変化を見据えた親子上場について2010.02.25 |
1. はじめに
近時、民主党公開会社法プロジェクトチームにより検討が進められてきた公開会社法の制定に向けた動きに注目が集まっている。
当該プロジェクトチームが公表している素案では直接的に親子会社上場禁止の記載はないものの、同事務局長の大久保勉参議院議員はメディアインタビューの中で少数株主保護のために、親子上場は禁止する方針を明言しており「株主の親会社と少数株主の間で権利が平等ではない」と述べた上で、子会社を上場させている親会社は子会社の株式を売却するか、子会社の株を買い戻して純粋に子会社にすることが必要だとコメントしている。
このため、現在約400社が親子上場しているといわれるが、禁止が決まれば、親会社は子会社を完全子会社化するか、持ち株比率を3分の1以下に引き下げる必要があり、親会社の資金負担や市場にとっての売り圧力になる可能性がある。
今後、どのような法制度になるのかについては見守っていく必要があるが、少なくとも、親会社としては上場子会社のあり方に関して早い段階で検討を行っていく必要はあるのではないかと思われる。
本稿は親会社の立場から再度、子会社上場の意義を再検討するとともに、解消方針を打ち出した場合の打ち手について参考にしていただくことを目的としている。
なお、以下の記載については筆者の私見である旨、ご留意いただきたい。
2. 再検討にあたって
(ア)子会社を上場維持させる主なメリット・デメリット
上場子会社を上場維持させる主なメリット・デメリットは下記のように整理できる。
親会社にとってのデメリットは子会社の少数株主との利益相反関係の存在に起因するものである。
図表1:上場子会社を上場維持させる主なメリット・デメリットの整理
| メリット | デメリット | |
| 親会社 にとって |
・子会社株式価値の向上 |
・少数株主との利益相反関係の発生 |
|
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・社会的信用力の増大、知名度向上 ・独自の資金調達力の向上 ・優秀な人材の確保 |
・敵対的買収者出現の脅威 |
(イ) 親会社グループの経営戦略の確認と、上場子会社の位置付けの明確化
上場子会社の位置付けを明確化するに際しては親会社グループ全体の経営(成長)戦略との整合性を取った上で行う必要がある。そのため、以下の2つのステップで検討する必要がある。
ステップ1:親会社グループとしての経営(成長)戦略の確認・見直し
グループ経営の最大のミッションはグループとしての利益もしくは価値の最大化にむけた経営資源配分を行うことであると考えられる。企業の経営資源には限りがあり、どの事業に限りある経営資源を投入していくかは企業経営の最重要テーマであり、これはいわゆる「選択と集中」に他ならない。
経営資源を集中すべき事業領域を明確にするためにもまずはグループとしての経営戦略を確認・見直す必要がある。
ステップ2:上場子会社のグループ内における位置付けの検討
次に、収益性、将来の事業展開における当該子会社の役割等から、コア事業と位置付けられる事業(選択事業)を営んでいる上場子会社については経営資源のグループ外への流出を防ぐとともに、少数株主を排除してグループ全体の視点から親会社による経営の自由度を高めるために非上場化させるということになる(事例としては日立製作所による日立マクセル等上場子会社5社を完全子会社化する方針を発表したことは記憶に新しい)。
反対に、ノンコア事業(コア事業以外をノンコアと定義)と位置付けられる上場子会社については保有持ち分の一部または全部売却して資金化するとともにそこから得られた資金を他のコア事業に投入するのか、コア事業ではないが保有し続けるという判断のもと非公開化するのか、という判断がなされることになることになる。
上記をまとめたものが図表4である。



以下では、図表4の内、非公開化の場合のプロセスについてコメントすることとする。
3. 非公開化のプロセス
図表4は一般的な非公開化のプロセスを記載したものである。株式交換の場合にはその効力発生により上場子会社は100%子会社となるとともに上場廃止となるが、TOBの場合には、TOBにより追加の株式取得を行った場合でも100%株式を取得することは通常、困難である。そのため、完全子会社化するためにはその後にスクイーズアウト手続きが必要となる(非上場化を行うだけであれば、スクイーズアウト作業を必ずしも必要としない場合も想定されるが、経営資源の社外流出等のデメリットを排除するという意味では完全子会社化が必要と考える)。

上場子会社の営んでいる事業がコア事業と位置付けられ、100%子会社化するという方針を打ち出した場合、ます、初期的な評価を実施し、対象子会社の株価分析及び本源的な価値評価を行う(図表5中の「A」)とともに既存少数株主の分析(取得価格等)、他の非公開化事例分析、票読み等を実施する(図表5中の「B」)。
この作業を踏まえてどのようなスキームで完全子会社化を行うかの検討(図表5中の「C」)を行い、子会社との交渉へと進んでいくことになる。
上記プロセスの中で特に重要な作業はBの作業と思われる。
株式交換を行う際には子会社の株主総会で少数株主賛同を得る必要があり、TOBを行う場合には少数株主から多数の応募を得る必要があるため、現状の株価水準に対してどの程度のプレミアムを付与するのかが重要なポイントになる。
そのためにも既存少数株主の状況、票読みを詳細に把握分析しておく必要があるのである。
ここで留意すべきは、親子会社間での再編であるため、主導権が親会社にあるのは疑いようもない事実であるが、上場子会社である以上、多数の少数株主が存在し、その株主達の利益を害するような形での再編であってはならないということである。
| 【参考】プレミアムについて 親会社がもともと過半数の議決権を有している場合には親会社は子会社に対する経営権をすでに握っている。そのため、理論的には、その親会社が子会社に対してTOBを行う場合には親会社は少数株主に対して支配権を獲得するためのコントロールプレミアムを支払う必要はないと考えられるが、実際の親子間のM&A取引においてもある程度のプレミアムがのせられているのが通常である。 当該プレミアムは、コントロールプレミアムという性質のものではなく、株主総会における賛同またはTOBに応じることへのインセンティブ的なものと考えられる。 |
以下は株式交換による直接非公開化する場合と、追加取得後にスクイーズアウトする場合のメリット・デメリットを簡単に対比させて記載したものである。
図表6:非公開化手法に関するメリット・デメリット
| メリット | デメリット | |
| 直接非公開化(株式交換) | 完全子会社に際して追加の資金負担が不要。 | 子会社の株主総会における票読みが困難な場合がある。 上場子会社の時価総額いかんによっては、親会社において、多くのダイリューション (希薄化)が生じることになる。 反対株主の買取請求が多数生じた場合には、子会社サイドで多額の買取資金が必要となる。 子会社の規模次第では親会社での株主総会決議が必要となる場合がある。 |
| 追加取得(TOBを前提)+スクイーズアウト | TOBにより事前に子会社の持分を増加させるため、スクイーズアウト実施の際に子会社の株主総会を安定的に乗り切ることが可能。 親会社の発行済株式数を増加させないことも可能であり、ダイリューション(希薄化)が生じない |
親会社がTOBを行う際に高いプレミアムを設定した場合には多額の資金が必要となる |
また、平成19年9月4日に経済産業省より「企業価値の向上及び公正な手続確保のための
経営者による企業買収(MBO)に関する指針」が公表されている。
この中で、親会社が上場子会社を完全子会社化する場合の論点・実務上の対応が示されているので実際に上場子会社を完全子会社する場合には考慮が必要である。
4. 最後に
今回は非常に簡易な説明に終始した感があるが、親会社内における親子上場の議論きっかけになれば幸いである。
非公開化に関する各スキームについての詳細な説明については別の機会に説明できればと考えている。
以上

