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役員報酬制度・ガバナンス体制に関するホットイシュー

Initiative Vol.24

著者: デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー 今野 靖秀

はじめに

本号では、デロイト トーマツ コンサルティング(以下DTC)で実施している「役員報酬サーベイ」の結果から役員報酬制度・ガバナンス体制のトレンド、および、役員報酬制度・ガバナンス体制の改革に影響を与える可能性がある金融庁の方針、民主党の公開会社法(素案)の公表、IFRS(国際財務報告基準)の適用の動向を解説します。

リーマンショック後の世界的な景気悪化と日本における政権交代という劇変の時代にあって、企業経営をリードする役員に焦点をあてて、その報酬制度についてあらためて見直すことを検討されている企業も少なくないと思います。そういった検討の際に本稿でご説明する内容を役立てていだければ幸いです。

役員報酬制度・ガバナンス体制のトレンド(DTC『役員報酬サーベイ2009』より)

DTCでは2002年以来独自の「役員報酬サーベイ」を実施しており、2009年6月~9月に『役員報酬サーベイ2009』を実施し106社の企業にご参加をいただきました。本サーベイは参加企業にのみ情報を提供するクローズドサーベイであるため、具体的な結果は提示できませんが、今年のサーベイのトレンドを3点要約します。

 1.役員報酬総額の絶対額が減少
 2.退職慰労金の廃止、存続の検討はほぼ終了
 3.ストックオプションの導入意欲は増加傾向

 

1. 役員報酬総額の絶対額が減少

2006年から2008年までは役員報酬総額は右肩上がりで上昇していましたが、リーマンショックに端を発した世界的な不況により役員報酬総額は激減しました。

報酬の下落に関しては業績連動報酬の下落幅が大きかったのは予想通りでしたが、固定報酬に関しても下落しており、業績連動報酬のスキームのみでは業績の落ち込みがカバーできず固定報酬のカットに踏み切った会社もあったと推察されます。

2. 退職慰労金の廃止、存続の検討はほぼ終了

2000年以降、長期的であり透明性が低いとの批判から退職慰労金を廃止し、代替報酬へ置き換える動きがありました。2009年のサーベイの結果においても、昨年に比べ確かに退職慰労金の廃止を行った企業は増えました。一方で、昨年までは一定割合存在していた「廃止を検討している」と回答している企業が激減しました。

法人、個人ともに税制上のメリットを受けられるなどの理由から「廃止予定なし」も一定割合存在し完全に2極化し、退職慰労金を廃止/存続に関する検討は各社でほぼ終了したと考えられます。

3.ストックオプションの導入意欲は増加傾向

ストックオプションを「(現在付与し)今後も継続」、「付与を検討」している企業はいずれも2006年以降増加傾向にあり、不況の影響による株価下落はストックオプションの発行に影響を与えていないと推察されます。また現在の経済状況において株価が割安であることからストックオプションを出す好機であると捉える方もいると考えられます。

ただし、ストックオプションの付与にあたっては、株価の下落で既存株主は含み損を抱えているケースも多いため、その配慮として中期経営目標達成時に権利行使可能など「権利行使条件付のストックオプション」を出すことが望ましいと考えられます。

役員報酬制度・ガバナンス体制の改革に影響を与える動向

次にいずれも導入時期、内容の詳細は決まっていないものの、役員報酬制度・ガバナンス体制の改革に影響を与えうる動きを3点解説します。

 1.金融庁の方針
 2.民主党の公開会社法(素案)の公表
 3.IFRS(国際財務報告基準)の適用

 

1.金融庁の方針

2009年6月に金融庁の金融審議会金融分科会において、「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ報告書」 (2009年6月17日)が公表され、役員報酬の透明性向上を目的として役員報酬制度に関するかなり大きな変更が提案されました。2009年9月11日の日本経済新聞の1面において同内容の要約が掲載されたため、弊社にも複数の問い合わせが寄せられました。

その主な変更内容は、「報酬総額とその構成の公表」、および「業績連動報酬原資の決定基準の透明化」の2点です。

最初の「報酬総額とその構成割合の公表」について、報酬総額は現時点でも有価証券報告書などで公表しておりその点に関しては大きな変更はないものと思われます。ただし、金融庁の方針にかかわらず、自社の役員の報酬水準が適切であるかを検証し、いつでも株主などに対して説明責任を果たせるようにする必要があることはいうまでもありません。

そのために、外部の報酬サーベイなどを活用し、報酬水準の妥当性を担保することが有用です。

また、報酬の構成割合については、固定報酬、業績連動報酬、株式連動報酬(ストックオプションなど)、退職慰労金などの構成比率の公表が義務付けられる可能性があります。役員報酬制度改革を行い業績連動報酬、株式連動報酬にある一定割合を持っている企業は大きな影響はないと考えられます。

しかし全額が固定報酬(と退職慰労金)もしくはそれに近い報酬構成である企業は、役員の役割と責任を勘案しあるべき業績連動性の確保するための早急な対応が必要です。

2点目の「業績連動報酬原資の決定基準」に関しては、現時点で売上や利益連動に基づく原資の決定式を設けている企業はおそらく対応の必要はないと思われます。

しかし、「社長の一存で決定する」、もしくは、「利益を目安にその都度決める」、「従業員賞与に連動して決定する」など、体外的に説明をしにくいルールにより原資を設定している企業は開示に向けて決定ルールを変更する必要があります。

また、今回の方針には盛り込まれない可能性が高いものの、2011年度以降「代表権がつく役員」など制限を設けた上で役員報酬の個別開示の義務付けがルール化される動きもあり、今後各企業はますます報酬の透明性を高め、説明責任を果たせるよう努力をする必要があります。

2009年9月11日の日本経済新聞によると「金融庁では2010年3月期から上場企業などに役員報酬の公表を義務付ける方針を固めた」との記述があるものの、本方針を金融庁が実施するためには法律の改正が必要となります。

ただし、金融庁の方針は別にして報酬制度の透明性の確保は会社として実施すべきことであるため、今後の動きには注意を払いつつ、自主的に実施する必要があります。

2.民主党の公開会社法(素案)の公表

2009年の衆議院選挙では実質的に初めての政権交代があり、マニフェストなどの公約に基づき従来の政権とは異なる方針で政策運営がされることとなります。民主党は役員報酬・ガバナンス制度に関する政策に関しても、ガバナンス強化を目的として「監査役への従業員の選任」と「社外取締役の要件の厳格化」を盛り込んだ公開会社法素案を発表しました。

 民主党「公開会社法」の素案 -企業統治
  • 社外取締役の条件を強化
  • 監査役の一部を従業員代表から選任する
  • 監査役の独立性、機能性を強化(公認会計士監査法人の監査役会等に対する報告義務を設ける)
  • 会計監査人の選任・報酬決定権限を監査役会等に移行
 出所) 日本経済新聞 (2009年9月14日記事)


「監査役への従業員の選任」に関しては、現行のガバナンス体制ではどちらかというと株主の視点を重視していましたが、多様なステークホルダーの視点を加えるべく従業員側の視点を加えることでバランスをとり牽制機能を高めることを狙っているものと推察されます。

実際、ドイツでは従業員を監査役に選任する仕組みが制度化されており、監査役の半数が従業員側からの選出(残り半数が出資者側の監査役)となっています。出資者側と従業員側の双方から監査役を出す仕組みはやり方によってはガバナンス強化につながると考えられます。

ただし、民主党の素案では、当面は一人の従業員監査役を入れることを想定しており、どの程度の牽制機能が発揮できるかは未知数です。

次に、社外取締役に関して、委員会設置会社のガバナンス強化を目的として「社外取締役の要件の厳格化」を提案しています。現在は認められている親会社や主要な取引先銀行出身者などは社外取締役として認めない方針を示しています。

社外取締役の主な役割は、第三者的な視点から取締役の意思決定を監視・監督することです。その観点からすると、親会社から派遣された社外取締役の場合、株主全体の利益を向上させるための視点よりも、親会社の利益を向上させるための視点を優先し意思決定をする可能性を否定はできないため、「独立性の基準厳格化」はガバナンス強化につながると思われます。

本内容は委員会設置会社に適用されますが、その他の会社形態の社外取締役であっても、ガバナンス強化の視点から自主的に社外取締役の基準を厳格化し、前述の利益相反などがおきないような仕組みを構築する必要があります。

ただし、日本では社外取締役を担う人材が不足しており仮に素案のまま可決されることになると、自社の希望するスペックに合いかつ要件を満たす社外取締役を選任するハードルが高くなる可能性があります。

なお、公開会社法はあくまでも素案ができた段階であり、今後調整をするため、その法制化・施行は早くても数年先になることが予想されます。自社として継続的にガバナンス強化の改革を行いつつ、本素案はガバナンス体制に大きな影響を与える項目であるため今後の動きを注視する必要があります。

3.IFRS(国際財務報告基準)の適用

最後にIFRSに関して記述します。IFRSはあくまでも会計基準であり、現時点では役員報酬の会計処理などへの影響は軽微であると考えられますが、IFRSそのものが企業経営の考え方を大きく変える可能性がありますので注意が必要です。

IFRSは国際財務報告基準の名前が示すとおり、会計をグローバルスタンダードにあわせようという発想であり、国籍の異なる企業同士の比較も可能になる仕組みです。いわば世界共通の通知表により企業が評価されるようになり、グローバルでベンチマークとする企業を意識しながら経営を行う必要がでてきます。

ある企業が同業他社より劣ったパフォーマンスしかあげられないような状況であれば、株主やアナリストは従来以上に批判をしやすくなります。IFRSの適用により、「日本の利益水準は低い」等という批判を受けたとしても「日本の会計基準による影響」などと逃げることができなくなる可能性があります。

こうしたことにより積極的に対応するために、自社の成長目標の達成のみならず、同業種のベンチマークに対する優劣をグローバルの比較に対応できるような業績評価指標を採用することが考えられます。

またより直接的な影響としては、IFRSでは営業利益や経常利益は財務諸表からはなくなり、実現した損益をベースとする従来の当期純利益に当期に発生した資産と負債の公正価値評価による未実現損益等を加算した利益を用いるため、会社として管理すべき利益の概念そのものが大きく変わります。

売上高、営業利益、経常利益、当期利益を業績連動報酬の指標においている企業が多くありますが、役員に求められる役割と責任にあわせて用いる指標へと変更する必要があります。

さらに、IFRSでは実際の経営管理に用いているセグメント(製品別、地域別など)に基づいた管理区分の発表を求められます。管理区分が各担当役員の責任範囲に基づいている場合、担当役員に対する業績連動報酬に関して対外的に業績との関連が分かりやすい業績評価指標を用いる必要があるでしょう。

最後に

DTCでは過去に100社を超える役員報酬制度・ガバナンス改革プロジェクトの知見に加え、今後も、金融庁の方針、民主党の公開会社法(素案)の公表、IFRSの適用と役員報酬制度・ガバナンス体制の改革に影響の情報をアップデートしていく予定ですので、dtcecsurvey@tohmatsu.co.jpにお問い合わせください。

また、前述の「役員報酬サーベイ」への参加を希望される場合にはあわせてお問い合わせください。

 

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