2009.08.27 国際会計基準とM&Aについて 第3回 |
企業結合に関する国際財務報告基準(IFRS)はIFRS3号「企業結合」で扱われている。IFRS3号は2008年1月にその改訂版(IFRS3(2008)と記します)が公表され、2009年7月1日以降開始事業年度から適用される(早期適用可能)。企業結合に関する会計処理は、IFRS3(2008)の他に連結財務諸表を扱ったIAS27号(これはIFRS3号と共に改訂された)、IAS38号「無形資産」、IAS36号「資産の減損」などの会計基準でも規定されているが、今回はIFRS3(2008)を中心にして、IFRSの企業結合会計を紹介したい。なお文中の意見は筆者の私見である。
1.FASBとの共同プロジェクト-経済的単一体説
IFRS3(2008)は米国財務会計基準審議会(FASB)との共同プロジェクトの結果として公表されたもので、内容もFASB基準書141号「企業結合」の改訂版(SFAS141Rと記します)と多くの点で共通したものとなった。最大の特徴は「経済的単一体説」を明確に採用したことである。経済的単一体説とは、連結財務諸表を親会社の観点だけからでなく、少数株主と親会社の双方の観点から作成するとした考え方である。IFRS3(2008)とIAS27には次のような特徴がある。
(1).用語の変更
会計処理方法を表す用語が「パーチェス法」から「取得法」に変更された。また「少数株主持分」は「非支配持分」に変更された。
(2).非支配持分の連結財務諸表での取扱い
非支配持分を親会社持分と同様に取り扱うという考え方に基づき、非支配持分は貸借対照表では株主資本の一部に含められる。包括利益計算書では当期利益、包括利益はいったん非支配持分相当部分を含めて算出され、内訳として親会社持分相当額と非支配持分相当額が算定される。
(3).段階取得
会計基準上は支配権の獲得が大きな経済的事象と捉えられるため、いわゆる段階取得の場合、過去から継続して所有していた部分の投資は支配権を獲得した時点の公正価値で評価替となり、その評価差額は損益として処理される。段階取得にあたるM&Aを、IFRSで会計処理する計画があるときには重要な影響があるので注意が必要である。
(4).非支配持分にかかるのれん
現行の日本の企業結合会計では、親会社の投資額(投資に直接要した費用を含む)と、対象会社の資産負債をそれぞれ公正価値評価した純額との差額をのれんとして認識している。一方IFRS3(2008)では非支配持分の部分についてものれんを認識する。会計基準の用語ではないが、前者ののれんは「部分のれん」と呼ばれ、後者は「全部のれん」と呼ばれる。
IFRS3(2008)では、非支配持分の公正価値を直接に測定して非支配持分ののれんの金額を決定する方法の他に、100%ベースの被取得企業の公正価値を基にして持分割合で非支配持分ののれんを計算する方法も認められている。図は、後者の100%ベースの被取得企業の公正価値をベースにした計算方法による、非支配持分相当分を含めたのれんを示している。前者の方法、つまり非支配持分の公正価値を直接に測定する方法は、親会社持分ののれんにはコントロールプレミアムが反映され、非支配持分相当分ののれんにはコントロールプレミアムが反映されない、という結果になるため、後者の方法より厳密にのれんが測定される。

(5).支配を継続する状態での非支配持分との取引
支配を継続したまま少数株主(正しくは非支配持分)から追加取得しても、その追加取得取引は資本取引となる。すなわち、支配の獲得時点で非支配持分相当も含めてのれんを認識しているため、追加取得からは新たなのれんは発生しない。同様に支配を継続したまま持分を外部に一部売却する場合も資本取引となり、一部売却による損益は連結上は発生せず、売却価額と売却した持分の連結上の簿価との差額は資本剰余金で調整される。
(6).支配を失ったときの処理
持分の外部売却などで持分比率が低下し対象会社が連結範囲から外れる、すなわち支配を失った場合には、引き続き所有を継続する持分についてもその時点の公正価値で評価し直す。対象会社が子会社から持分法適用会社になる場合、あるいは子会社から通常の投資となる場合、いずれにおいても継続保有部分は公正価値で評価され、それまでの連結上の簿価との差額は損益に認識される。
2.日本基準との相違
IFRSにおける企業結合会計(連結財務諸表、無形資産を含め)を日本の企業結合会計(2008年12月に公表された改訂版)との相違の観点から比較した場合、以下の特徴が挙げられよう。
(1).支配の定義
IAS27は実質支配力基準(財務及び営業に関する方針を左右する力で判断する)を採用している点は日本基準と共通するものの、運用上は具体的な例示や数値の目安について日本基準との間に相違がある。
(2).取得に要した費用
IFRS3(2008)では、企業結合に関連して取得企業で発生した費用は、それが企業結合に直接要した費用であっても、取得対価には含まれず発生時点の費用となる。日本の企業結合会計では企業結合に直接要した費用は取得対価に含められる。
(3).条件付対価
条件付対価とは、例えば被取得企業の将来の業績や取得企業の将来の株価に依存して、企業結合日以後に追加的に支払われる対価のことである。IFRS3(2008)では条件付対価を企業結合日に公正価値で評価し、取得対価の一部に含める。認識した条件付対価は負債または資本として計上される。一方で、特定の条件が満たされる場合に取得企業が以前に引き渡した対価を取り戻すことができる権利が与えられている場合には、その権利の公正価値を資産として認識することになる。
このような条件付対価の公正価値の評価方法は、IFRS3(2008)の中では具体的には述べられていない。一般的な公正価値評価技法を用いることになるが、IFRS3(2008)から取り入れられた会計処理であるため、その実務が定着するにはある程度の時間を要すると思われる。
また、条件付対価の公正価値は、追加的な情報あるいは時間の経過によって変化する。IFRS3(2008)では、取得日時点の情報が後日に利用可能となった場合で公正価値評価の猶予期間(取得日から1年以内)であれば、条件付対価の公正価値の修正はのれんの金額で調整することとし、それ以外の場合は条件付対価の公正価値の変動はその時点の損益に認識することとしている。
(4).識別可能な取得資産、引受負債の認識と測定
取得日において被取得企業の資産と負債が認識され、公正価値で測定されるという基本的な考え方は日本の企業結合会計と同じだが、資産・負債の概念の相違から、企業結合で識別される資産・負債にも以下の特徴が見られる。
- 取得企業にとっては利用予定のない資産(例えば被取得企業のブランド名など)であっても、一般的な利用価値を前提とした公正価値で資産として認識される。このような資産は他社に使われないため、という防衛的な目的で取得企業により所有されるため、取得企業にとってはキャッシュフローを生み出す資産ではないが、これを第三者が使用すると仮定して公正価値評価を行うこととなる
- 貸倒引当金、減価償却累計額などの評価性引当金は認識せず、売上債権や有形固定資産は公正価値で測定される。このため被取得企業の単体財務諸表と取得企業の連結財務諸表では別々に金額を管理する(例えば有形固定資産の減価償却計算など)必要が生じる。
- 偶発負債は、過去の事象に基づいて発生した取得日時点の負債であり、その公正価値が信頼性をもって測定できる場合には、発生の可能性が低い場合でも公正価値で測定されて引受けた負債として認識される。 仕掛中の研究開発費は無形資産の要件を満たせば公正価値で測定され、資産に計上される。この点は日本の企業結合会計も同様の処理に改正されたが、企業結合日以降もIFRSでは開発費の資産計上が認められる点が、日本の会計基準と異なっている。
(5).企業結合後ののれんの会計処理
企業結合後ののれんの会計処理はIAS38号「無形資産」およびIAS36号「減損会計」に規定されている。IFRSでは米国会計基準と同様にのれんの償却は行わない。また、のれんの減損テストは割引後キャッシュ・フローで減損損失を認識すべきかを決定するとされており(1ステップ法と呼ばれる)、米国基準や日本基準が割引前キャッシュ・フローで認識テストを要求する(2ステップ法と呼ばれる)のとは相違がある。過去に認識した減損損失の戻入は、IFRSでは有形固定資産と無形資産の減損においては必要な会計処理とされているのに対して、のれんの減損では減損損失の戻入は認められていない。
(第4回につづく)
以上

