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シェアードサービスやBPOは人事部の救世主となり得るか?~人事部が戦略/企画業務を実行するためのオペレーション変革~

Initiative Vol.33

著者: デロイト トーマツ コンサルティング シニアコンサルタント 原田 貴史

グローバルレベルでの競争の激化、製品/サービスの改善圧力、テクノロジーの革新などに起因して、企業経営を取り巻く環境はますますダイナミックに変化している。このような状況下、人事部には「社員向けサービスを提供する人事」から「経営陣や事業部門を支援する人事」への変革が必要とされている。しかし現実は、日常業務に埋没して経営陣や事業部門を支援するための戦略/企画的な役割を果たしていないことが多い。人事部が戦略/企画業務に注力するための環境を構築するには、どのような視点が必要なのだろうか。

今回のコラムは、人事業務を自社で実施しており、オペレーションの改革を検討されている会社の方、ならびに現在シェアード、BPO(Business Process Outsourcing)を活用されているものの、その効果や運用に課題を抱えておられる会社の方を読者と想定している。その上で、国内での登場から15年以上を経て、課題やあるべき姿が明確になりつつあるシェアード、BPOの導入ポイントを、日本国内で構築することを前提としてご紹介する。

1. 人事部への期待とシェアード化、BPO化の必要性

過去から言われていることであるが、立ち返るべきは人事部に対する「期待」の再認識である。人事部への「期待」は、経営陣のビジネスパートナーとして、優秀な人材を採用すること、そして、育成し、引き止める仕組みを作ること、企業変革の推進者として全社員を自社の向かう方向へ動機付けることにある。これは、経営陣と事業戦略の課題や危機意識を共有し、適切な変革をリードしていくことに他ならない。

例えば、ある外資系日本法人では、新入社員の受入準備から社員の昇降格、報酬、異動の決定に渡る幅広い権限とオペレーションをラインマネジャーへ移管することで、人事部の役割を経営戦略の実現サポートやビジネス部門に対するアドバイザリ機能に極端に絞り込んでいる。

その一方、日系企業の人事部は、固有の運用や法的サービスの存在により、日常業務に多くの時間をかけざるを得ない状況となっている。加えて、間接部門のコスト削減が叫ばれ、新たな戦略企画業務に人事部員を追加しにくい状況でもある。これらを背景として、たいていの人事部では、日常業務を抱えるメンバーに役割を追加するといった小手先の変革だけが実施され、多くの場合成果を得られていないのが現実ではないだろうか。

図表1:人事部のミッションとオペレーションの移行イメージ
人事部のミッションとオペレーションの移行イメー

※画像をクリックするとPDFファイルでご覧いただけます。

そこで、検討に値するのがオペレーションのシェアード化、BPO化である。これらは、一義的にコスト削減を目的としているが、人事部業務の役割分担の手法として再び注目されている。

2. シェアードサービス活用の狙いと導入のポイント

シェアードサービスは、業務の集約化と間接部門への市場原理の導入により、コストの低減と品質の向上を狙いとして導入される。市場原理の導入は、サービスを提供するメンバーにコスト感覚や付加価値の提供意識を芽生えさせ、継続的な業務効率と品質の向上を推し進める。また、専業ベンダーとの共同出資によるシェアードセンター設立のケースでは、プロフェッショナルとの協業によりノウハウや知見を学ぶことで導入効果の早期創出を目指す。

しかし、実際にはシェアードセンターの構造そのものに起因した以下のような問題が顕在化している。

 (1) シェアードセンター内の組織・人材マネジメントに関する問題
 — 業務が単調であるため、組織としてのミッションや、アイデンティティを共有しづらく、
   モチベーションが低下する
 — キャリア・処遇の天井を低く設定せざるを得ず、優秀な人材が流出する

 (2) シェアードセンターの業務改善ノウハウや知見に関する問題
 — 要望や要求を標準化できないまま受託し、受託業務が高コスト化する

 (3) 事業部門(会社)に対する調整能力に関する問題
 — 追加要望や高度化する要求に対応することができず、事業部門(会社)に業務が戻る

 (4) プロフィットセンターとしての問題
 — 外販や、新たな部門(会社)への展開能力が無く、当初の売上げ目標を達成できない
 — 専業ベンダーに価格面で太刀打ちできない

上記のとおり、ミッションから業務、人材まで多岐に渡る問題が存在していることから、長期的、かつ幅広い視野による構想策定が重要であり、シェアードセンター設立に際しては、以下の点を明確にすべきである。

 (1) シェアードセンターの位置づけを絞り、組織目標を設定する
 — シェアードセンターはグループで何を担うのか
   ・グループ内ローコストオペレーター
   ・グループに利益をもたらすプロフィットセンター

図表2:グループに貢献するシェアードセンターのかたち
グループに貢献するシェアードセンターのかたち

※画像をクリックするとPDFファイルでご覧いただけます。

 — シェアードセンターが目標とするKPI(重要業績評価指標)は何か
   ・売上高/利益率
   ・コスト削減率/顧客満足度 など

 (2) キャリアや報酬の変革を予め検討しておく
 — シェアードセンター独自のキャリアパスや育成の仕組み、人事制度を検討する
 — シェアードセンター設立時、およびその後の採用・退社を含めた要員構成を検討する

 (3) シェアードセンターに委託会社に対するマネジメント能力を求めておく
 — 事業部門(会社)からの要求を調整し、着地点を見出す能力が必要であることを明確にする

 (4) スケールメリット創出に向けてリーダーシップの強い人材をトップに据える
 — 強力なリーダーを確保し、すべてのグループ会社にシェアードセンターを利用させる

3. BPOサービス活用の狙いと導入のポイント

BPOは、規模の経済と極めて標準化された業務プロセスにより、自社内では実現不可能なレベルでコスト削減を目指す。加えて、ベンダーが提供するシステムの活用により、将来の技術革新や法令変更に伴うシステム開発コストや運用リスクを外部へ移管することも狙いとして導入される。これほどまでに業務改革に貢献する手法でありながら、欧米に比して日本での活用が進まないのは、日本企業の「食わず嫌い」が原因であると言われている。

つまり、「BPO=リストラ」のイメージや、「自社の業務は難しすぎてベンダーには無理」「セキュリティが不安で人材情報を社外に移管できない」といった固定観念が先行し、オペレーション変革の1つのオプションとして真剣に検討されてこなかったというのが現実ではないだろうか。活用する、しないに関わらず、自社のオペレーションを抜本的に改革する手法としてBPOを客観的に評価頂くことをお勧めする。

一方で、BPOの導入は、外部のベンダーに人事部メンバーの業務を移管するという改革手法であるが故に、次のような課題を念頭に置いておくべきである。

 (1) プロジェクト推進の難しさ
 — プロジェクト推進上、異動やリストラの対象となり得るメンバーが有するオペレーションの
   知見が必要となるが、彼らのモチベーション確保が難しい
 — 人事部内の変革として捉えられることが多く、他部署(情報システム、財務、法務など)に
   積極的な関与を求めることが難しい

 (2) 想定できるコスト削減効果が低い
 — 業務プロセスをベンダーにあわせることができず、結果として、外部委託する業務範囲が縮小
   し、想定外のコストや要員の確保が必要となる

 (3) 人事業務に関する知見が社外へ流出する
 — (各企業のポリシーによるが)人事部が日常業務の実施を通じて蓄積してきた知見や気づきが
   失われる

上記問題を最小化し、BPOプロジェクトを円滑に実施するため、事前に検討しておくべきポイントは以下のとおりである。

 (1) BPO導入後の新たな人事部像を定義し、プロジェクトメンバー内部で共有する
 — 将来の人事部像を出来るだけ具体化し、人事部が新たに担う機能や要員数をプロジェクト内で
   共有する
 — BPO稼動後の混乱を想定し、段階的な変革計画を策定する

 (2) 改革を推進するのは自社であることを認識し、要求すべき委託業務の範囲や体制、役割分担をベンダーと共有する
 — ベンダーが改革を推進するという妄想を捨て、社内の強力な推進体制を構築した上で、
   ベンダーとの協業体制を明確にする
 — 委託対象とする業務範囲・委託コスト・サービスレベルを広範囲で定義しておく

 (3) 新しいBPOスキームを活用する
 — ここ数年、BPOベンダーは、業務プロセス全体を受託すべく、受託業務の拡大やベンダー間の
   提携・連携を推進している。これに伴い、人事部はより広範な業務領域を高い品質で委託できる
   環境が整いつつある。

図表3:国内におけるBPOスキームの進化
国内におけるBPOスキームの進化

※画像をクリックするとPDFファイルでご覧いただけます。

 (4) 将来の変革やベンダー管理の為に、BPO稼動後も人事部で確保すべき情報を明確にする
 — 人事制度の本質に立ち返ったイレギュラー時の判断や回答の履歴 
 — 法令改訂情報や、オペレーションに関する世の中のトレンドなど

4. シェアード化、BPO化を検討する価値

シェアード、BPOを導入する、しないに関わらず、社内でプロジェクトを立ち上げ、導入の是非を検討することから得られる効用もある。

 (1) 人事部機能を横断した業務の可視化
シェアード、BPOを検討する際には、多くの企業でみられる機能別組織(制度設計・採用・人材開発・給与・福利厚生など)を横断して委託対象業務を検討する。この試みの中で、作業負荷と効果が釣り合わないサービスや、各組織の重複作業が可視化される。

 (2) 業務プロセス改善コンサルタントの育成
検討に参画するメンバーは、グループ会社やビジネス部門の要望を俯瞰し、全体最適の視点でオペレーションを設計する。彼らが利用する業務プロセスの標準化アプローチや取得するであろう高い視座は、将来、経営陣の要求に応える際の貴重な知見となり得る。

5. まとめ

人事業務のシェアード化、BPO化は、既に様々な企業が実践しており、実現可能であることが実証済みである一方、初期段階での構想の不十分さに起因する問題が顕在化し、当初設定した目的を達成できていないケースもある。

今回ご紹介したような視点を腰をすえて検討することで、人事部が戦略/企画業務に注力するためのオペレーション環境が構築できるとすれば、シェアードサービスやBPOは人事部の救世主となり得るのではないだろうか。

 

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