、出資が広く国民一般に開放され、民主的な株主総会が開かれ、事業の継続性が確立されました。これは一般的にクロムウェルの改組として知られています。
しかし、まだこの時点では、今日の株式会社が持つ「株主有限責任」の制度はありませんでした。つまり株主は会社の倒産に際して、債権者に対する無限責任を負っていたのです。株主有限責任が確立したのは、1662年、王政復古によってクロムウェルに代わって権力を握ったチャールズ・世が発布した破産者法によってでした。これによって、株式会社に対する全社員の有限責任が許容されたのです。株式と社員有限責任を備えた近代的な株式会社の成立です。
この、東インド会社から始まった株式会社という企業形態は、17世紀を通じて様々な業種に普及していきましたが、それらの中には、勅許を受けたもの、つまり法人格を持つものと、そうでないものがありました。そして、17世紀末から18世紀の初めにかけての投機ブームを受けて、この法人格を持たない企業が投機目的だけのために乱立したのです。 |
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| 南海バブル |
一昔前「バブル経済」という言葉が新聞を賑わしていましたが、「南海バブル(South Sea Bubble)」は、この語源ともなった事件です。この事件の中心人物はジョン・ブラントという男です。かれは「南海会社」という会社をつくって魅力的なビジネスを計画し、株式を発行して莫大な資金を得ました。ブラントはその資金を国債の購入にあてると発表。南海会社は「南アメリカでの貿易の独占、活動地域での立法・司法権、軍隊を作る権利」という強力な権限を得ました。当然ながら、南海会社は信用を上げ、投資家たちが殺到し、株価は高騰しました。
しかし、実は南海会社は実体の無いペーパーカンパニーでした。非常に強力な権限を与えられていたにもかかわらず、実際に行っていたのは年にわずか船1隻ぶんの交易だけ、利益は無いも同然だったのです。
やがて、ブラントの野望もついえる時が来ます。この時期、ブラントのやり方をまねた実体の無い会社が乱立したため、国が「バブル会社禁止法」を作ったのです。しかし、ブラントはこれをも利用しようとしました。ライバル会社をこの法律に違反したかどで訴えたのです。彼の思惑通りライバル会社の株価は下がりましたが、同じようにバブル会社だった南海会社自身の株価も大暴落してしまったのです。この株価の暴落は当時の経済に大きな影響を与え大恐慌を引き起こしました。
この南海バブルの崩壊は、ただちにブラントと南海会社の幹部の責任問題へと発展し、責任追求のための委員会が議会に設けられ、調査がすすめられました。このとき、活躍したのが会計士チャールズ・スネルです。彼は南海会社の会計記録を詳しく調べ、幹部の一人だったジャコブ・E・ソウルブリッジの経営するソウルブリッジ商会の帳簿を調査した結果を、『ソウルブリッジ商会の帳簿にかんする所見』という報告書にまとめました。実はこの報告書が公式に認められた世界で最初の会計監査報告書だったのです。
東インド会社の成立から始まる株式会社制度の発達は、その頂点において「南海バブル」という形で危機を迎えました。その時に必要とされたのが、公正な第3者による会計記録の評価だったのです。これ以降も、会計制度、監査制度の歴史は必ず大きな事件と密接に関わっていきます。それは、常に株式会社という制度の危機を乗り越えるためものであり、会社を第3者の公正な立場から見つめる「監査人」という存在の成立と成熟の歴史です。このスネルの会計監査報告書は、その最初の一歩だったのです。 |
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*参考文献
『リトルトン会計発達史』 片野一郎訳/同文館
『歴史にふれる 会計学』友岡賛著/有斐閣アルマ
『近代アメリカ会計発達史』V・K・ジンマーマン著、小澤康人、佐々木重人共訳/同文館 |
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