クロスボーダーPMI(越境PMI) 日本企業の筋力にあわせた方法論(上)Initiative Vol.22 |
リニューアルした「Initiative」の第一号のテーマとして、私は迷わず「クロスボーダー(越境)PMI(Post Merger Integration)」」を選ぶことにしました。その理由は3つあります。
ひとつはその重要性で、クロスボーダーのM&Aと、M&Aを成功させるためのPMIが、今後の日本企業の成長を考える上で、欠かせないテーマになってきたからです。国内市場の低成長ないしは縮小という状況の中で、日本を代表するような企業を含めて、日本企業が海外市場での成長のスピードアップをねらって、自前のグローバル化と買収を通じたグローバル化をうまく組み合わせることが、常套手段になっていくのが趨勢です。
しかしながら、M&A後のPMIのやり方については、多くの日本企業がまだ模索中です。PMIの手法自体は、成功率はともかく欧米企業ではほぼ確立されていますが、そうした手法をそのまま使っても、多くの日本企業ではうまくいきません。これが第二の理由です。
第三の理由は、最近の事例を通じて、日本企業のパワーにあわせた方法が少しずつみえてきたからです。そしてその鍵は「人材力」と「仕組力」にあります。本稿では、そのさわりの部分を紹介します。
直接の理由は以上の3つですが、加えて、越境PMIは、日本人・企業が、次の段階の成長をとげるための「黒船」的な刺激として生かせるのではないかという期待があります。異質の外国人集団との出会いは、お互いに、摩擦と挫折の連続かもしれませんが、うまくやれば、人材が格段に成長するための刺激として活用できるはずです。国内環境では得られない異質の刺激が、人と組織の成長を促す機会となるはずです。
経営的な「筋力(パワー)」とは
さて、欧米企業をモデルにして紹介されているPMIの方法論は、多くの場合「染め上げ型」と言えるものです。これは、買収側のやり方に、買収先を染め上げるような方式です。Day1でどうする、90日プランで統合する、などといった言葉は、多くの場合染め上げ型のPMIを示唆しています。こうしたアプローチは、諸文献でもかなり紹介されているし、ある意味でその方法が確立しています。
しかし、さきほど第二の理由でふれたように、その方法を、うまく使いこなせる日本企業はほとんどないはずです。というのも、染め上げ型手法を使いこなすには、特に、グローバルな舞台で使いこなすには、経営的な「筋力(パワー)」が必要なのですが、どうも、日本企業にこの面での筋力が決定的に不足しているようなのです。相手を100%買収する金力のほうはなんとかなっても(今はそれも大変ですが)、筋力のほうは、別問題です。
では、このパワー(筋力)とはいったいどういうパワーなのでしょうか?
買収やPMIに手馴れた欧米企業は、必要に応じて、相手を自分のやり方で短期間に染め上げることが可能です。そういう企業をイメージしてPMIパワーを因数分解すると3つの要素がみえてきます。
まず、PMI習熟企業では、自社の仕組みが、海外でも自由に展開・運用できるように確立しているので、その仕組みに相手をはめこんで、こちらが思うように動かしていくことができます。いわゆるそういう「仕組力(しくみりょく)」ができています。仕組みというのは、理念・ビジョン/組織構造/事業プロセス/諸管理(経営・事業・業績管理、財務・資金・税務管理、組織・人材管理、知財管理など)、など、もろもろの仕組みを指します。その企業が価値を生み出すために必要なあらゆる仕掛け(=仕事の組み合わせ方)です。しかも、世界中どこにでもポータブルで同じ原理で動くような仕掛けです。
しかし、そういう「仕組」があれば、自動的に価値がでるわけではありません。仕組みをうまく使って結果を出す人材が必要です。また、環境変化に応じて、仕組み自体を改造していくためにも人材が必要です。PMI習熟企業には、PMI状況でそういう仕組みを使いこなしたり、修正したりできる人材がそろっている、つまり「人材力」を兼ね備えています。
また、相手の状況に応じて、どの仕組みをどう使うか、どの人材力をどう使うかなどという「情勢判断力」もそうした企業にはそなわっています(人材力と仕組力の一部ともいえますが一応切り分けておきます)。はやりのことばでいえば、仕組力(ハードパワー)と人材力(ソフトパワー)を状況に応じて使いこなすスマートパワー(状況判断力)がそなわっているといえるでしょう。
筋力の小さいプレイヤーにあったPMIの方法
そのような3つのパワーがそろった企業用に作られたPMIの手法にのって、Day1までにこうしよう、はじめの90日でここまで統合しようとしても、そもそも、筋力がないので、動くはずのものも動きません。万一動かすことができても、その結果、相手のみならず、自分の体まで壊すのがおちです。むしろ賢明な企業は、そういう筋力の使い方を本能的に避けるでしょう。
特に、最近、これまでは国内中心で、海外は30%未満(多くは1,2割)の企業が、国内市場の成熟化により、これからの成長を考えると海外の比率を、かなりのスピードで高めることが必要という場合が増えてきていて、そういう企業の場合、相手を染め上げることはおろか、そもそも海外でビジネスを展開する力が未熟児状態にあります。
PMI筋力不足、パワー不足の企業が、買収してしまったらどうすればよいのでしょうか。実際、自前で展開している時間や力がないからこそ、買収するわけですから、買収直後にPMI筋力(「仕組・人材・情報」力)の準備が整っていないのは、むしろ当たり前のことです。その当たり前の力不足を真正面からみすえて、筋力の小さいプレイヤーにあったPMIの方法についてこれから考えてみたいと思います。望むべくは小さい筋力をうまく使いながら、しかも筋力を高めていくような方法です。

その道筋を要約的に表示したのが上図です。
図では、5つの矢印が走っていますが、ひとつずつ説明します。
第一に、パワーが希少なのですから、相手のパワーをなるべく有効に活用することが必要です。相手に、買収前のとおりのやり方で経営させ、計画通りの結果をだしてもらいます。つまり、約束を守ってもらうという意味での最小限のガバナンスはきかせます。
第二に、シナジーの可能性を探求し、できるものから実行していきます。
第三に、シナジーの検討結果などをふまえて、両社のバックオフィスの統合や販売拠点の統合や製造拠点の統合や、サプライチェーンの一部の統合など、「部分的な統合」を確実に実行していきます。
第四に、以上のような、自治、シナジー、部分統合が、ともかくもつつがなく進むように最小限のガバナンスが必要です。相手のことは相手にまかせ、シナジーは一緒にやり、部分統合は一緒になる、というのを基本において、ガバナンスはしっかりきかせることが必要です。
第五に、以上のような運動を展開しながら、相手の状況を徹底的に解剖します。身包みはがすように解剖します(ただし自然な相手の動きを損なわずに)。いいかえれば、自治とシナジーと部分統合をすすめ、最小限のガバナンスを効かせている間に、相手についての情報、とりわけ仕組力と人材力についての情報、を収集するわけです。ほんとうの意味でのDD(デューデリジェンス)を行うわけです(ポストマージャーDDという人もいます)。
あわせて、相手との比較で、自社の仕組力と人材力を徹底的に自己分析します。
そして、両社の仕組と人材の性能を、いろいろな角度から比較します。比較して、どう組み合わせるのがベストか、と考えるわけです。いいとこ取りの可能性、つまり、企業全体レベルのシナジーの可能性を考えるといってもよいでしょう。
以上のうちで、第一、二、三、四の矢は、それなりにいろいろな文献にでているので、そうしたものにゆだねます。私が重視しているのは、第五の部分です。第五の矢は、第一から四の矢で得られる情報や経験がすべて流れ込み、PMIを真に生かす新結合を構想するものです。これが、黒船による刺激を活用するために重要な鍵となります。
ただかなり長くなってきたので、第五の矢にフォーカスした話は、次回にさせていただきます。
なお、PMIについてより詳しい話は、下記の寄稿記事をごらんください。
寄稿記事:クロスボーダーM&Aと人材マネジメント
(M&A Review、MIDCグループ)
第1回 ポストM&Aの統合:人と組織に焦点をあてる―相手を知り、己を知れば、統合あやうからず―(2009.03.15 23巻第2号)[PDFファイル:261KB]
第2回 ポストM&Aの統合:人と組織に焦点をあてる―経営のメッセージを伝える人事制度統合―(2009.05.15 23巻第3号)[PDFファイル:274KB]
第3回 グローバル化の路線図:「自前の拠点」と「M&A買収先」で世界をつなぐ方法(2009.07.15 23巻第4号)[PDFファイル:262KB]
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